2013年2月18日(月)
最初は“少年探偵団モノ”だった? 『エーコと【トオル】と部活の時間。』で第19回電撃小説大賞<金賞>に輝いた柳田狐狗狸先生を直撃
小説『エーコと【トオル】と部活の時間。』で第19回電撃小説大賞<金賞>を受賞した、柳田狐狗狸(やなぎだ こくり)先生のインタビューを掲載する。
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▲MACCO先生が手掛けた本作の表紙イラスト。 |
『エーコと【トオル】と部活の時間。』は、とある事件がきっかけで、冷静で合理的な性格になってしまうとともに、“エーコ(ワイドショーでA子と呼ばれたから)”というあだ名を与えられて孤立する少女と、そんな彼女が科学部で出会ったしゃべる人体模型【トオル】が送るヘンテコな部活動の時間を描いた、学園ミステリー・サスペンス。
まるでボイスチェンジャーを通したかのような声でしゃべる【トオル】の正体を探るエーコと、その追及をやんわりとかわす【トオル】。そんな奇妙な部活の時間が過ぎていく中で、ある日、校内で女生徒がいきなり自然発火するという事件が発生! エーコは事件の容疑者として疑いを掛けられてしまうのだが……。
本作を執筆した柳田先生には、本作の執筆で苦労した点や、一風変わったヒロイン・エーコ&しゃべる人体模型【トオル】が生まれた経緯、そして今後の目標などを聞いてみたので、ぜひチェックしてもらいたい。
■最初は“少年探偵団モノ”だったのが……■
――このタイトルはどういう経緯でこういった感じになったんですか?
エーコと【トオル】が部活の時間に、本来の部活ではなくムダ話や謎解きをするので、謎解きの時間=部活の時間ということでこういうタイトルにしました。
――タイトルから受ける印象だとクラブ活動的なことをするのかなと思ったんですが、あまり部活っぽいことはせずにシリアスめなミステリーだったので、驚きました。どうして本作を書こうと思ったのか聞かせていただけますか。
最初はこういう感じではなくて、学校を舞台にした少年探偵団モノを書こうと思ってたんですけど考えているうちに自分の書きやすいほうに持っていったらこんな風になりました。
――探偵団ということは、他にもメンバーがいたということですよね。
ええ、いたはずなんですけど……書きやすいほうに持っていったらなぜかエーコと【トオル】の2人組になってしまった、みたいな(笑)。
――ちなみに、エーコのキャラクター自体は最初の構想から固まっていたのでしょうか?
そうですね。エーコはほとんど変わっていません。彼女を書く場合、この形が書きやすかったということもあります。
――エーコはある事件がきっかけで性格が変わってしまった女の子という設定ですが、そういう女の子を主人公にしようとした理由はなんですか?
作品のテーマとして、“自分と他人”や“1人と集団”といった人間関係をモチーフにしようと考えていたんですよ。それを表現するには、エーコのようなキャラクターがいいんじゃないかと考えました。
――性格が変わってしまった後のエーコを“冷静で合理的”にした理由を聞かせていただけますか?
かなり複雑なキャラクターなので、成長したらこういう性格になったという形にするよりも、何かがあって今の性格に変化したというほうが、より話にマッチするんじゃないかと思ったんです。エーコというキャラクターのミステリアスな部分は、普通に育ったというよりも何かがあって生まれたものだというほうが読者も納得しやすいだろうし、個性として際立つかな、と。演出と言ってしまっていいかもしれません。
――最初にエーコの性格が変わってしまう事件があったことを匂わせておいて、なかなかその点に触れませんでしたよね。やきもきしつつも想像がふくらみましたが、これも演出なんですか?
そうですね。読んでくれる人に、いろいろと考えながら読んでもらえたらおもしろいかなと考えてそうしました。一応、学校内でのエーコの立ち位置や事件、この学校における生徒会の位置付けなどの設定は結構考えてはあるのですが、それは極力出すのを抑えました。
――そうした設定は、応募原稿の段階から文中に出していたものなんですか?
いいえ、逆にまったく出していませんでした。担当編集さんに指摘されて出したんです。そしたら今度はやりすぎてしまったようで(笑)。「そこまで読者に教えなくてもいいのでは?」と言われました。
――エーコを高校生の女の子にしたことには何か理由があるんですか?
応募の時は中学生で、ちょっとしゃべることが大人びているので、今の年齢に引き上げました。今にして思うと、中学生の女の子にしては考え方がロジカルで大人過ぎますよね。
――話は戻りますが、エーコの声色は少し変わっているじゃないですか。あれはどういった狙いがあったんですか?
かなり昔に考えた設定ですので、正確には覚えていないのですが……。そういう声の方が、キャラクターとしておもしろいから、というのが理由だと思います。作中では“カラオケでハッスルして徹夜した翌日みたいな変な声”って表現してますけど、初稿の時はもっとひどかったんですよ。
――ちなみに初稿の時はなんて表現していたんですか?
“ヘリウムガスを吸い込んだような声”と書いたんですが、担当さんに注意されました(笑)。今にして考えると、【トオル】の声がボイスチェンジャーなので、それにあわせたのかもしれませんね。担当さんには「ボイスチェンジャーの声とヘリウムガスを吸ったような声がしゃべりあってるっていうその状況がすでにホラーですね」と言われました。
――書く時に注意した点はありますか?
本作はエーコの一人称視点で物語が描かれていきますが、彼女は独特な個性のキャラクターですので、その点で気を配りました。一人称の作品って、誰でも感情移入しやすいように、感性や常識という点で多くの人とかけ離れていない人、言ってしまえば“普通の人”を語り手に選ぶことが多いと思うんですよ。ですから、彼女が普通の人になってしまわないように、それでいて彼女の目立つポイントがしっかり伝わるように工夫しました。
→エーコの相棒・【トオル】が生まれた理由とは?(2ページ目へ)
(C)柳田狐狗狸/AMW
イラスト:MACCO
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