2013年8月22日(木)
――今まで、『逆転裁判』シリーズは巧さんがシナリオを手掛けられていて、それを山﨑さんが引き継いだわけですが、そのプレッシャーはありませんでしたか?
山﨑:……はい、それは……もう……。恐ろしいこと、このうえないことですからね。僕は元々『逆転裁判』が好きでカプコンに入りました。そして、巧さんの下で勉強させていただいたので、直に巧さんの仕事に触れていました。間近ですごさを見ていたので、巨大な壁や巨人に立ち向かっていくようなイメージでした(笑)。
江城:でも、巧が作ってきた『逆転裁判』と同じものは、山﨑には作れないんですね。なので「巧の背中を追いかけるのはやめなさい」と最初に言いました。山﨑は『逆転検事』の世界観を作ってきたという経験を生かして、『逆転裁判』のおもしろいシナリオを考えればいい。理解しているシリーズの世界観の中で、さまざまなキャラが動き、逆転させる要素をちゃんと入れていく。巧をマネしても意味がないので、山﨑が考えるおもしろいゲームを作ろうと。ただ、1人ですべてのテキストを作るのは物量的に大変なので、何人かのチームを作り、シナリオディレクターとしてクオリティを管理してもらいました。
山﨑:『逆転検事』の時に、『逆転裁判』のシナリオを書こうとして、巧さんのシナリオを追いかけてしまうようなやり方をして失敗した部分もあったんです。当然ですが、巧さんに対してリスペクトはありますし、気にしています。ただ……気にしすぎてもしょうがないし、自分のいいところを殺してもダメだと思ったので、今回は「僕らが作るおもしろい『逆転裁判』を組みたてよう」と言いながら、開発していきました。
あと、巧さんが作った世界が前提にはあるんですが、ユーザーさんのほうが『逆転』シリーズについて詳しくて、よほど手ごわいと思っています。なので、巧さんに闘いを挑むというよりも、ユーザーさんに闘いを挑むという意識が、僕の中では強くありました。10周年イベントの時に再確認したのは、ユーザーさんの中にある『逆転』の世界をちゃんと作ったうえで、僕らがおもしろいと思うものにしようということです。
本作は巧さんがかかわらないことを前提で始まっているので、当然相談することもなく、フロアも離れているので巧さんの存在がずっと気になっているということはありませんでした。……とはいえ、最初はもちろん気になりましたけど(笑)。
――本作のテーマである“法の暗黒時代”について教えてください。“法廷崩壊”というキーワードは山﨑さんが考えられたのでしょうか?
山﨑:最初にアイデアを出したのは僕です。最初に『逆転裁判5』をどういう切り口にするかを考えた時、久しぶりのナンバリングなので、発表した時にインパクトが必要でした。実は最初に企画していたのはコレではなかったんですが、地味という指摘がありまして……。
『逆転検事2』までは、どういうおもしろい話を書くかという前提があって企画を立てていたんですが、ナンバリングの『5』ということで「話がおもしろくなるんです」というだけではダメだと。切り口の方向性がおもしろくて、プロモーションとして目に止まらないとダメということで、他のアイデアを考えることになりました。
江城:まあ、最初の企画を却下したのは僕なんですけどね(笑)。
山﨑:そうですね(苦笑)。他のメンバーにも入ってもらって、いろいろと協議する中で“法廷崩壊”になりました。『逆転裁判4』の時にナルホドくんが「法の暗黒時代が訪れている」って言っていたんですが、『逆転裁判4』では語り尽くされていなかったんですよね。なので、そこを語ろうというのが発想の始まりです。法の秩序が崩壊しているのならば、物理的に法廷が崩壊していたら派手だしおもしろいのではないかと。それらを話し合っていく中で、“法廷崩壊”という単語が出てきました。
江城:語幹がすごくいいんですよ。『逆転裁判3』のパッケージ裏に書かれているのが“法廷震撼”、『逆転裁判4』が“新章開廷”、そして本作が“法廷崩壊”。この4文字を見た人に、「法廷が崩壊してどうなるの?」って思っていただけるのではないかと。
山﨑:その時はトリックとか何にも考えていなかったんですが、爆破されることが決まったので、「よし、どうやって爆破させるかな!」っていう感じで肉付けをしていきました。
江城:6年間ためてためて……出てきたものが普通だとガッカリされてしまうので、インパクトはかなり意識しました。期待値も振り切っているのはわかっていたので、普通のテーマではダメだと。“法廷崩壊”は、いろいろな部分に詰まっている本作のコンセプトです。
――東京ゲームショウ2012のステージイベントで公開された映像で、いきなり法廷が壊れていた時は驚きました。インパクトありましたね。
江城:いきなり壊れていますからね。実は、制作決定を発表してからずっと黙っていたんですよ。イベント直前に情報を出して、さらに体験版を出展すると発表しました。その時までは皆さんは、「ロゴだけ出したけど、本当は作ってないんじゃないの?」って半信半疑だったと思うんです。でも、ちゃんと作っていたという。
山﨑:プレイアブル出展と、ブースで崩壊した法廷を再現したのも話題になりましたね。
江城:今回のテーマが“法廷崩壊”なので、いかにつぶすかを議論してああなりました。話はずれるんですが、その時に『DmC Devil May Cry』も担当していまして、そちらのブースも壊れていたので“崩壊プロデューサー”と呼ばれました(笑)。
――なるほど(笑)。体験版をプレイしたらもらえるノベルティのストラップもよかったですよね。
山﨑:ありがとうございます! ねつゾウくん&えんザイくんですね。
江城:実は、あのデザインを見た時にまったくピンとこなくて「こんなの人気出るのか?」って言っていたんです。でも、現場やプロモーション担当が「絶対に人気出ます。タイホくんばりに出ますよ!」って言うので、OKを出しました。
山﨑:江城さんに詰め寄った覚えがあります。実はあのキャラのベースは、背景担当者が書いていた落書きなんです。えんザイやねつゾウの他にも、だんザイなど“罪シリーズ”になっていまして。それがちょっとおもしろかったので、シナリオで勝手に使って、チームメンバーに見せた時に驚かせました。そこからデザインを起こし直して採用したので、描いた本人もこんなことになるとは想像していなかったと思います。
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