2013年9月3日(火)
『ダブルドラゴン』が発売されたのは1987年。そのころはまさにジャッキー・チェンの映画が大ヒットしまくっていて、地上波TVでもカンフー映画が頻繁に放送されていた。そのおかげで、当時のほとんどの男子たちは皆、カンフーに感化されていたと思う。
蛇拳の構えをして「ボッ!」「ボッ!」と言いながら友だちを攻撃するのは、学校ではもはや日常風景。掃除の時間にモップとか棒状の物を手にすれば、「ハイ! ハイ!」とか言いながら友だちとの闘いが始まったりする。
俺が住んでいた地域(関東)では『少林寺木人拳』がこれでもかというくらいに再放送されていたが、そのたびに次の日の学校ではその話で盛り上がり、「急所を狙ってはいけません!」とか言いながら、おもむろに友だちの股間を手刀で突いたり、みんなで横一列に並んで木人の真似をして前を通るやつを一定のリズムで殴り続けるなど、休み時間のかっこうのネタになっていた(もちろん、肉まんは先に薄皮だけを剥いで食べる)。
『ダブルドラゴン』は、そういう雰囲気の中で世に放たれたのだから、当然男子たちが放っておくはずがなかった。俺が本作と初めて遭遇したのはAC版で、行きつけの駄菓子屋ゲーセンだったと思う。
まず最初に惹きつけられたのは、敵を殴った時の音だった。文字だと表現しづらいのだが――
「デュクシ!」
と言えば伝わるだろうか。何が言いたいかというと、ジャッキー・チェンの映画とかで使われている殴りSEにかなり近かったのだ。冷静に考えると、人を殴ってもこんな音が出るわけがないのだが、カンフー映画でさんざん脳に刷り込まれたこの音は、この世代の男子にとっては爽快感バリバリの音であり、カッコよく感じるのである。
敵キャラのアボボにパンチの連打を「デュデュデュデュクシ!」と食らった時など、ダメージを受けているにもかかわらず、なんか恍惚とした気分になったものだ(マゾ)。
さらに『ダブルドラゴン』といえば、キャラがダウンした時に鳴る「バサッ!」というSEや、敵が死んだ時の「オアィ……」というカンフー映画を彷彿とさせるやられボイス。そしてドラム缶やベルトコンベアなどのギミックが、ちょっとジャッキー映画風味なところも見逃せない。
ちなみに俺がこの「デュクシ!」という音をゲームで初めて聞いたのは、『ファミリーボクシング』の元となったアーケードゲーム『キング・オブ・ボクサー』。当然、このゲームもかなりハマった。
振り返ってみると『スパルタンX』(ボス戦)、『ビジランテ』、『北派少林 飛龍の拳』、『ストリートファイター』シリーズなど、『ダブルドラゴン』以降、さまざまな「デュクシ!」と鳴るゲームに出会ったが、ほとんど全部、大好きなゲームである。要するに「デュクシ!」は、俺の大好物なのだ(デュクシ言いたいだけ)。
もう1つ、『ダブルドラゴン』には大きな魅力があった。それはアクション1つ1つに重みがあり、痛みを感じること。殴られたキャラが、顔をしかめつつ一定時間屈んで動けなくなったり、足場の縁に叩きつけられたら、一度バウンドしてから落ちていったり、技の1つを取っても、予備動作から攻撃後のアニメーションで重心が移動する様がしっかりと表現されていたりする。
痛みを表現したアクションは、本作の1年前に登場した『熱血硬派くにおくん』や1984年の『空手道』なども印象深いが、『ダブルドラゴン』は「デュクシ!」が加わったことにより、さらに完成度が上がっているように感じる。デュクシ!
▲痛みが伝わるアクションはFC版でも健在。FC版は高低差があるステージが増えているので、敵を投げ飛ばすのが楽しい。 |
『ダブルドラゴン』を語る時に、避けては通れない技がある。
それは“ひじ打ち”。
背後に近づいた敵を攻撃する技で、AC版ではパンチ+ジャンプボタンで出せる。1発でダウンを奪うことができ、ダウンから起き上がるところにこの技を重ねておくと確実にヒットし、再度ダウンを奪える。これを繰り返すだけで、どんな敵でも簡単に倒すことができてしまうのだ。
俺が住んでいた地域でも、いつの間にかこのひじ打ちハメが広まっていて、ゲーセンに行くたびに
「デュクシ!(ひじ打ち) バサッ(ダウン) デュクシ!(ひじ打ち) バサッ(ダウン) デュクシ!(ひじ打ち) バサッ(ダウン) デュクシ!(ひじ打ち) オアィ……」
……というひじ打ちハメの音が鳴り響いていたものである。ゲームバランス的な意味ではちょっとアレな感じはあるが、あっという間に終わってしまうゲームが多い中、金欠状態が当たり前の子どもたちにとっては、こんなに良心的なゲームもなかった。
ひじ打ちさえ使っていれば誰でもクリアできるゲームになったため、エンディング付近まで進んでもギャラリーに見向きもされないという悲しさがあるが、それでも金欠問題に比べれば些細なことだ。
長く遊べるがゆえに人気を集め、行きつけの駄菓子屋ゲーセンでは、気軽に「デュクシ!」を楽しめるゲームとしてかなり長い期間、置いてあった気がする。
▲ひじ打ちではどうにもならない、このゲーム最大の難所。壁のブロックがいきなり突き出てくる謎のエリア。FC版は飛び出すブロックだけだが、AC版ではブロックに加え、左右にいるヘンテコな彫像がヤリで突いてくる。どちらも2、3回食らうと死ぬほどの大ダメージ。動きがほぼランダムなので、運が悪いとこの場所で一気にゲームオーバーになる(写真はFC版)。 |
→“ひじ打ちハメ”ができないFC版『ダブルドラゴン』の出会い(3ページ目)
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