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2013年12月20日(金)

『World of Tanks』に登場するガルパン戦車を解説! 今回はサンダース&プラウダ編!! 【めざせ! 戦車道免許皆伝 第12回】

文:田中尚道

■マスプロダクトの生産力に負けていない社会主義の雄・ソビエト

 プラウダ高校の使用戦車は、第二次大戦期のソビエト戦車。1991年に解体されてしまいましたが、ソビエト社会主義共和国連邦は、ヨーロッパの多くの地域を支配下に置く巨大な連邦国家でした。解体後には衛星国が続々と独立しましたが、その中核を成していたロシアは今でも世界最大の面積を持つ国家です。ソビエトが掲げた社会主義は、既得権益の解体や再構築を旨としていたので、他のヨーロッパ諸国から蛇蝎のごとく嫌われておりました。ヒトラーも、ナチスドイツとソビエト共産党を比べたら、諸外国はナチスの肩を持つだろうと考えていたようです。

 第二次世界大戦は開戦当初、ファニーウォー(奇妙な戦争)と呼ばれたように、英仏というヨーロッパの2大国とアメリカが、ドイツとの戦争に消極的だった事実がありました。この事実を背景に、ドイツは1941年6月22日に独ソ不可侵条約を一方的に破棄して、ソビエト領に侵攻を開始します。犬猿の仲と言われていたヒトラーとスターリンが不可侵条約を結んだことにも世界は驚きましたが、スターリンもまさかドイツが攻めてくるとは思わず、ずいぶんと油断したようで、気がつけばモスクワ正面まで攻め込まれてしまいます。

 開戦時の命令系統の混乱以外にも、ソビエトが国境付近に旧式装備しか用意していなかったことが、一気に侵攻されてしまった原因だと言われています。国境付近に配備されたT-35は、後部にも砲を持つ珍しい戦車ですが、これは逃げる味方を撃つためだという逸話も。こんな状態ですから、いったん突破されると、戦線はもろくも崩壊します。おかげでドイツは多くの野砲を鹵獲し、ソビエトは多くの旧式兵器を失いました。

 しかし、怪我の功名というべきか、ソビエトはそのおかげで装備を一新することになります。ダイナモ作戦(連合軍の大規模撤退作戦)で多くの戦車を失ったイギリス軍が、それ以降に装備を一新したのと同じことが起こるわけです。かくしてソビエトは、最新鋭戦車のT-34を中核とした機甲部隊を再編して、ドイツへの反抗を開始します。ソビエト戦車の特徴は、避弾径始に優れた装甲、比較的小さな車体、大口径砲、軽快な足回りと、他の国がうらやむほどの利点がいっぱい。反面、装甲は薄めで、砲の命中精度と威力にやや難があります。

『World of Tanks』

■ドイツを驚かせた小さな傑作戦車【T-34】(Tier V)と【T-34-85】(Tier VI)

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 プラウダ高校の中核を成す戦車は、【T-34】(T-34/76)と【T-34-85】(T-34/84)。ドイツ侵攻以前にも、日本と戦ったノモンハン事件やフィンランドとの冬戦争など、周辺国と小競り合いを繰り広げていたソビエト軍では、それまでのBTシリーズでは装甲が薄いという調査結果が上がっていました。BTシリーズはいわゆる巡行戦車で、軽快な足回りは優秀なものの、装甲の薄さは37mm対戦車砲にも抜かれてしまうという貧弱さ。とはいえ、それまでのTシリーズは歩兵戦車なので、足が遅くて対戦車戦に向きません。というわけで、足の速さはそのままに、装甲強化した戦車の必要性から【T-34】が計画されました。

 【T-34】以前にも、ソビエト戦車では避弾径始に優れた装甲が採用されていましたが、これは車重を上げずに十分な防御能力の向上を狙った、いわば苦肉の策でした。ところが、これが大当たり。国境付近で旧式の型落ち戦車を相手にしていたドイツ軍は、正直油断していたわけですが、モスクワに近づくにつれて増えてくる、小さくて大口径砲を持った新型戦車に苦戦します。

 この小型戦車、的が小さくて狙いにくいうえに、戦車砲をそれなりに弾きます。さらには、ドイツ戦車の装甲を貫いてくる大口径の砲を持っています。ついでに、幅広の履帯を履いて雪に沈まず、足も速いと来て、ドイツ軍はパニックに。それまで、頑なに垂直装甲を採用していたドイツ軍でも、傾斜装甲の研究を余儀なくされます。こうしてできたのが、V号戦車パンター【Panther】です。この一連の流れを“T-34ショック”と呼ぶのですが、兵員の居住性を犠牲にできないドイツは、【T-34】ほどコンパクトにまとまった車体を作ることができませんでした。ソビエトの【T-34】が32tなのに対して、【Panther】は44tと、1.5倍弱の重量がありました。

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▲西住みほ殿が、プラウダ高校との試合の前にヴィンターケッテを履いたと言っていたのは、冬季用履帯の“Winterkette”のこと。履帯の幅を広げて接地圧を下げ、雪に沈まないように工夫してあります。さすがにソビエト戦車には標準装備されていたようです。

 ちなみに、ドイツの【Panther】乗りは、【T-34】が小さいので相手にしたくなかったようですが、逆にソビエトの【T-34】乗りは、【Panther】が大きいので相手にしたくなかったようです。お互い、相手は強く見えるようで。まさに、隣の芝生は青く見えるというヤツです。【T-34】の車体は小さく、的にしづらいと書きましたが、そのせいで居住性は悪く、故障も多かったようです。このため、車長以外は、ソビエトの東方に住むモンゴロイド系の軍人が戦車兵として採用されました。コーカソイド系より体が小さく、モンゴルの末裔である彼らは優れた騎兵でもあります。いわゆるコサック兵ですね。

 ただ、コサック兵は言葉になまりがあり、車長と意思の疎通が微妙だったようです。『ガールズ&パンツァー』の劇中でも、車内がうるさいからと、当時の車長だった武部沙織殿が操縦士の五十鈴華殿の肩を蹴って方向指示をしていますが、これはもともと言葉の問題があり、かつ車内が狭かったソビエト戦車の習慣だったようです。なお、名前の後ろに付く76とか85という数字は、砲の口径を表します。当初は76.2mm対戦車砲を装備していましたが、1944年より85mm砲を装備した改良型が登場しました。

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▲左が【T-34】で、右が【T-34-85】。砲の変更にともない、砲塔も巨大化しています。
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▲奥の【T-34】と手前の【T-34-85】を比べると、砲塔の大きさの違いがよくわかると思います。

 【T-34】とそのバリエーションは、第二次世界大戦の期間中に57,000両以上が生産されましたが、これは現在に至るまでの戦車の最多生産数を誇ります。当初はBTシリーズとの平行生産なども提案されたようですが、ドイツのソビエト侵攻作戦“バルバロッサ”の発動に伴い、単一モデルの大量生産へと舵を切ったわけです。また、この大量生産を可能としたのは、アメリカによるその他補助車両のレンドリースも大きかったと言われています。おかげで、生産力のすべてを戦車製造に傾けることができました。なお、ドイツ進攻のあまりの速さにソビエトの戦車工場も戦火にさらされますが、生産施設を疎開させるという荒業で生産を続けます。国土が広いソビエトならではの策ですが、「工場ってそんなに簡単に引っ越しできるものなんだ!?」と驚かされます。

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▲プラウダ高校隊長のカチューシャが「ピロシキ~」と言っていましたが、【T-34】の砲塔部は楕円で低く抑えられたシルエットで、ピロシキと呼ばれてました。

●『WoT』での【T-34】と【T-34-85】

★開発ルート:【MS-1】→【T-60】→【T-70】→【T-80】→【T-34】【T-34-85】
あるいは【MS-1】→【T-26】→【T-46】→【T-50】→【T-34】【T-34-85】
あるいは【MS-1】→【BT-2】→【BT-7】→【A-20】→【T-34】【T-34-85】

 ソビエトを代表する中戦車の花形【T-34】。生産の集中を表すため、3つのルートからたどりつくことができます。軽戦車からでも、中戦車からでも、いったんT-34を経由して先に進むことになりますが。ゲーム内でも史実通りの性能で、安定して戦うことができます。多発したという故障も、ゲームでは再現されていません。なお、44年生産型の【T-34-85】は、その先のTier VIで登場します。

 【T-34】の搭載砲は76.2mm砲ですが、これは威力が大きいものの、装甲貫徹力に劣り、やや使いづらい印象があります。その場合は、小口径高初速を目的として作られたZiS-4を装備しましょう。【T-34】までのルートにはありませんが、T-28を使っていると研究・開発できますので、先にT-28を開発し、その後に【T-34】を開発すると楽になります。ZiS-4は装甲貫徹力を増すために、あえて口径を小さくし、砲身を伸ばしたZiS-2野砲を戦車砲に転用したものですが、良好な装甲貫徹力と小口径ゆえの装填時間の短さが魅力の傑作砲です。“装填棒”と組み合わせると、他の戦車砲ではまねできない速射が可能となります。

 【T-34-85】では、車体の装甲は【T-34】と変わらないものの、砲塔部の装甲が倍近く厚くなっています。ただし、徹甲弾は貫徹力が装甲の3倍になると避弾径始を無視できるので、今度は車体が弱点に。なるべく車体を隠して戦わないと、Tier VIでは苦戦するでしょう。ハルダウン(砲塔部のみを露出させて射撃する方法)は、俯角の取りづらさから少々苦手です。また、122mm砲を搭載できますので、ドイツのIV号戦車やアメリカのシャーマンが持つ105mm砲のように、下位Tierの戦車に対して火力で圧倒することも可能です。

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▲122mm榴弾砲はさすがの威力ですが、いかんせん装填が遅いのと、厚い装甲の戦車に歯が立たないと痛し痒し。

→強力な砲を積んだ【KV-2】と【IS】がプラウダ高校の切り札!(3ページ目へ)

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データ

▼『World of Tanks(ワールド オブ タンクス)』
■メーカー:ウォーゲーミングジャパン
■対応機種:PC
■ジャンル:ACT
■配信日:2013年9月5日
■価格:無料(アイテム課金)

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