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2013年12月20日(金)

『World of Tanks』に登場するガルパン戦車を解説! 今回はサンダース&プラウダ編!! 【めざせ! 戦車道免許皆伝 第12回】

文:田中尚道

 第二次世界大戦では連合国としてともに戦い、戦後はそれぞれ東西の陣営を構築して対立したアメリカとソビエト。この2国に共通点があるとすれば、それは圧倒的な工業力です。どっちの国も、バカみたいにたくさんの戦車を作っています。アメリカなんて、あまりにも作りすぎたために、朝鮮戦争の後でT-26パーシングを持って帰るのが面倒になって、そのまま鋳つぶしてしまったとか。その鉄鋼材は、東京タワーの鉄骨にもなっているそうです。単体の戦車性能ではドイツ戦車に遅れをとることも多かったようですが、その圧倒的な数はまさに暴力!

『World of Tanks』

 アニメ『ガールズ&パンツァー』では、サンダース大学付属高校はハンデキャップとして大洗女子学園と同数の戦車で戦ったために敗北。プラウダ高校も部隊を分断されて、機動防御による待ち伏せというドイツ軍お得意の戦術で、大洗女子学園の後塵を拝します。

 大量の兵士と兵器を投入して、個の能力差を希釈するのは戦略レベルの話。いっぽう、多数の部隊を少数の部隊に分断して、これを各個に撃破するというのは戦術レベルの話です。西住殿は、誠に類まれなる戦術家であります(もちろん、彼女なりの戦略に基づいて“○○作戦”などの戦術を考案するわけですが)。『World of Tanks(ワールド オブ タンクス)』(以下、『WoT』)の場合、15両対15両なので、戦略的には等条件となっているわけで、あとはまぁ戦術的な話。個々の戦車の性能と、何より操縦者の腕に、勝負の行方が掛かっているのです。

■マスプロダクトを実現したモータリゼーションの王国・アメリカ

 お金持ちで、大量の戦車を保有するサンダース大学付属高校。言うまでもありませんが、これはアメリカを象徴する特徴でもあります。第9回の記事でアリサの言葉を引用しましたが、とにかく誰にでも扱えて、均一の規格の車両を大量に配備するというのがアメリカ軍のやり方。第二次世界大戦を戦った枢軸軍と連合軍の両陣営を見渡しても、本国の生産拠点を無傷で温存できたのはアメリカだけです。

『World of Tanks』

 広大な国土と豊富な資源に裏打ちされて、アメリカではとにかく大量の兵器が生産されました。“週刊空母”の異名をもつカサブランカ級航空母艦は、1年の間、毎週新たな艦が竣工されたので、この異名があります。つまり、年間でおよそ50隻を建造したわけです。こんな工業力を、しかも無傷で持っていたわけですから、枢軸軍が勝てるわけありません。

 とはいえ、生産能力に関しては他の追随を許しませんが、戦車の性能としてはさほど突出していたわけではありませんでした。『WoT』では、Tier Vの近辺で見ると、装甲が厚い代わりに足が遅くて砲も非力なイギリス軍戦車や、足が速いものの避弾に劣るドイツ軍戦車のようなクセがなく、さまざまな状況に対応できる柔軟さが魅力となっています。

『World of Tanks』

■とにか大量に作られた【M4 Sherman】(Tier V)

『World of Tanks』

 サンダース大学付属高校が戦車道全国大会に投入した戦車は、【M4 Sherman】とそのバリエーションのみ。同種の車両で統一することによって、さまざまな状況に対応できる柔軟さを重視した結果でしょう。この【M4 Sherman】は、大洗女子も使用した【M3 Lee】の後継車になります。第6回の記事でも書きましたが、当時のアメリカは戦車後進国でした。攻め込まれたことがなかったのと、諸外国に対して孤立主義をとっていたので、戦車が活躍する場面がなかったのです。大陸国家なのに、南北戦争以降は国土が戦火にさらされることがなかったために、海洋国家のような立ち位置になっていました。

【M3 Lee】は、故障の少なさなどで工業製品としての信頼性は高かったのですが、車体固定の75mm砲はいかにも取り回しが悪く、1942年よりM4シャーマンの生産が開始されると、あっという間に主力戦車の座を譲ってしまいます。なお、シャーマンという名前はシャーマニズムの神官からではなく、南北戦争の将軍であるウィリアム・シャーマンに由来します。

 総生産数は5万両弱。ソビエトの【T-34】がおよそ57,000両生産されているので、残念ながら最多生産戦車とはなりませんでしたが、それでもとんでもない数が作られています。第二次世界大戦中も、連合国へのレンドリース車両として大量に輸出されており、イギリス軍はもとより、ソビエト軍などでも使われました。さらに戦後は、シャーマンの最終生産型【M4A3E8】(イージーエイト)が日本の自衛隊にも供与されています。

『World of Tanks』
▲秋山殿が潜入して入手した情報だと、サンダース大学付属高校には、シャーマンとそのバリエーションしかありません。ちなみにA6型は、秋山殿の言った通り75両しか生産されず、それもすべてが訓練用に回されたため、実戦は経験しませんでした。

 さて、【M4 Sherman】のバリエーションは基本的に、細かな車内レイアウトの変更と、搭載エンジンおよび砲の変更によるもの。サンダース大学付属高校は、75mm砲搭載型と76mm砲搭載型、そしてファイアフライの3種を投入しました。この内、ファイアフライはイギリス軍が開発した車両で、17ポンド対戦車砲を積んだものです(砲の口径は76.2mm)。『WoT』におけるイギリス軍へのレンドリース車両はいささか不遇で、こちらのファイヤーフライは残念ながらゲームには登場していません。

 ドイツ軍のように、搭載砲の口径の違いが37mm、50mm、75mm、88mmと際立って大きければ、砲の威力が増しているのも実感できますが、75mm砲、76mm(76.2mm)砲、さらには76.2mm17ポンド砲というわずかな差では、そんなに強くなってないんじゃという疑惑が首をもたげます。

 実はこれ、75mm砲が対戦車砲からの、76mm砲が高射砲からの発展形となっていて、76mm砲のほうが初速が速かったので、装甲貫徹力が高かったのです。なお17ポンド砲は、当時の連合軍としては最高の装甲貫徹力を有したロイヤル・オードナンス製の対戦車砲で、ドイツの【Tiger】の装甲を貫徹することを目的に作られたものです。その威力は計画通りのものとなり、ミヒャエル・ビットマンの搭乗する【Tiger】を撃破したのもファイアフライでした。

 防御の面において、前面50mmと側面40㎜の装甲は開発当時は十分だったものの、すぐにそれを貫徹できる砲が敵側に配備されるのが戦争の常。ところが【M4 Sherman】は、特に装甲の強化を行いませんでした。そのため前線では、撃破された別の戦車から装甲を引っぺがしてきて溶接したり、土のうをくくり付けたりしていました。こういった前線での応急処置はよくある話で、ドイツ軍では歩兵の携行対戦車火器(要はバズーカなど)から戦車を守るため、ベッドのマットレスを車体側面に張り付けるといったことをしています。防御不足であったものの、とりあえず足の速さと数で囲んでなんとかするという作戦で第二次世界大戦を戦い抜き、戦後も朝鮮戦争や中東戦争などで使われました。

『World of Tanks』

●『WoT』での【M4 Sherman】

★開発ルート:【T1 Cunningham】→【T2 Medium】→【M2 Medium】→【M3 Lee】→【M4 Sherman】

 各国のTier V中戦車は、ドイツの【Pz. IV】やソビエトの【T-34】など、花形戦車が目白押しですが、アメリカの【M4 Sherman】もその例にもれません。装甲こそ物足りなさを感じるかもしれませんが、火力はやっと安心して戦えるレベルに達し、速力も十分。特にストレスなく乗り回せると思います。

 Tier Vくらいの中戦車には、火力支援車として短砲身の大口径砲を積んだものがあり、【M4 Sherman】も105mm榴弾砲を装備できます。装甲貫徹力こそ対戦車砲に劣るものの、ダメージが抜群に高く、自分より低Tierの中戦車以下を一撃で葬れる火力を有します。ただ、上位Tierの戦車が相手だと厚くなった装甲に弾かれることも多く、命中精度も高くないため、弱点を狙うなどといった有効打を与えづらいのが難点。さらに砲口径が大きくなったことで、装弾時間も長くなるなどのデメリットも生まれます。好みの分かれるところですが、重戦車の相手は他の味方に任せて、自分は軽戦車狩りに精を出すというのも選択肢の1つです。

 また、【M4 Sherman】の研究・開発を進めると、【M4A3E8】(イージーエイト)と【M4A3E2】(ジャンボ)へと派生します。どちらの開発に重きを置くかはお好みですが、【M4A3E8】からは中戦車ルート以外に駆逐戦車のルートが、【M4A3E2】からは中戦車と重戦車のルートが開けます。駆逐戦車ルートではその後に【M36 Jackson】を開発できますが、Tier IVの【T40】を経て開発できる【M10 Wolverine】が使い勝手のよい駆逐戦車なので、特に【M4A3E8】から発展させるメリットはないかもしれません。

『World of Tanks』
▲外見からは、75mm砲(左)と105mm砲(右)の区別がほとんどつきません! 弱いと思って近づいたら、一撃で昇天してしまう可能性もあるので、敵に回した時には注意が必要です。また、M4シャーマンシリーズは外見的な特徴があまりないため、マーカーで車両名を見えるようにしないと、【M4 Sherman】だと思ったら【M4A3E2】だったりすることが……。

→プラウダ高校のソビエト戦車をチェック!(2ページ目へ)

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データ

▼『World of Tanks(ワールド オブ タンクス)』
■メーカー:ウォーゲーミングジャパン
■対応機種:PC
■ジャンル:ACT
■配信日:2013年9月5日
■価格:無料(アイテム課金)

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