News

2014年6月30日(月)

【FFXIIIシリーズ後日談小説 #04】「小さいころからずっと、お姉ちゃんに――姉に甘えてたんです」~セラ・ファロン

文:電撃オンライン

 スクウェア・エニックスから発売中のPS3/Xbox 360用RPG『ライトニング リターンズ ファイナルファンタジーXIII』。その後日談を描く“ファイナルファンタジーXIII REMINISCENCE -tracer of memories- 追憶 -記憶の追跡者-”の第4話を掲載する。

 著者は『ファイナルファンタジー』シリーズや『キングダム ハーツ』シリーズのシナリオに携わってきた渡辺大祐氏。今回の作品では、『FFXIII』シリーズ完結後の世界を舞台に、とある女性ジャーナリストを主人公にした記憶を巡る物語が描かれていく。

 今回お届けするのは、セラに関するエピソード。ライトニングの妹であるセラが語る、ライトニングの死に関する真実とは……?


“ファイナルファンタジーXIII REMINISCENCE -tracer of memories- 追憶 -記憶の追跡者-”

 万年雪をいただく高峰の岩肌からしたたり落ちた水の滴が、やがて高山の草花を潤す清流になる。いくつかの滝を跳び越えて峡谷を駆け下りた急流は、深い森のふところに受け止められて流れを緩め、木々の影が落ちる暗い淵で静けさを知る。森を抜けた川が原野を渡り、丘をかわして田園にとどくころには、流れはすっかり穏やかだ。人々に大地の恵みをもたらす大河の姿がそこにある。

 大河のほとりのこの街は古くから交易で栄えた。数世紀の歴史を誇る大学があって、万単位の蔵書を収めた図書館で有名だ。もともと図書館として創立され、あとから大学になったという。伝承によれば、ある貴族が歴史資料の蒐集にとりつかれ、古文書や古地図、手稿から書簡まで手当たり次第に買いあさった。莫大な財がつぎ込まれて貴重な文献が続々と揃い、その知識を求める学者たちが訪れるようになった。彼らは活発な議論を戦わせて学理と学説を磨き上げ、その噂を聞いた青年たちが教えを乞いに集まってきて、やがて大学に発展したのだとか。

 だが例の貴族は破産して死んだという。

 彼が身を滅ぼすほどコレクションにのめり込んだのは、たゆたう大河のせいとも思えた。川の流れは時間に似ている。ずっと昔から変わらないようでいて、流れる水は常に新しく、流れ去ったら二度と戻らない。それが寂しいと思っても、川の流れは止められない。そして時もまた川のように、古いもの懐かしいものを容赦なく押し流す。時間は人に過去を忘れさせ、歳月が人の命さえも奪っていく。あの貴族は大河のほとりで時の無情を悟り、時の流れに消えゆくものを少しでもこの世に残したくて、蒐集に血道を上げたのではないだろうか。

 だとすれば私も――時の彼方に失われた“あの世界”の記憶に人一倍こだわり、記録にとどめようと取材を続ける私も、彼の同類なのかもしれない。

“ファイナルファンタジーXIII REMINISCENCE -tracer of memories- 追憶 -記憶の追跡者-” “ファイナルファンタジーXIII REMINISCENCE -tracer of memories- 追憶 -記憶の追跡者-”

■(4)セラ・ファロン

 セラ・ファロンとは図書館にほど近いカフェで待ち合わせた。私の素性や取材の目的については事前に連絡してあったが、インタビューに入る前に、伝えておきたい思いがあった。

「これまで多くの方にインタビューして“あの世界”の記憶について取材してきました。たいていの方は何もおぼえていません。記憶していても断片的です。私自身にも、おぼろげな記憶がありましたが……ぼんやりした夢のようで、現実感がなかったんです」

 そこまで聞いただけで、セラは私の言いたいことを悟ったようだった。

「でも今は違う……そうですよね。ホープ君やサッズさんに話を聞いて、ノラのみんなにも出会って、あなたは変わった」

 彼女にはこれまでの事情をすべて知らせてあった。

“ファイナルファンタジーXIII REMINISCENCE -tracer of memories- 追憶 -記憶の追跡者-”

「ええ、記憶がだんだん甦ってきたんです。自分がどんな人間だったかを思い出しました。私はコクーンの市民で、駆け出しの記者でした。政治家が隠した真実を――パージ政策の真相を暴こうとして、軍に追われることになりましたが、ノラの皆さんに救われた。それは夢や妄想ではなくて、過去に実際に体験した“現実”です。私は確かに、あの世界で生きていました」

 この言葉を伝えたかった。

「セラさん、あなたたちは世界を救ってくれた。それは私が生きた世界でした。私たちを守って戦ってくれて、ありがとうございました」

 ホープたちに会い、彼らが世界を救ったと聞かされた時はまだ、遠い世界の他人事のように感じていた。けれど記憶が戻ったことで気づいた。彼らが守ろうと戦ったのは、どこかの異世界ではなく、私自身が生きた世界だった。救われたのだ、と心から実感できた。感謝を伝えておかなければならなかった。

「世界を救っただなんて、そんな……」

 セラは遠慮がちに苦笑した。謙遜してみせたわけではなく、素直に照れているようだった。

「私なんて、守ってもらってばかりでした。

 小さいころからずっと、お姉ちゃんに――姉に甘えてたんです」

 ライトニングの妹は、つぶやいて目を伏せた。

“ファイナルファンタジーXIII REMINISCENCE -tracer of memories- 追憶 -記憶の追跡者-” “ファイナルファンタジーXIII REMINISCENCE -tracer of memories- 追憶 -記憶の追跡者-”

■呪われたルシ、人類の敵

 姉妹は両親を早くに亡くした。姉のライトニングは軍に勤めて、姉妹ふたりの生活を支えた。妹のセラはハイスクール在学中にスノウ・ヴィリアースと出会い、大学への進学を決めたころに交際を始める。

「姉は快く思っていませんでした。スノウやノラのみんなのことを、いいかげんな連中だって思ってたんです。確かにスノウは大雑把だし……でも、ちゃんと話しあう時間さえあれば、すぐにわかってもらえたんじゃないかな」

「しかし、あなたにはそんな時間はなかった。運悪くファルシに接触し、呪われたルシにされた」

「そう……コクーンに生きる人たちの、人類の敵になってしまった。もちろん私は、コクーンを傷つけたいなんて思いもしなかった。でも……」

 たとえ彼女に害意はなくても、コクーンの大衆はルシを敵視し、排除しようとした。盲目的なまでにルシを恐れる市民感情のうねりが社会を突き動かし、あの悲惨なパージ政策につながった。

 そしてパージの戦火のさなか、彼女の時は止まった。姉のライトニングと婚約者のスノウの目の前で、クリスタルの像と化して眠りについたのだ。

 それがコクーンという社会を変える戦いの始まりだった。セラが眠りにつく瞬間を見守ったライトニング、スノウ、サッズ、ホープ、ヴァニラと、のちに加わるファングたちは、ぶつかりあいながらも宿命に抗った。彼らが最後にコクーンを滅亡から救った時、セラもまたクリスタルの眠りから解き放たれた。

 だがセラが目覚めたその時、世界に新たな歪みが生じる。ライトニングが消えたのだ。

“ファイナルファンタジーXIII REMINISCENCE -tracer of memories- 追憶 -記憶の追跡者-”

■歪められた時を越えて

「クリスタルから甦ったあなたは、『ライトニングは死んだ』と聞かされたそうですが」

「コクーンの崩壊を止める犠牲になった――みんなそう思っていました。でも私は信じられなかったんです。クリスタルから目覚めた私と、スノウとの結婚を祝福してくれた姉の笑顔を、私だけがはっきりおぼえていました」

「実際にはセラさんの記憶が正しくて、それ以外の皆さんの記憶と世界の歴史のほうが歪められていた。お姉さんは死んではおらず、異世界ヴァルハラに囚われていた。その事実に気づいたあなたは、世界を正しい歴史に戻すことを決意したんですね」

「最初は、そこまで深く考えてはいなかったんです。きっかけはノエルでした。彼がモーグリを連れてきて、姉のメッセージを伝えてくれたから……どうしても姉に会いたくて飛び出しただけでした。それからもノエルが引っ張ってくれたおかげで旅を続けられたんです。やっぱり私、人に頼ってばかりでした」

“ファイナルファンタジーXIII REMINISCENCE -tracer of memories- 追憶 -記憶の追跡者-” “ファイナルファンタジーXIII REMINISCENCE -tracer of memories- 追憶 -記憶の追跡者-”

 控えめに肩をすくめると、彼女は柔らかな語り口で旅の出来事を語ってくれた。それは数百年の時代をめぐり世界の歴史を修復する旅だった。時の流れを川にたとえるなら、巨大な力で大地が歪んで、川の流れが変わってしまった状態だ。セラたちは、川をふさぐ岩山を崩したり、あふれた水を堰き止めたりして、川を本来あるべき流れに戻そうと試みた。

 信じがたい出来事の連続だったが、彼女の口調が穏やかだったからこそ真実だと信じられた。

 “ゲート”“パラドクス”“オーパーツ”“フラグメント”――時空の法則を覆す、さまざまな事物。未来を視る“時詠み”の力。そして生と死を無限に繰り返す巫女ユールと、彼女を救おうとして世界を狂わせた宿敵カイアス・バラッド。

 その旅の最後に、彼女は命を落とした。

「そしてまた姉が守ってくれました。死んでしまった私の魂を、抱きしめて守ってくれた。そのために姉はクリスタルになったんです」

「ずっと姉妹で一緒だったんですね」

「それが……私は、こぼれ落ちてしまったんです。いつしか姉と離れ離れになりました。私は眠っていて、いつ別れたかも気づけなかった」

■特別な存在

「あなた方でも、思い出せないことがあるんですか?」

「えっ?」

「私も“あの世界”に生きていました。コクーンの記者で、名前は“エァーデ”でした。ですが、その記憶が戻ったのはつい最近です。以前は曖昧な情景を思い出す程度でした。私だけではありません。あの世界について大勢に取材しましたが、自分の名前を思い出せた人はいません――あなた方を除いては。あなた方は特別な存在で、あの世界でのすべてを記憶しているのでは?」

「そんなことないですよ。私は忘れっぽいほうだし……それに特別な存在でもないし。だってあなたも思い出したでしょう? あの世界での名前や体験を、今ではちゃんと思い出してる。なら、あなた以外の人たちも、いつか何かの拍子に記憶が戻るかも」

「そのカギは、あなた方の存在にあるのではないでしょうか。私の記憶が甦ったのも、ホープさんを始めとする皆さんに取材できたおかげだと思っています。だからもっと皆さんに取材して、あの世界で起きたことを、できるかぎり調べたいんです」

「……調べて、どうするつもりですか?」

「ひとつの物語にまとめて公表したいです。皆さんの話を聞いて私の記憶は戻りました。それと同じように、あの世界での物語を広めることで、より多くの人たちが記憶を取り戻す可能性も――」

「待ってください」

 これまでにない声音だった。大きくはないが、きっぱりと強かった。

「あの世界を思い出した人は、かえって苦しむかもしれない。辛い記憶が甦ったり……。

 もう存在しない古い世界のことが頭から離れなくて、今の生き方を縛られてしまったら?」

 言葉が胸に刺さった。自分のことを言われている気がした。失われた世界の記憶にこだわって夢中で追い求めている私は、過去にとりつかれて人生を犠牲にしているのだろうか。

 そんな私の考えを読んだかのように、セラは寂しげに微笑んだ。

「私たちが、そうだから。

 私はあの世界をおぼえてる。できたら忘れたい記憶もあるけど、苦しんで得られた喜びもあったから、やっぱり全部が大事な思い出。振り返れることが嬉しいと思う。

 だけど記憶があるせいで、私たちは古い世界の私たちでしかいられない。この新しい世界に、距離を感じる時もあるんだ」

「では、あの世界について知ろうとするのは無意味なんでしょうか。古い過去など忘れていたほうが幸せだというなら、私は――」

“ファイナルファンタジーXIII REMINISCENCE -tracer of memories- 追憶 -記憶の追跡者-”

「ごめんなさい、あなたを責めてるわけじゃないの。きっと私よりも大変だと思う。

 この世界で地に足をつけて生きていたのに、急に別の人生の記憶が甦ってしまった。

 ふたつの世界の記憶のあいだで、揺れ動いている――あなたのほうこそ、特別な存在かもしれない」



 インタビューを終えるころには夜も遅くなっていた。セラ・ファロンと別れた私は、街に流れる大河のほとりをぶらつき、川面を渡る夜風で頭を冷やした。街の灯を映しても流れは暗く深い。夜の川はどこまでもくろぐろと闇の彼方へ流れていく。

 私の取材は、無意味なのだろうか。

 川の流れを時の流れにたとえるなら、もう存在しない世界の、過ぎ去った時代の記憶を追いかける私の行為は、とうの昔に海へ流れ込んでしまった川の水を、再び汲み取ろうとする愚行なのだろうか。そんな水をいくら掬ってみたところで、どうせ飲めもしない塩水か。

 けれどセラは言ってくれた。

「あの世界の記憶をたどることが、この世界にとってどんな意味があるのか……私にはわからないの。

 でも、あなたは違う。この世界に生きながら、あの世界を思い出したあなたなら、ふさわしい意味を見つけられると思う。

 あなたには、すべてを知ってほしいんだ」

 それで私も覚悟を決めた。彼女にも伝わったらしかった。別れの握手に確かな力をこめて、彼女はスノウ・ヴィリアースの行方を教えてくれた。

“ファイナルファンタジーXIII REMINISCENCE -tracer of memories- 追憶 -記憶の追跡者-”

→#5 スノウ・ヴィリアース

(C)2009,2013 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved. CHARACTER DESIGN: TETSUYA NOMURA

データ

▼『ライトニング リターンズ ファイナルファンタジーXIII』(ダウンロード版)
■メーカー:スクウェア・エニックス
■対応機種:PS3
■ジャンル:RPG
■発売日:2013年11月21日
■希望小売価格:7,000円(税込)
▼『ライトニング リターンズ ファイナルファンタジーXIII』(ダウンロード版)
■メーカー:スクウェア・エニックス
■対応機種:Xbox 360
■ジャンル:RPG
■発売日:2013年12月3日
■希望小売価格:7,000円(税込)

関連サイト