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2014年11月29日(土)

『サマーレッスン』は“現実感”を覚えるほど衝撃的! VR版『アイマス』や『鉄拳』など試作時の話題も

文:皐月誠

 SCEは11月29・30日にかけて、“Project Morpheus(以下、Morpheus)”のユーザー体験会を開催している。なお、参加申し込みの受付はすでに終了済み。

 “Morpheus”は、SCEが開発したVR(バーチャルリアリティ)仕様HMD(ヘッドマウントディスプレイ)の試作モデル。通常の映像観賞用HMDは小型・高解像度のディスプレイによって“少し先に巨大なモニタが存在する”ような表示を行うが、VR・HMDはディスプレイと凸レンズによって“視界のほぼ全景をモニタが覆う”ような表示を行う。

 今回の体験会で中心となっていたのが、バンダイナムコゲームスの『鉄拳』チームが開発した『サマーレッスン』だ。『サマーレッスン』は、女の子とのコミュニケーションを楽しめるVRコンテンツ。9月1日の“SCEJA Press Conference 2014”にて発表され大きな話題となったが、あまりにも反響が大きかったため“東京ゲームショウ2014”への出展が急きょ中止となったという経緯があり、一般ユーザーが本作に触れるのは今日が初となる。

■動画:技術デモ『サマーレッスン』体験会へご参加された皆様へ

 本日29日の天候はあいにくの雨模様だったが、会場には多くの当選者が来場し、『サマーレッスン』をはじめ各種VRコンテンツを体験していった。また、会場にはSCEワールドワイドスタジオの吉田修平氏と、バンダイナムコゲームスの原田勝弘氏も来場。参加者たちから感想を聞いたり、VRコンテンツについての意見を交わしたりしていた。なお、電撃オンラインでは以前に原田氏へのインタビューを行っているので、興味がある人はこちらを参照してほしい

“Project Morpheus”
▲体験可能だったコンテンツは、『ソードアート・オンライン』や『AKB0048×アクエリオン 多次元スペシャルライブ』など、『サマーレッスン』を含めて全7種類。
“Project Morpheus”
▲バンダイナムコゲームスの原田勝弘氏(左)とSCEワールドワイドスタジオの吉田修平氏(右)。
“Project Morpheus” “Project Morpheus”
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▲会場各所も『サマーレッスン』仕様で飾られていた。

 『サマーレッスン』がプレイヤーに与える没入感はかなりのもので、よそ見をすると女の子から怒られるので視線を外せない、逆に恥ずかしくて視線を合わせられない、照れてしまって至近距離まで近づけないなど、現実の女性に対しているかのような反応が多く見られたとのこと。綿密な3Dモデリングや音声のバイノーラル録音などでリアリティを追求した『サマーレッスン』は、バーチャルながら“リアルな感情を喚起させる”までに達している。

 女の子とのコミュニケーションは、縦横へ首を振って肯定/否定を示すことで行っていく。フィジカルなコミュニケーションには新鮮味があるが、例えばSCEが2003年にリリースしたPS2『オペレーターズサイド』のように、ボイスでのコミュニケーションを行えたらプレイアビリティが向上するだろう。原田氏によると、実はPlayStation Cameraの内蔵マイクを利用する音声入力プラグインもすでに制作しており、容易に実装可能(音声に対する反応は別途制作の必要がある)とのこと。また、音声入力や“ゲームとしてのおもしろさ”を組み込み、『サマーレッスン』を技術デモ以上のものにしたいという旨も語られた。その他、“もっと大きいVRプロジェクト”も動き出しているらしい。

■動画:技術デモ『サマーレッスン』体験内容ご紹介ムービー

 『サマーレッスン』の反響は強く、他のゲームメーカーからも“体験したい”という声が寄せられているほど。吉田氏からは各社が触発されてVRコンテンツへ着手することへの期待や、「(『サマーレッスン』は)日本におけるVRの普及を1年以上早めた」というコメントが語られた。なお、来週末にアメリカ合衆国・ラスベガスにて開催される“PlayStation Experience”では、北米における一般向けイベントとしては始めて“Morpheus”のハンズオン(正しくはヘッドオン?)出展が行われる。北米の一般層に“Morpheus”はどう響くのか、今から楽しみだ。

 また、バンダイナムコゲームスでは“Morpheus”用VRコンテンツを制作するにあたり、さまざまなテストを行ったらしい。初期に行われたのは、『鉄拳』男性キャラクターのVR表示。しかし、筋骨隆々な眼光鋭いキャラクターを鑑賞することや、“1つの部屋に自分と格闘家が2人きり”のようなシチュエーションは、それほど愉快なものではなかったようだ。人間の男性でなくクマを表示させた場合でも、“実際のクマとは異なる奇妙な生物が間近にいる”としか感じられなかったという。

 その他にも『鉄拳』では“一人称視点でのプレイ”を試作したが、筋骨隆々な眼光鋭いキャラクターがどんどん攻め込んでくること、そしてパンチやキックを一人称視点で受けることには本物の恐怖を覚えるほどで、やはり楽しめるものにはならなかったらしい。“一人称視点の『鉄拳』”という部分ではプレイステーション版『鉄拳2』に同様のモードが搭載されていたが、表現力の向上とVRデバイスの特性から、娯楽では収まらないほどのリアリティに達してしまったようだ。

 『アイドルマスター』は、これまでにもソニー製HMD『HMZ』シリーズのカスタムモデル(ヘッドトラッキング追加版)を利用したVRデモがイベントなどで出展されていたので、“Morpheus”による鑑賞にも期待したいところ。しかし、原田氏が実際に伊織を表示させて「いおり~~~ん!」と喜び勇んで近付いてみたのだが、“頭の大きさ”に違和感を覚えてしまったという。デフォルメデザインのキャラクターは身体各部のスケールが実際の人間と異なるため、VRでの閲覧にはあまり適さない模様。凸レンズの魚眼レンズ的な効果によって、スケール感が歪むことも一因となっているようだ。また、漫画的な表現の瞳は視線を把握しづらく、コミュニケーションを行うタイプのコンテンツには向かないという。

 ただ、凸レンズによる歪みは“巨大な物のスケール感”の演出には適しており、原田氏からは『ワンダと巨像』のVR仕様リメイクを望む声も発せられた。また、VR・HMDには一人称視点のコンテンツを期待しがちだが、三人称による“神の視点”も非常に適しているとのこと。『A列車で行こう』や『シムシティ』、『シヴィライゼーション』のようなタイトルも遊んでみたいところだ。

 『機動戦士ガンダム』をモチーフにしたコンテンツも作ってみたが、一年戦争におけるモビルスーツのコックピットは数枚のディスプレイで視界を確保しているため、VRで表現するには些か本末転倒だったようだ。『機動戦士ガンダム』の体感ゲームをプレイするなら、実際に数枚のディスプレイを用意するか、『機動戦士ガンダム 戦場の絆』のような半球スクリーンを用いる方が適しているという。

 コックピット視点といえば『エースコンバット』はVR・HMDに向いていそうだが、アクロバット飛行をした際、視界と実際の水平間隔の齟齬が大きすぎてまともにプレイできないという。普通の人では15°以上、慣れている人でも30°以上の傾きで酔ってしまうらしい。筆者としては2002年のソニー製HMD『PUD-J5A』を用いてPS2『エースコンバット5』や『エースコンバットZERO』などを楽しんでいたので“Morpheus”にも期待したかったが、“少し先に巨大なモニタが存在する”通常のHMDと“視界のほぼ全景をモニタが覆う”VR・HMDの差は極めて大きいようだ。

 逆に最適と言えるのが、『リッジレーサー』や『グランツーリスモ』、『ドライブクラブ』のようなレーシングゲーム。スピード感を非常に強く感じられる上に、レーシングゲームならではの美麗な風景を自由に見わたせるため、レース中でも路肩にクルマを停めて景色を眺めてしまうほどとのこと。ただし背景オブジェクトをじっくり見てしまうと、普段なら気にならない作りこみの甘さまでが目についてしまうそうだ。

 その他、現行ゲームが“Morpheus”に対応するのかも気になるポイント。来場者からは主観視点モードが追加されたPS4版『グランド・セフト・オートV』を“Morpheus”でプレイしてみたいという声が上がったが、吉田氏いわく“60fpsでないとVRコンテンツは厳しい”とのこと。“fpsは30に留めて表示オブジェクト数や解像度を重視しよう”というのが現在の主流だが、もしVR・HMDが普及したら風潮も変わってくるかもしれない。

 VR・HMDのネックとして話題に登ったのが、プレイ用のデバイスだ。現行のVR技術では、例えば“巨大な剣を敵に叩きつける”というアクションをVRで表現しても、剣の重量感や敵に斬りつけた時の衝撃は“コントロールデバイスで空を切った”以上のものにはまずできない。今後の期待として嗅覚や味覚の要望も上がったが、プレイヤーへのフィードバックはVRに課せられた大きな課題の1つとなっている。


 まだまだ課題は多いものの、今までになかったプレイ体験を確実にもたらしてくれるVR・HMD。“Morpheus”自体も好評を得ているとは言えプロトタイプなので、今後のさらなる発展に期待したい。

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