2014年12月30日(火)
あの名作から、5年、10年、20年……。そんな名作への感謝を込めた電撃オンライン独自のお祝い企画として連載中の“周年連載”。連載第14回は特別編として、格闘ゲーム史に残る名場面“背水の逆転劇”を振り返りたいと思います。
背水の逆転劇は、2004年に開催された“Evolution(Evo)2004”という、アメリカで毎年行われているゲーム大会の『ストリートファイターIII 3rd STRIKE』部門にて起きた出来事です。
梅原大吾氏(現MadCatz所属)が操るケンと、ジャスティン・ウォン氏(現Evil Genius所属)の操る春麗との対戦で、梅原氏の負けが確定してしまったと思われる状況から、大逆転をしたことで一躍有名になりました。
格闘ゲームの名プレイというのは、規模の大きい大会ではわりと出やすいものに分類されます。それだけ参加する人数と実力のあるプレイヤーが多数集結しているということ。
では、どうして背水の逆転劇はここまで知られるようになったのでしょうか。理由の1つは、日本格闘ゲーム界のトッププレイヤーで知られる梅原氏と、アメリカ格闘ゲーム界で知らぬ者はいないジャスティン氏との対戦ということで試合への注目度が高かったことが原因と思われます。
もう1つの理由として、アメリカでの大会のため、梅原氏はアウェイの状況におかれていました。加えて、ルーザーズ(※)側の梅原氏にはもう後がない状況でした。そんな中、瀬戸際で見せた梅原氏のプレイが常人離れしていたことが話題性を高めたのです。
※ルーザーズとは
ダブルイリミネーショントーナメント方式で行われる大会で、一度負けてしまうとルーザーズサイドにて敗者復活トーナメントが通常トーナメントと同時進行されます。ここで負けると敗退となりますが、勝ち進めばハンデ有の状況で、勝者との対戦が可能です。例えば、優勝決定戦で勝者側は1勝すれば優勝となりますが、敗者側が優勝するためには2勝必要など。Evolutionでは、このダブルイリミネーション方式がとられることが多いです。
試合はジャスティン氏が優勢のまま進み、梅原氏が後1ラウンド落としてしまうと負けという場面。梅原氏のケンの体力はごくわずかという状況で、名場面は誕生しました。
どの攻撃が当たっても負けという状況下、「レッツゴー! ジャスティーン!」という会場の煽りを受け、ジャスティン氏は春麗のスーパーアーツ(※)“鳳翼扇”でケンの体力を削る狙いでした。さまざまな技を振り、フェイントを多く混ぜた行動をとりつつ、放たれた鳳翼扇はケンの体力を削り切ると思われましたが……。
※スーパーアーツとは
『ストリートファイターIII』シリーズにおいて、各キャラクターに用意されている特別な必殺技。攻撃を出したり、当てたりするたびに画面下のスーパーアーツゲージが蓄積され、これを消費することで使用可能となります。キャラクターにもよりますが、比較的コンボのシメに使われることが多いです。
なんと、梅原氏はこれに対応。鳳翼扇をすべてブロッキングで捌きます。ブロッキング後に、飛び蹴り、足払い、昇竜拳、疾風迅雷脚で反撃し、見事逆転しました。“背水の逆転劇”は、単純にブロッキングしたことがすごいだけでなく、最後まで諦めない姿勢、ブロッキング後の最大反撃、梅原氏の読みの深さや異国の地の大舞台で1回でもブロッキングを失敗すれば負けという状況を跳ね除けた精神力、経験からくるであろう技術力の高さなどから、人々に感動を与えたのです。
ブロッキングは『ストリートファイターIII』シリーズにおける防御手段の1つです。相手の攻撃が当たる瞬間にレバーを前方、もしくは下に倒すことで、相手の攻撃を受け止められるシステム。ブロッキングに成功すると、削りによるダメージを受けず、相手に一定時間の硬直時間を与えられ、通常のガード時よりも早く動けるのが特徴です。失敗してしまうと相手の攻撃を受けてしまう諸刃の剣のようなところが、見ている側も楽しませてくれる魅力的なシステムでもあります。
▲こちらは11月6日より稼働したNECiCA版『ストリートファイターIII 3rd STRIKE』。春麗の攻撃をリュウがブロッキングしている様子。 |
ちなみに、梅原氏がブロッキングした鳳翼扇は、発生してからブロッキングの入力を受け付けるまでの猶予が1~2フレーム(1フレーム=1/60秒)ほどしかありません。見てから決めたのでしょうか、それとも想定して事前に入力していたのでしょうか……。
10年前の“背水の逆転劇”がどれだけの偉業なのか、『ストリートファイターIII 3rd STRIKE』の春麗使いなどとして有名なヌキ氏や『バーチャファイター』、『ストリートファイターIV』シリーズでおなじみのプロゲーマーのふ~ど氏(Razer所属)、『THE KING OF FIGHTERS』や『ストリートファイターIV』シリーズで有名なキャベツ氏を招いて、春麗の鳳翼扇をブロッキングしてからケンの飛び蹴り、足払い、昇竜拳、疾風迅雷脚の最大反撃までに挑戦してもらいました。
この企画は、参加プレイヤー全員が連続でブロッキングから最大反撃までを成功させなければ家に帰れないという趣旨でお送りしました。すぐに成功させて帰られても困ってしまう……ということで『ストIII 3rd STRIKE』素人枠として電撃オンラインの編集であるゴロー(足引っ張り要員)も参加。果たして、4人は帰宅できたのでしょうか?
【周年連載 バックナンバー】
→第14回:“背水の逆転劇”10周年記念。格闘ゲームプレイヤー以外にも知られる梅原大吾氏の名プレイ【本記事】
→第13回:『ワイルドアームズ2』15周年記念。リメイクを待ち続ける“英雄”をテーマにした激熱RPG
→第12回:『スクウェアのトム・ソーヤ』25周年記念レビュー。敵がリセットを使う怪作を遊び直してみた
→第11回:セガサターン20周年。雑誌の表紙イラストで振り返る名作の思い出
→第10回:『グローランサー』15周年インタビュー。うるし原氏によるジュリアンやティピのサイン色紙も
→第9回:『ときめきメモリアル2』15周年記念。好きとか嫌いとか言って伝説の鐘を鳴らすのはあなた!
→第8回:『軌跡』シリーズの原点『英雄伝説V 海の檻歌』15周年記念。開発裏話や設定画を公開
→第7回:ファミコン『悪魔城伝説』25周年記念。伝説の横スクロールアクションを振り返る
→第6回:『かまいたちの夜』20周年記念。今なおトップに君臨する最高のサウンドノベルをアツく語る
→第5回:PS『ジルオール』15周年記念。プレイした人の数だけ伝説が生まれたRPGで、あなたの無限のソウルが辿った軌跡は!?
→特別編:「ほ、ほーっ、ホアアーッ!! ホアーッ!!」10周年記念。生み出した記者に当時の真相を聞いた
→第4回:PS『夕闇通り探検隊』15周年記念。伝説の隠れた名作ホラーゲームの魅力を今一度振り返る
→第3回:『ファイアーエムブレム 紋章の謎』20周年記念。攻略しがいのある手強いSRPGの金字塔を振り返る
→第2回:リメイクを望む名作『ライブ・ア・ライブ』20周年記念。本作を語れば、人はみんな1つになれる……なあ……そうだろ 松ッ!!
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