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2015年4月4日(土)

岸田メルさんが『実在性MA』に興味津々!? 『ミリオンアーサー』×『アトリエ』クリエイター対談

文:マスクド・イマイチ

 スクウェア・エニックスがさまざまなプラットフォームで展開している『拡散性ミリオンアーサー(以下、拡散性MA)』の開発者と、多彩なコラボ作品のクリエイターによる対談企画を電撃オンラインで実施。普段は表に出ないような、クリエイターの本音などをお届けしていく。

『ミリオンアーサー』×『アトリエ』

 今回は3DS版『拡散性MA』と、今春発売予定の3DS版錬金術RPG『新・ロロナのアトリエ はじまりの物語 ~アーランドの錬金術士~(以下、新・ロロナのアトリエ)』のコラボレーションを記念して、クリエイター対談が実現。スクウェア・エニックスの安藤武博プロデューサー、3DS版『拡散性MA』の古川雄樹プロデューサー、ガスト『アトリエ』シリーズの岡村佳人ディレクター、そして『ロロナのアトリエ』をはじめとする『アーランド』シリーズ3部作のキャラクターデザインを手掛けるイラストレーター・岸田メル氏を迎え、シリーズの歴史や魅力を語っていただいた。(※記事中は敬称略)

『ミリオンアーサー』×『アトリエ』
▲左から古川プロデューサー、安藤プロデューサー、岸田メル氏、岡村ディレクター。

●ブリテンにアーランドのキャラたちが降臨!

 4月5日21:59までの期間、3DS版『拡散性MA』と『新・ロロナのアトリエ』のイベントが開催されている。イベント期間中、前半と後半で異なる限定イベント秘境が出現。限定イベント秘境の探索や強敵への攻撃などで、“アイテム=ぷにぷに”を獲得することができる。一定数の”ぷにぷに”を集めることでノルマ報酬を獲得でき、さらに”ぷにぷに”を集めた数によってもらえるランキング報酬も用意されている。強敵には“アーランド型ホム(男)”や“アーランド型ホム(女)”が登場。『アーランド』シリーズのキャラクターたちと協力して立ち向かおう!

『ミリオンアーサー』×『アトリエ』
『ミリオンアーサー』×『アトリエ』
『ミリオンアーサー』×『アトリエ』
『ミリオンアーサー』×『アトリエ』 『ミリオンアーサー』×『アトリエ』
『ミリオンアーサー』×『アトリエ』 『ミリオンアーサー』×『アトリエ』

■『アトリエ』シリーズは17年間ライバル不在?

古川雄樹氏(以下、古川):まず今回のコラボの説明と対談のきっかけを。『ミリオンアーサー』がガスト(現コーエーテクモゲームス ガスト長野開発部)さんとコラボさせていただいたのは、今回で3回目になります。PS Vita版『拡散性MA』とPS Vita版『新・ロロナのアトリエ』がコラボをしたのが、一年半前くらいですね。2回目もPS Vita版で、去年の10月頃に『サージュ・コンチェルト』シリーズと。そして今回は、3DS版『拡散性MA』と3DS版『新・ロロナのアトリエ』のコラボになります。3回もご一緒させていただきまして、ぜひ一度対談もお願いできませんでしょうかとお声かけして実現しました。

安藤武博氏(以下、安藤):今回初めてお話させていただくということで、これまでの『アトリエ』シリーズを調べさせていただいたんですね。僕は1998年頃からゲームを作っているんですが、それより前、学生の頃から残っているゲームのシリーズって結構少なくなってしまって。『アトリエ』シリーズを除くと、それこそ国民的タイトルばかりなんです。僕も不勉強だったんですが、今回調べてみたらものすごい数のタイトルが出ているんですね。ナンバリングとして“A1”からスタートして、今はどれくらいですか?

岡村佳人氏(以下、岡村):今は『シャリーのアトリエ ~黄昏の海の錬金術士~』が“A16”ですね。

岸田メル氏(以下、岸田):ほぼ毎年出ているんですよね。

安藤:それで、こんなにも長くシリーズが続いているのはなんでなのかなっていうのを自分なりに考えたんです。それは「ライバル不在」、「唯一孤高」なのかなと。僕は『マリー』のイメージが強烈に残っていて、錬金術士として調合したり経営したり、そこに探索や戦闘の新しいシステムも入っていて、いつの間にか完全にRPGに進化したなと思うんです。今、RPGって言っちゃっていいんですかね。

岡村:そうですね、今はそういう方向で展開したいと思っています。

岸田:最初からRPGと言っていましたよね。

岡村:SLGって言ってしまうと売れないので(笑)。

安藤:ゲーム業界あるあるですね(笑)。

岸田:初期はSLGとADVの融合みたいでしたよね。

岡村:“新感覚RPG”とも言っていました。

古川:決してラスボスを倒さなくても、戦闘しなくてもクリアできるっていうのがよかったですよね。

岡村:それは最初に作っていた人間の趣旨と言いますか、意図として『ルナティックドーン』のような自由度の高いRPGが好きだったというのがあり、自由に遊べるようにああいった作りになったと聞いています。

■岸田メルさんと『アーランド』シリーズの出会い

安藤:岸田さんに『アーランド』シリーズで初めてガストさんからお仕事のお話が来た時って、どのような感じだったんですか?

岸田:最初は、守秘義務として一応タイトルはボカしているけど、「まぁ、わかるよね」という感じでオファーをいただきました(笑)。

安藤:岡村さん、かなり慎重に口説かれるんですね。

岸田:それはそれは丁寧なメールをいただいて。僕もその時はゲーム業界の仕事が未経験だったので、すごくうれしくて「よし、頑張るぞ!」と思ってやりました。

安藤:そうですよね、岸田さんにとって初めてのゲームのお仕事だったんですよね。2009年頃ですか?

岡村:実際オファーしたのは2008年の5月頃になりますね。

安藤:思い出されるのは、あの時期にPS3でRPGがなかったんですよ。そういうところもあって、すごく目立っていた印象があります。

岸田:あの頃のPS3には、日本のRPGっぽいものがぜんぜんなかった印象ですね。

安藤:我々も作っていたんですけど、スクエニはスピードよりも、時間をかけて作るものが多いですからね。

岡村:あの時は現場も相当死ぬ思いで作っていた記憶がありますね。それまで2Dのゲームしか作ったことがなかったのに、それが3Dになるということで死屍累々に……。

安藤:今回の3DS版『新・ロロナのアトリエ』は、デフォルメキャラがカワイイですよね。岸田さんのタッチもよく出ていると思うんですが、どう思われますか?

岸田:カワイイですよね。アプリで『アトリエ クエストボード』というタイトルがありまして、モデリングが似ていると言われましたが、ちゃんと新規に作っているんですよ。

安藤:初代の『マリー』が出た時に特に印象的だったのが、結構女性がプレイしていたことなんですよ。当時ってまだ女の子がゲーム好きっていうのが少しはばかられるような時代だった気がして。あと岡村さんが入った頃から、『アトリエ』にちょっとしたお色気要素が導入されるようになったと思うんですけど、いかがですか?

岡村:お色気要素は、僕というよりかかわっているシナリオライターによるものが大きいですね。

岸田:岡村さんとは長い付き合いですけど、岡村さんはわりとピュアな人なんですよ(笑)。あまりスケベスケベしたものは好きじゃない感じで。

岡村:もともと『ロロナ』のテーマって、「世界名作劇場みたいな雰囲気で」というオーダーで岸田さんにもお願いしていまして。

岸田:そうですね。もっと下世話にしようという人たちを、岡村さんがせき止めていた印象ですね。今、表に出てきている“そういうシーン”は、岡村さんのOKが出たということですね。

『ミリオンアーサー』×『アトリエ』

■岸田さんのキャラデザへのこだわりとは!?

安藤:ロロナは絶対生足じゃないといけない、というこだわりが岡村さんにあるという話を聞いたんですが?

岡村:あれは岸田さんがだいぶ脚色して言ったことですね(笑)。

岸田:だいぶ盛りました(笑)。

岡村:元気な主人公ということで、長いブーツより足が出る衣装のほうがいいよね、とは言いましたけど。

岸田:キャラデザをしている時に、僕とライターさんと岡村さんとアートディレクターの方で話し合って、「やっぱ生足のほうがいいんじゃないか」、「タイツはないんじゃないか」、「ニーソだとしたら肉のふくらみはあったほうが……」みたいな話を真面目にしました。

古川:帽子のデザインが結構最後まで悩まされたとも聞きましたが。

岸田:本当は帽子なんてかぶらせたくなかったんですよ(笑)。でも“錬金術士は帽子をかぶっている”というセオリーがありまして。そこだけは守らないとダメと言われ、悩んだところですね。

古川:トトリの透けている衣装もインパクトありましたよね。

岸田:それは単純に僕のフェティシズムです(笑)。

岡村:岸田さんと『アトリエ』のミックスアップが一番出ているのは、『トトリ』のデザインだったと思います。

岸田:フリルをいっぱい付けたり、透けている部分があったりというのは、完全に僕の趣味ですね。

岡村:あのデザインは岸田さん以外にはできないと今でも思っています。

岸田:自分の趣味全開で描いて、OKが出たのはうれしかったです。他の2人の主人公と比べても、その時に描きたかったものをそのまま描いた感じですね。

安藤:デザインが決まるまでは、かなり綿密に打ち合わせをされるんですか?

岸田:しますね。すごい数の案を描いて出します。

岡村:うちは相当リテイクが多いんですよ(苦笑)。イラストレーターさんには苦労をかけていると思います。

安藤:『アトリエ』シリーズとして、“錬金術士”として、守っているところとか、基準としているところってどんなところですか?

岡村:ん~、それは明文化するのがかなり難しいですね。やっぱり積み重ねで、『アトリエ』シリーズの主人公って「ここまではやってもいいけど、それ以上はやってはいけない」みたいなものがありまして……。

岸田:だから大量に案を出して、そのコンセンサスを取るところから始めます。「これぐらいが今回お互いに考えている主人公だよね」というのは、ある程度数を出さないとわからなくて。

安藤:じゃあ決してそこは明文化できるところじゃないんですね。

岡村:できればいいんですけどね……。

岸田:これは作り方の流れの問題なんですけど、キャラ作りを始めた時に、設定ができあがっていることがまずなくて。シナリオと同時進行だったりするんです。

岡村:まず締め切りありきみたいなところがあって。「ここまでにこの仕事を完成させておかないと、よそに発注ができないのでやってください」みたいな無茶ぶりなところがありますね。そのなかで最大限フルにやっていただくという。

岸田:最初にあった設定がなくなっていることもありますよね。トトリも病弱設定があったりしたんですけど、最終的にはなくなっていて元気な子になっていたりとか。

岡村:設定が岸田さんの絵に引っ張られることも多かったです。「こう来たらこういうシナリオにしたほうがおもしろいんじゃないか」とか、元々あったセリフがなくなったりとか別のものになったりとか、そういうのは多々ありました。

■長く続くシリーズを明文化する難しさ

安藤:話を聞いていると、『アトリエ』シリーズはこあるべきというのは、僕らがRPGを作るのと同じような感じですね。『ファイナルファンタジー』にも完全に明文化できる概念ははないんですよ。でも、今話されていたように「ここまではいいだろう」、「ここハズしてしまうと、『FF』じゃなくて『サガ』になっちゃう」みたいなのはあって。やっぱり積み上げてきたものがあるんだろうなと。それでも『FF』は『FF』でって断じようとすると、それぞれが違う概念を定義することになるんですよね。。

岡村:あれだけの大作になってくると、その印象を統一するのって大変だと思いますね。『アトリエ』は、世界観自体は違う時代だったり、パラレルなところが多いんです。ただ、シリーズのなかでは1つの世界でつながっているという。そのなかで根幹に『アトリエ』シリーズの世界ってこうだよねっていうのは明確にあると思いますね。比較的優しい世界だけど現実に近いというか。

岸田:イラストレーターの目線で言うと、1作目『マリー』の桜瀬琥姫さんの印象がとにかく強くて。全体がそのタッチに集約されるような気がしています。僕も意識し過ぎちゃいけないと思っていたんですが、やっぱりリスペクトしている部分も大きかったので、無意識に取り入れているところもあったと思います。当時ゲームにああいう“アール・デコ”的な装飾をビジュアルに取り入れたものが少なくて。どちらかというと剣と魔法の西洋ファンタジー的なものが多いなかで、ああいう中世的なデザインはなかったですね。結果、温かみがありつつ装飾も特徴的なのって、後続が出てきませんでしたし。シリーズを通してみても、桜瀬さんの絵が一番っていう原理主義的なファンの方も多いと思います。

安藤:そういうのは『サガ』シリーズと似ているかもしれません。『サガ』シリーズは小林智美さんの絵というのが最初に印象強くて、そこから何度か変わっているんですけど、やっぱり節目では小林さんの絵は外せなかったり、小林さんの絵が一番という原理主義的な方が多かったり。本当にちゃんとしたRPGの雰囲気の作法にハマっているのがおもしろいですね。

岡村:僕も含めて『アトリエ』の歴代ディレクターって、自分が自分がっていうよりも、現場から出てきて下積みの長い人間がやっているので。その時の上司から『アトリエ』はこうだ、っていうのを聞きながら仕事をしていたので、その積み重ねで『アトリエ』のラインというのが自然と決まっていったのかな、と。それを統括というよりは、岸田さんはじめとするイラストレーターさん含めて、話し合いながら詰めていく、トータルで考えていく部分が多いような気がします。『アトリエ』はこうじゃないといけない、というルールはないんですけど、それを開発にかかわっているみんなで共有しあって作っていく、というのが『アトリエ』の雰囲気につながっているのかなと思いますね。

安藤:「下積みが長い」とおっしゃいましたけど、今の『アトリエ』シリーズで最初からかかわられている方っていらっしゃるんですか?

岡村:実を言うともうほとんどいないですね。2人とか3人とか。僕も5作目の『ヴィオラート』からでしたし。ただやっぱり毎年作っていくので、そのなかでどう作っていくのかとか、『アトリエ』だったらここまで作り込まないとというのは、年々積み上がっていくものでしたね。私は『アーランド』シリーズで初めてディレクターになったんですけど、その時まで引き継いできたものが今の『アトリエ』になっているのかなと。

安藤:『ヴィオラート』の時には『マリー』の頃のスタッフもいらっしゃったでしょうし、そうやって全スタッフの期間を重ねると最初から連綿とつながっているものがバトンタッチみたいにあるのでしょうか。

岡村:自分も作っていたので言ってしまうのですが、途中かなり迷走しているんですよ。PS2時代は、年々売り上げが落ちていった時期ですし、もう後がないというところでPS3に参入して、『アーランド』シリーズがたまたま運よく……(苦笑)。

安藤:そうなんですか。じゃあわかりやすく言ってしまうと『アーランド』シリーズで復活したんですね。

岡村:そうですね。本当に『アーランド』シリーズのヒットがなかったら、ここまでこられなかったかもしれないなと思います。

安藤:岸田さん、やってやりましたね!

岸田:いやいや、いろんな要因があったことは間違いないと思います(笑)。

安藤:結構そういうことって、簡単そうに見えてめちゃくちゃ難しいことじゃないですか。

岡村:そうですね。「成功の秘訣は?」と聞かれても、運としか言えないですよね。

岸田:でもあの頃は、全員が全員がむしゃらだったと思います。「よくわからないけどやるしかない!」みたいな(笑)。

岡村:しんどい状況だったからこそ、あそこまで頑張れたというのはあるかもしれません。

■『アトリエ』シリーズとキャラクターデザイナーの関係

安藤:2009年って、岸田さんにとってはどんな状況だったんですか? ずっと売れっ子という印象があるんですが。

岸田:ライトノベルを読んでいる人には知られているかも……ぐらいだったと思います。その頃、電撃さんとかメディアファクトリーさんでライトノベルの挿絵を描かせていただいていて。それぐらいでしたかね?

安藤:『アトリエ』シリーズのいいところって、声優さんとメインキャラクターデザイナーの目利きがすごくよくて。その秘訣というか、どういう感じで「これからだ!」という人を見つけてくるんですか?。

岡村:現実的な話をしてしまうと、毎年期間がおおよそ限られているので、その時期にスケジュールが埋まってしまっている方だとなかなか頼みにくくて。あとやっぱり、「一緒に作品を作っていこう」という形で協力できる方と仕事をするのが楽しいですし、いい結果につながっていくと思うので、その辺の理由もあって、新シリーズを作る時にはその時「これからきそうな」イラストレーターさんをピックアップして、今回のシリーズに合いそうな人は誰だろうというところでコンペして決めています。

安藤:その仕組みもとてもゲームっぽいですね。制限のあるなかでどうしたら一番いいのかというのは。

岡村:『アトリエ』は毎年必ず1本作らなければならないので(笑)。それが逆にいい意味で縛りというかふるいになっていて、その1年のなかでどう作るのかって考えていますね。

古川:そうなると意思決定の締め切りも早くて、どんどん決めていかなきゃいけないことだらけですね。

岡村:その年のタイトルが出た頃には、次のタイトルのことを考えていなきゃならないので。実質9カ月ぐらいで作っていますね。

安藤:『ロロナ』が出た年と比べて岸田さんもお忙しくなっていると思いますが、今のスピード感とかどうですか?

岸田:3年続けてキャラクターデザインをやらせていただきましたが、いろんな意味で当然最初よりも3作目の時のほうが息切れもしていましたし、大量にデザインしたり描いたりしていて、自分のなかでも新鮮味が落ちたり迷走していたりもしていました。終わって離れて数年経ってみると、当時20代で今は30代に入りましたが、あの時じゃないとできなかったなって思いますね。今、同じことをやろうとしても、やり方を変えないとできないと思います。

安藤:それって体力的な問題ですか?

岸田:体力は……頑張ればできると思うんですが(笑)。立場が変わってしまって、今だとそのゲームの絵だけを半年間こもって描き続けることはできないですね。当時はそれほど多くの仕事をは抱えていなかったのでできましたが。

岡村:当時はかなりうちの仕事を優先してやってもらっていました。

岸田:それでも、3作目の『メルル』の頃には1作目の時ほど身動きがとれなくなっていたので……。さっき岡村さんがおっしゃっていたように、作家の年齢とかタイミングとかがうまく噛み合わないと難しいですね。イベント画面の背景とかは描いてもらっていたんですが、塗りとかは自分でやっていて、点数がとにかく多くて。

岡村:会話シーンのバストアップは特に多かったですね。

岸田:表情だけだったらまだしも、ポーズが変わっている指定なんかもきていて。喜怒哀楽を変えて描くのは楽しかったんですけど、ポーズ変えはしんどかったです(笑)。

岡村:その辺、うちは容赦なかったですね(苦笑)。

岸田:イチから描き直してしまうと、それはそれで違和感とか出てきてしまうので。

岡村:その岸田さんのご苦労があったことで、次の『黄昏』シリーズはバストアップを廃止したという(苦笑)。これは作家さんにお願いしちゃいけないな、と。

岸田:リスクファクターが……(笑)。

安藤:今考えていたんですけど、1人の作家の先生がバストアップやポーズ変え含めて、そこまで大量に絵を描いているゲーム作品って他にないんじゃないかなって。

岡村:それまでの『アトリエ』シリーズもそれをやっていたんですよ。ただ岸田さんと同じクオリティ、密度をたもってやっていただいたのはその時が初めてでした。

岸田:いや、前の作品のを見て「ナメられたらイカン!」と思って頑張ったんですよ!

安藤:でも岸田さんの作品をたくさん見られるというのは、時代のあやが産んだ奇跡的なところはありますね。作家の先生がフルスペックで描いて、それがバストアップとしてキレイにTV画面に出るいいタイミングでしたね。

岡村:ユーザーさん的には、岸田さんの絵がたくさん見られたことが一番うれしかったと思います。

安藤:その他に、岸田さん的に「あ、これはゲーム制作ならではだなぁ」って思ったことはありますか?

岸田:やっぱりモデリング前提でデザインを起こすことですかね。すごく迷ったのが、CGのためだけにデザインするなら、もっと装飾とか裏側とか複雑にしていたと思うんですよ。でも、デザイン細かくしすぎたら、このあと自分も描くことになるんだ……って思って(笑)。もうちょっとここ詰めたいんだけど……いや、ダメだなっていう恐怖と戦いながら決めていった感じですね。

安藤:『聖闘士星矢』の車田正美さんが聖衣(クロス)のデザインをシンプルにしていった話と近いですね(笑)。

古川:岸田さんの絵のタッチを3Dにするのって、すごく難しかったのでは?

岡村:それはずっとお世話になっている開発会社のフライトユニットさんに頑張ってもらっているところで。やっぱりそこでも、どうやって岸田さんの2Dのものを3Dに起こすかという部分に力を入れてやっていただいて。それもあって1作目の『ロロナ』は比較的デフォルメされた、あれはあれでカワイイ形だったんですけど。2作目の『トトリ』で一気に岸田さんのイラストに近い形になって、すごいブレイクしたという。正直、『ロロナ』はいろいろと申し訳ないところがあって。そういう状態だったにもかかわらず、岸田さんの絵の力などで続編を楽しみにしてくれていたユーザーの方も多くて、そのおかげで『トトリ』で爆発的に伸びたのかなと思っています。

『ミリオンアーサー』×『アトリエ』

■『アトリエ』シリーズのファン層の特徴って?

安藤:話が戻るんですけど、未だに女性のファンの方は多いんですか?

岡村:一定の割合はいらっしゃるんですけど、少し減ったという感じですかね。『トトリ』の時に男性ユーザーさんの支持する声が大きかったので、やっぱりその時に楽しんでくれている方に一番アピールしたいというのもあって、男性向けにある程度シフトした部分もあります。とは言っても、基本的にはすべてのお客さんに楽しんでもらえるようにというのは前提として作っています。当時は一部のイベントシーンだけがピックアップされたりもしましたが……(苦笑)。

岸田:ゲーム系のまとめブログでイベントの一部だけが切り取られて扱われて。ファンサービス的に水着とか温泉とかのシーンは入っているんですけど、それは本当にゲームの一部でしかなくて、そればっかりがネットに出てしまったことはありますね。そういう風に誤解されているというのが、今でも残っていると思います。

岡村:こっちとしてはファンサービスなので、別に今までもそういう要素が一切なかったかというとそんなことはなくて。基本的には、意味のないそういうシーンはやめようということで、だいぶウワサになった温泉とかもちゃんとゲーム中にそれにかかわるお話を進めないと見られないようになっているんですよ。

安藤:“セクシーなこと”を表現するのに、意味がないといけないっていうのは、マーベラスで『閃乱カグラ』を手掛けている高木謙一郎さんも対談で同じことをおっしゃっていました。『閃乱カグラ』は『アトリエ』シリーズとある意味真逆で、狙ってエロいことをしている。でも高木さんも胸が弾むシーンとかで、「どうして弾んだのかとか、前後のシナリオがきちんとしていないとお客さんに届かない」っておっしゃっていて。「意味なくおっぱいを出しているんじゃない」ってお話していたのが、今の話とかぶっていてなんかおもしろいですね。ちゃんと意味がないといけない、という。

岡村:作り手のこだわりかもしれないですけど、そこに説得力がないとしらけちゃうっていうのは、どんなシーンでも大事にしていることですね。

安藤:男性向けにややシフトが起きて、今はどんな層をイメージして絵を描かれていたりするんですか?

岸田:当時はPS3を買っているユーザーということで、20代をイメージしていました。若い子にウケようとは思っていなくて、自分と同世代か、もしくはちょっと下ぐらいをねらったというか。ストレートに自分の好きなものを表現してよかったと思うし、それで合っていたと思います。仮に今僕がこの年齢になって、今PS3とかPS Vitaとか3DSとかに向けてデザインしようと思ったら、もっと自分より下の層に向けてデザインしないといけないので、やり方はだいぶ変わってくると思いますね。

安藤:3DSになると年齢層も下がるじゃないですか。そういったことに対するねらいって今回あったりしましたか?

岡村:当然ハードが変わることでターゲット層も変わってくるわけで。その部分はデフォルメされたキャラというのが、まずありましたね。ただ『アトリエ』の本筋としては20代も多いのですが、そこからちょっと上がって40代とか、『マリー』の頃からの方にも多く支えていただいて。それはすごいありがたいです。

安藤:やっぱりシリーズとして長いので、地層としていろんな世代の人がファンとして積み上がっていらっしゃるんでしょうね。

古川:そこで3DSに行ったというのは、3DSの若い層に新しく広めたいというねらいがあってのことなのですか?

岡村:そうですね。今までのタイトルにはいなかったような層のユーザーさんにも遊んでもらいたいというねらいはありますね。

安藤:『ミリオンアーサー』シリーズは、そういうところに本当に容赦がなくて。まったく子どものことを考えていなくて(笑)。今度18歳未満はプレイ禁止のタイトルも出るぐらい遠慮がないんですよ。各ハードのCEROもD指定で、「子どもはやらないでー」という。で、話を聞けば聞くほど『アトリエ』は幼い女の子でも遊んでOKというタイトルなのに、どうして『ミリオンアーサー』みたいなキケンなタイトルとコラボをOKしていただけたのかなと。大丈夫ですか!?(笑)

岡村:基本的にコラボを提案していただいた時、まずコラボ先に熱量があるかどうかを考えます。やってみてお互いのお客さんがおもしろくないと思ってくれないと意味がないので。まずそこが大事で。そこ以外は僕も含めて、比較的うちの人間は……ユルいというか、おもしろいと思ったらやっちゃおうみたいなところはあります。それでいざ監修になってみると、このゲームとだったらもっとおもしろい風にできるんじゃないかとか、結構うるさいチェックを戻してしまったり(笑)。おもしろいことがとにかく好きなんですよね。やるとなったらとことん突っ走るガストの体質でもあるんですけど。

安藤:最初のコラボの時に『ミリオンアーサー』の魔女・モルゴースを出したんです。声を明坂聡美さんがやっていて。明坂さんは『ミリオンアーサー』ファミリーのご意見番なんですが、『メルル』で主人公・メルルの声もやっていて。そういったところのコラボレーションもうまくいったなぁと思っています。

■岸田さんの好きなゲームは『ガンパレ』『絢爛舞踏祭』『ピニャータ』?

安藤:『アーランド』シリーズは非常に人気の高い作品で、『ロロナ』もいろいろとハードを変えて出されていますが、岡村さんと岸田さんで今後何かを一緒に作っていくということはあるんですか?

岡村:『メルル』が終わった後に、ネットで「またガストがイラストレーターさんと仲違いした」というウワサが流れたりして(苦笑)。

岸田:そういうのが毎回あるんですよね(笑)。「岸田メルと左、不仲説」とか(苦笑)。そんなわけないんですよね。

岡村:こちらとしては、これだけいい形で『アトリエ』シリーズをやっていただいたので、『アトリエ』に限らずお付き合いできればといろいろ考えている最中です。やっぱり『アーランド』を頼んだ時と岸田さんの立場が変わっているというのがあって、今の状態で何かおもしろいことをするにはどうすればいいかとか、逆に今までとは違ったことができるといいなと試行錯誤しています。

安藤:岸田さんは、ゲームで何かやりたいことはあります?

岸田:今後の僕の動向とか立場とかを無視して話すと、『ワールド・ネバーランド』とかアルファ・システムさんが作っていた『高機動幻想ガンパレード・マーチ』とか、『絢爛舞踏祭』とか、そういうゲームをやってみたいですね。

岡村:岸田さん、相当なコアゲーマーですもんね。

古川:『サガ』シリーズも結構やられているとか。

岸田:そうですね。僕、小林智美さんが死ぬほど好きなので。自分でこねくり回すゲームが大好きなんですよ。そういうと『アトリエ』シリーズも好きなんです。日本のメーカーが作るたくさん売れるゲームというと、どうしてもストーリーありきのRPGがトップになっちゃうと思うんですよ。そうじゃなくて、プレイヤーがゲーム世界に参加してできあがるようなゲーム……というと、海外の『The Elder Scrolls IV オブリビオン』みたいなものになっちゃうんですよね。ああいうのではなくて、もっとシステムナイズされたような……。

安藤:仕組み、ですかね。外国産の世界の全部を作ってしまうような、そのまんまのオープンワールドではなく。

岸田:『ワールド・ネバーランド』のように、構造でもっとゲーム的な世界観が広がっていくものをやりたいと思うし、もしそういう作品に自分がかかわれたらステキだなって思いますね。

安藤:『ワールド・ネバーランド』は、登場人物の背景を考えたりして遊ぶことができて、妄想がすごいはかどるゲームでしたよね。今だからこそやってほしいゲームだと思います。

岡村:そういうライフシミュレーションみたいなのはいいですよね。

岸田:僕はライフシミュレーションがとても好きで、『あつまれ!ピニャータ』もすごい好きでした。

安藤:また通好みなソフトを出してきましたね(笑)。

『ミリオンアーサー』×『アトリエ』

■ゲーム制作は考えている時が一番楽しい?

安藤:岸田さんはどんな感じで絵を描かれているんですか? 「かわいい絵を描くためにどうしたらいいでしょうか」という質問に、「変態であること」と答えられているのを見たことがありまして。立ち振る舞いを見ても、決して「老若男女に~」とか「国民的に~」というよりは、自分がやりたいことをのびのびとやっている印象があるんですけど。

岸田:表現したいものや方向性は一貫してありまして。そこからブレていろんな描き方をしないほうが、結果的に多くの人に伝わるだろうなと思っています。先ほど「自分がやりたいことをのびのびとやっている」って言っていただきましたが、絵師さんにも2パターンいると思っていまして。自分の描いている作品にわりと満足している人と、描いても描いてもうまくいかないと思っている人がいると思うんです。

 僕はインタビューで「絵を描いていても楽しくない」って答えることが多くて。それは、自分の求めているものがだいたい達成できないから“おもしろくない”んです。でも、それを追求することに関してはおもしろいと思って、たまに引っかかるような出来になったら描いている意味があったなぁって思いますね。

 そういった意味で安定は全然しません。『アトリエ』の絵を描いている時も、ずーっと悩んで試行錯誤で……。PS Vita版で新しく絵を描きおろした時も、その都度悩んでうまくいかなかったなぁと思いましたし。この間、3DS版で新しくパッケージを描きおろさせてもらった時も、すごく慎重に描いたりして……。描いたばっかりでまだ客観的にその絵を見られていないんですけど、自分と自分が描いた絵の距離感に神経質になってしまって。

安藤:でもそっちのタイプのほうが、ゲームのキャラクターデザイナーには多い気がしますね。『ミリオンアーサー』や『ケイオスリングス』でキャラクターデザインを担当した小幡怜央というキャラクターデザイナーがウチにいまして。まだ若いんですけど、抜擢したんですよ。それで先日、期末ということで小幡に「『ケイオスリングス』のキャラデザをやってくれてありがとね!」ってお礼を言ったら、その後いかに自分にとって『ケイオスリングス』の仕事がうまくできなかったかを延々と1時間ぐらい聞かされて(笑)。「もういいから! お礼を言っているんだからいいじゃん!(笑)」って。「それ以上はお前の修行だから」ってことを言ったんですけど、本人的にはそうはいかないんですよね。真のクリエイターって。

岸田:それこそ『ミリオンアーサー』で絵を描かれている、結構昔から知り合いのとあるイラストレーターさんのお話なんですけど、数年前に似たような話をしたことがあって。「俺は結構そうやって思い悩みながら絵を描いていて大変」ってポロッて言ったら、その方は「いやぁ、俺は楽しく描いているよ! かわいいなぁ、って思いながら描いてる!」って言われたのが、僕個人的にすごいおもしろくて。ここまで違うもんなんだなぁって。同じイラストレーターでも幅があるもんなんだなぁって。

安藤:あまり表に出さない人は確かにいますよね。僕は中身はみんなそんなに変わらないと……納得できないから作り続けるんじゃないかなぁって思っていて。ゲームもやっぱり最終的には締め切りがあるから、最後に何をやっているかというと削ぎ落としてあきらめていって終わりますよね。立ち上げた時が一番おもしろくて、最後のマスターアップはただつらいって感じです。

古川:ゲームについてだと、最初にやりたいことがたくさんあって作り始めるじゃないですか。でも時間の制限があって、実現できたこともあれば、実現できなかったこともあるんですね。で、完成させて実現できたことって、自分のなかで興味がなくなっていって忘れちゃうんですけど、実現できなかったは心の中で債務のように積みあがっていきます。次回作で……と思っても、今度はまた別のことが実現できなくて、どんどんフラストレーションがたまってしまう部分はありますね。

岡村:比較的『アトリエ』が恵まれているなって思うのは、毎年1本必ず作らないといけないぶん、「あきらめるところはあきらめて、次頑張ろう」と切り替えられるところですね。次回作で「今回はここまでおもしろくしよう」という割り切り……っていうと言い方が悪いかもしれませんけど。ユーザーの方からも、「結構ここはおもしろかったけど、ここはちょっと足りなかった」っていう意見が出やすくて、次回作でそこを改善していくと満足度もどんどん上がっていくんですよね。そのサイクルがうまくできているのかなって思います。

安藤:確かに「ここの戦闘システムは前回がよかったから採用、ここは原点回帰させてみよう」とか、毎回いろいろ組み合わせて進化していっていますもんね、『アトリエ』シリーズは。

岡村:でも、私としてもマスターアップ前はしんどい思いしかしないですね。やっぱりゲームは考えている時が一番楽しいですよ(笑)。

■『サガ』シリーズの河津さんが降臨した日――

安藤:実は『サガ』を作った河津秋敏さん……僕からしたら“河津神”ですよ。その河津さんが、スマホのゲームの作り方とか運営の仕方とかを学びに、ウチの部門の机に2週間だけ降臨したことがあって。

岡村:ええっ!?

安藤:会社に行ったら、いきなり河津さんが座っているんですよ。その時みんなが何をしたかというと、とりあえずサインをもらっておこうと(笑)。で、「一筆お願いします!」と言ったら、その日は書いてくれなくて翌日に持ってきてくれて。何が書いてあるんだろうと思ったら「ゲーム作り ただツライ」って書いてあって(笑)。

岡村:それはひたすら重い言葉ですよね。

安藤:ゲームの神様が言っているんだからそうなんだろうなぁって。それ以降はよりしんどくつらいことをしていかないとなぁって思いましたね。

岸田:1人のファンから見ても、河津さんってどんどんつらいほうに向かっている気がしますね。

安藤:そうなんですよ。『魔界塔士Sa・Ga』から考えると1本たりとも同じシステムのものがなくて、今も25周年で新しい作品を作っていますけど、むちゃくちゃチャレンジングなことをやっている雰囲気が出ていて。30年ぐらいそういう作り方をしている方なんで、とてもいいなって思います。あえてそういう作り方をしていて、そうしないと進化しないという考えがあるんだろうな、と。それで出た『ロマンシング・サガ』とか僕らドンピシャな世代じゃないですか。けど、また新しくシリーズにファンが生まれていくのって、同じことをやらないからなんだろうなと思います。

岡村:そこはあこがれますよね。

安藤:だいたい年をとると丸くなってしまうじゃないですか。でも、ゲーム業界のレジェンド級の人たちって攻めるんですよね。『ドラゴンクエスト』って攻めてない印象があるかもしれませんけど、『ドラクエX』ってすごく攻めたゲームで。あんな攻めた戦闘システムや内容って他のRPGにないですし。任天堂の宮本茂さんも、ある日突然体重計をゲームにしてしまったわけじゃないですか。あの攻め方って他の業界にないというか、ゲーム業界では50代60代の人たちがそれをやってのけるのがいいなって思いますね。

■岸田さんもオススメの『実在性ミリオンアーサー』制作秘話

岸田:新しいことへの挑戦という意味で、『実在性ミリオンアーサー』がどうやって生まれた企画なのかすごく気になっていまして。

安藤:ありがとうございます、あれは僕が思いついたんです(笑)。僕は『鈴木爆発』という実写ゲームを作っていたことがありまして。当時って「実写って地雷」とまで言われていたんですよ。

岸田:今も……結構言われていますよね(苦笑)。

安藤:その当時のエニックスは、実写に積極的に取り組んでいたんですよ。『ユーラシアエクスプレス殺人事件』や『φSTORY(ラブストーリー)』というゲームがあったり、いわゆる“シネマアクティブ”っていう映画とかドラマとかが触れるジャンルをやっていて。ゼネラル・エンタテインメントという会社が『ALIVE』というゲームを作っていたりと、その時に「実写おもしろいじゃん」みたいな流れがちょっとできていたんですね。

 なので、実写のバリューみたいなものは知っていたんです。取り扱いがあまりうまくないだけで、実写の女の子はかわいいし、出し方次第だなってずっと思っていて。ご存知の通り『実在性MA』ってTV番組なんですけど、実は10年くらい前にもTV番組を作る機会がありまして。『ヘビメタさん』っていって……PS2の『ヘビーメタルサンダー』っていうゲームを作っていて、ヘビーメタルをバラエティ番組にしてみようと。ヘビーメタルをバラエティ番組にしたら、ヘビーメタルが大ブームになって、『ヘビーメタルサンダー』が売れる! という、今考えたらアホみたいな三段論法で。これがぜんぜん売れなかったんですけど(笑)。でもTV番組のほうは人気があって、夜中の2時なのに視聴率3%ぐらいあったんです。その時、自分が何をしていたかというと、TVの制作会社にずっといてTV番組を作っていました。放送作家のみなさんと一緒に。だからTV番組を作りたいなと思った時に、その作り方を知っていたんですよ。実写のバリューも知っていたし。

 あとは宝塚歌劇がすごい好きで、毎週観に行っているんです。全員女性で、彼女たちがイケメンやおじさんをやるのってすごいなぁと。初めて行く前にいろいろ聞いていたんですけど、実際に行ってみたら想像以上におもしろくて。あと歌劇なので突然歌が始まりますし。

岸田:『実在性MA』にも歌のコーナーがありますもんね(笑)。

安藤:あの“突然歌い出す”っていうのがすごいんですよね。なんの脈絡もなく歌い出すのにすごく迫力があるという。この企画が動き出した頃ってソーシャルゲームバブルで、お金がいっぱいあって、アニメ化をしたりCMを打ったりする人たちが多かったんですね。

岡村:だいたいその流れになりますよね。

安藤:それと同じことしていても目立てないなと思って。でも“オワコン化”を防ぎたいという気持ちはあって、いわゆる何か展開をしてキャラ立てていきたいと思った時に、「アニメじゃないなぁ……なら実写かなぁ」と。実写ならやったことがあるし、実写をやるなら宝塚みたいに全員女の子がいいなぁって思って。女の子が出てきてドラマだけだとつまらないから、突然歌ってほしいなぁという組み合わせを思いつきまして、そういった仕事を振れる優秀なクリエーターの人脈もあったので実現したという感じですね。それくらいしないと目立てないと思ったので。

岸田:僕も発表された時、「うわぁ、出た!」と思いました。

安藤:最初は誰も実写のバリューをわかってくれなくて……スタッフにも(苦笑)。今なら形になったものがあるのでわかりやすいと思うんですけど、自分のなかではアウトプットがしっかり描けていたんですよ。

岸田:やりきっていますもんね。ああいうのって半笑いとかでやってたら絶対ダメじゃないですか。

安藤:笑わせようと思うんなら、本気で真面目にやらないといけないんですよね。泣かせるよりも笑わせるほうが難しいので、全力でディテールまでこだわって。あとラッキーだったのは、長く業界にいて、20代の頃にむちゃくちゃなゲームを作っていて、僕を昔から知っているスタッフに「こういうこと入れてほしいんだけど、今まで見たことないような仕上がりにしてほしい」ってオーダーを出したんです。そうしたら付き合いが長いので「安藤が見たことがない=相当見たことがないことを要求されている!」と思ってくれて、『戦国鍋TV』のスタッフを連れてきてくれました。いろいろなことがうまく交錯してできあがったものですね。こういうところがゲームのプロデューサーを長く続けていることのおもしろさの1つだと思います。だから、どんなゲームも無駄撃ちってものがなくて、下積みなんですよね。絶対にどこかでチャレンジ枠みたいなのを設けるか、同じブランドのなかでもチャレンジを続けていかないと、どんどん小さくなっていってしまうので。

『ミリオンアーサー』×『アトリエ』

■『アトリエ』シリーズを続けるために、手応えを得たものを続けない哲学

安藤:『アーランド』シリーズで岸田メルさんを起用するっていうのも、1つのチャレンジだったんじゃないかと思うんですよ。だからこそシリーズが長く続いているのかなって思います。僕の話はスケールが小さい話なんですけど、『アトリエ』シリーズの話になるとやっぱり20年という感じでスケールが大きくなりますね(笑)。

岡村:いやいや、ただ続けてきただけなので。

安藤:振り返ってみると、『マリー』が出た時に「新しいゲームが出てきたなぁ」と思ったのに、そこから17年が経っているんですよね。あと2年経つと『ファイナルファンタジーVII』から20年……今の高校生の子が産まれていたりいなかったりという。そんななかで『アトリエ』シリーズがずっと続いているっていうのは本当にすごいことだと思います。そのうち「初代のPlayStation本体は見たことないけど、3DSで初めて『アトリエ』遊んだよ」っていう子も出てくるんじゃないかな。

岸田:でもゲームの記憶って色あせないですよね。その時の衝撃みたいのがずっと残っていて。

安藤:そうなんです。色あせるどころかどんどん脳内で美化されていって。どんなに「クソゲー」って言われてても、あとから褒め称えられることが多いんですね。発売当時から言ってくれよ! って思うんですけど(笑)。僕がよく言われるのは「『鈴木爆発』の頃のスクエニに戻ってほしい!」とか「『ヘビーメタルサンダー』みたいに攻める余裕が最近のスクエニにはない」とかなんですよ。その当時は「なんでこんなん出すの!?」、「スクエニオワタ」って言われたものが(笑)。こうやって美化されていくので、攻めているとすごい楽しいところではあります。だから、コラボ1つとっても気が抜けない。手抜きをせずにしっかりやっていると、何年か経って「あの時みたいなコラボにしなきゃダメじゃん!」って言われる日がくると思うんですよ。

岡村:やっぱり何かしら記憶に残るものがないといけないと思いますね。そういうインパクトが大事。そうじゃないと「昔はよかった」で終わってしまう話になっちゃうんでしょうけど。そういう記憶に残るインパクトみたいなものがあるってことが、その会社なり、シリーズなりの魅力になっていくと思います。

安藤:再現が難しい、めんどくさい――そういう不可能なものほど美化されていきますよね。コラボも期間限定じゃないですか。ロックミュージシャンのライブと同じで、その時は盛り上がっていなくても、もう見られないとなると伝説になるという。ゲームハードもコンパチが最近できなくなってきていて、ハードが変わると遊べなくなるソフトも多くなっているのが、いい思い出になりやすいのかなと思います。

 ちなみに僕らが今作っているものはパッケージになっていないものが多いので、サービスが終了すると二度と遊べなくなってしまうんですね。やっている間は凶暴な攻撃に晒されることもありますが、終わった後に美化されるから、手を抜かずに真剣にバカなことをやっています。それにしても、岸田さんに『実在性MA』が届いていて本当によかったです(笑)。

岸田:発表された時に「すごいの作ってきたなぁ」って思いましたね。でも、「どこに届けようとしているんだろう!?」とも思いました(苦笑)。

安藤:作っている時のスタッフも半信半疑でした(笑)。最終回の収録の時に、ようやく監督が「これはおもしろい」って言っていたぐらいで。かなり攻めていたんでしょうね。

岸田:もうじき最終回ですよね(※編集注:対談は3月中旬に行われました)。

安藤:1話伸びて、25話になりました。熱狂的なファンのみなさんのおかげです。やっぱり他人と同じことやっていたらダメなので。想像の相当ナナメ上を狙っていかないと刷り込めないんですよね。実現するまでは「頭がおかしいのか!?」って思われちゃうところまでやらないと。

岸田:そうですね。「頭おかしい!」って言ってもらわないとダメなんですよね。

安藤:やっぱりそういうのありますよね。チェックしてもらう時に、周りが「はぁ?」って言ったりポカーンとなっている時に、「あ、この企画イケるかも」って。

岸田:あ、それはありますよね。

安藤:『アトリエ』の進化の過程で、周りには伝わらないけどやってよかったチャレンジってありますか?

岡村:『アトリエ』は比較的、地に足をつけた感じになっています。比較的ファンが満足できるものをとにかく目指していくという傾向はありますね。

安藤:そういう“アトリエイズム”みたいなものが継承される限りは、『アトリエ』シリーズはすっごく長く続きそうな感じはしますよね。『アトリエ』シリーズに面と向かってケンカを売ってくるタイトルってないでしょう?(笑)

岡村:ケンカを売られても「ああどうぞ、お願いします。一緒に頑張りましょう!」という感じですね。「一緒に売り上げ伸ばせるといいですね」って(笑)。

岸田:そもそも毎回「コレだ!」って手応えを掴んだものを続けないですよね。

安藤:ああ、手放しちゃうんだ。

岸田:3作ごとにキャラクターデザイナーを変えるのも、そういう効果がありますよね。マンネリを防ぐっていうのもあると思いますし、よくも悪くも新陳代謝するというか。

安藤:それはとても共感できますね。そうしないとシリーズが続かない。哲学的ですよね。続けるために、続けないってことですね。

岡村:それがいい意味で今のところはサイクルしてくれているのかなって。

安藤:やっぱり長く続いているシリーズはいろいろなものを手放しているんですよねぇ。『サガ』シリーズも、いろいろと捨てているんですよ。「もうコレでいいじゃん!」っていうところで、「いや、コレじゃダメだ」って捨てる。そうしないと新しい制限も設けられないから、それを越えるための発明も生まれないという。

岡村:「いや、変えなくていいのに」っていう声もあるけど、変えちゃいますね(苦笑)。

■ファンからの熱い声とつらい制作現場がゲームを楽しくする

安藤:さっきからお客さんの声をお2人から聞いていますけど、完全にそれが“ファン”なんですよね。つまり、「今回はダメだったからもう二度と遊ばない」じゃなくて、「今回ダメだったけど次回はどうなの?」っていう前提で意見をくれている。次回作を買う前提で今作について意見を申している、それってある意味理想ですよね。

岸田:シリーズの顧客ですからね。シリーズごとの内紛みたいなのはあったりしますけど(笑)。「俺は『アーランド』派だ」、「いや俺は『黄昏』シリーズが」ってなって、巻沿いを食うのが僕と左さんだったという(笑)。

一同:(笑)

岡村:それはある意味仕方ないですよね、それだけ好きになってくれているということなので。

安藤:『ミリオンアーサー』も20年続けたいなと思って立ち上げたものなので、すごく共感できるというか、参考になるというか、どうしたらいいかというのが今日はわかりましたね。そして河津神の「ゲーム作り ただツライ」という言葉が全員に染みわたるという。やっぱり長く続けるためにはつらいことをし続けていけばいいんだ、そのためには捨てたり手放したりしなきゃいけないんだってことですね。長く作っていると染みるんですよね。

岡村:いやぁ、染みましたよ。実際に思い返すと、楽しかったことがまったくないわけではなくて、開発中の1割にも満たないぐらいではあるんです。それがあるおかげでゲーム制作って楽しいって思いがちですけど、残りの9割はやっぱり苦しいんですよね。じゃあそれを10割に近づけていけば、よりゲームがおもしろくなるのかなって、河津さんのお言葉を聞いて思いました。あの河津さんが言っているんなら!

安藤:最後にファンに伝えたいことはありますか?

岡村:今年は……まだあまり言えないんですけど、今年はいろいろありまして! 今後も注目していただければと!

岸田:お楽しみにということですね(苦笑)。僕はまた新しいイラストレーターさんと叩かれたいですね。新シリーズに叩かれたい(笑)。今日はいろいろと楽しいお話を聞けて楽しかったです!

『ミリオンアーサー』×『アトリエ』

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