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2017年9月9日(土)

【ディバインゲート零:前日譚】日常編・“カズシの情熱”~音楽の表情

文:電撃オンライン

 ガンホー・オンライン・エンターテイメントから配信中のiOS/Android用アプリ『ディバインゲート』。2017年夏開始予定として期待が高まる新章、『ディバインゲート零』のキャラクターストーリーを追っていく連載企画をお届けします。

 今回お届けするのは、日常編・“カズシの情熱”。感情豊かなカズシと真面目一辺倒のシンクという正反対の2人が、とあるライブ会場へ。技術があるからこその“何か”をカズシは必死に伝えようとしていますが、シンクの心に届くのでしょうか?

日常編・“カズシの情熱”

テキスト:team yoree
イラスト:noraico

 練習を終えたある日の放課後。カズシは帰り支度をしているシンクに声をかけた。

「なあ、シンク。今日ってこのあと時間あるか?」

「ないこともないが。どうした?」

「気になるライブがあってさ。一緒に行こうぜ」

「え? 僕が?」

「ああ。ライブとかあんまり見たことないって言ってたろ。せっかく楽器やってるんだから、他のバンドのライブも見てみようぜ。シンク風に言うなら、研究か?」

「そうだな……。わかった。行こう。確かに見ることも研究の一環には違いない」

「あー、いいなー。バイトがなかったらあたしも行きたい! シンク、あたしの分まで楽しんでくるんだよー」

「楽しむよりも研究が主旨なんだが…」

「そういうところがシンクは固いんだよ。きみが好きな研究だって、やってて楽しいでしょ?」

「うむ…まあ、言われてみれば……」

 シンクがベースを始めたのは高等部に進級した後だ。研究室のメンバーの中では一番音楽の経験が少ない。しかし、真面目な性格と、根気強く練習する努力家であるため、今ではプロのベーシストと比べても遜色ないほどに腕前は上達していた。カズシや他のメンバーはそんなシンクを尊敬していたが、同時に『もっと楽しめばいいのに』とも思っていた。


 カズシたちがライブハウスに到着すると、ちょうど開場時間だった。そこはメジャーへの登竜門と異名をもつ、バンドマン憧れのライブハウスで、壁の至るところに有名なバンドのサインやステッカーなどが貼られていた。

「こういう場所は初めて来るな……。照明が暗い。危険じゃないのか?」

「ん? こんなもんだろ」

「そうなのか」

「ドリンクチケットもらったか?」

「受付でもらったこの切符みたいなもののことか?」

「ああ。さっさとドリンクもらってホールに行こう」

 カズシはシンクの分も合わせて手早くチケットとドリンクを引き換え、ホールに向かった。開演までまだ時間があるが、既に客であふれかえっており、トリを務めるバンドの人気がうかがえる。

「今日は対バンだから、色んなバンドが聴けるぜ」

「対バン……? なんだそれは?」

「バンドが順番に演奏すんだけど、出てる側にとっては他のバンドと対決してるようなもんなんだよ。だから対バン」

「なるほど。バンド対決という意味なのか。ではなぜ『バン対』と言わないのだろう? なあ、カズシ。対バンはバンドしか出られないのか?」

「いや、ソロでもデュオでも出られるぜ。どっちかっていうと、ジャンルで分けてる感じじゃねぇかな」

「そうか。その辺りにヒントがあるのかもしれないな。あとで調べてみるか」

「俺、そんなこと気にしたことなかったぜ。やっぱ感じ方が違うんだな」

「え?」

 受付でもらったフライヤーには今日の出演バンドが紹介されていた。

 一組目はポップロックのバンド。二組目はガールズロックバンド。三組目は人気急上昇中のパンクロックバンド。トリは各楽器ごとに長めのソロを入れている5人組のインストバンドだった。

 客電が消え、一組目の演奏が始まる。華やかなシンセアレンジとハードなギターが噛みあうメロディアスハードで、カズシたちと同世代くらいのバンドだった。キャッチーなメロでとてもノリやすいサウンドだったが、シンクを連れ出した手前、カズシは真剣な表情でステージを見る。

【ディバインゲート零:前日譚】

 30分ほどの持ち時間で一組目のバンドの演奏が終了した。心地よく乗せてくれるリズムで、カズシは途中から他の客と同じように盛り上がって聴いていた。転換時間になると、興奮冷めやらぬカズシがシンクに話しかける。

「ちょっとかすれた感じのボーカル、すげぇいいな! な、シンク!」

「ふむ。ジャンルが関係しているのかもしれないが、激しく動くベースラインをきっちりと守って弾いていた」

「そうそう! いい表情だったな!」

「表情? ベーシストの表情か?」

「違うって! ベースの表情だよ! ああじゃないとあのボーカルが生きてこないよな!」

「?」

 シンクが不思議そうな顔でカズシを見ている。カズシは少し気になったが、思ったより早く転換が終わったのか、再び客電が消え、二組目の演奏が始まり、そちらに集中する。

 二組目はややハードロック寄りのガールズロックバンドで、高い技術の演奏と女の子のリアルな恋愛をテーマにした歌詞が人気のようだ。

 腕組みをして壁にもたれながら聴いていたシンクは、二組目の演奏が終わるとカズシに話しかけてきた。

「このバンドのベーシストは素晴らしい技術を持っているな。歌の後ろでずっとベースのメロディが流れていた。心地よいランニングベースだな」

「だよな! 全体のハーモニーがメロディに乗っててボーカルがすげぇ抜けるんだよな」

「グリッサンドの技術が素晴らしい。あの技術は些細な力加減で音が全く変わってしまうものだからな。ギターはどうだったんだ?」

「ん? 泣くところはすげぇエモーショナルだったし、締めるとこは締めてて、いい感じだったぜ!」

「泣く…?」

 シンクがやや怪訝な表情になった。一組目の話をしているときもそうだったが、カズシは、シンクと会話が噛みあっていない感覚があった。だが、三組目の準備が完了したようで、問いかける機会を逃してしまった。

 三組目のパンクロックバンドは、人気急上昇中なだけあり、オーディエンスの盛り上がりは最高潮となった。MCをほとんど入れず、スピーディで短い曲を連続して演奏していくスタイルでオーディエンスの高揚感を加速させていく。それはカズシも同様で、興奮して頬が赤くなっていた。

「すげぇ疾走感! すげぇ気持ちいい! リフのインパクトがすげぇよな!」

「ああ。ベースは尊敬に値する演奏だった。プレシジョンベースをピックで弾くことで、力強いサウンドを表現していた」

「そうそう! それに、すげぇ躍動感があって音が跳ねてたよな!」

「確かにそうだな。ゴーストノートの使い方が良かったからじゃないか?」

 ここでカズシは、シンクと感想を言い合う中で、何が噛み合っていなかったのか気付いた。

「シンクさぁ、テクニックで説明するのもいいんだけどさ。じゃあさっきのバンドはどうだったんだよ?」

「どう、というと? リズム感がかなり高く、技術的には申し分ないベーシストだった。このバンドが人気があることも頷ける」

「いやいや、そうじゃなくて。音楽に対する感想だよ」

「さっき話したのが僕の感想だが。各奏者の技術を観察して研究することが大事なんじゃないのか?」

「それはそうだけど、そうじゃねぇんだよ。全体を見るっつうかさ。音楽全部を感じるんだ」

「全部?」

 カズシはなんとか自分の思いをシンクに伝えようと、言葉を選んで続ける。

「そのバンドの持っている色を感じるっつうか……。そうだな、木を見るんじゃなくて森を見るみたいな」

「話が見えないのだが…」

「ほら、さっき音が跳ねてるっつったときにそう感じたって言ってたろ?」

「確かに」

「その躍動感は何のためにやってたのかってことだよ」

「何のために…?」

 カズシはシンクに伝わりかけていると感じて一気にたたみかける。

「あれはみんなをノセるためにやってると思うんだ。それがボーカルや他の楽器と合わさってグルーブになる。その一体感が音になって俺たちに届く。それがそのバンドが持ってる熱を感じるってやつなんだ」

「つまり、そのための技術だと?」

「そういうこと。テクは必要だと思うぜ。だけどさ、その技術で彩った『音楽の表情』をダイレクトに感じるのもいいもんだぜ」

 転換時間が終わり、ステージにはトリのバンドが登場した。前のバンドが作ったオーディエンスの熱は冷めておらず、一曲目がスタートすると、会場は更にヒートアップした。

「これが、カズシの言う熱か?」

 シンクのノリが変わったことがカズシにも伝わってきた。今シンクは全身で音楽を感じている。

「な、熱いだろ?」

 ステージとオーディエンスが一体となったライブハウスは燃え盛る熱が充満している。

「なるほどな……。また一つ勉強になった。音楽というものは奥が深い……」

「ん? なんか言ったか?」

 カズシはシンクに振り向いた。何を言ったかは聞こえなかったが、シンクが微かに笑っているのが分かる。

「考えるんじゃなくて、感じようぜ、シンク!」

 カズシとシンクはトリのバンドの演奏を全身で感じ、二人とも全力でアンコールを叫んだ。

→日常編・“ルーニの思い出”を読む

カズシ編・第一章

日常編

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