2017年9月23日(土)
ガンホー・オンライン・エンターテイメントから配信中のiOS/Android用アプリ『ディバインゲート』。2017年夏開始予定として期待が高まる新章、『ディバインゲート零』のキャラクターストーリーを追っていく連載企画をお届けします。
今回お届けするのは、ルーニ編・第1話“喪失と覚醒”。前回のストーリーでも少し触れた、幼少期のルーニのエピソードが綴られています。家族と暮らす幸せな毎日から一変して……!?
テキスト:team yoree
イラスト:藤真拓哉
その女の子は両親からとても愛されていた――。
「ルーニ、お誕生日おめでとう」
「プレゼントよ、ルーニ」
「うわあ!すごく大きい!ありがとう、パパ、ママ!」
ルーニと呼ばれたその女の子は、両親から渡された包みを早速開けた。包装紙から顔を出したのは、ルーニよりも一回りほど大きい1点もののうさぎのぬいぐるみ。
「ありがとう!この子欲しかったの!覚えててくれたのね、パパ、ママ!」
「もちろんよ、ルーニ。この前出かけた時に路面店で見つけて気に入っていたでしょう?パパはルーニのことが大好きだから、そういうことは絶対忘れないのよ」
母親が父親の方を見ながら言ってきた。
「ふふ、そうだよね。さすがパパ!ルーニ、大きくなったらパパと結婚する!」
「ははは。嬉しいなあ。じゃあ父さんとルーニはずっと一緒にいられるな」
「うん!そうだね!」
父親に抱きかかえられるルーニ。その顔はとても幸せに満ちていた。
「この子の名前……うん、ラビィ!うさぎのラビィね」
ルーニはプレゼントされたうさぎのぬいぐるみにラビィという名前をつけた。
これはルーニの5歳の誕生日会でのこと。
ルーニの両親は結婚してからしばらくの間子どもに恵まれず、やっと授かったのがルーニだった。
ルーニは両親に大切に育てられていた。
しばらくして、ルーニはエレメンタリースクールに入学した。ルーニは学校に入ると、持ち前の明るさですぐにたくさんの友だちができた。
「今日はね、サラちゃんとリナちゃんと、マヤちゃんと、あと、アミちゃんと遊んだの!みんなすっごくかわいくてね、優しくてね。ルーニ、みんな大好き!」
「そう。毎日楽しそうでママたちも嬉しいわ」
「でも、明日からルーニもパパたちと仕事で遠くに出かけるけど、みんなに会えなくて寂しくはないかい?」
「うーん、それは大丈夫かな?みんなルーニが帰ってくるの待っててくれるって言ってたし。それに、他所の街の話も聞きたいんだって。だからルーニ、いっぱいお話持って帰らなきゃいけないの!」
「そうか。じゃあ、パパとママが仕事の間は、ルーニも何か特別なことをしないとな」
「うん!ラビィも連れて行くから、一緒に冒険しようと思ってるんだ!」
「ははは、それはいい!」
翌日、ルーニは両親と共に隣の州へと向かった。ルーニの両親は音楽関係の演出家で、演劇やミュージカルの演出、音響監督をするために世界中の劇場から呼ばれることが多く、そのたびにルーニを一人で留守番させるわけにもいかず、一緒に世界を旅してまわっていたのだった。
劇場に着き、両親が早速仕事に取り掛かる。ルーニは慣れた様子で、ラビィを抱えて劇場のマネージャーと共に近くの公園や雑貨店、図書館を見に行った。
「そうだ、ラビィ!パパとママにお花を買っていかなきゃね。お花屋さんはどこだろう?」
マネージャーに案内されて花屋へと向かうルーニ。
「ラビィ、今日はどの花をプレゼントする?この前はオレンジ色だったから……」
両親に花をプレゼントするのはルーニの恒例行事だった。季節の花だったり、両親の好きな色だったり。ルーニはいつも時間をかけて花を選んでいた。今回も熱心に選んでいる。
「決めた!今日は赤いお花にする!今日のミュージカルは赤いワンピースの女の子が主人公だからね」
そうして店員から花束を受け取ると、ルーニは劇場へと戻ることにした。
「ふふふ。楽しみだな~。ルーニ、パパたちのお仕事でミュージカルの時が一番好き。歌って踊ってとっても楽しいもんね!ラビィも今日は一緒に見ようね!」
ルーニの手の中で赤い花束が軽やかに揺れていた。
しかし、この花束が両親の手に渡されることはなかった。
劇場のある区画で魔影蝕が起きたのだった。
「えっ、ルーニちゃん、転校するの?」
「ほら、パパとママのことがあったから……」
「せっかく仲良くなったのに……」
魔影蝕が発生してから一週間後。ルーニのクラスメイトたちは先生からルーニの事情を聞いて残念そうにしていた。
ルーニは自宅の隅でラビィを抱いたまま一歩も動かずにいた。思いがけない両親の消失。魔影蝕が発生した区画は、ルーニの両親が仕事で訪れていた劇場のある区画だった。魔影蝕が晴れた後、その区画には誰もいなかった。ルーニはあきらめきれずに両親を探して彷徨ったが、幼なじみのフローネが迎えにきてくれた時、「両親とはもう会えないんだ」と気づいた。強い喪失感を感じたルーニは、渡そうと思っていた花束を地面に落としてしまった。散った花びらが、いつまでもルーニの目に焼き付いていた。
ルーニは自宅でひたすら一点を見つめ、何日も誰とも口をきかず、誰とも目を合わさず、心を閉ざしてじっとしていた。何度かフローネが訪ねてきたが、いくらフローネが話しかけてもルーニが笑顔になることはなかった。
「頭、痛い……」
あの日以来、ルーニは頭痛にも悩まされていた。
「ラビィ……こういうとき、頭痛が痛いって言ったらダメなんだよ……」
コクン、とラビィの首を縦に動かすルーニ。気がまぎれるかと思ったが、効果は得られなかった。
「ラビィ、これからルーニは一人でどうしたらいいの?」
ラビィの首は動かない。ルーニ自身が、どう動かせばいいのかわからなかった。
「ラビィ……。ルーニ、どこにも行きたくないよ……。ここにいたい。パパとママとラビィとルーニで、ずっとずっとここにいたい」
ぎゅっとラビィを抱きしめるルーニ。ラビィのぬくもりだけがルーニの心の支えだった。
――そんなルーニに変化が訪れたのは、とある晩だった。
ラビィを抱きしめて眠っていたルーニは、頭が割れそうな痛みに襲われ目を覚ました。
「うう…っ、痛い!痛いよ、ラビィ!」
頭の中で鐘が鳴っているように痛みと音が響いてくる。
「助けて……。誰か……。パパ、ママ……」
痛みに耐えられず、ルーニはその場でのた打ち回る。痛みはどんどん増していく。
そして、頭のちょうど中央部分に釘を刺されたかのような痛みが走ると、次第にその痛みが脳内全体に広がっていき、ルーニは声にならない声で叫んだ。
気が付くと、ルーニは何かに呼ばれるように父親の書斎へと向かっていた。そこには、演出家の父親が集めた、様々な分野の書籍がたくさんあった。どれも分厚く、内容もすぐには理解できない本ばかりだ。
その中の一冊を手に取るルーニ。ぺらぺらとページをめくっていく。
ルーニが最後までページをめくると、その本は閉じられた。そしてまた別の本を手に取る。ページをめくり、読み終えるとまた別の本を取る。ルーニは一晩中それを繰り返した。
翌朝、ラビィを抱えて書斎から出てくるルーニ。朝日が天窓から差しこんでいる。
ルーニは眩しそうに陽の光りを見上げた。
「ラビィ、今日は天気がいいね……。久しぶりにお出かけでもしよっか……」
カーテンを開け、家の中に光を取り込む。舞い散る埃がキラキラと光っている。微かにルーニの口元が微笑む。
「世界にはあたしの知らないことがまだまだありそうだから……。もっともっと理解しなくちゃ……」
ルーニは知識を欲していた。たった一晩で、父親の書斎にある本を読み、全てを理解してしまっていた。
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