2017年10月7日(土)
ガンホー・オンライン・エンターテイメントがサービス中のiOS/Android用アプリ『ディバインゲート』の新章『ディバインゲート零』。そのキャラクターストーリーを追っていく連載企画をお届けします。
今回お届けするのは、ルーニ編・3話“収束した起点”。マグダネル財団での研究や調査の結果、ルーニは魔影蝕の対抗手段を閃きます。その力は、理力界を救う希望の光となるのでしょうか……。
テキスト:team yoree
イラスト:藤真拓哉
『魔影蝕』。
ルーニが入所したマグダネル財団の研究所では、朝から晩までその言葉が飛び交っていた。
世間には公表されていないためルーニも知る由がなかったが、マグダネル財団は頻度を増してきた魔影蝕に対して、理力学で対抗しようとする研究に特に力を入れていた。
「本当に……。どうして今まで気づかなかったんだろう……」
あの現象がいったい何なのか。なぜ調べようとしなかったのか。
ルーニは、これまで無意識に『魔影蝕』について考えようとしなかったこと、耳にすることも目にすることも避けてきたことに気づいた。
それだけ彼女にとって両親を失ったことは深い悲しみだったからだ。魔影蝕について思い出すこと、それは両親を失って悲しみに暮れていた当時のルーニに戻ってしまう可能性があり、ルーニは無意識にそうなってしまうのを避けていた。
しかし、現在のルーニは成長をしていた。魔影蝕と聞いても、自我を保っている。それどころか強い決意が芽生えている。
「魔影蝕について調べなきゃ……。ルーニならあの現象を解き明かせるはず……!」
研究対象を対魔影蝕に絞ったルーニは、この数年で研究してきた理論を対魔影蝕に応用できないかと考え、まずは財団にある魔影蝕関連の研究報告書や論文を読み漁ることにした。
その中でわかったことは、魔影蝕が発生しているとき、あの紫色のノイズの中には理力界では認識されていない未知の力が流れていることだった。そしてその力は魔影蝕の起きた跡地でなら、わずかながら観測することができるという。
「これは……ルーニも実際に見てみないと……!」
数日後、ルーニは財団の研究所からそう遠くないところにある魔影蝕の跡地に来ていた。
同行してくれた他の研究者から話を聞きながらルーニが跡地を観察する。
「リサーチャー・ルーニ。こちらを使ってください」
「これは……?」
「魔影蝕のエネルギーを観測するために開発された装置です」
それは小型の計測器で、携帯電話のようなタッチパネルで操作する画面が付いており、画面にはその場に流れている様々なエネルギー、電磁波などを視覚的に表すことができる機能がついていた。そのうちの一つ、『Unknown』となっている紫色の線が、魔影蝕が発生しているときに観測されたエネルギーのことを指していた。
「こんな機械の開発も進んでいたのですね」
大人向けの対応でルーニが研究員に言った。研究所ではルーニも一人の研究者として大人たちと同様に扱われるため、子どもらしい口調をできるだけ避け、ちゃんと一人前の大人として対応しようとしていた。
「我々の力では観測することしかできていないのですが……」
「いえ。それでもとても助かります。お借りしますね」
研究者に渡されたその機械を使うと、画面に様々な色で識別されたエネルギーが視覚化された。紫の線はその中で不思議な動きをしてゆらめいていた。
「消えたり、また現れたりしていますね……。丸くなったり、細長くなったり……。まるで生きているみたいに動いています。ほかの力とは明らかに異なる動きです。……これはなぜなんでしょう?」
ルーニが研究者に尋ねた。
「残念ながらまだ詳細は解明されていません。どのような力を秘めているのか……。わかっていることは、魔影蝕が起きているとき、この力が辺り一面に広がり、すべてを飲み込んでしまうということです。そして、あくまでも仮説なのですが、この世界のエネルギーではないのではないか、とも言われています」
「えっ。この世界のものではない? どうしてですか?」
「魔影蝕に覆われても助かった方々がいるのですが、ほぼ全員が『魔影蝕の中で不思議な人々を見た』とのことなのです」
「不思議な人々?」
「見た目も我々の世界とは少しばかり異質なのだそうです。そして、空を飛んでいたり、手を広げるだけで電磁波のような波を発生させたり、何もないところから何かを取り出したり……」
「な、なんですかそれは……っ」
「にわかに信じがたいことですが、その話が真実だとすれば、この世界のものではない力が働いているとしか……。そして、その力の正体こそ、観測されている『Unknown』のエネルギーなのではないかと」
「なるほど……。もっと深く研究する必要がありますね……」
ルーニは未知なる力を観測しつづけている機械の画面を見つめた。
「この世界のものではない……。だとしたら、いったいどこから……?」
研究所に戻ると、ルーニは魔影蝕の跡地で見てきたことを整理し始めた。
「理力界では認識されていない未知の力。この世界にあるどのエネルギーとも合致しない、似ていない。まだ思うように研究が進んでいないけれど、魔影蝕が起きた場所でしか発見されていない……。つまり、魔影蝕が影響している可能性が高い……。そして、この力が異世界のものであるという仮説……」
ルーニは頭の中で全てが結合しようとしている感覚を覚えた。自分の思考が結論に向けて収束していく波を感じる。
「仮説に仮説を重ねるのは危険だけど……。ルーニたちがいる理力界とは別の世界がある……? 魔影蝕自体が別の世界からの力の発現?」
ルーニは独り言をつぶやきながら思考を整理していく。
「魔影蝕では覆われた地域から人々が消失する……。ということは、魔影蝕は異なる世界からの侵略……?」
その後もルーニは対魔影蝕についての研究を続けた。
その中で、魔影蝕内に流れる力を『魔力』と名付け、この魔力は理力を打ち消す力を持っていることを解明した。そして――
「魔影蝕に対抗するには、魔力よりも強い理力が必要。つまり、この世界の力、理力を強める必要がある。……理力を増幅させる装置を作らなきゃいけない!」
これまでの研究や調査からもたらされた結果から、それが魔力を行使する異世界への唯一の対抗手段だとルーニは確信した。
「ルーニ。その装置は何ですか?」
ある晩、ルーニが徹夜で作業を続けていると、夜食を運んできたメルティが尋ねた。
「これ? これはね、『extend accurate instrument』っていって、理力を増幅させるための装置。長いからエクステって呼んじゃってるけど」
「理力を増幅?」
「そう。魔影蝕の中で対抗できるように、理力を増幅させる装置なの」
ルーニは作業している手を止め、傍らにあるまた別の装置を起動させた。
「こっちを見てみて」
「そちらは何の装置ですか?一見、水槽のように見えますが」
「これはね、『擬似魔影蝕発生装置』だよ」
「えっ」
メルティが装置とルーニの間に入った。
「そのような危険なものの近くにいてはいけません」
「あはは。大丈夫だよ。小さい装置だからそんなに大きな力も働いてないし、人間が消失したりはしないよ」
「そうですか。承知しました」
「これで小さくても魔影蝕と同一の空間を作って、理力増幅装置で強めた理力がちゃんと対抗できるかどうかチェックするの」
ルーニは制作途中の作りかけのエクステを起動させ、擬似魔影蝕の中へと入れた。
「いいのですか?まだ作業の途中だったのでは?」
「大丈夫、今やってた作業はこのエクステをもっと小型化できないかなって試してただけだから。今のこの大きさでも機能はするよ」
ルーニがメルティに説明していると、擬似魔影蝕の中でエクステが光を発し始める。
「来た」
ルーニは息を潜め、装置の光源を観察した。
擬似魔影蝕の中でその光は何かと戦いながら、小さくなったり、大きくなったりを繰り返した。
「さあ、おいで……」
ルーニが光に向かってつぶやく。
光は収縮を繰り返しながら、だんだんと大きくなってきた。
「もう少しよ……」
ルーニがエクステの光を見つめる。
メルティもその状況を黙って見つめている。
エクステの光を抑えこもうと擬似魔影蝕の紫色のノイズも濃くなっていく。
しかし、エクステの光も負けずにどんどん輝きを増していく。
「あなたは世界の希望の光。希望の象徴なの……!」
ルーニの声に呼応するかのように、光は紫のノイズを飲み込み始めた。理力が増幅されて、未知なる力に対抗している証だった。
そして光がひときわ輝いたとき、装置が音を立てて煙を吐き出した。
「あ。やば……!」
あわててルーニは擬似魔影蝕発生装置を緊急停止させ、エクステを中から取り出した。
まだ光を放っているそれはルーニの手の中で熱を発していた。
「あっつい!」
「大丈夫ですか?」
「うん。平気。びっくりしたけど」
ルーニは手を広げ、エクステを見つめた。
「ちょっとまだ改良の余地はあるけど、ひとまずの目的は果たせたね。よかった……」
ルーニの両手の中でエクステはまだ光を灯していた。
「きれいな光ですね、ルーニ」
「うん。だって、これが世界を救う鍵になるんだもん。もっともっと輝いてもらわないと……」
「希望の光……。世界を救う光」
「そう。ルーニたちの希望だよ」
しばらくすると、このエクステはルーニの手によりサイズが改良され、第1号機として世間に発表されることになった。それは、ルーニたちだけの希望ではなく、理力界に住むすべての人々にとっての希望となった。
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