津田健次郎さんが世界も注目する技術“金継ぎ”を学ぶ。壊れたものを直して使う日本の心と美意識に感銘
声優・津田健次郎さんが教授となり、毎号気になるカルチャーを研究する本コラム。電撃Girl’sStyle12月号(11月10日発売)では、割れたり、欠けたりした器を美しく修復する日本独自の伝統技術“金継ぎ”について学びました。今回は器の美しさをご覧いただくため、ポラロイドではなく通常の写真でお届けいたします!
今回は彩泥窯(さいでいがま)の窯元、中野拓さんにお話をうかがい、ものを大切にする心から生まれた技術の奥深さを感じ取った津田教授。さらに日本人ならではの美意識や価値観など興味深い観点からのお話など、誌面に載せきれなかった津田教授と中野さんの対談の完全版をお届けします。
▲彩泥窯 表参道工房にてお話をうかがいました! |
“金継ぎ”を語る上で外せない“焼継ぎ”
――金継ぎとはどういった特徴をもった技術なのでしょうか?
中野拓さん(以下、中野):“金継ぎ”とは、単に割れたものをくっつけて修理するというわけではなく、金で加飾して美観を損なわないように修理するというところが特徴です。もともとは室町時代から始まった“焼継ぎ”という、割れた器を布海苔(ふのり)や白玉という透明な接着剤のようなものでインスタントにくっつけるという技術からきているんです。
津田教授(以下、津田):焼継ぎですか。
中野:江戸時代では“焼継ぎ屋、夫婦喧嘩の門に立ち”と川柳で歌われるほど“焼継ぎ師”という職業が当たり前のようにありました。江戸時代の一般家庭では、何度も焼継ぎ師に焼継ぎしてもらって修理しながら同じ器を大切に使っていたんですね。しかし焼継ぎは金継ぎとは違い、金で飾られていないのであまり見た目が美しくありません。そのため、茶の湯で使われる特別な器などには金継ぎという技術で修理されていたんです。
津田:なるほど。焼継ぎはいわゆる普段使いの器を直すための技術で、美しく修復することが求められる場合には金継ぎが用いられたというわけですね。
中野:そうなんです。今は大量生産消費時代の到来にともない、“焼継ぎ師”という職業はなくなってしまいました。普段使いの器を直して使うということが一般的ではなくなってしまったからですね。
津田:では、今は焼継ぎ自体が行われているところはないんですか?
中野:ないんですよ。日本でおそらく私だけだと思いますよ。
中野さんが金継ぎをはじめられたきっかけについて
――金継ぎをはじめられたきっかけについて教えてください。
中野:彩泥窯には“世界にひとつのもの”をご自身で作りたいと来られる方が多くいらっしゃり、記念日などに大切な人にギフトとして贈られます。大切な人の思いがたくさんつまった器だからと、受け取った側も大事に使われるのでしょうが、やはり年月とともに欠けたり、割れたりするものが出てきますよね。
いつからか、彩泥窯で作られたギフトを受け取った方々から「思い出の品を修復できないか」という相談をたくさんいただくようになり、陶芸家としてなんとかしたいと思ったことがきっかけです。
津田:世界にひとつだけの大切なものですから、いつまでも愛用したいですよね。
中野:はい。しかし、元来の金継ぎ技術で修復してしまうと、器としての使用ができないんですよ。金で加飾してあるので電子レンジには入れられませんし、そもそもこすると取れてしまいます。美術品として眺めることしかできなくなってしまうんですね。
津田:器としては使用できないんですね。
中野:普段使いができなくなってしまっては悲しいですよね。そこで、私は独自の金継ぎを考案しました。先ほどお話した普段使いの器に施されていた焼継ぎと、美しさを損なわないための金継ぎ、その両面をあわせもった技術で、簡単に修理できる方法なんです。さらに漆を使っていないので修理後も安全ご使用いただけるんですよ。すべてがこの方法で修理できるわけではありませんが。
津田:器に合わせて修理方法を変えるということですか?
中野:そうです。木製のものや、漆器、ガラス製品などは窯で焼けないので焼継ぎができないんですよ。
津田:なるほど、窯にいれることができない材質のものがあるからですね。こちらでは、その、新しい金継ぎを体験できるんですよね?
中野:本物の漆を使って行う金継ぎは危険なのでできませんが、代用漆を使って1日で体験できるというものをやっています。外国の方もたくさん見えますよ。日本人よりも詳しい方もいらっしゃいますね。インスタグラムでも“♯KINTSUGI”と検索するとたくさん出てくるくらいに金継ぎという言葉が浸透しています。
津田:そうなんですか! KINTSUGIかっこいいですもんね!(笑)
世界から注目されるKINTSUGIと日本人の美意識
――金継ぎという技術は世界から注目されているのですか?
中野:金継ぎは割れた姿をしっかりと見せた潔い修復方法なんです。日本人の美意識は独特で、曲がっているものや使い込まれているものに、味わいや趣があると感じるところがあります。いわゆる“わび・さび”というものですね。
高価なものや新しいものに対して価値を見出すだけでなく、時の流れによって変化してしまった部分にまで精神的な価値を見出す、そういうところが日本らしいものの味わい方だと考えています。こうした、日本人らしい美観に基づいて器も修理を行っていきます。
津田:単に割れた部分をごまかすような修理するだけでなく、美観も大切にするということですね。
中野:後ろにYの字に金継ぎが施されているお皿がありますよね。あちらは、じつは美観をさらによいものにするために、ひび割れていない部分も書き足してあるんですよ。
▲向かって左側のお皿の金継ぎに注目! |
津田:割れていないところを書き足すこともあるんですか、おもしろいですね!
中野:背景にある文様を生かしながら、線自体に強弱をつけつつ金色を入れていきます。このように器の壊れ方を生かして、さらに美しく、よいものにしていくという日本人の感覚はほかにはないものなので、海外からも注目されているんです。
▲金継ぎだけではなく、銀継ぎも。茶の湯の世界では銀の方が、位が高いのだそうです。 |
金継ぎを通して考える、ひとつのものを大切にすること
――最後に、若い方に伝えたい金継ぎの魅力とはなんでしょうか?
中野:東日本大震災以降、ひとつのものを大切にしようという風潮が強くなってきたように感じています。若い方でも、愛用品を修理したいとうちの暖簾をくぐっていらっしゃる方が増えてきています。高額品ではないけれども、想い出がつまったものを長く、ずっと使っていきたい。そんな思いを叶えるのが金継ぎという技術です。
どんなものであってもかまいません。壊れたものを直して使うという経験は、どこか気持ちを豊かにしてくれるものです。ご興味がありましたら、ぜひ金継ぎというものを体験しにいらしてください。
津田:貴重なお話をありがとうございました!
▲終始、真剣な表情で話に耳をかたむける津田教授。 |
彩泥窯(さいでいがま)では、やきものづくりの楽しさを伝えることを目的に陶芸教室を開催。定期的に参加費の一部が途上国へ寄付されるチャリティーワークショップも行っています。詳しくは彩泥窯のHPをご覧ください!