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2017年12月11日(月)

『風のクロノア』発売から20年。名作として語り継がれる世界観とアクションの秘密を振り返る【周年連載】

文:城 イドム

 あの名作の発売から、5年、10年、20年……。そんな名作への感謝を込めた電撃オンライン独自のお祝い企画として、“周年連載”を展開中です。

『風のクロノア door to phantomile』

 第65回でお祝いするのは、1997年12月11日にプレイステーションソフトとしてナムコ(現バンダイナムコエンターテインメント)から発売された『風のクロノア door to phantomile』。

 その世界観、キャラクターに加えて、アクションの奥深さからも人気の本作。その魅力についてライターの城イドムが語っていきます。

 人の歴史とはおもしろいもので、異なる文化や技術が織り交ざることによって、誰も想像しえなかった世界が誕生することがあります。同じようにゲームの歴史を紐解くときにも、時代と共に移り変わるトレンドや開発技術といった異なる流れが不思議な巡り合わせで出会い、そして唯一無二の魅力に昇華するケースを見つけられることがあります。今回紹介する『風のクロノア door to phantomile』も、そんな好例の1つとして挙げられるかもしれません。

 読者の皆さんの中には「え? どんなトレンドのミックスがあるの?」と疑問に思った人もいるかもしれせん。本稿では、このアクションの魅力を順を追って見ていきながら、注目すべき6つの“ミックス”をピックアップ。それとあわせて、異なるトレンドの出会いがどんな魅力を醸し出しているのかも詳しく解説していきます。

注目その1:デフォルメと表現力が合わさった魅惑的なキャラ

 ゲームの舞台となるのは“ファントマイル”と呼ばれる異世界です。そんな世界に居を構える“風の村ブリーカル”に住む少年・クロノアが本作の主人公です。クロノアには、幼い時に出会った風の妖精・ヒューポーという親友がいて、2人はいつも一緒に遊んでいました。ひょんなことから2人は、この世界を救うという大冒険に旅立つことになるのです。

『風のクロノア door to phantomile』 『風のクロノア door to phantomile』

 良質の童話が描かれた絵本、その雰囲気をそのままゲームに落とし込んだような世界観は本当に素晴らしい! 夢のような雰囲気、そしてプレイヤーの心を躍らせ、そして時にはキュンとくる物語、そのすべてが筆者は大好きです。

『風のクロノア door to phantomile』 『風のクロノア door to phantomile』

 クロノアはある日、空から落ちてきたリングを拾います。そのリングに宿っていた風の精がヒューポーでした。ヒューポーは普段はリングの中に入っており、クロノアが“風だま”という武器を使う時に力を貸してくれます。クロノアとヒューポーは固い友情で結ばれており、世界を救うまでの物語を2人でつむいでいくこともなります。

『風のクロノア door to phantomile』

 効果的かつステキなエフェクトにも注目あれ。“ビジョン6-1”では“月の王国クレス”が舞台に。不思議な回廊では、クロノアが走ると足元に星屑が流れます。ちょっとした演出ながら、その美しさがファンタジックな雰囲気を引き立てているのです。

 本作の登場より少し時代を巻き戻した80年代~90年代初頭、ゲームマシンのスペックやプログラム容量は現在とは比べ物にならないほど“こじんまり”としたものでした。ポリゴンが主流になるのは少し後の話で、この時代はドット絵が主流だったのです。

 そんな開発環境ゆえに、ゲーム界ではデフォルメされたデザインのキャラクターが主流であり、またその画風の範囲でカワいく魅力的に見せるデザインがどんどん発展していったのです。なかでも、当時のナムコはそういったデザインにかけては業界の名手。挙げ続ければキリがないほど愛すべきキャラが次々とデビューを飾っていました。

『風のクロノア door to phantomile』

 クロノアがかぶっている帽子もとってもオシャレ。帽子の黄色の模様は、80年代にアーケードでリリースされて世界的にヒットした『パックマン』がモチーフになっています。ここにもキャラデザインにおける“時代のコラボレーション”の痕跡を見て取れます。

 本作は3Dによってキャラの表現は豊かで、現在見直しても鑑賞に堪えうるクオリティが保たれています。それでいて、3頭身のクロノアには古きよきナムコらしい、キャラをデフォルメして魅力的に見せるセンスが注がれています。その融合がどんな時代にも負けない魅力となり、ファンにクロノアを長く記憶させているのかも知れません。

『風のクロノア door to phantomile』

 敵キャラクターも愛らしいヤツらが勢ぞろいです。“ずんぐりむっくり”しつつもどこか愛嬌や温かみにあふれたザコ敵をはじめ、見ているだけでも楽しくなってきます。

 こういった世界観を支える、細やかな裏設定も見逃せないポイントでしょう。

 例えば、フィールト上には宝石のようなアイテム“夢のかけら”が点在しており、これらを100個集めると、クロノアの残り人数が1UPするシステムになっています。そしてフィールドの特定の場所には“鏡の精”が捕らえられており、このキャラを解放すると一定時間だけ、“夢のかけら”を2倍入手できるのです。

『風のクロノア door to phantomile』

 “鏡の精”はフィールド上の特定のところで、シャボン玉のようなオブジェの中に捕らえられています。マニュアルの伝説に伝説によれば、鏡の精はいろいろな物を鏡に映して倍にするイタズラを繰り返していたのですが、ある時太陽を倍にして夜をなくしてしまったのでした。人々は眠れなくなり、このファントマイルの世界を形成する“夢”が生み出されなくなってしまいました。そのため神様はお怒りになり“鏡の精”を閉じ込めてしまった、のだそうです。

 いかにも童話に出てきそうなシチュエーション。それを読むと、ゲーム中で“鏡の精”が捕らえられていることにどこか微笑ましさを覚え、この世界の冒険に一層の愛着を感じられるようになるのです。

注目その2:2Dアクションと3Dアクションの両方のエッセンスを融合

『風のクロノア door to phantomile』

 当時ビックリさせられたのが、基本システムは横スクロールのアクションゲームながら、フィールドが3Dで描かれている点でした。2Dタイプの横スクロールアクションは80年代はもっとも人気の高いゲームジャンルの1つでした。横スクロールアクションには、このシステム特有のよさがあるのですが、90年代後半は見た目のインパクトから3Dアクションが持てはやされる傾向が強まっていました。そんな両ジャンルの特性を合わせ持った本作は大変画期的だったのです。

『風のクロノア door to phantomile』

 移動軸は2Dなのですが、フィールドはポリゴン(3D)で奥行きのある空間として表現。今でこそ、この手法はよく知られていますが、当時はビックリさせられたものでした。クロノアが移動する道の奥、または手前にスイッチやアイテムボックスが隠されていることも。こういった表現法はよく練られており、今見直しても感心させられます。

 この手法は海外生まれのアクションなどですでに試みられており、本作が元祖という訳ではありません。それでも、横スクロールアクション特有のおもしろさを存分に発揮したゲーム、かつ確かな完成度と親切なゲームバランスを持ち合わせているという観点では、当時他にこのような作品はなかったと思われます。その意味では、2Dのシステムと3Dの空間を融合したアクションでは、実質的なパイオニアと呼べるかもしれません。

『風のクロノア door to phantomile』

 カメラワークはゲーム側で自動的に調節されます。上空に重要なポイントが隠されている時には、この写真のように天を見上げるようなカメラワークになります。

『風のクロノア door to phantomile』

 上の写真のシーンから少し進むと、今度は逆に足元に注意を払うべきポイントが控えています。ここでは、眼下を見下ろすようなカメラワークへと自動的に切り替わっていくことに! 3Dを活用した演出が実に見事です。

注目その3:最新のアクションに80年代のトレンドを加味

 クロノアの基本操作はシンプルそのもの! 十字ボタンに加えて□ボタンの攻撃と、×ボタンのジャンプだけで冒険を進めていくことになるのです。

『風のクロノア door to phantomile』

 足場から足場に乗り移るなど、ジャンプアクションは横スクロールアクションの真骨頂。本作でもその魅力をタップリと味わえます。

 とりわけユニークなのが、クロノアによる敵の倒し方でしょう。□ボタンを押すとクロノアはリングを前方に指し出し、親友のヒューポーの力を借りて“風だま”を飛ばすことができます。しかし普通のアクションとは違い、この“風だま”自体には敵を倒すパワーが秘められていないのです。

 では、“風だま”にはいったいどんな使い方が隠されているのでしょうか。この武器には、一部の例外を除くザコ敵に命中させることで、相手を風船のようにパンパンに膨らませる効果があるのです。また、膨らませたと同時にリングの先端にキャッチして、捕獲できるのが大きな特徴でしょう。この敵を仕留めるにはどうすればいいのでしょうか。以下で説明していきましょう。

『風のクロノア door to phantomile』 『風のクロノア door to phantomile』

 □ボタンを押して、ザコ敵に向かって“風だま”を放ってみましょう。“風だま”を受けた敵は風船のように膨らんで行動不能になり、クロノアはその敵を担ぎ上げることができます。

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 ザコ敵を捕獲した状態で改めて□ボタンを押すと、その敵を前方に向かって投げつけることができます。投げつけられたザコ敵はもちろん、その敵をぶつけられたザコ敵までも、仕留めることができるのです!

 最近のゲームに慣れ親しんできた方々にとっては、武器そのものに敵を倒す機能がないシステムが斬新に思えるかもしれません。相手を行動不能にして、そのあとの行動が攻略のカギを握る仕様も興味深いポイントでしょう。しかし、80年代にはこういったシステムは決して珍しくない存在でした。特に横スクロールアクションの“先輩”に相当するフィールド固定型アクションでは、こういった武器仕様の名作がいくつもリリースされていたのです。

 もしかしたら、このクロノアの攻撃システムはそれらの名作から着想を得ていたのかもしれません。

 近年のアクションでは2段ジャンプは珍しくない存在ですが、クロノアは通常の状態で×ボタンを押してジャンプしても羽ばたくたけで、空中で改めてジャンプすることができません。

 ジャンプ中に空中で×ボタンを押し続けると、クロノアは耳で羽ばたいて、ほんの少しだけですが滞空時間と飛距離を伸ばすことができます。この一生懸命に羽ばたくジェスチャーが、メチャクチャ愛くるしいので必見です!

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 では、2段ジャンプはどうやってやるのかというと、これまた“風だま”を利用することになります。敵をキャッチした状態でジャンプし、空中で改めて×ボタンを押すと、敵を踏み台にして2段ジャンプを決められるのです。

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 冒険を進めていくと、2段ジャンプを使わないと飛び越せない谷間などが幾度となくクロノアの行く手を阻むことになります。こういった難所で“空中の踏み台代わり”にするザコ敵をどうやって確保するかも、本作の攻略の大きな楽しみだと言えます。また、クロノアが2段ジャンプした際、踏み台にされたザコ敵はそのまま真下に飛んでいきますが、それをぶつけて別の敵を倒すこともできるのです。

 さらに強調したいのが、この連続アクションがメチャクチャ奥深いという点でしょう。

 “地上でザコ敵をキャッチして、それを踏み台にして2段ジャンプを決め、そのまま空中で鳥形のザコ敵をキャッチし、3段ジャンプにつなげる”というシチュエーションを想像してみてください。

 この連続アクションをスムーズに成功させる最大のコツは、地上から最初のジャンプを踏み切った後、慌てないことです。

『風のクロノア door to phantomile』 『風のクロノア door to phantomile』
『風のクロノア door to phantomile』

 「地面からジャンプを試みて、頂点で2段ジャンプ!」というやり方は、決して初心者向きではありません。ここでは上の連続画面の要領で、慌てずに一度ジャンプの頂点をやり過ごし、クロノアが降下し始めたぐらいのタイミングで2段ジャンプにつなげるのがオススメなのです。

『風のクロノア door to phantomile』 『風のクロノア door to phantomile』
『風のクロノア door to phantomile』

 2段ジャンプするタイミングを遅らせたことによって、次に空中で“風だま”を打つまでの距離、すなわち“時間的余裕”が稼げているのです。こういった、ボタン操作のわずかなタイミングの調整が“それ以降の操作のしやすさ”を大きく変えるのです。逆を言えばコツさえつかめれば、見た目にもハデなアクションをテンポよく簡単に決められるようになります。

 では次に、地面から最初に踏み切った後、敢えてその跳躍の頂点で2段ジャンプにチャレンジした場合を考えてみましょう。

『風のクロノア door to phantomile』 『風のクロノア door to phantomile』
『風のクロノア door to phantomile』

 地上から踏み切って、ジャンプの頂点で2段ジャンプ! この場合、この後に空中でキャッチする敵のすぐ近くで踏み切ることになる点に注目。

『風のクロノア door to phantomile』 『風のクロノア door to phantomile』
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 この連続アクションのケースでは、2段ジャンプを完結させてから間髪入れずに次の“風だま”の発射につなげなければいけません。当然ながら、正確かつ素早いボタン操作ができないことには、成功させることは不可能でしょう。

 しかし、これを成功させられる上級者にとっては見逃せないメリットもあるのです。

 この連続アクションの場合、2段ジャンプによって上昇する勢いがまだ残っているうちに空中で敵をキャッチできます。従って、空中で敵をキャッチした体勢で一定距離上昇できます。その頂点で3段ジャンプにつなげば、最初に解説した初心者向けの連続ジャンプを遥かにしのぐ最高到達点に届くのです。

 最高到達点が高ければ、隠しエリアに足が届くかもしれませんし、後で紹介する隠しステージ“エクストラビジョン”でショートカットルートを編み出せる可能性も広がることでしょう。

 このように本作では、“コツをつかめば初心者でも快感を得やすい間口”を設けつつ、“高度な操作テクニックを研く、フトコロの深さ”までも、しっかり盛り込まれているのです。キュートな世界観も魅力的ですが、決してカワイイだけのゲームではない、優れた名作なのです。

注目その4:時間ごとに力関係が変化!

 どれだけ時代が進み、グラフィックの解像度をはじめ技術の進歩が見られても、ゲーム界には古びることのないポイントがいくつか存在します。その1つとして、アイデアのユニークさを挙げることができるかもしれません。

 本作の各ビジョンに用意されたギミックも、アイデアの秀逸さ、攻略するおもしろさともに文句なしの完成度! そのいくつかを紹介していきましょう。

『風のクロノア door to phantomile』

 “ビジョン1-2”より。ここでは上昇気流が発生しており、その流れに乗るとクロノアは上空へと運ばれていきます。風に乗ってフワフワと浮遊する表現もよくできており、使って非常に気持ちいいギミックに仕上がっているのです。

『風のクロノア door to phantomile』

 “ビジョン3-2”より。写真の敵は体内に時限爆弾のような機能を宿しており、出現から約8秒後に自ら爆発してしまいます。この敵の性質をうまく使えば、その爆発の衝撃でスイッチを遠隔操作することも可能に!

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 “ビジョン5-1”より。画面奥に意味ありげな柱が……。敵を投げつけると、倒壊させることができます。進んでいくと、先ほど倒した柱が足場になっています。

『風のクロノア door to phantomile』

 “ビジョン5-2”より。このビジョンでは通常の明るい時間帯と、暗闇が支配する“日食”の時間帯が交互にやってきます。通常の時間帯では、ほかのビジョンと同じようなザコ敵がはびこっているものの、黄色い足場にクロノアが乗ろうとしてもすり抜けてしまいます。

『風のクロノア door to phantomile』

 “ビジョン5-2”より。上の写真と同じ場所なのですが、日食の時間帯になると状況が一変! ザコ敵は無敵になって“風だま”が通用しなくなってしまうため、基本的に逃げるしか手がありません。しかし、この時間帯では黄色の足場に乗れるようになります。

 このように、時間帯によって敵との力関係が変わるシステムを見た時、往年のゲームファンならきっと思い当たる作品があることでしょう。そうです! クロノアの帽子にデザインされていた『パックマン』です!

 時間帯によって力関係が切り替わるという本作のシステムについて、『パックマン』から着想を得たかどうかは筆者想像の域を出ません。しかし、帽子のデザインからしても、『パックマン』へのリスペクトは含まれているであろうと筆者は考える訳です。

『風のクロノア door to phantomile』

 “ビジョン6-2”より。この部屋には3つのスイッチがあります。それぞれのスイッチは1度ONにしても、短時間で自動的にOFFに戻ってしまいます。出口の扉を開けるには、短時間で3つのスイッチすべてをONの状態にするしかありません。

 効率的な手順を見抜くパズル的要素と、指先のテクニックが同時に問われる、難しい謎解きです。

注目その5:洋ゲーのエッセンスを遊びやすい国産アクションに落とし込んだパイオニア!

 本作のステージは“ビジョン1-1”、“ビジョン1-2”といった具合に、1つの国ごとに前半戦と後半戦の2つのパートで構成されています。そして後半のパートの最後には巨大なボスとのバトルが待ち受けています。

 どのビジョンのボスもザコとは比べ物にならない強敵ぞろいで、一筋縄にはいかないことでしょう。

『風のクロノア door to phantomile』

 “ビジョン1-2”のボスとのバトルシーンより。ボス戦の多くは、このようなドーナッツ型のフィールドで繰り広げられます。周囲に出現するザコ敵をキャッチして、ボスの弱点となるシッポに投げつければダメージを与えられます。ちなみに、ザコ敵をフィールド中央の鐘に当てると、体力回復アイテムが出現することも。こういった“隠し回復アイテム”は各ボス戦ごとに用意されており、それを探すのも楽しみの1つとなっています。

『風のクロノア door to phantomile』

 “ビジョン5-2”のボスとして登場するのは、闇なる王たるガディウスの腹心の部下・ジョーカー。キャッチしたザコ敵を投げつけて攻撃するのが基本ですが、ジョーカーはコブシでガードしてくるので、これまでのボス戦以上に苦労させられるかと。

『風のクロノア door to phantomile』

 ジョーカーは、一定周期ごとに写真のような異形の怪物に変身。この形態中は無敵なので、ダメージを与えることができません。この時間帯にはフィールド上のブロックに色が点灯し、クロノアが特定の場所を踏むごとに“青→緑→黄色”とブロックが変色。フィールドすべてのブロックを黄色にそろえれば、ボスの無敵状態を解除できるのです。

 “ザコ敵を投げつけてダメージを与える”といった攻略スタイルを“直接攻撃型”と呼ぶなら、パズルを解く要領でギミックなどの法則性を推理し、何をすれば先に進めるか解き明かすタイプは“手順解明型”とでも呼べるかもしれません。異形の怪物と化したジョーカーとの戦闘は“手順解明型”の典型例と言えるでしょう。

 海外のクリエイターが好む“手順解明型”は、当時のアクションマニアには“新しい風”として知れ渡るようになり、それなりの評価も得ていました。ただ、今とは違って当時の海外タイトルはゲームバランスがお世辞にもいいとは言えず、難易度が極端に高い作品であふれていたというのが実情です。

 その意味では、本作は高い完成度と練られたゲームバランスで“手順解明型”を世に広く知らしめた、最初期の作品の1つと呼べるかもしれません。少なくとも当時のアクションを幅広く遊んでいた筆者はそう分析しており、その意味でもゲーム史で大きな役割を果たした1本として、本作を高く評価しているのです。

『風のクロノア door to phantomile』

 “ビジョン6-2”では、闇なる王ガディウスと対決。ガディウスが送り込むザコ敵をキャッチしてボスに投げつけるのが基本ですが、スキが少なく非常に手ごわいと言えます。閉局したリング上の地形はこの当時、斬新な戦闘フィールドと話題になりました。

注目その6:記録更新要素を当時の最新システムに融合させた“エクストラビジョン”

 もちろん、隠し要素&やり込み要素も本作には事欠きません!

 各ビジョンは基本的に1本道ですが、所々で道が分岐していたり、脇に隠し通路や隠し部屋が用意されていたりと、探索要素が盛り込まれています。もちろん、隠しアイテムもそこかしこに散りばめられているので、普通にクリアを目指す以外にもいろいろ探したくなれるのです。

 収集要素の中でも一番印象深い存在といえば、“住人”でしょう。この世界には、悪党ガディウスの仕業で、悪夢に幽閉されてしまった人々がいるのです。彼らはシャボン玉のようなオブジェや“ンガボコのたまご”と呼ばれる大きなタマゴの殻に閉じ込められており、各ビジョンごとに6人がどこかで悪夢ともなう眠りについているのです。

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 捕らわれた人々は写真のようなオブジェの中に幽閉されています。道の脇で発見できることもありますが、普通には目に止まらない場所や、高度な連続アクションを成功させないと手が届かない場所に捕らわれている場合も少なくありません。見事に救い出すと、眠っていた人は元気に目覚め、この世界に戻っていきます。

 “住人”を救わなくても各ビジョンをクリアすることは可能ですが、助け出すと、ビジョンをクリアしたあとにご褒美として演奏を鑑賞できる他、後で触れる“エクストラビジョン”の出現条件にも関与してきます。

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 助けた人数が少ないと演奏は“尻切れトンボ”なニュアンス丸出しで途中で終わってしまいます。“住人”をたくさん助けながら冒険を進めると、ビジョンクリア後の画面もゴージャスに! 演奏も充実し、深い達成感を味わうことができます。

 ちなみに1度エンディングを迎えた後は、好きなビジョンを選んで何度でも遊び直すことができます。この世界全体に眠る全72人の“住人”を助け出すと、ビジョンセレクト画面に隠しビジョン“エクストラビジョン“が出現します。

『風のクロノア door to phantomile』 『風のクロノア door to phantomile』
『風のクロノア door to phantomile』

 “エクストラビジョン”は他のビジョンと同様、ビジョンセレクト画面で選んで何度でも遊び直すことができます。このビジョンの舞台となるのは、立派に完成した“バルーの塔”の内部です。バルーの親父さんは伝説の歌姫レフィスへの愛を形にすべく、頑張って塔を完成まで漕ぎ着けたのでしょう。

『風のクロノア door to phantomile』 『風のクロノア door to phantomile』

 ここでは、空中で敵をキャッチしてジャンプをつなぎながら、足場のないエリアを進むなど、難所に次ぐ難所がプレイヤーを待ち受けています。

 塔の最上階にたどり着いてこのビジョンをクリアするのは容易ではないでしょう。見事クリアすると、コント顔負けの爆笑劇を鑑賞できますので、ぜひ頑張ってみたいところです。

 ちなみに、この“エクストラビジョン”ではクリアまでのタイムが計測されており、その最短タイムを競うタイムアタックにチャレンジする趣向も盛り込まれています。最高のタイムを目指すためには、ミスを減らすことはもちろん、高度な連続アクション必須のショートカットを発見&マスターしなければなりません。

 腕に自信のある人は挑戦してみてください。同じステージを何度も繰り返しプレイして腕の上達を実感する遊び方、それはゲームの魅力の1つでもあるのです。

時代の巡り合わせ、そしてクリエイターの広い視野とセンスが生んだ奇跡

 余談ですが、本作を遊んで見事にエンディングを迎えられた人は、予想を覆すストーリー展開にビックリしたのではないでしょうか。まだ見ていない人は、ハートにキュッとくる結末をぜひご自身の目で確かめてみてください。

 そして本稿の世界設定の項でも紹介した通り、クロノアの武器である“風だま”はヒューポーの力添えなくしては十分に機能しません。2人がともにいてこそ、“風だま”を駆使した冒険がつむがれていくのです。

 その2つの事実を考え合わせると、筆者は想像せずにはいられないのです。“エクストラビジョン”の冒険にまつわる、エンディングのあとに続く、語られてない“秘密の物語”は存在したのでしょうか。

『風のクロノア door to phantomile』

 以前に行った『クロノア』開発者インタビューでは、「エンディングがすべてであり、“エクストラビジョン”はあくまで“お楽しみ要素”」とのことで、細かい設定がそこにある訳ではないということでした。

 でも、クロノアを心から愛する者として、筆者は信じているのです。

 クロノアとヒューポーの2人は夜フトンに入って夢を見るとき、バルーの塔を一緒に訪れて冒険しているのではないでしょうか。それこそ毎晩、毎晩、日本中で誰かが“エクストラビジョン”を遊ぶ度にそれと同じ数だけ、2人は塔を冒険する夢を見ているのかもしれません。

 エンディングの展開を知っている読者の皆さん、どう思われますか?

続編もステキ! ゲーム内容も物語もセンス抜群

 派生作品もたくさんリリースされている『クロノア』シリーズですが、本作直系の続編と言えるのが、2001年3月22日にPS2でリリースされた『風のクロノア2~世界が望んだ忘れ物~』です。

 夢のような世界観、ファンの心を掴んで離さないストーリー、3Dフィールドで描かれた2Dアクションという基本システム、アイデアが素晴らしいギミックなどなど、1作目の正当進化と太鼓判を押せるコンセプト、そしてバツグンの完成度、こちらも絶対のオススメ作品です。

 本稿で紹介した『風のクロノア door to phantomile』はゲームアーカイブスでリリースされています。アクションがお好きなら、お子様でも、女性でも、往年のゲーム好きでも、スーパーゲーマーでも、ぜひ、手に取って夢あふれる冒険へと旅立ちましょう!

 その風は、つねに貴方のそばを流れているのです。

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