津田健次郎さんが人力車の歴史や文化について学ぶ。町の魅力を伝える車夫の仕事とは?
津田健次郎さんが教授となり、毎号気になるカルチャーを研究するコラム『津田健次郎の文化ゼミナール』。電撃Girl’sStyle1月号(1月10日発売)では、その街がもつ歴史や文化をお客様に伝えながら観光名所をめぐる“人力車”について学びました。
今回は京都嵐山からスタートし20年以上の歴史を持つ観光人力車えびす屋の車夫・井尻延之さんにお話をうかがいました。人力車の歴史や魅力、おすすめのコースなど誌面に載せきれなかった人力車の魅力をお届けします!
――人力車の歴史について教えてください。
井尻延之さん(以下、井尻):人力車の歴史は明治3年からです。日本の文化というイメージもありますが、意外と歴史は浅いんですよ。坂本龍馬も乗ったことないですからね!
津田教授(以下、津田):明治3年からですもんね! どういうところから始まった産業なんですか?
井尻:野菜などを運ぶために使っていた荷車に人を乗せて運んでみようか、というところから始まったと言われています。ちょうどその頃、横浜から広まっていた西洋文化から着想を得て、“馬車”と“荷車”を融合させた人力車という乗り物が誕生しました。
津田:どういう目的で利用されていたんですか?
井尻:今でいうところのタクシーのようなものです。武士以外の身分の高い人はだいたい籠を利用していたんですよ。しかし、籠は長距離利用するには向かない乗り物だったため、その欠点を大きくカバーした人力車は、瞬く間に全国に広がったと言われています。
津田:現在は、観光目的での利用が多いですよね?
井尻:そうです。路面電車や自転車が台頭してくる頃には、人力車を日常的に使用することはなくなります。しかし、海外に14000台人力車を輸出していたほど、人力車は爆発的に全国に普及した産業だったんですよ。
津田:今着てらっしゃる車夫の衣装は、昔ながらのものなんですか?
井尻:昔からこういった衣装を着られていたようですが、今ではクッション付きの足袋があるなど最新型になっています。
おもてなしの心を大切に 車夫のやりがいや気を付けていることは?
――車夫の仕事のやりがいについて教えてください。
井尻:乗っていただいたお客様から、その場で直接「ありがとう」と言ってもらえることにやりがいを感じますね。直にお客様とやりとりするぶん、手は抜けない仕事なんですが。「浅草を案内してもらえてよかった」でもなく「人力車に乗れてよかった」でもなく「お兄ちゃんに声をかけてもらってよかった」と言ってもらえるとたまらなくうれしい気持ちになります!
津田:「手が抜けない」とおっしゃっていましたが、井尻さんが1番気を付けていることはなんですか?
井尻:やはり体調管理です(笑)。京都の東山エリアなど坂が多いところでは膝の摩耗が激しいので、気を使いますね。
津田:体力勝負のお仕事ですもんね!
井尻:あとは、お客様に喜んでもらえるガイドをすることを心掛けています。
津田:というと、具体的にはどういうことでしょうか?
井尻:ひとりよがりのガイドにならないように、自分が楽しいガイドになってしまわないように気を付けます。
津田:ガイドしているうちにテンションが上がっちゃうってことですか?
井尻:そうです、そうです(笑)。そうなってしまうと、お客様が置いてきぼりになっちゃうんですよ。
津田:運転しながら、背中にその雰囲気を感じとるという感じなんですか?
井尻:お客様が気を使って笑ってくださっているのが、会話の雰囲気から分かるようになってくるんですよ。お金を払って人力車に乗ってくださっているのに、お客様に気を使わせてしまってはだめですよね。
津田:立派な車夫になるためにはどれくらい研修するんですか?
井尻:だいたい十数回ですね。人力車の引き方はもちろんですが、やはりガイドする内容を覚えたり、それをどう伝えるかのノウハウを学ぶことも重要です。現在の風景が当時の背景に見えてくるような、その世界に入り込めるガイドができるようになるのが理想ですね。卒業検定もあるんですよ。
津田:女性の車夫もいらっしゃるそうですね!
井尻:明治時代の頃は主に男性がやる職業だったようですが、現在は女性の車夫も少ないですがいますよ。お客様からは「大丈夫なの?」と心配されるんですけどね(笑)。
津田:それは……そうですよね。あと、罪悪感が芽生えそうです……。
井尻:お客様はよくそうおっしゃいますね。でも、人力車は力任せに引く乗り物ではないので、引き方をマスターすれば女性でも引くことは可能です!
津田:海外の観光客にはどのようなガイドをするんですか?
井尻:基本的なガイド内容は英語でも覚えるので、英語が通じる方にはそちらを楽しんでいただく形になりますね。外国の方からの神社仏閣に対する質問にも英語で対応できるように、日々勉強中です!!
観光名所への移動手段ではなく、その町の魅力を伝える
――ご自身が1番オススメするコースを教えてください。
井尻:浅草でしたら“下町の魅力を伝えられるコース”をオススメしたいですね。仲見世から本堂までの1本道には、人力車は入れません。しかし、その通りの左右の裏手には、おもしろい建物や、逸話がたくさん転がっているんですよ。1時間コースになると、裏へ抜けて芸者さんたちが住んでいる町にもご案内できます。また、季節によって町の趣きも変わるので、その季節ならではの風景を堪能してほしいという思いもありますね。
津田:天気が悪い時も人力車は利用できるんですか?
井尻:逆に雨の方が、需要がある日も多いですよ! 傘を差しながら観光するのはなにかと面倒だし、なにより傘で視界がさえぎられてしまうじゃないですか。そういう理由から人力車を利用してくださる方がいらっしゃいます。憂鬱な雨の日にした旅行が、より楽しい思い出になるように我々も尽力します!
津田:だいたいどれくらいの長さのコースがおすすめですか?
井尻:人力車に乗るのが初めての方は、12~15分くらいで頼んでくださる方が多いですね。だいたい1時間くらいのコースが多いかな、でも23区内であれば我々はどこまででも走りますよ!
津田:え!? 23区内どこでもですか!?
井尻:対応はできます! まあ電車で行く方が圧倒的に安いですが(笑)。
人力車ならではのスペシャリティを味わってほしい
――最後に、人力車の魅力を教えてください。
井尻:人力車ならではの特別な空間を味わえるところですね。人力車に乗って、一段高いところから街を散策できる特別感、スペシャリティがやはり魅力なのではないかなと感じます。
津田:ご自身が人力車に乗られることもあるんですか?
井尻:旅行先で乗ることもあります。その時代にタイムスリップしたように町並みを見せてくれる、夢中にさせてくれるような車夫に出会えたときのよろこびは格別なんですよね。そういう出会いがあるところも、人力車の魅力のひとつだと思います。
津田:やはり乗ってみないことには味わえない魅力がありますよね!
井尻:そうですね! 短い時間でも構わないので、ぜひ体験したことのない方には1度、気軽に乗ってみていただきたいですね。乗っていただいた際には、人力車の魅力、街の魅力を精いっぱいお伝えしたいと思います!
津田:貴重なお話ありがとうございました!