2018年12月27日(木)
『ファーストクイーン』のゴチャキャラは30年経っても独創的。呉英二氏に今後の展開を聞く【周年連載】
あの名作の発売から、5年、10年、20年……。そんな名作への感謝を込めた電撃オンライン独自のお祝い企画として“周年連載”を展開中です。
▲『ファーストクイーン』のパッケージ画像。(イラスト:天野喜孝) |
第89回では、呉ソフトウェア工房からPC-9801版が1988年9月、X68000版が同年12月に発売され、今年で30周年を迎えたシミュレーションRPG『ファーストクイーン』を紹介します!
『ファーストクイーン』は、“ゴチャキャラ”システムの名で知られるバトルを軸に、戦記モノとしての物語と戦略的な視点、RPG的な探索や育成を楽しめたゲームです。
ゴチャキャラシステムのバトルでは、ドット絵で描かれた兵士やキャラクターたちが入り乱れて戦い、リアルタイムに部隊を指揮する臨場感と兵士1人1人に個性を感じるおもしろさを同時に味わうことができます。
▲PC-98版『ファーストクイーン』の画面。 |
▲2001年に発売されたWindows向けリメイク版『ファーストクイーンI ~オルニック戦記~』の画面。 |
なお、2016年からはスマートフォン向けのリメイク作であるiOS/Android版『ファーストクイーン1』が配信中。多数の兵士を指揮するゲームであるため、スマホの小さい画面ではやや操作しづらい部分が残るものの、現在でもオリジナリティを感じる“ゴチャキャラ”のゲーム性を所選ばず楽しめるようになりました。
▲アプリ版『ファーストクイーン1』の画面。 |
大局から1兵士の死まで体験できるオリジナリティにあふれた戦記ゲーム
まずは、ゴチャキャラシステムを中心に『ファーストクイーン』シリーズのおもしろさを振り返っていきたいと思います。
ゴチャキャラシステムを搭載したゲームの元祖は、1988年4月に発売されたPC-88/X1向けシミュレーションRPG『シルバーゴースト』です。同作でシステムの基礎が作られ、初代『ファーストクイーン』で完成形を見た後に、1994年、シリーズ最高傑作の『ファーストクイーンIV ~バルシア戦記~』がPC-98とDOS/V向けに発売されます。
▲PC-98版『ファーストクイーンIV』の画面。 |
3Dゲームの『ファーストクイーン ザ ニューワールド』が1999年に発売されてから完全新作は途絶えていますが、ナンバリング作品はリメイクやダウンロード版の配信がたびたび行われています。また、1994年にスーパーファミコン版の『I』、1996年にプレイステーション版の『IV』が出ているので、そちらで知った方も多いかもしれません。
▲Windows向けに発売された『ファーストクイーン ザ ニューワールド』のゲーム画面。 |
▲PS版『ファーストクイーンIV ~バルシア戦記~』の画面。 |
なお、『ファーストクイーン』シリーズと言えばゴチャキャラシステムが代名詞ではあるものの、戦記モノであることをを引き立てる戦略要素も欠かせないと思います。
▲戦争の発端が語られる初代『ファーストクイーン』のオープニングシーン。 |
▲砦や街などさまざまなエリアが描かれた初代『ファーストクイーン』の全体マップ。 |
全体マップは戦場となる数多くのエリアが枝分かれする道でつながれ、どのエリアに部隊を進ませるかはプレイヤーの自由です。複数の味方部隊を運用し、敵部隊の侵攻を防ぎながら攻め上がっていきます。
その過程では、プレイによって仲間になる部隊やキャラクターが異なり、エリア内の探索要素があるなど、自由度とゲーム性が噛み合ったおもしろさを体験できました。
▲エリア探索時にはモンスターとの戦いも。敵軍はかなり手強いので、序盤はモンスターでレベル上げ! |
そしてバトルは、最大20名(作品によってはそれに近い人数)の部隊同士がリアルタイムにぶつかり合うゴチャキャラシステムで繰り広げられます。
操作するのは1キャラクターで、他はAIで動くのですが……気がつくと1人だけマップの外れで戦っていてHPが真っ赤になっているなど、兵士たちは自由奔放! 思い通りに動かない兵士たちにヤキモキしながらも、そこに人間味を感じるゲーム性でした(笑)。
また、『ファーストクイーンIV』では、1つの戦場へ同時に2部隊投入できたので、援軍を踏まえて部隊をどのように動かすかという戦略性が非常に重要になって、特に奥深いバトルを楽しめた思い出があります。
▲初代『ファーストクイーン』の画面。敵部隊の侵攻を砦で食い止めているところです。 |
▲『IV』は“同時に”2部隊なだけで、戦場にいるのが1部隊なら何度も増援が……。実質的に2部隊以上を投入できるので、敵増援への対処と味方援軍の活用がカギをにぎりました。 |
さらに筆者の心に深く残ったのは、ドット絵による独特のワラワラ感と後に流行するリアルタイムストラテジーのような臨場感が表現されたうえで、兵士1人1人が違う名前とレベル・能力を持ち、しかも戦場で死んだキャラクターは永久に戻らないシステムだった点です。
外観がクラスごとに共通で兵士の数が多いので、普段は名前や能力の違いなど意識せず“名もなき兵士”の感覚でプレイします。しかし、兵士が危機に陥ったり死んだりすると、1人1人が違うことを急に意識してしまう。苦楽をともにし、手塩にかけて(というか死なないように注意を払って)育てた兵士が死ねば当然悲しいわけで!
少数のユニットを動かすターン制タクティカルゲームは別として、多くの戦争SLGでは“兵士の死”が“数値の減少”であり、何ら特別でない兵士の“誰が”死んだかまで意識しません。
SLGはそういうシステムのゲームしか体験してこなかった筆者にとって、戦争らしさと戦略的な流れを持ちつつ、1兵士の危機や死に一喜一憂できる『ファーストクイーン』シリーズは新鮮な体験を味わえるゲームでした。
『ファーストクイーン』の次なる展開は?
ゲームに触れ記事を書きながら思ったのは、「やっぱり『ファーストクイーン』はおもしろい!」ということ。スマホ版はマルチプラットフォームに適したUnityで開発されているとのことなので、他機種での展開やスマホ版の今後も気になりますし!
ということで、ゴチャキャラシステムの生みの親であり、65歳を超えた今も現役プログラマーとしてゲームを作り続けるクレイじいさんこと呉英二氏に、簡単なメールインタビューを行いました。『ファーストクイーン』の次なる展開は!?
▲呉ソフトウェア工房の作品には、呉氏をモチーフにした“クレイ”じいさんというキャラクターがしばしば登場します。 |
――2018年で『ファーストクイーン』は30周年を迎えましたが、この30年を振り返ってどのような感想をお持ちですか?
ハードの変化につねに追われた30年ですね。この仕事を始めてからずっとそうですが、ゲームの工夫そのものよりもハードの勉強に多くの時間がとられてます。
20年前ぐらいまでは、『ニューワールド』あたりまでは、ハードの進化に合わせて3Dへの移行に必死でした。3Dチップが一般に普及する寸前にソフトウエア3Dを作るという間抜な事をしてました。
そのおかげで、まだ3DチップのなかったノートPC向けに作ったゴルフゲームがヒットしたので、大きな病気を患ったあとも会社として存続できました。しかし、闘病生活が長かったので新たなものを作る気力がなくなり、移植仕事などの仕事をいただいて現在まで会社を続けております。
プレイステーション用の『ファーストクイーンIV』もそれなりに売れましたが、3Dではなかったので風当たりも強かったのを覚えてます。常にハードが進化するので、ゲームプログラマは還暦過ぎても常に“シロウト”なんですよねぇ。
――もっとも思い出深い『ファーストクイーン』シリーズの作品は何ですか?
やはり『ファーストクイーンI』でしょう。PC-88の『シルバーゴースト』をもとに、PC-88ではできないパフォーマンスが出せて、さまざまなアイデアを加えることができました。
プログラムを任せることができたので、私はシナリオに専念することができ、作品作りが楽しめました。
その後、プログラマーとしての私は、シミュレーションゴチャキャラの『DUEL』シリーズを作るのですが、『DUEL98』で作った2部隊戦システムは『ファーストクイーンIV』になって導入されました。
『ファーストクイーンIV』は韓国版・台湾版も作られ、一番息の長い作品なので、これも思い出深いですね。
――65歳を超えてもプログラムを書き、ゲームを作り続けるモチベーションはどこから湧いてくるのでしょうか?
ガキのころからオタクでして、ゲーセンに入り浸っておりました。PCを手にした時はゲームがたくさんできてホント嬉しかった。
ゲームをやるためにPCにソースコードを打ち込みました。そのうちにプログラムがわかるようになってゲームをプログラムするのもおもしろくなりました。どんなゲームも好きで、移植仕事で他人様のソースを目の前にするると、思わずよだれが出ます(ウソです)。
流石に還暦を過ぎると記憶力も衰え、引退しようかと思ったこともありましたが、やはりゲーム作りは楽しく、ゴチャキャラのようなものを作っていると、作者の意図しない動きもしてくれます。
一番の励みはユーザーさんからの支持とお仕事の依頼ですね。頼まれれば頑張るしかないです!
――ライセンス無料のゲームエンジンなどが追い風となって、近年、個人や少人数チームでゲーム開発をする人が増えつつあります。現在の状況をどのように感じられていますか?
30年前のPCゲーム黎明期のようで喜ばしいことです!
何を使って開発しても、オリジナリティのある作品になっていれば、リリースして世に問うて下さい!!
しかし、エンジンを使って開発しているうちに、深い知識が要求される場面にも合うでしょう。サンプルが動いただけで安心してはいけません。ただ、それが最初の一歩ではあることに違いはありませんよ。後は粘りと根性です!
私は現在ゲームエンジンUnityを使っていますが、2Dの基本的な部分のみ使ってます。
――現在の最新作としては、スマホ版『ファーストクイーン1』が配信されています。スマホで『ファーストクイーン』を出そうと思うきっかけは何だったのでしょうか?
自分の作品を残そうと思うようになったのは、ようやく体力が回復した10年前ぐらいからです。
とりあえず、使える素材の残っている『ファーストクイーンI』をWEBで公開できるように作り直すことを考えました。
プログラムは使えないので、全部作り直しました。JAVAからFLASHとプログラムを試している間にも、環境の変化に常に脅かされてました。ようやく、PADでのリリースを目標に定めたのが数年前です。会社を始めたころには想像できないゆっくりしたペースですね。
確かに小さなスマホではゴチャキャラがやりにくいと思って悩みましたが、ゲームの設計を画面サイズフリーにして、後はユーザー様にお任せしようと思いました。
すでに還暦になっていたので、のんびりやって行こうと思ってからは肩の力が抜けて、30年ぶりにゲーム作りを楽しんでます。
――『ファーストクイーン』の次なる展開について、企画していることや予定していることはありますか?
スマホ版を出してから、韓国や台湾からもメールをいただいて励まされました。
今回プログラムを作り直したこともあり内容的にもPC版『ファーストクイーンI』とはかなり異なっています。
そこで、もう少し直して『ファーストクイーンI改』としてPC版で配信しようかと考えております。
スマホ版は、iPhoneX対応などもありますので、のんびりもしていられないですが、シミュレーション部分を強調して簡単に遊べるものを配信して行こうかと思ってます。
今でもプレイ可能な色褪せない名作
『ファーストクイーン』は、シリーズ4作が発売された1990年前後の当時、他に類を見ないゲーム性を評価されました。上記で後年流行するリアルタイムストラテジーを引き合いに出したものの、一般的なそれと比べるとキャラクター性が強く、そのゲーム内容は今遊んでも独創的に感じられると思います。
また、戦闘がリアルタイムであるためエリア内の探索とバトルがシームレスで、部隊を率いたままRPGのように遊べてしまうのもかなり特徴的なところです。アイテムを集めたり、仲間を増やしたり、時に強敵のモンスターと戦ったり、RPG的に探索をして遊べる部分が多いので、RPGファンも楽しめる作品でしょう。
ちなみに余談ですが、ゴチャキャラシステムを搭載した作品は『シルバーゴースト』と『ファーストクイーン』以外にも複数存在し、その中の1つに1995年に発売されたPC用RPG『ダークセラフィム』があります。これもおもしろい作品だったので、『ファーストクイーン』ファンで同作に思い出がある人も多いのではないでしょうか。筆者はなぜか、本編以上にボーリングの記憶が強いですが(笑)。
閑話休題。30周年を迎えた『ファーストクイーン』シリーズは、オリジナル版がプロジェクトEGG、Windows版(※)がベクターPCショップにて配信され、コンシューマ版もPSアーカイブスとして『IV』が配信中です。また、前述の通りスマホ版『ファーストクイーン1』も遊べます。
※『ファーストクイーンII』はWindows10で動作しないとのこと。
筆者のイチオシは、家でじっくり遊ぶなら『ファーストクイーンIV』、短時間ずつコツコツ遊びたいならスマホ版『ファーストクイーン1』です。スマホ版には一応課金要素があるのですが、ゲームバランス的に必須ではなく、開発の支援的な意味合いが強いのかなと勝手に思っています。なお、アプリの価格は600円なのでボリュームに対して超お手ごろ!
ゴチャキャラと聞いて懐かしく感じる人は今一度、新たに興味を持ってくれた人がいればこの機会に、『ファーストクイーン』をプレイしてみてはいかがでしょうか。勇者よ。忠誠、豪胆、幸運であれ!
なお、本記事にて掲載したPC-98版『ファーストクイーン』および『ファーストクイーンIV』の画像は、プロジェクトEGG版のものを使用しています。いずれも往年のタイトルをWindowsマシンで遊べるレトロゲーム総合配信サイト“プロジェクトEGG”にて好評配信中です!
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※PC-98版『ファーストクイーン』および『ファーストクイーンIV ~バルシア戦記~』の画像はプロジェクトEGG版のものを使用しています。