2013年11月1日(金)
戦車はそもそも、歩兵の支援のために作られた兵器で、敵の砲弾を受け止めながら塹壕を越え、戦線を押し上げる役割を期待されました。戦車が登場した当初は、そのために無限軌道があり、分厚い装甲があったのです。
戦車が塹壕を越えられるようになると、塹壕を使っての膠着戦は意味をなくし、機動力と火力で敵の戦線に穴を開けて浸透する“機甲戦術”が考案されました。騎兵の考え方と近いので、戦術が中世に先祖返りしたようなものです。こうした戦車の発展は、イギリス軍の戦車分類を見るとよくわかります。
第二次世界大戦の当時、イギリスには2種類の戦車カテゴリーがありました。すなわち、歩兵戦車と巡航戦車です。歩兵戦車は超壕能力(塹壕を乗り越える能力)と装甲が重視され、機動性は二の次でしたし、さらには砲も、対戦車用というよりは歩兵の支援用でした。これに対して、対戦車戦を想定したのが巡航戦車です。装甲は薄くとも、機動性を高めて敵戦車の移動へ迅速に対応し、さらに対戦車性能の高い砲を積んでいました。
後に、歩兵戦車は兵員輸送車へ、巡航戦車は主力戦車(MBT)へと変化します。こうした進化の中で、敵戦車に撃ち抜かれない厚い装甲と、敵戦車を撃滅できる強力な砲を積んだ、重装甲の巡行戦車が要望されるようになりました。これが【重戦車】です。その後に主力戦車というカテゴリーができ、走攻守のすべてが高い次元で融合すると、重戦車は消滅します。重戦車は、第二次世界大戦と、その後のわずかな期間しか見ることができない、“時代のあだ花”なのです。
▲巡行戦車は英語で書くと“Cruiser Tank”。ちなみに、イギリス軍の主力戦車はこの名称の流れをくんで、CovenanterやCromwell、Centurionなど、“C”で始まる名前が付きます。 |
ドイツとフランスでは、Tier IVから登場する重戦車。確かに、同Tierの戦車に比べると強い気もしますが、圧倒的に強いかと言えばそんなこともありません。
【長所】
・ぶ厚い装甲。
・強力な火砲。
【短所】
・中戦車よりも遅い速度。
・過信できない火砲。
・過信できない装甲。
Tier IVでようやく登場するドイツ軍の重戦車“D.W.2”の場合、同Tierの中戦車である“Pz.Kpfw.III”と比較して、前面装甲がより薄いことがわかります。D.W.2が50mmで、Pz.Kpfw.Ⅲが70mm。なんてこったい! ただし、その他の装甲は厚いので、何とか重戦車の面目躍如といったところでしょうか。
D.W.2の搭載砲は、さすがの75mm砲。ただし、これも与えるダメージは大きいものの、装填時間が長く、かつ装甲貫徹力は低いという、“帯に短したすきに長し”といった代物。短身砲だからしょうがないですかね。ちなみに同口径の砲の場合は、砲の長さが威力に比例します。砲身内で加速を続ける方が初速が上がり、かつ直進性が増すので、命中率と威力が上がるのです。
ドイツ軍の重戦車だけは、砲塔であろうが車体であろうが全周で同じ厚さの装甲を持っており、このせいで器用貧乏というか、今いちパッとしない印象があります。一方、同Tierのフランス軍の重戦車“B1”は前面60mmですから、D.W.2より厚くなっています。戦術的にはドイツに軍配が上がりますが、D.W.2は避弾径始(※後述)的にも優れない垂直装甲で、戦車としての性能はいまいち。D.W.2を相手にする時には、50mmの装甲を抜ける砲があれば対処可能です。
▲小官が使用しているD.W.2です。主砲は、威力より装甲貫徹力を重視して、50mm砲に換装しております。装甲抜けなきゃ意味ないし! |
避弾径始というのは、装甲の角度を傾斜させることで、砲弾の持つエネルギーをそらすという考え方。装甲に対して垂直に直撃するのが、砲弾の威力を一番高めるのですが、装甲が傾いていると直進するための運動エネルギーが傾斜しているほうに分散されるので、貫徹力が減衰し、別の方向に弾がそれてしまいます。
さらに傾斜させることで、見せかけの装甲も厚くすることができます。これは方形で考えれば、各辺の長さよりも対角線のほうが長いということ。正方形の場合なら、およそ1.4倍の厚みになります。またフランス軍の戦車やソ連軍の戦車は、砲弾を跳弾させることを重視して、曲面の装甲を多用しています。なお、装甲の傾斜角度を地面に対して末広がりに取るのは、下方向に逃がすと足回りにダメージを被る可能性が高いためです。さらに装甲もただ傾斜させればいいというわけではなく、きちんと角度を考えないと、装甲で弾かれた跳弾が当たって、砲塔が吹っ飛んだりすることもあったようです。
▲性能はそれなりに優れていたものの、運用方法はお粗末で、あまり活躍できなかったフランス軍の重戦車“B1”。マジノ線に集中的に配備され、アルデンヌの森を抜けたドイツ軍に追いつけなかったとか、通信機がなくて車長が手旗信号で僚車に指示を送っていたとか、いろいろ言われています。 |
重戦車の戦い方は、前線で敵の砲撃を引きつけつつ反撃する“後の先”的な立ち回り、あるいはロングレンジからの敵車両の撃破を狙うというもの。とはいえ、低Tierの重戦車はそんなに装甲が厚くないので、前に出すぎるのは禁物。障害物を盾にして戦うというセオリーは変わりません。また、こちらが重戦車と見るや、敵はこぞって履帯を切りに来ます。小官も「どうせ装甲が貫通できないなら」と、履帯を狙います。まぁ、考えることは皆同じです。ですから、他の戦車に比べて足回りへの攻撃には要注意です。いかに重戦車と言えども、動けなければただの鉄の箱ですから。
▲敵の重戦車の履帯を切ったはいいものの、こちらの履帯も切られて、にっちもさっちもいいかない状態に……。 |
戦いには慣れが禁物で、実はここ10戦ぐらい、1両も撃破できない情けない状態が続いています。自分の戦車も強くなり、能力を過信しているからかもしれませんが、強くなっているのは敵も同じ。ましてTier IIIぐらいからは、敵の中にTier Vの戦車がいる戦場に放り込まれることもしばしばです。初心を思い出し、セオリーに立ち戻った地道な戦闘を心がけましょう。それでは皆さん、また来週!
10月18日に掲載した第3回の記事で、どの戦車も超信地旋回ができると書きました。が、読者の方から「一部の車両では超信地旋回が不可能で、信地旋回しかできないのでは?」とご指摘をいただきました。確認したところ、駆逐戦車と自走砲、並びに一部の戦車のみ超信地旋回が可能で、他は信地旋回となっていましたので、ここに訂正いたします。ご指摘ありがとうございました!
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