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【ウマ娘が1.8倍楽しくなるお話 13】そんなのアリ? だからこそおもしろい! ってお話

柿ヶ瀬
公開日時

 菊花賞はタイトルホルダーの見事な優勝でした。

 セイウンスカイ以来の逃げ切り勝ちということで、ウマ娘から競馬に入った方も非常に楽しめたのではないでしょうか。セイウンスカイの騎手は横山典弘騎手。そしてその年に生まれた息子、横山武史騎手が23年ぶりに同じ逃げ切り勝ちをするという不思議な巡り合わせ。勝ち馬タイトルホルダーは先日亡くなった父ドゥラメンテに捧げる産駒初GI、しかも二冠馬ドゥラメンテが怪我で走れなかった菊花賞を勝ったということなど、いろいろな事象をつなげてドラマのように楽しむこともできるのが競馬の楽しいところでもあります。

 『ウマ娘』から競馬を見るようになった方も多くいらっしゃるでしょうが、いろんな形で楽しんでもらえればいいなと思います。馬券取れました柿ヶ瀬です。

 さて、前回アグネスデジタルにスポットを当てて、さまざまな視点からアグネスデジタルのキャラクターデザインを考えてきました。

 その中で、さまざまな「そんなのアリ?」があったと思います。しかしアグネスデジタルほどではなくても、ウマ娘にはその馬の持つエピソードやイメージを、普通そうはならんやろ~、という形でキャラクター要素に昇華させている「そんなのアリ?」なウマ娘が何人もいます。今回はそんなお話をしていこうと思います。

 ダメですよ、そもそも競走馬を美少女化させてる時点で既に「そんなのアリ?」なのでは? なんて言っては!

ママキャラの裏にはあの人がいる?

 先日はハロウィンとしてミイラ(マミーだから?)衣装の星3育成ウマ娘が登場したスーパークリーク。ご存知の通り、タマモクロスやナリタタイシンばかりか、トレーナーすらも子どもに見立ててママになろうとするウマ娘です。

 さて、スーパークリークと言えば、オグリキャップ、イナリワンとともに第二次競馬ブームの立役者である平成三強の一角です。しかしそれとともに、もうひとつ語られる大きなファクター、ウマ娘には欠かせない男、4000勝ジョッキー武豊が関係しているだろうと思います。

 時は1988年の秋。まだギリギリ昭和だった菊花賞。デビュー2年目、19歳の武豊が初めてGIを勝利しました。その後JRAのGIを77勝(地方GIを含めれば100勝以上)するレジェンドに最初の勲章をもたらした馬こそがスーパークリーク。そこに至るドラマも、そこからのドラマもたくさんありますが、ここは皆さんで調べて知っていただければ幸いです。

 ともあれ、JRAのCMにおいても“天才を天才にした馬”と評した、いわば武豊を「育てた」とも言うべき馬。

 これは筆者の想像でしかないと一応は言っておきますが、ママキャラになった理由がそれだとするならば……すげえことするなあ! ってなりません? もっと、こう、いろいろと方法もあったと思うんですよ! 確かにスーパークリークは500kgとかある大型馬でしたよ。ビワハヤヒデが出てくるまでは顔がデカい馬と言えばスーパークリークでしたよ! そういう意味も含めて包容力とか、そういう方向に持っていったのかなと、なんとなくわかるのですが……。

 常人にはそれを後から想像できても、創造することは難しい。『ウマ娘』のキャラの造形は一種の天才だと思うところがあります。

印象を反転させて武器にする。そんなこともある

 ゼンノロブロイは、メガネをかけた文学少女然としたウマ娘。ロブロイ以外にもゼンノエルシドなどがいるゼンノの冠名に加えて、スコットランドの英雄、ロバート・ロイ・マクレガーことロブ・ロイから(ゼンノエルシドのエルシドは恐らくスペインの英雄エル・シッドからでしょう)。

 そんな英雄の名を持つ競走馬を、それに憧れる文学少女にしただけで充分にアクロバティックです。しかしそれだけではないような気がします。

 ゼンノロブロイは天皇賞秋、ジャパンカップ、有馬記念と、『ウマ娘』の称号にもある、秋古馬三冠を制した名馬です。これを達成したのはわずかに2頭。覇王テイエムオペラオーと、ゼンノロブロイだけ。そんな快挙を達成したゼンノロブロイなのですが、今ひとつ地味……というと言い方は悪いのですが、やはり控えめな印象であったと思います。

 その理由は色々考えられます。ピークが2004年の秋だけで、他の年(なんなら2004年の春も)はよく言えば安定している優等生的な成績。悪く言えば善戦マンと言うような成績であったこと。

 同期にネオユニヴァースという人気の二冠馬、そして牝馬にはスティルインラブという三冠牝馬がいたこと。1つ上にシンボリクリスエスという古馬中長距離の筆頭がいて、ロブロイが秋古馬三冠をする前年に天皇賞秋連覇、有馬記念連覇(ジャパンカップは連続3着)の成績を残し、有終の美を飾ったまま引退したこと。

 そして秋古馬三冠を達成した翌年、ディープインパクトというスーパースターが現れる中での引退、特に引退レースはあの“ディープインパクトが負けた有馬記念”であったこと。世間ではゼンノロブロイの引退よりもディープ敗北の衝撃が大きかったのです……。

 GIを3勝している、しかも歴代で2頭しかいない秋古馬三冠。もっとレジェンド扱いされてもいいと思うんですが。例えば今年JRAの出してる競馬雑誌『優駿』誌上で行われた“新世紀の名馬”というファン投票企画での結果は52位。メチャクチャ良くもないけど、さりとて悪いわけでもない。ファンもちゃんといるけれど、誰もが認めるスーパースターには一歩届かない。いっそ勝てそうで勝てない馬だったり、勝てなくて勝てなくて、ようやくGIに手が届いた、とかなら逆に特殊な人気があったかもしれないけど、秋古馬三冠という大きな勲章もあるわけで……。そんな、目立つところもあるのにどこか地味という、ある意味不思議な競走馬でした。

 そんな少し地味なイメージのある競走馬ゼンノロブロイ。そして英雄ロブ・ロイという勇ましい名前を持つ競走馬ゼンノロブロイ。この2つを絡み合わせた結果……

“英雄ロブ・ロイに憧れを持つ少し控えめな印象の文学少女”

 ができ上がったのかもしれません。地味とか控えめという言葉は基本ネガティブです。競馬においても決して褒め言葉ではありません。しかし、『ウマ娘』のように美少女がたくさん登場するコンテンツにおいては決してネガティブなだけではありません。確実に需要があることは、他にあまたある作品を見ても明らかです。

 そんなネガティブなイメージを、ポジティブな形でキャラクターデザインに反映させていたとしたら……ぐうの音も出ません。育成ウマ娘としての実装はまだですが、ストーリーがどのようなものになるか、楽しみですね。

彼女がウマドルを目指すのはきっと理由がある

 皆さんご存知、“砂のサイレンススズカ”こと、トップウマドルを目指すスマートファルコンです。スマートファルコンが皐月賞で芝に見切りをつけたあと、ダートに転身して勝ちまくった……というのは、なんとなく皆さんも育成ストーリーなどでご存知の通りだろうと思います。

 ですが正直なところ、『ウマ娘』においては現実のスマートファルコンを描ききってはいません。その理由は簡単で、地方競馬場が大井競馬場しか実装されていないからです。

 現実のスマートファルコンは、3歳の8月、小倉でKBC杯というオープン特別を走った後引退までの3年半、実に25戦。中央競馬に所属していながら、ずっと地方競馬場(そして1度だけドバイ)を走っていたからです。

 さて、中央の強い馬が一切中央のレースを走らずに地方の重賞ばかり勝ちまくっていたら、どうなると思いますか? そうです。ヒール扱いされるんです。

 中央競馬との地方競馬は、全体的に見ればやはり実力差が大きくあります。そんな中で中央の馬がずっと“地方でだけ”走ることに思うところがあった人は多かったように思います。それに加えて、スマートファルコンがいかに地方で無双したかの証拠を示すように、オッズが安くなるのです。地方GIIIあたりではもう単勝オッズ1.1倍とか1.3倍とか。ひどい時は1.0倍の“元返し”と言って、100円の馬券を買っても100円のまま返って来てしまうのです。2011年にはGIである東京大賞典すら単勝1.0倍になったこともありました。そして圧倒的人気の時は大体勝ってしまうので馬券の旨味もない。

 スマートファルコンのファンも大勢いたでしょうが、ヒールとして見られてしまう理屈も少しは理解いただけるのではないでしょうか。もちろんスマートファルコン自身にはなんの罪もありませんが……。

 ですが、そんなスマートファルコンが、いや、そんなスマートファルコンだからこそ『ウマ娘』ではトップウマドルを目指すのではないかと筆者は思うのです。当然強さもですが、それ以上に“ファンに愛されよう”とするのです。だからこそ地方しか走ってないという事実を、アイドルがファンを増やすために地方を回っている、というモチーフにしたのではないか……。

 いや、これは本当にすごいと唸るしかないんですよ。ライスシャワーなんかもそうですが、ヒール扱いされていたことすらも武器にできるように、しかも捻りまくってはいるものの、史実に沿っていることで納得ができるようなキャラクターデザインになっている。そんなのアリ? と思いつつも、『ウマ娘』というコンテンツにする上で、答えはこれしかなかったのではないかと思わされるのです。

『ウマ娘』のキャラクターデザインはやっぱりすごいんです

 以前も『ウマ娘』のキャラクターデザインここがすごい! というお話をしたことがありました。今回はその続編とも言うようなお話です。

 どの馬も手を変え品を変えさまざまな方法で史実をキャラクターデザインへと反映させているのですが、今回はその中でもそんなのアリ? と思えるようなウマ娘たちを紹介しました。史実をおもしろくデフォルメしてみたり、ネガティブなイメージを逆に活かしてみたりと、ものすごく考えられた、それでいて、豪胆にすぎる設計がなされていて感心します。

 本当は1頭1頭全部史実がこう反映されてるのではないかっていう話もしてみたいのですが、ウマ娘もたくさんいますので一気にお話しすることはなかなか難しいです。一晩どころか二晩は最低でもかかります。なのでまた機会があれば、何かしらのテーマでもって紹介できたらいいなあとも思います。

 また次回もこういった“楽しみ方”を提示していければと思いますのでお時間ありましたらぜひご一読いただきたければ幸いです!

 それではまた!



【コラム】ウマ娘が1.8倍楽しくなるお話

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