『東方』世界とキャラの表現へのこだわりがスゴイ。『幻想少女大戦』開発者の熱い想い【電撃インディー#258】

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 電撃オンラインが注目するインディーゲームを紹介する電撃インディー。今回は『東方Project』ファンゲームの弾幕シミュレーションRPG『幻想少女大戦 - DREAM OF THE STRAY DREAMER -』の開発者インタビューをお届けします。

 本作は、『東方Project』のキャラクターが登場するシミュレーションRPGです。本記事では、開発者の“さんぼん堂”代表のさんぼん氏にお話を伺いました。

 なお、電撃オンラインは尖っていてオリジナリティがあったり、作り手が作りたいゲームを形にしていたりと、インディースピリットを感じるゲームをインディーゲームと呼び、愛を持ってプッシュしていきます!

『東方』世界とキャラの表現へのこだわり

──まずは『幻想少女大戦』の注目点を教えてください。

 全部です! ……というとおこがましいのですが(笑)。『東方Project(東方)』の世界とキャラを表現するために、あらゆる面で死力を尽くしたところでしょうか。

 「あのキャラなら何て言うか」「このキャラクターはどんな風に戦うか」「このキャラらしい曲は何か」。そういった“らしさ”を追求しています。

──ゲームタイトルにこめた想いを教えてください。

 タイトルは、みんな大好き王道シミュレーションRPGの響きが出るように意識していました。

 その上で『東方』の世界観を表す言葉として“幻想郷の少女=幻想少女”をタイトルに盛り込んでいます。

 “幻想少女”というフレーズは今でこそ各所で聞くようになりましたが、命名当時(本作の元となるPC用タイトル『幻想少女大戦 紅』は、2009年12月に体験版が頒布)は珍しかったと思います。

 結果として“幻想少女”の“大戦”となり、狙ったニュアンスが出てくれたかと思います。

 余談になりますが、略称として用いている『GSW』は『Gensou Shoujo Wars』に由来しています。GirlsではなくShoujo、FantasyではなくGensouなのは、日本語や『東方』独特の響きやニュアンスを大事にしたかったためです。

──開発をするうえで、特に気を付けた点を教えてください。

 ひとつは、『東方』世界とキャラの表現です。とくに、幻想郷の四季は美しいだけではなく、死生観を併せ持った重要な要素ですので 、季節感の出し方に気を付けました。

 スタッフに道産子が多かったため、春雪異変(『東方妖々夢』での異変)のシーンの明るさは議論になりましたね。「雪夜は暗いけれども暗くない!」という熱弁を受けて、現在のような明るさになっています。

 開発ではこういった、スタッフからの熱い想いに全力でこたえることも意識していますね。

 例えば当初、和解イベントは今ほどの規模を想定していなかったのですが、スタッフの声にこたえるうちに専用ムービーができあがり、ゲームシステムそのものが変わりと、非常に大がかりなものになりました。

 当然、少なからずスケジュールに影響はあったのですが、自分も“妖の章”のラストに関してスタッフに想いをぶつけてやりたいことを形にしていたんですよ。

 ですから、ここはスタッフの想いを受け止めるべきだろうと考えて、和解イベントは力を入れて制作しました。

 あとは、『東方』世界にウソをつきたくないという思いから、時間の経過やモノ同士の位置関係など、すべてを整合させることにも神経を使いましたね。

 博麗神社の入口の方角など、諸事情を踏まえて原作設定と変えたところもありますが、星蓮船のおおまかな間取りや部屋割りなど作中に出てこない設定も作っています。

──開発中、どういったところに苦労しましたか?

 とにかく膨大なリソースが必要という点が大変でしたね。「『東方』を本気で表現する!」と心に決めていたので、どの作業でも妥協できませんでした。

 その結果、シナリオは延べ100話を超え、曲数も200曲以上。80人近いプレイアブルキャラが登場することに……。要素が多いぶん開発期間も長くなりました。

 システム面でも霊夢用の武器が18種類あるなど、超電磁なマシンもびっくりのボリュームです。もちろん、ただ武器の数を増やしたわけではなく、ひとつひとつこだわって作っています。例えば永江衣玖の“龍魚ドリル”や非想天則の“ブレストブラスター”は絵と音がぴったり合うようにフレーム単位で調整していますね。

──10年を越える開発期間で思い出に残っているエピソードはありますか?

 数年越しで実現したアイデアなど、いくつも思い出はありますね。

 例えば、あるキャラクターが最終章で精神コマンド“愛”をイベントで習得するのですが、これは開発初期からあった構想です。彼女の“愛”が誰に対するどういうものなのか、という解釈は10年の間に変わっていったのですが、彼女がシナリオの中で悩み、成長し、答えを見つけたときは感慨深かったです。ほかにも、魔理沙が成長イベントで見せる決意や、プリズムリバー三姉妹のイベントなど、5年、7年越しで温めていたアイディアは沢山ありますね。

 大変だったこともありますが、開発を通して幻想少女たちと過ごし、夢を遂げられた達成感の方が強いのかもしれません。

自然とキャラクターが動き出すようになっていった

──なぜ、シミュレーションRPGというジャンルを選んだのでしょうか?

 なぜ……というのは考えたこともありませんでした(笑)。

 開発スタッフの全員がシミュレーションRPG好きだったので、それしか頭になかったのだと思います。

──シミュレーションRPGだからこそ描きやすかったものや、逆に描きにくかったものがあれば聞かせてください。

 シミュレーションRPGは読みごたえのあるシナリオを描ける反面、登場するキャラクターがどんどん増えてしまうので、全員をキャラ立ちさせるのが大変でした。

 また、本編の裏では間違いなくみんないろいろやっていたと思うのですが、シミュレーションRPGの物語は基本的に一本道になるので、いわゆるサイドストーリーや寄り道が描きにくかったですね。

──『妖々夢』以降のキャラが幻想郷にいる『紅魔郷』直前の時間軸という、物語のスタート地点はどういった発想から作られたのでしょうか?

 みんな大好き王道SRPGを志す上で、作品間のクロスオーバーは絶対にやりたいと思っていました。

 一方で『東方』世界を自分たちなりに表現したいという野心から、物語のスタート地点をWindows版『東方』第1作である「紅魔郷」としました。

 今思い返すと、開発を通して『東方』の時系列を再構築することで、『東方』世界で何が起こり、少女たちが何を思ったのか追体験したかったのかもしれませんね。

 アップデートで追加された“ドリームモード”に通じるものがあります。

──“登場する人妖の多い『紅魔郷』直前”という物語のスタート地点から、どのようにキャラクターを動かしていったのでしょう?

 はじめは“このときにこのキャラがいたら”と綿密にシミュレーションして、キャラクターごとの役割分担を意識していました。『東方』キャラクターたちを役者に舞台監督をしているような気分で、開発初期には監督をしている夢を見ることもありましたね(笑)。

 ですが、作中でキャラクターたちが出会い、段々と絆を深めていくうちに、ひとりでにキャラクターたちが動き出して立ち位置を作っていくようになっていったと感じています。

 とくに大きなきっかけとなったのは“妖の章”の最終話。「彼女は、ここで大ボスとして立ち塞がるべき」というシミュレーションRPGの開発者としての考えと、「この場面で彼女がこうするわけがない!」という自分たちなりの『東方』の解釈がぶつかり合わせた結果、後者の解釈を生かす形になりました。

 そこからはもう吹っ切れて、キャラクターたちに好きに役割を担ってもらったので“動かす”という苦労はほとんどなかったです。むしろ意外なキャラ同士が仲良くなったりして、見ている側として楽しかったですね。

──逆にスタート地点のために物語上で描きにくかったものや役割を定めにくかったキャラクターなどあれば聞かせてください。

 開発の都合上キャラクターを一気に増やせなかったので、登場が後半にずれこんだキャラクターがいたのは心苦しかったですね。

 活躍シーンが減るのもそうですが、「みんなの輪の中に入れるかな」とか「埋もれてしまわないかな」とか心配したり……。ですが蓋を開けてみると、みんな好き勝手に馴染んでいたので、やはり幻想郷はすごいですね。

──弾幕やスペルカードなどをシミュレーションRPGに落とし込むに当たって、どういった点を意識しましたか?

 シミュレーションRPGは、位置取りをいかにうまく行えるかや位置取りを敵がどのようにして邪魔をしてくるかがおもしろいところです。この位置取りに加えるエッセンスとして、シューティングにおける“弾幕”らしさを盛り込んで本作の弾幕システムが生まれました。

 “スペルカード”は、システム的には位置取りが完成すると単調になりがちな戦闘の状況を変化させる要素です。ただ、スペルカードは単なるシステムとして組み込むわけではなく、個々のスペルカードの意味も含めてシステムとシナリオで描写したかったんですよ。

 そういったゲーム的なおもしろさと、『東方』世界の表現を両立することを意識して弾幕やスペルカードをシステムとして用意しました。

 結果として、プレイヤーの行動を起点にしてボスの性能が変わり、シナリオも進み、スペルカードの意味が語られて……といい具合にまとまったと思います。

──推しキャラ、もしくは俺の嫁がいれば教えてください。

 スタッフごとに推しキャラがいますので、一言では表せませんね……。ということで、各人の想いを預かってきました。

・和解シナリオに丸々一話! 専用ムービーもあるぞ! フラン!
・歌システムで一人五曲! みすちー!
・ゲームジャンルを超えた演出! こいし!
・22話で二回行動! 開発時に愛が溢れた! 早苗!
・戦闘アニメこじらせすぎた! 概念を展示する幽香ちゃん!
・専用マップで蛍が舞う! リグル!
・台詞の元ネタ、竹取物語! 輝夜!

 以上です(笑)。ぜひいろいろなキャラクターを使ってスタッフの愛を感じ取ってください。

──ここ数年でもっとも感銘を受けた、おすすめのゲームについて教えてください。

 原作作品たち……というのは当然すぎるので敢えて別回答を挙げると、『スプラトゥーン2』です。煮詰まったときに無心でシャケをしばいています。早くイクラ投げたいです。

──今後実現したい夢などはありますか?

 目の前の夢は、『幻想少女大戦』を世界に出すことですね。各国のファンからメッセージをいただいているので、まずはそれに応えたいです。結果として、原作作品へのファンを増やせたら何より嬉しく思います。

──ゲームの開発に携わることになったきっかけについて教えてください。

 元を辿ると、小学生のころ家にゲーム機がなく、ずっと妄想ばかりしていたことかもしれません。その渇きが実作にいたったきっかけは、長期休みに友人みんなが帰省してしまったことです。

 故郷から離れ手持ち無沙汰だったので、ずっと好きだった“大戦”的ゲームっぽい動画をなんとなく作ってみました。

 それを「いつかゲームにできたらいいな」くらいの気持ちでネットにアップしたところ思いがけず反響があり、スタッフを募集したら現在のチームができあがって、今に至ります。

 ネットで集まったメンバーが、10年以上オリジナルメンバーで活動を続け、こうして作品を出せたのは奇跡だと常々思います。

 これまで支えてくださったすべての方々に、重ね重ね感謝いたします。

──最後にユーザーに一言お願いします。

 みなさんから「原作への愛を感じる」と言っていただけていることは、何よりの喜びです。

 自分たちの作品をきっかけに、『東方』あるいはシミュレーションRPGを好きになってくれたら嬉しいですね。

 『東方』かシミュレーションRPGのどちらかを知らない人は、本作をきっかけに是非もう片方も遊んでみてください!


©上海アリス幻樂団 ©さんぼん堂
Published by Phoenixx Inc.

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