『トライアングルストラテジー』4つの結末…どれも同列で真エンドが存在しない訳【ネタバレ超ロングインタビュー2】

タダツグ
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 スクウェア・エニックスからNintendo Switch用ソフトとして発売されたタクティクスRPG『トライアングルストラテジー』。重厚な世界観と高い戦略性バトルで話題を呼んだ本作の開発者インタビューを、計3回に渡ってお届けします。

 今回のインタビューのコンセプトは“世界観とキャラクターの掘り下げ”。リリースから約100日が経過したということで、ネタバレを網羅した内容となっています。エンディングに関するお話などもおうかがいしていますので、まだゲームを未クリアの方はご注意ください。

 お話をお聞かせいただいたのは、プロデューサーである新井靖明氏と、シナリオを手掛けた山本尚基氏のお2人。第2回となる今回は、それぞれの正義と信念が激しく交錯する4つのエンディングルートについて、詳しく訊いていきます。

『トライアングルストラテジー』大人のための骨太群像劇、その開発秘話に迫る【ネタバレ超ロングインタビュー1】

結末として辿り着く4つのエンディング── そのどれもが正解であり「真ルート」は存在しない

──ストーリーはグリンブルク、エスフロスト、ハイサンドという3つの国の争いを軸にしつつ、最終的には4つの結末へと分岐していきます。この4つの結末のうち、大元になった物語というのはどれになるのでしょうか?

新井靖明氏(以下、新井。敬称略):それぞれの物語にそれぞれの結末がありますし、少なくともどれが正史であるとか、これが真の物語であるといった差異はありません。ハイサンドにつくロランルート、エスフロストと共闘するベネディクトルート、ローゼル族を守ることになるフレデリカルート、この3つのルートについて、開発中の我々は“ビターエンド”と呼んでいました。最初はこの3ルートだけで終わらせる案もありましたが、ゲーム的には、やはりハッピーエンドも用意するべきだろう、ということで、針の穴を通すような選択の末に辿り着けるセレノアルートも用意した形です。

──セレノアルートだけは唯一、すべてが丸く収まるエンディングというか、あれはビターエンドではありませんよね?

新井:ええ。ただし、厳しい条件付きで成し遂げられる、ゲームならではの奇跡のような位置づけにしよう、という意図がありました。ユーザーさんの間では「真ルート」「真エンド」などと呼んでいただいていますが、開発的にセレノアルートを正解、とする意図はありません。

──個人的には、各ルートごとに重きを置かれるテーマがちょっと変わってくるのかなと考えていたんですよ。ベネディクトルートでエスフロストとの共闘を選んだら、経済戦争と自由競争を突き詰めた世界になりますし、ロランルートでハイサンドと共闘したら、誰もが女神教のもとで平等であるという考えのもと、競争など存在しない世界になっていきます。フレデリカルートでは、そんなハイサンドルートの闇の部分というか、唯一虐げられているローゼル族の解放が主眼になるわけで。

山本尚基氏(以下、山本。敬称略):そうですね。その3つのルートでは、何かを手に入れて何かを失うことになるわけですが、すべてが同格のパラレルワールドとして考えています。なので、岩塩が見つかったことを契機に3国の争いが勃発するという筋書きこそが大元になる物語といえるかもしれません。その基本線からロラン、ベネディクト、フレデリカ、そしてセレノアというそれぞれのルートに分岐して成立するプロットを考えてほしいというのが、基本的なオーダーになっていました。

新井:エンディングを複数作ることになったとき、そもそもこの『トライアングルストラテジー』の主人公って誰なんだろうって話も出てきました。

──主人公は誰なのか……まだその時はセレノアが喋っていなかった時期で、主人公としての箔が弱かったという意味でしょうか?

新井:いいえ、主人公の箔、というよりも想定とのズレという話なのですが、当初プロットの箱書きでは各分岐後のノゼリアの状況がどうなるか、といった概要のみが書かれている状態でした。いわゆるベネディクトルートならば「決闘後、ロランは去り、ウォルホート家はエスフロストと手を結んでハイサンドを討ち、セレノアは王として自由主義的な国を作っていった」といった具合です。

 その結末に導くお話の主役は当然セレノアであろう、という意識で当初は進めていたのですが、書き上げて読んでみたときに、その状況に至るまでの段取り描写の比重が大きくなってしまい、人間ドラマ、情緒の部分が薄まっていました。

 開発も終盤でしたが、最終的には浅野さんがリテイクの判断をし、各ルートの主役はあの3名と定め直し、山本さんと最終調整を行いました。今では英断だったと思えますが、ずいぶん苦労した記憶がありますね…。

山本:そうですね(笑)。元々あった設定を変えたりはしていませんが、3人を各エンディングルートの軸となる人物として立てるために、色々とふくらませた部分はあります。

新井:ここでこういう発言をさせても違和感が出ないように、少し前のエピソードでこんなシーンを書いておかないといけないよね、といった肉付けの仕方ですね。

山本:たとえばベネディクトは、彼が頻繁にデストラのお墓参りをするシーンを追加しています。この一連を見ていればエンディングが分岐する際、彼女に対する想いですとか、シモンやレグナ王に抱いていた感情などが爆発しても、プレイヤーさんはスッと納得していただけたのではないかと思うんですよ。

新井:私のなかでは、最初を全体を満遍なく照らしていたスポットライトが、17話でのルート分岐をきっかけにぎゅーっと個人に絞られていくイメージがありましたね。

物語のクライマックスで感情が爆発 登場人物の成長が真の本質をさらけ出す

──ちなみに自分は、初回プレイではフレデリカルートを選んだんですけど、心情的に一番理解できたのは、じつはベネディクトだったりもしました。悩んだ末、やっぱりフレデリカを放っておけなくて彼女と行動を共にしたわけですが。

新井:なるほど。ロランという選択肢はありませんでしたか?

──ロランが王政に絶望するというのは、1周目の15話の分岐で王都に残り、そのあとの一連の流れを見た自分としては納得がいくんですよ。ただ、だからといって女神教に全てを委ねるというのもどうだろう、と。なまじロランをエスフロストに明け渡したりもせず、彼のために奔走してようやく玉座を取り戻したという想いもあったので「どうして急に極端なこと言うの?」って突き放された感覚があったというか……。

山本:17話の分岐に関しては、ここに至るまでにどのルートをご覧になっているか、特に15話の分岐でどのイベントを直接見ているかによって、受け止め方がかなり変わってくると思います。正直なところ、ここでの受け止められ方の差異については最後まで悩んだところでした。ただ、結末のために途中の選択の幅を無理に狭めさせるということはしたくなかったので、今の形になりました。17話はクライマックスに向けて、各キャラがこれまでに秘めていた感情が一気に噴き出すシーンで、すごく情緒的なんですよね。

──確かに、最後ということもあってかみんなすごく感情的でした。これまで理屈や道義を重んじて天秤の選択に従い、時には自分の感情を振り落としてきた彼らが最後に想いを爆発させるというのは、クライマックスへ向けての流れとしてはむしろ不可欠だったようにも思えます。

山本:エンディングへ向けて盛り上げていくことを意識し、あえてそう書いています。おっしゃるとおり、人によっては飛躍して感じられるかもしれませんが、ロランの選択は、大きな挫折を味わった彼なりに導き出した民を守るための選択ですし、フレデリカの理想論も突然すぎる部分はあれど、あのタイミングで為さねば、うやむやになってしまうことです。

新井:常に論理的だったベネディクトも、フタを開けてみたらものすごく私情を挟んだ意見だったりしますしね。これまでは天秤に結論を委ねてきたキャラたちが、最後の最後で人間らしさを見せてくるシーンですから、そこに違和感を覚える方がおられるのもわかります。

──そういう意味では、彼ら3人を主役としてキャラを立たせ、それぞれが信念を持ったうえで、感情を主張させたゆえの見え方だったようにも思います。自分自身、15話で王都に残ってロランが挫折する瞬間を目にし、だけどそんな彼に寄り添えなかったというのは、今にして思うと感情的だったなと思うんですよ。せっかくの苦労が水の泡だ……って気持ちは、どうしてもあったもので。

新井:15話でロランルートをご覧になっていたからこそ、というところがあるのかもしれませんね。正直、我々の意図としては逆ではありますが、捉え方として新鮮です。

──自分は最初のプレイでは、モラルを信念として突き進もうと決めていたのですが……なんだかブレブレになった気もしています。プレイヤーである自分自身の信念や感情まで突き動かされたという意味では、ものすごく印象に残るシーンでした。

山本:ちなみにロラン、ベネディクト、フレデリカにはそれぞれのイメージカラーがあって、それは各々が持つ信念に基づいて設定されていることにはお気づきいただけましたか?

──ロランはモラルの緑、ベネディクトはベネフィットの黄色、フレデリカはフリーダムのピンクですよね。ただ、あれって17話の分岐では……。

山本:ええ。お気づきになられているようですが、実は17話の分岐でそれぞれが置かれた立場や環境面が影響したことで、その人物の真の本質がわかるようになっています。

──ロランがベネフィットの黄色、ベネディクトがフリーダムのピンク、フレデリカがモラルの緑ですか……。

山本:つまり、おもにモラルルートを進んでこられたうえで、最終的にフレデリカルートを選ばれたというのは、最後までブレていないということです。ご自身の信念を貫かれている。

──途中でいくつかモラル以外のルートも通っていますけど……そう言われると少し自信が持てますね。でも、まさかあそこまでずっと利益や得られるものを重視してきたベネディクトが、内面的には一番自由というか、悪く言えば自分勝手な衝動を抱えていたというのは、なんだか驚きでした。

新井:開発チームの狙いとしては、やはり最後のエンディングを担う3人のキャラに関しては、セレノアと共に歩んできた道のりを経たうえでの変化、すなわち成長を物語の最後に持ってきたかったんですよ。それぞれの変化をちゃんと表現できるよう、何度もお話を練り直しています。15話の3分岐がそのきっかけ、という構造です。

──ラストの分岐についてはずっと色の違いに違和感があったんですけど、そんな狙いがあったとは。

山本:裏設定的な表現ではありますが、その違いに気付いていただけるとうれしいですね。

純粋な青年が味わった大きな挫折 現実を知り、社会にコミットしてしまう瞬間とは

新井:ちなみに、私は個人的にはロランがお気に入りで、好きなキャラを聞かれたら彼の名前を挙げるようにしているんですけど。彼の変化については、やはりいい印象はありませんでしたか?

──先ほどもお話させていただきましたが、極端だなって感じてしまったんですよね。彼については成長というより、挫折による変化という印象が強いので、ちょっとショックを受けたという部分は否定できないです。

新井:プレイヤーさんから寄せられた声にも、そのようなご意見はたくさんありました。なかなか難しいですね……。我々としては成長とは変化であり、挫折も成長の一種だと思っています。

──15話で王都に残ったときの、国民からのロランに対する仕打ちは相当なものですからね。個人的には、ロランへの失望というよりグリンブルク国民の手のひら返しへの失望というか、怒りのほうが大きいですよ。

山本:あそこは確かに極端な表現ではありますが、あえてそういうふうに意識して描いています。王国民のなかにはロランの即位を喜んでいる人ももちろん多いのですが、反感を抱く人も一定数いる、ということをわかりやすく表現する必要がありました。あそこで深い挫折を味わったロランの変化というのは、10代の青年が、20代、30代になる過程で思いのままにならない社会にコミットしていく流れをイメージしています。もちろん、現代と違ってローゼル族の命が懸かっていますし、ロランも女神教がすべてを解決するとは思っていないんですよ。それでも、あの選択をとるしかなかったわけです。

──ローゼル族を犠牲に、多くの民の平和を勝ち取る。何かを犠牲にする覚悟を決めたという意味では、とても勇気がいることですよね。

山本:夢に燃えていた青年が、苦労して憧れていた職業に就いたはいいものの、現実の壁にはじき返されて、なにかをあきらめていく。いつの時代にもあることだと思います。

──多くの大人たちが、多かれ少なかれ経験したことのある挫折ですよね。それが生々しいからこそ、嫌悪感を抱いてしまった部分もあったかもしれません。

山本:自分自身、そういう経験がありますので、やっぱり私もロランのあの選択を否定はできないなって思ってしまいますね。

すべてが元の形に収まるセレノアルート その原点は「ゆきてかえりし物語」だった?

──ロランに関しては、ベネディクトルートでセレノアに対する憧れと羨望がないまぜになった、複雑な心境も明かされます。あれを見たうえでセレノアルートに辿り着くと、感慨深いものがありますよね。自分よりも優れていると自分自身で認めていて、民衆からも人気がある臣下が、じつは自分の地位を脅かす王の血筋であることを明かされて。それでも彼はセレノアを蹴落とそうなんて微塵も考えていないじゃないですか。あそこは器の大きさというか、ロランの人の好さを感じました。

新井:セレノアルートでの王位ついては、山本さんとも議論しました。普通に考えたら主人公のセレノアにするのがしっくりきますが、それはベネディクトルートでセレノアが覇王となる形でやっていますし、さてどうしたものかと。その時、僕はこのセレノアルートの構造は「ゆきてかえりし物語」の構造にしたいなって思ったんですよね。

──『ロード・オブ・ザ・リング』のトールキンによる“ホビットの冒険”のことですね。

新井:「はじめてのお使い」など分かりやすいかもしれませんが、主人公がお家から出て、冒険を経てまた帰ってくるお話。自身が成長したことでこれまでと同じ世界でもちょっと違って見える……というのがいわゆる「ゆきてかえりし物語」構造なのですが、多くの名作で楽しまれている物語構造である、というのを目にしまして。「大人が本当に楽しめるお話」の実現に寄与するのではないかと思い、意識して最終調整を行いました。なので、セレノアルートの主要人物たちは、まだ平和だった物語冒頭の役割・立ち位置と本質的には大きく変えていません。

──言われてみればたしかに。ロランはグリンブルク王になりますし、セレノアはウォルホート家の領主として彼を支えている。その傍らには軍師のベネディクトと妻であるフレデリカが寄り添っている……物語当初の立ち位置のままといえますね。

新井:もちろん、セレノアのやるべきことなんかはずっと多くなっているとは思いますが(笑)。収まるべきところに収まったルートとして、楽しんで頂けていたら嬉しいです。

──あのセレノアルートがあったからこそ、最後に腑に落ちたところはたくさんありました。だからこそ、公式コンプリートガイドでのインタビューで、あのルートは当初実装が予定されていなかったというお話が掲載されていたことにはビックリしましたよ。

新井:セレノアルートを実装するかどうかに関しては、開発メンバー内で何度も議論しましたね。そのうえで、最終的には実装することに決めました。

山本:ゲームというエンターテイメントで、結末をどうにもできないことにストレスを感じるプレイヤーさんは少なくないでしょうからね。正直に申し上げますと、ドラマとしてはセレノアルートがなくても成り立っていますし、シナリオ担当としてはむしろビターエンドの方を推したいという想いもあったのですが、プレイヤーさんたちの反応を見ると、実装してよかったと思っています。ただ、先ほど新井も言っていたとおり、他のルートの選択が間違いだったと思われるのは困るというか、そうしたくはないんですよね。

──だからこそ、真エンドって位置づけにはされていないってことですね。

山本:セレノアルートを真エンドとしてしまうと、他のルートが失敗エンドになってしまいます。どのルートもそれぞれの信念を貫いたがゆえに辿り着いたエンディングなので、どれも間違いじゃないんです。個人的には、一周目だけでもネットや本で情報を仕入れたりせず、ご自身の思う選択肢を選んでその物語を心に焼き付けてもらえたらという想いはあります。正解を探すゲームではないというのは、大きなコンセプトとしてアピールしておきたい部分ですね。

──どれを選んでも正解なんてないんじゃないのか……みたいな選択肢がいっぱいありますもんね。

新井:逆に、どれも正解に見えるようにしたいというのはずっとシナリオチームにオーダーしていた部分ですね。これは投票での選択肢はもちろん、探索パートでの会話ひとつとってもそうです。正直、思っていた以上に難易度は高かったんですけど、それだけに遊んでいただいた方に「どれも正解なんかないですよね」って言ってもらえると、苦労した甲斐があったなあと思えます。

──おかげさまで、本当に悩ませていただきましたから(笑)。つまりは楽しませていただきました。どれも正解じゃなく見えるということは、すなわちどれも正解に見えるがゆえですからね。

山本:どの答えにも一理ありますし、どれを選んでもすべて満足がいくことは少なかったりするのですが、その辺は現実も同じですよね。判断材料はいくらでもあるけど、それを選んだら絶対にこうなりますなんて保証は一切ないわけで。逆にそんなことがわかっていれば、それはただの正解探しになってしまいますから。

──セレノアルートに至るためのヒントが一切ないことも、正解探しにしたくないという考えに由来するのでしょうか。

山本:はい。逆算すれば、あの結末に至るための道筋を納得してもらえるようには作っているんですけど、そこに至るためのヒントがあれば、それを取っていくことが正しいことになってしまいますので、ヒントはあえて入れないようにしました。

あなたは見たことがあるか? ウォルホート家が全滅する衝撃のバッドエンディング

──ではここで、お2人がとくに印象に残っているイベントやエンディングがあればお教えいただけますか?

新井:そうですね……。ちょっとズレちゃうかもしれないんですけど、思い入れがあるというか印象に残っているイベントはバッドエンディングです。ご覧いただいたでしょうか…?

──ローゼル族の村で、探索中に岩塩を見つけられなかったときに至るアレですかね。ハイサンドに容赦なく滅ぼされてしまうという。

新井:それです。あのバッドエンドはアートディンクさんとずいぶん議論しました。「これでゲームオーバーになってしまっていいのだろうか?」と。

──ちなみに自分は、あそこで1回ゲームオーバーになりました(苦笑)。アレは悔しかったですね……。

新井:謎解きというか、探索がちょっと難しいんですよね。でも、あそこでセレノアたちが晒されている局面はそれぐらいシリアスで後がない、ということを表現したかったんです。

─あそこはここまで難局を乗り越えてきたウォルホート家が自分の選択によって成すすべなく滅ぼされてしまうぶん、ある意味見ごたえはありましたね。自分も印象に残っています。

新井:あとは、ベネディクトルートを選ぶと発生するロランとの決闘シーンでしょうか。あそこは先日自分で製品版をプレイして見直したばかりなのですが、展開を知っていてなお号泣してしまいました。ロランを演じてくれている中村悠一さんの迫真の演技も素晴らしいですよね…。

──わかる気がします。自分はベネディクトルートをプレイしたことで、ロランのことが好きになりましたよ。最後の雪の中で見上げるシーンとかも、色々な含みが内包されていてとても味があると思っています。山本さんはいかがですか?

山本:私もやっぱりバッドエンドの全滅ルートがものすごく印象に残っています。あれはシナリオを書いている身からすると、なかなか出てこない発想でして。企画チーム側からあんな結末をやってみたいと言ってくれたのは、すごいことだなって感じます。じゃあ全滅させちゃいますね、と(笑)。

──あんな局面でも、ウォルホート家は誰も逃げたりしないんですよね?

山本:そうなんですよ。全員で最期まで戦い、そして散っていくんです。3つのビターエンドでは誰かしら抜けてしまっていることを踏まえると、セレノアルートとは別の形での一致団結になっていて「ああ、これもひとつの結末だな」って自分でも納得してしまいました。そういう意味では、フレデリカルートの結末も同じく印象に残っていますね。

──フレデリカルートの結末というと……セレノアがイドーの暴走を止めるために犠牲になる、あのシーンのことでしょうか。

山本:はい。先ほどのお話にもありましたが、あのルートの主人公はあくまでフレデリカだからこそ成り立った結末だと思っていて。じつは最初、あそこでセレノアが犠牲になる流れにはなっていなかったんですよ。でも、それだと他のルートに比べてバランスが取れないのでは、という意見があり、じゃあ「セレノアを犠牲にしても大丈夫ですか?」って確認させてもらったうえで、あのような結末になりました。

──なるほど……。

山本:アイデアを出してはみたものの、さすがにそれは……と止められることも多いので、バッドエンディングも含めて、表現したいことをやりきることができたという感覚はあります。プレイヤーさんはきっと驚かれたとは思いますが……。

──そうですね、驚きました。自分は最初に辿り着いたエンディングがあれでしたから、衝撃もひとしおです。

フレデリカはセレノアを待ち続けている? エンディングイラストに込められた想い

新井:フレデリカルートのあの結末は、何度も議論しましたよね。山本さんが言うように、最初はセレノアが犠牲になる形ではありませんでしたから。

──では、どうして今のような離別エンディングになったのでしょう?

山本:遠く離れた別の土地に移住することにはなったけど、そこでみんなで幸せに暮らしましたって終わり方はきれいすぎるというか、ビターエンドではないですよね。他のルートと比較すると、ハッピーエンドに見えてしまう。だからバランスを取ったというと少し酷ですが、新天地に辿り着いたものの、そこにセレノアはいないって結末になりました。

──ビターさが他のエンディングに比べてちょっと足りないんじゃないか……と。

新井:はい。主人公とヒロインが共にいて幸せになると、それはもう正解になってしまうと思ったんですよね。それは最初に定めた趣旨とズレてしまうので、あのような結末になりました。

──ただ、セレノアが死んだって明言もされていませんよね? アヴローラやマクスウェルみたいに生き残っていて、遠い別の地で静かに暮らしている可能性だってありそうだな、と思ったのですが。

山本:実際、死んだと断定はしないようにしています。重要なのはフレデリカがあそこでセレノアのことを想い続けているということですから。

──フレデリカ自身も諦めておらず、セレノアを待っていてくれているんですね。

山本:エンディングの最後にイラストが出てくるんですけど、じつは最初、あそこのフレデリカは手にしたペンダントを見つめているものになっていたんですよ。それをペンダントは手に持ちながら、海を見つめている形に修正したんです。

──なるほど。それは興味深い。

山本:ペンダントに目を落としていると、過去に目を向けているように見えてしまうんです。それはあそこの彼女の気持ちとは少し違いますので、イラストを担当していただいている生島さん(生島直樹氏)や吉浦さん(吉浦利奈氏)と相談して直してもらいました。フレデリカは未来を信じているし、自分の決断を後悔してもいないっていうのを表現したかったんですよね。

──素敵ですね。開発チームの強いこだわりを感じます。

『トライアングルストラテジー』大人のための骨太群像劇、その開発秘話に迫る【ネタバレ超ロングインタビュー1】

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