加速度的に変わっていく日本のインディーゲーム業界とコロナ禍を経て復活したオフラインイベント【SIE吉田修平氏インタビュー連載/電撃インディー#473】

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 “PlayStation”で“インディーゲーム”を推進するインディーズイニシアチブの代表として、現在さまざまな活動を行っている吉田修平氏。ゲーム好きなら名前を聞いたことがある有名人で、ゲームシーンのいろいろな場所で見かけた方も多いだろう。

 この連載では、吉田氏に電撃ゲームメディア総編集長の西岡美道がインディーゲームに関するさまざまな質問を行い、吉田氏から見た世界のインディーゲーム事情や、今後“PlayStation”で発売予定の最新インディーゲームなど、ユーザーが気になる疑問やお得な情報を掲載している。

 今年初の連載となる第3回では、吉田氏が受賞した英国BAFTAのフェローシップ賞の話から、コロナ禍を経た現在のインディーシーンについてうかがってみた。

  • ▲ソニー・インタラクティブエンタテインメント インディーズ イニシアチブ代表の吉田修平氏(文中は敬称略)。

吉田修平PROFILE

吉田修平(よしだ しゅうへい)
ソニー・インタラクティブエンタテインメント
インディーズ イニシアチブ代表

 1986年ソニー株式会社に入社、1993年2月にソニー・コンピュータエンタテインメント(現ソニー・インタラクティブエンタテインメント)に参画。

 以降、“PlayStation”プラットフォーム向けに発売された数々のソフトウェアタイトルをプロデュースし、2008年よりゲーム制作部門であるSIE ワールドワイド・スタジオ プレジデントに就任。

 『ゴッド・オブ・ウォー』、『アンチャーテッド』各シリーズの制作などを担当。2016年10月に発売したバーチャルリアリティシステム『PlayStation VR』の開発にも携わる。

 2019年11月よりインディーズゲームを推進するインディーズ イニシアチブ代表に就任。

少人数開発や新しい技術を取り入れた“インディーゲーム”が、ジャンルと業界を作る

──吉田さんは、3月に行われた英国アカデミー賞(BAFTA)でフェローシップ賞に選ばれていましたよね。まずは、受賞おめでとうございます! 歴代の受賞者を確認してみたら凄い顔ぶれで、本当に驚きました。

 いや、自分でもビックリですよ。歴代の受賞者がアルフレッド・ヒッチコックやスティーヴン・スピルバーグ、ゲームからは宮本茂さんに小島秀夫監督と凄いメンバーばかりなんですよ。そこに並んで自分がいるのは、申し訳ないと思うくらい驚きました。

 自分の理解とはちょっと違っていたんですよ。これまではすごいクリエイターが取られている賞だったのに、自分はプロデューサー的な立場だったので、ああ、それもアリなのかと。

 発表されている授賞理由を見るとゲームを作っていた時だけではなくて、今の仕事であるインディーサポートも含めて評価されていました。広い意味で業界に貢献したと見られていればいいということなので、ありがたくいただきました。

※上記リンク先:Sony games pioneer Shuhei Yoshida to be honoured with BAFTA Fellowship(BAFTA公式サイト)

──受賞の理由自体は、連絡が来た段階で教えてもらえたのですか?

 いや、それが全然。いきなり「BAFTAからのメッセージです」というEメールがポンと来て、そこにpdfがついているだけでした。あやうく、開けなければ気が付かないところだったのですが、開けてみると「フェローシップ賞を与えたいのだけど“BAFTA Games Awards”に来て受け取りますか」という内容だったのです。

 そもそも“BAFTA Games Awards”自体には行く予定があったんですよ。我々がサポートしていた『Stray』などのインディーゲームがアワードにノミネートされていたので、一緒にお祝いするつもりでした。自分が受賞することになるとは、本当に驚きましたね。

──会場でのスピーチでは、吉田さんが初代PlayStationでプロデュースをされていた『クラッシュ・バンディクー』や『グランツーリスモ』から始まり、自分の歴史をなぞらえて今のインディーゲームに関する話をされていましたね。

 あれはもう、言わなきゃいけないと思っていました。世界で注目されているイベントですからライブストリームもアーカイブもありますし、ここは決めるべきだといろいろ考えていました。

 過去にE3で“PlayStation E3 Press Conference”をやった時、そのステージで『Bloodborne(ブラッドボーン)』の発表をしたことはあるのですが、今回はみんながスタンディングオベーション。私のために皆さんが一斉に立ち上がって「おぉーっ!」となるので、アレはゾクッとしましたね。いい気持ちになりましたし、とても楽しかったです。

──本当にすごい賞ですが、フェローシップ賞を受けたことは吉田さんに取ってどんな意味がありましたか?

 実は、同じような趣旨の賞を受けるのは4回目なんですよ。ほかのイギリスの賞をいただいたり、去年の11月にスペインのビルバオインディーゲームフェスティバルで功労賞をいただいたりと、過去にもあったんです。

 ところが、その時はほとんど話題になりませんでした。もちろん、そちらもすごい光栄なことで喜んでいたのですが、今回は反響がすごい! 発表した時からもうブワーと「おめでとう!」と、あらゆるソーシャルメディアやEメールでお祝いの言葉が送られてきて、やっぱりBAFTAの権威や知名度は違うのだなと改めて認識しました。

 私の田舎が京都府綾部市なのですが、今回の件は綾部市民新聞にも載ったんですよ。それは、私の母親が新聞社に「うちの息子が、こんな賞を取りましたよ」と言ったからなのですが、反響の大きさにとても驚きました。普段会わない友だちからも「祝杯をあげよう!」と次々にお祝いされて……。

──Yahooニュースのトップにも載るくらいのビッグニュースでしたからね。そういえば、受賞スピーチの最後にインディーゲーム開発者へメッセージを出していましたが、アレはどういうことを伝えようとしていたのですか?

 今の立場で、今の仕事が評価されているところもあったので、インディーゲームデベロッパーさんに檄を飛ばして「がんばれ!」というメッセージにしたかったんです。今の流れは、もうどんどんインディーへ有利に働いています。

 毎回言っていることですが、AAAタイトルの規模が大きくなってゲームとしては冒険しづらくなっています。

 だから、だいたい決まっているジャンルだったり、サービスゲームのオンラインマルチプレイであったり、そういうポピュラーなジャンルに寄っていますし、そうした大規模のゲーム自体が減ってきています。そのなかで、新しいことができるのはインディーゲームしかない。

 その隙を狙える時ですし、ツール自体も良くなっていますよね。Unreal EngineのEPIC GamesさんもUnityさんもエンジンやツールを良くするだけじゃなく、いろいろな企業を買収して、アートのアセットやAIツールを追加しています。

 だから、少人数でも個人でも世界のどこにいても、ツールをダウンロードしてすごいゲームができる。そして、SteamやPlayStationやiTunesなどのいろいろなプラットフォームで配信できる。土俵が、すごく平等になってきています。

 しかも、その新しいツールの中でも今は話題になっているのがAIツールですよね。大手さんだと権利が心配で、ちょっと注意深く扱われているのですが、インディーゲームはなんでもあり。もう作りたいものを作りたいように作るのがインディーです。

 資金がなくても時間はある若者たちが、そういったAIツールの上手い使い方を見つける頭の良いインディーゲームが出てくるんじゃないかと思います。

 インディーゲームの流れとしては、2022年度のゲームアワードでは『エルデンリング』がさまざまなゲームアワードでゲームオブザイヤーを取り、最後にBAFTAも取ったら主要なアワードをほぼ獲得するというところで取れませんでした。BAFTAのBEST GAMEは、インディーの『VAMPIRE SURVIVORS』なんです。

  • ▲自動で攻撃が発動するキャラクターを操作して、生き残るために戦うローグライトアクション『Vampire Survivors』。世界中で大ヒットを飛ばし、フォロワーも大量に生まれている。

──確かに、あの授賞はBAFTA側の意図を感じました。

 BAFTAはよくやるんです。12月の“The Game Awards”や3月の“Game Developers Choice Awards(GDCアワード)”などのメジャーなアワードの一番最後の発表なので、そこでひっくり返すんです。

 そこで賞を取ったのが『VAMPIRE SURVIVORS』。インディーゲームが、巨大なアワードのベストゲームを取りました。去年も『Inscryption』がGDCのゲーム・オブ・ザ・イヤーを取りましたが、そういうことがあるんです。

 どちらも少人数で作っていますし、『VAMPIRE SURVIVORS』も最初は1人で作っていたゲームですからね。そういったことが、今後ずっと続くのだろうと思います。新しいツールや新しい技術、世の中に新しいサービスが出るたびに、これまでなかったものを若者や少人数の開発が作りだして、業界にあっと言わせてくれるものが出てくるのでしょう。

  • ▲小屋に閉じ込められ、恐怖のカードゲームに興じる『Inscryption』。GDCアワードとIGFアワードのダブル受賞という史上初の快挙を達成した。

コロナ禍を経由して、日本のインディーシーンはどう変わったか

──コロナ禍が過去になってきていると思いますが、海外でのゲームシーンはどう変わったと思いますか?

 インディーゲームにとって、リアルイベントはすごく大事なんです。自分のゲームをイベントに持っていって、手に取って遊んでもらうことでプレイテストにもなりますし イベントにはパブリッシャーさんのスカウトなども来ます。場合によっては投資家も来て、そこでディール(事業への投資)が生まれるということもあるので、それがまたできるようになったというのがすごく大きいです。

──やはり、コロナ禍だとそういう動きは盛んではなかったと?

 オンラインが中心になっていましたからね。いっぽうで、たとえば東南アジアの国のデベロッパーなどがアメリカのGDC(Game Developers Conference)なんかに実際に渡航するとなるとかなりお金がかかるじゃないですか。ホテル代も飛行機代もかかるので無理だったのが、オンラインイベントだったら自分でトレーラーをサブミットするだけでいいので楽になったという話はありました。

 そこを除けば、リアルイベントに行ってパブリッシャーやインベスターに会う機会があるのは、インディーにとって生命線みたいなところがありますから、それがやっと去年からできるようになったのは大きいと思います。

──制作や開発の現場でも、何かポジティブな変化はありましたか?

 もともと、インディーの人たちはオフィスもなく、ネットで繋がってゲーム制作をしていたところも多かったので、リモート対応は普通にできていました。そこは問題なかったようです。

──ああ、確かに。国をまたいでネットで繋がってゲームを作っているなんて話もありますよね。

 登記はあるけど、スタジオがどこにあるのかもわからなくてスタッフがみんな違うところで働いている、そんなケースが結構ありますね。

──すでにリモートになっていたから問題なかったのですね。それとは別に、吉田さんがおっしゃったようにリアルイベントの有無に関しては本当に重要だと思います。

 日本で言えば、本当にリアルイベントが増えました。去年も、2023年3月4日に開催された“TOKYO INDIE GAMES SUMMIT”というPhoenixx(フィーニックス)主催のイベントがありましたよね。

──ぎゅうぎゅう詰めで盛況でしたね。出展社なのか、お客さんなのかがわからないくらい人が詰まっていました。東京だけではなく、今は地方でのイベントもすごく増えた印象があります。北海道や仙台でもやっていますし、把握しきれないくらいです。たとえば、規模は小さいのですが、この間のゴールデンウィークには栃木で初のインディーゲームイベント“栃木 INDIEGAME Devs Digger”があったんですよ。

 そういったイベントを開こうと思ったのは本当に偉いですよ。小さいイベントの場合だと、県単位じゃなくて北関東などでまとめて開催したらもっと注目を集められるかもしれないですね。

 個人でゲームを作っておられる方も多いので、家でずっと作っていると行き詰まってしまう。そういうゲームイベントが地元であれば、学生さんもいらっしゃると思いますし、プロの人たちと会う場にもなるかもしれません。

 学生さんのコンペッションといえば、コナミさんの“Indie Games Contest 学生選手権”以外に“ゲームクリエイター甲子園”もありますね。

 去年はこれの審査員をやらせていただいたのですが、どちらもプロでも行けるようなゲームがありました。前には日本工学院の生高橋君が作った『ElecHead』がありましたが、彼の後輩もすごくいいゲームを出していたんですよ。

 『Death the Guitar』というタイトルですが、アレは本当に素晴らしい。ボタンを押すだけで気持ちよく、審査員が全員一致でIndie Games Contest学生選手権の最優秀賞の授賞が決まりました。そういう学生さんも出てきましたし、Steamを通じて知り合いも増やせます。そうしたら、次はDevolver Digital Gamesなどのパブリッシャーから声がかかるかもしれませんよね。

※音と電気を操って、殺人ギターが人間たちに復讐する『Death the Guitar』。現在鋭意開発中です。

始まりがゲームじゃなくても、何かのきっかけでゲームが生まれる時代

──それこそ、今はSNSで公開していたらダイレクトに反応や連絡が来ますよね。

 これは去年ヒットした『Stray』の話なのですが、アレは最初、ゲームではなかったんですよ。

 もともとは、フランスのUBIソフトのスタジオを辞めた2人のアーティストが、自分たちでアートを作ってアセットストアで売ろうとしていたんです。

 アセットストアに載せる時に、こんな映像が作れますよというサンプル映像として、猫がサイバーパンクな世界を歩いている映像を作ったとか。

 それをAnnapurna Interactiveのプロデューサーが見て、「これはもうゲームにしましょう」と言ったところから開発が始まっています。

  • ▲サイバーパンクな都市に迷い込んだ一匹の猫が、脱出するために大冒険を繰り広げる『Stray』。リアルな猫が興味を示すことでも話題となった。

──えっ、そういう始まりかただったんですか!?

 そうなんです。彼らに連絡して「ゲームを作りませんか」という話から始まって、「いやでも僕たち2人はアーティストなので」と返したら、じゃあチームを作りましょう、会社にしましょう、と人を集めて、それで何人かAnnapurna Interactiveのメンバーもプログラミングなどで入り、ストーリーを書いてできたのが『Stray』。

 それから、私がPS Blogでインタビューした『HUMANITY』もそうですね。あれも中村勇吾さんのチームのプログラマーが、人が動く群像のプログラムをUnityのイベントで見せたんです。

 そうしたら、審査員の水口哲也さんが「これが頭から離れないのでゲームにしませんか」と言って、じゃあやりましょうということで始まったプロジェクトなんですよ。

 だから、とにかく何か面白いものを作ったらとりあえずネットに載せましょう! 誰かが見ていて、ゲームになるかもしれません。

  • ▲一匹の犬となって自我を失った人類を導き、ゴールを目指す独特なパズルゲーム『HUMANITY』。オリジナルステージを作成するモードも用意されている。

──『HUMANITY』も経緯を聞くとインディーゲームだと思いますが、最近はインディーゲームの定義が変わってきましたよね。

 『HUMANITY』は、思ったよりも大作ですよね。我々はそうしたゲームもインディーゲームと呼んでいるのですが、水口さんたちはインディーよりもちょっと大きめのゲームだと捉えているみたいです。私はインディースピリットが溢れていれば、インディーゲームでいいと思っています。

──そう言われると、インディーゲームよりも少し大きめのゲームになった場合、その概念を定義する言葉って浮かばないかも……。

 うちは、それも全部インディーゲームだと定義しています。作っている方たちが「いや、インディーというのはやめて欲しい」と言ったら使わないという形ですね。最近は規模が大きくなってきたり、インディーと言う言葉が昔よりも一般化して、日本でもポジティブな意味で良いイメージになってきたと思っています。

──先ほど『HUMANITY』はデモから始まったゲームだといわれましたが、最初に発表を見た時から映像デモのようなイメージがあったのを覚えています。

 テスト映像だったからこそ、ゲームをイメージしやすかったのかもしれません。そもそも中村さんは、ずっとWebの広告やflash、Unityなどでインタラクティビティな仕事をしていて、ゲームはその先にあるものだと思っていたそうです。

 それで、もしかしてこういうプログラムを見せたらインディーゲームになって、そこから最終的にトップクリエイターのお目がかかるかも……と考えていたら、いきなり水口さんからメールが来て「ラスボスから連絡が来ました!」と言っていました。

 映像やビジュアルからゲームにするということで、最初は自分たちでも作れると思っていたそうなんですよ。だけど、ゲームデザインやレベルデザインで行き詰まってしまって、水口さんにスタッフを入れてもらったそうですね。やはり、見ると作るとでは大違いだと言っていました。

──お話を聞くと、ちょっと佐藤雅彦さんの『I.Q インテリジェントキューブ』を思い出しますね。

 あれも、佐藤さんがアイディアを映像的に思いついたものです。夢で見たものをゲームにしようとしたのですが、最初は本当にゲームにならなかったと言っていました。それで、ゲームのプロたちがルールやゲームデザインをして仕上げたという経緯があり、すごく似た感じがしています。

 『HUMANITY』が初代PS風のパロディCMをしているのも、そこを想起させるということでやったみたいですね。

 今、PlayStation Plus(PS Plus)のエクストラかプレミアムのサービスに入っていればソフト購入なしで遊べるのですが、あれは開発のエンハンスさんから『リトルビッグプラネット』のようにみんなでステージを作ってシェアをするモードがあるので、出来るだけ多くの人に遊んでもらいたいという希望があったからです。

──PS Plusに入っていると、最新のインディーゲームも遊べてオトクですよね。最近は、プレイステーションのなかでのインディーゲームの立ち位置が変わってきているのでしょうか?

 今、社内的にはかなり盛り上がっています。それはやはり、イノベーションや新しいジャンル、クリエイティビティがインディーから来るというのがみんなわかっているんですよ。一部ご意見があったような「プレイステーションはAAAタイトルばかり押している」という印象から、だいぶイメージも変わってきたのではないかと思います。

 そこにはいろいろな課題がありました。1つには一般の方には目に触れないところなのですが、様々なツールについてです。ゲーム開発だけじゃなく、ゲームを売る時のパブリシングする時のシステムがあるのですが、昔うちは会社が3つの地域に分かれていて、アジアも含めて4つの地域でビジネスを運営していたんですよ。それぞれでマスターバージョンデータを納品しないといけなかったり、各地域でルールがちょっとずつ違っていたり、納品するためのシステムが違ったりと準備をするのが複雑だったんです。

 それをグローバル化して新しいツールを導入し、シンプルな作業へ改善してきている点が1つ。

 それから、販売形態としてデジタルの売り上げがどんどん伸びています。インディーゲームというのは基本的にデジタル販売です。

 だから、自分たちのゲームがストアでどのように人の目に触れるかというところも重要ですし、ストアが賢くならないと著名なゲームだけが良く見られる状態になっちゃいます。

 そこをどんどん賢くしていって、ユーザーさんの好みに応じて、好みに合うようなゲームを見せていく、といったことを裏でやっています。

 あとは、パブリッシャーさんが自分たちのゲームをプロモートするために、いろいろなアセットを提出しますが、そのやり方や仕組みも改善しています。

 そういった、さまざまなところで改善をしようと、ここ2、3年ぐらい会社をあげて一生懸命やっています。その効果が少しずつ出てきているんじゃないでしょうか。

──ストアは、ユーザーからすると年を重ねることに売られているゲームが増えて検索しづらくなりますし、重くなっていって見づらく、使いづらくなってしまうことがありますよね。

 ストアの性能もハードのパフォーマンスを要求されますからね。そうした意味では、PS5のストアはPS4よりもサクサク動くようになっています。

──ちなみに、PlayStationの場合はインディーゲームの支援をタイトルごとにもしているのでしょうか?

 いろいろな形でしていますが、タイトルにもしています。たとえば去年の『Stray』にしても、PS版とPC版は出ましたが他の家庭用ゲーム機では出てないですよね。

 いわゆる“コンソールエクスクルーシブ”と呼ばれるのですが、あるゲームに対して「これはPlayStationで推していきたい」という時にパートナーシップを結び、コンソール版は先にPlayStationで出してくださいといった形での支援をして、それ以外にもファンド的なものやマーケティング、プロモーションの場合でも支援をする場合があります。それこそイベントのスポンサーも、その一環ですね。

──インディーゲームは引き続き、PlayStationの中で重要な位置にあるということですね。

 もちろんです。とくに最近は業界全体で言われていることですが“ダイバーシティ”、作り手も、いろいろな人の声をゲームを通じて出してほしいという声ですね。たとえば、東南アジアなどの地域のクリエイターであったり、LGBTQのチームのゲームであったり、いろいろなゲームがあるべきだという動きです。

 とくにインディーゲームにおいては、そういった活動が盛んです。そこをフィーチャーして、場合によってはファンディングしたり、プロモーションしたり、といったことを意図的に努力してやっています。

──日本で行われている“東京レインボープライド(レインボーパレード)”もPlayStationで支援していましたね。インディーは、本当にそういったものをテーマにした作品が多いですね。

 少人数で作っているのもあって、そういった人たちが自分たちはこういうメンバーです。あるいは、こういうテーマを訴えたいというところがよく出てきますね。

──今のエンタメは映画などでもそうですが、多様性を取り込む流れが強いですね。

 ある時、日本のゲーム業界もハっと気づいたんですよ。欧米の流行を追うのではなく、日本的なものを作ると世界中で評価される。自分たちが分かっている文化だし、そこを受け入れてもらえるのだと。

 これは日本だけじゃなく、他の地域でもインディーゲームはたくさん作られているので、差別化の意味合いも含めてその土地の文化を取り入れると、他の国の人たちには作れないゲームが作れます。

 去年もインドへ行った時に、ムンバイをベースにした『GTA』みたいなゲームがありました。あれは本当に、インドの人たちにしか作れないと思いますね。ユーザーさんの知らない世界がそこに描かれているので、見ていてすごく面白いです。

──日本で遊べるもので言えば、インドネシアを舞台にした『A Space for the Unbound 心に咲く花』もそうですよね。本当に良いゲームでした。

 あれも、インドネシアの料理などがバンバン出てきますよね。

──名前を聞いて調べても、どんな料理なのか全然わからないんですよ。そこもすごく新鮮でしたね。

 かつて、インドネシアで流行った映画のポスターが貼られていたりするんですよね。あれは本当に感動的でいいゲームですよ。私もエンディングの1本に選びましたけど、バッドエンディング的なグッドエンディングという感動的なエンディングでした。

──出るまでにパブリッシャーと揉めて発売が延期したあと、違うパブリッシャーさんに変わる事件がありましたが、最終的に出てホッとしました。

 本当に長い間作っていましたからね。センス・オブ・ワンダー ナイト2020で大賞を取り、日本ゲーム大賞2022フューチャー部門を取って……。

  • ▲90年代のインドネシアを舞台にした横スクロールのアドベンチャー『A Space for the Unbound 心に咲く花』。高校生のアトマとラヤに訪れる“世界の終わり”とは……?

──そこまで期待されて長く作っていても、いざ出た時に販売的にうまくいかないこともありますが、ちゃんと良いゲームとして評価されていたのがうれしかったです。 最近だと、小学館の『コロコロコミック』が『カブトクワガタ』というゲームを出して小学生に受けていたり、集英社ゲームズもゲームを出したり、出版社が独自にインディーゲームを出す流れもありますね。

 集英社ゲームズには、うちの“ゲームやろうぜ!”や“PlayStation C.A.M.P!”を手掛けたメンバーがいますね。6月27日に『SOULVARS(ソウルヴァース)』というゲームも出ました。すでにスマホで出ていて評価が高いゲームなのですが、コンソール版はUIを縦から横にしたり、すごく遊びやすくなっていました。

──こうして日本だけで考えても、インディーシーンは変わってきていますよね。

 いや、もうびっくりするほど早い勢いで変わっています。それこそコナミさんやバンダイナムコエンターテインメントさんがインディーゲームのサポートを始められていますし、マーベラスさんもそうですし、小学館、講談社、集英社さんと一気にサポートをされる企業が増えて、インディーイベントも増えています。

 これまで大手のなかでゲームを作っていた人たちが独立してインディーデベロッパーになる例もありますね。そういう流れが一気にわっと来ている感じです。

 電撃インディー大賞2023でもコメントさせていただきましたが、ノミネート作品10本のうち4本ぐらいが知らない作品だったんですよ。調べてみたら、昨年出た日本のインディーゲームだとわかって、すごく驚きました。それはやっぱりユーザーさんに支持されて来ているということで、勢いを感じます。

 ほかにも、テレビで『アトムの童(こ)』というインディーのゲームシーンをストーリーにしたドラマも放映されましたよね。

 私も事前に脚本を読ませてもらっていたのですが、制作された方たちはすごく真面目にインディーゲームシーンについて調べ、向き合っていた方たちでした。

 業界の人が見て「これは違う」ということにならないようにしたいと言われたので、クリエイターのもっぴんさんや生高橋さんを紹介して、実際にインディーデベロッパーの声を聞いてくださいとお願いしています。

 実際のドラマでは『Downwell』が物語的に重要なゲームとして採用されていて、良い感じで使われていましたよね。

 コナミさんの“Indie Games Contest 学生選手権”で一緒に審査員を務めたNHKの“ゲームゲノム”のディレクター・平元慎一郎さんとも話をしたのですが、“ゲームゲノム”はクリエイターの思いがバンと出ているようなゲームを選び、それがなぜ支持されるのかというのを分析してやってきた番組なんですよ。その流れで、自然とインディーゲームも題材に入ってきたと言っていました。

──あの番組は、後半でインディーゲームが増えてきましたね。

 『This War of Mine』とかも扱っていましたね。超メジャーなクリエイターから、かなりマイナーなクリエイターまで取り上げていますが、共通するものはゲームゲノムという言葉で表したいと言っていて、おお、かっこいいことを言うなあと。

 また、そういう感じの番組をテレビでやりたいですと言っていました。よりインディーゲームの裾野が広がっているのを感じますよね。

 人気アイドルがやっているゲームチャンネルでも、インディーゲームを取り扱っていますし、きっとアイドルファンもインディーゲームに気づいてるはず。

──その方たちは、きっとインディーゲームだという意識もないですよね。

 ないと思います。『Stray』も猫のゲームくらいという認識で別に面白ければいい。インディーゲームだと思っていないでしょう。それでいいのだと思います。うちも“State of Play”や“PlayStation Showcase”などの大きなイベントでは、かなり意図的にこれがAAA、これがインディーとは言わないんですよ。万人に見て欲しいので、どれも普通に“ゲーム”として見せています。

 ところが、Webでプッシュする時はインディーゲームファンがいます。だから、もっといいインディーゲームがないかと探している人たちに、これはいいインディーゲームですよと言って、“PlayStation Indies”として推しているんです。ユーザー層とゲーム内容によって、違う推し方をしています。

──セグメントによって分けているんですね。確かに今はインディーゲームと言っても、ヘタなAAAより売れているような作品も多いです。日本の『NEEDY GIRL OVERDOSE』が100万本突破したのも驚きましたよね。

 あのゲームは、テーマが良かったですね。パブリッシャーのWhy so seriousさんはうまい。短期間で早く作られています。

──公開されているインタビューを読むと、当初はゲームになっていなくて、つまらないから発売予定日の3日前に作り直しを決めて延期したとか。発売日直前の会社の残高がマイナス10万で、売れなかったら潰れるくらいの覚悟で作っていたようです。

 売れて良かったですね。その前に『ロードス島戦記 -ディードリット・イン・ワンダーラビリンス-』を出していましたが、アレも良かった。Why so seriousさんは、本当に良いゲームを出しますね。

泣けるものから斬新なものまで、吉田さんがオススメするインディーゲーム

──では、最後に吉田さんが最近遊んだインディーゲームについてうかがってもよろしいですか?

 もうね、ぜひオススメしたいゲームがあるんですよ。先ほど話に出た『A Space for the Unbound 心に咲く花』も良かったのですが、それを越える今年の1番は『Before Your Eyes』。

 ネタバレになるので何も言えないのですが……。ストーリーが短いアドベンチャーゲームなので2時間ぐらいで終わります。映画を1本見る感覚で遊べますし、終わったら十中八九泣くと思いますよ。PlayStation VR2で遊べるタイトルですが、もう、VRヘッドセットのなかで泣いちゃいますね。

  • ▲死後の世界で、人生を追体験するインタラクティブアドベンチャー『Before Your Eyes』。プレイヤーがまばたきをすることで、物語が進展していく。

──そこまで!? 確か、Indie Live Expoでルールズ・オブ・プレイ賞を取っていたのを覚えています。

  もともとは、USCのゲームデザイン学科の学生で、学生プロジェクトで作った作品なんですよ。卒業する時のプロジェクトとして作ったら、これは可能性があるということで何年も練り込んで練り込んで、ストーリーも書き直して出したら2021年のBAFTAで、“エンターテイメントを超えたゲーム賞”を受賞していました。当時は、まだ20代の若手だったのにすごいですよね。

 内容は、まばたきをするとストーリーが進むゲームで、主人公の少年時代から育っていく過程を追体験していきます。少年の視点でまばたきをするごとにゲームが進むのですが、そこだけでも画期的。それに加えて、話が本当に素晴らしい。PC版やモバイル版もあるのでVRがなくても遊べますし、ぜひ触れて欲しいですね。とくに、VRだとインパクトがありますよ。自分が少年になった感覚で体験できます。それが、まず推しの1本です。

 今後出てくるゲームでは、今年の1本に選ぶなら『Viewfinder(ビューファインダー)』でしょう。ビューファインダーで1つの単語です。素晴らしいゲームで、7月18日にPS5でも発売されたので、ぜひ遊んでみてください。

──どんなゲームなのですか?

 えっ、となりますよ。パズルゲームなのですが、考えた人は天才ですね。『Superliminal』と同じく視点を変えると世界そのものが変わるタイプのゲームですが、こちらは写真を撮ります。そして、撮った写真を別のところに置くとジオメトリになって、写真の風景や物体がそこに出てくるんです。

  • ▲撮影した写真を置くと、写真の中の物体が現実化して出現。それを使って謎を解いていく『Viewfinder(ビューファインダー)』。

──写真を使って、世界自体を書き換えていくんですね。

 本当に感心しますよ。ぜひ買ってください。その2本をオススメしたいです。VR以外のゲームでは、3月に出たばかりの『DREDGE(ドレッジ) 』。釣りのゲームと、ホラーゲームが合体した画期的なゲームなんですよ。釣りホラーゲーム。

  • ▲釣りをしながらクエストをクリアして、夜の海に出航。釣りゲームとクトゥルフ神話のホラー要素が入り混じる『DREDGE(ドレッジ)』。

──ゲーム実況配信者のいろんな人が、けっこう配信で遊んでいるのを見ました。

 遊び始めるとやめられないですよ。去年出た『Cult of the Lamb』もやめどきが見つからないゲームでしたが、これもゲーム性は違うのですがそんな作品です。釣りとクトゥルフ神話が混ざっているんですよ。

 釣りで自分の船をアップグレードして、少しずつ行ける範囲を広げて行くと新しい魚を釣れる。それだけじゃなくて、そこにホラーのストーリーが入ってくるんです。すごく面白いですよ。

──インディーゲームは、アイディアの組み合わせで斬新な物を生みだしますよね。しかも、思い付きで終わらせずにゲームにできている。アイディアが尽きないんでしょうね。インディーはフットワークも軽いですから。

 「こんなアイディアがあった!」「これがあった!」ですぐ動けますからね。そういう意味では『Eternights』も今年出ますよ。デートゲームとアクションRPGの合体。ターン性じゃなくてリアルタイムの本格的な3Dアクションなのですが、そこに『ペルソナ』シリーズのようなデートゲームも混ざっているんです。

──最近は、海外でも『ペルソナ』シリーズに影響を受けた作品が増えてきましたよね。

 このゲームの作者はアメリカのApple社やディズニーで仕事をしていた人なんですよ。『アナと雪の女王』などのCGをやっていた人なのですが、「自分はゲームを作りたいんだ!」と言って、奥さんのサポートもあり、会社を辞めて作っているそうです。ヒットして欲しいですね。

──インディーゲームを作るうえでは、リスクを取る人も多いですね。

 やっぱり、リスクを取った人がすごいものを作れるのだと思います。自分の衝動を抑えきれない。ほかにないから自分で作る。それがインディーの良さですよね。


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