『FFXIV』ガイウス・ヴァン・バエサルの目指した世界――“神”の廃滅と、人たる者の生きる道【The Villains of FFXIV】
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人の世は、人によって支配されてこそ、
初めて存在価値がある。
人は太古より、他者との争いで自己を鍛え、
奪うことで富み、支配することで栄えてきた。
つまり、争いの果てに、
強者が弱者を導く先にこそ、未来があるのだ
【ガレマール帝国軍 第XIV軍団長 ガイウス・ヴァン・バエサル】
オンラインRPG『ファイナルファンタジーXIV(以下『FFXIV』)』でこれまで冒険者の前に立ちはだかってきた“敵対者”たちのバックボーンや思想などを掘り下げる独自企画【The Villains of FFXIV】。第0回に続く1回目は、エオルゼアの『新生』後、冒険者が光の戦士として対峙した強敵……ガイウス・ヴァン・バエサルについて振り返っていきたいと思います。
※本企画の解説・考察は、ゲーム内の情報や世界設定本“Encyclopaedia Eorzea ~The World of FINAL FANTASY XIV~”などを参考に筆者が独自に展開したものです。
・第0回:企画序文、アシエン概論
・第2回:願いと祈りが生み出す偽りの神――“蛮神”と、創造魔法にまつわる仮説思考
・第3回:千年戦争の終わりに――教皇トールダン7世の願いとエゴが生んだもの
・第4回:怨嗟に蝕まれた偉大なる竜王――漆黒の翼・ニーズヘッグの生と死を想う
・第5回:竜と人の狭間で、戦いの終結を夢見て――“氷の巫女”イゼル追想録
・第6回:“故国アラミゴ”に囚われた者たち――イルベルド/フォルドラの呪縛
◆“第XIV軍団長 ガイウス・ヴァン・バエサル”概略
◆ガイウス・ヴァン・バエサルのたどった歴史
・銀泪湖上空戦――エオルゼア侵攻における飛空艇艦隊の壊滅
・ネール・ヴァン・ダーナスの台頭と第七霊災
・第七霊災を超えて――新たに“光の戦士”と呼ばれた者との戦い
◆ガイウスとアシエン、そして光の戦士とのかかわり
◆ガイウスの目指した世界――影の狩人としての贖罪
“第XIV軍団長 ガイウス・ヴァン・バエサル”概略
ガイウス・ヴァン・バエサル――ガレマール帝国軍第XIV軍団の長。光の戦士と呼ばれる冒険者と出会うまでに5つの都市国家を征服したというガイウスは、若くから数多くの戦場を駆けてきた武人でありながら政治的手腕にも長け、多くの部下から慕われる勇将です。その思想は、帝国の覇権主義を具現したかの如く“力を持つ者が持たざる者を導くべき”という強者の傲慢さを感じさせるものの、一方で“強者がより多くの義務を背負うべき”とする矜持と覚悟をも備えたものでした。
そんなガイウスは、第七霊災の前後にエオルゼアへ侵攻して各地に軍事拠点を築き、蛮神を屠ることのできる古代の遺物“アルテマウェポン”を起動。それを用いて軍事圧力をかけることでエオルゼア諸国に屈服を迫ったものの、各国グランドカンパニーと冒険者部隊が連携した反抗作戦“マーチ・オブ・アルコンズ”による急襲を受け、第XIV軍団が壊滅。自身も戦火の中で消息を絶っています。
以上が、我々の知る“帝国軍第XIV軍団長 ガイウス・ヴァン・バエサル”の、最も表面的な情報。
彼のエオルゼア侵攻は、当然ながらガレマール帝国による軍略の一端として行われたものです。その(表向きの)主な目的はエオルゼアの実効支配ですが、侵攻の大義として掲げているのは、無尽蔵にエーテルを喰らい星を滅びへと向かわせる“蛮神”の撲滅と、それを喚び出した者たち――帝国の言う“蛮族”の排斥・管理。ゆえに彼らの侵略行為は、それらがはびこる魔境とも言うべきエオルゼアを征すという、(刷り込まれた)正義に基づいたものであったのでしょう。
では、ガイウス自身はどうだったのか? 無論、彼自身も蛮神撲滅を大義と掲げていることに違いはありませんが……それと同時に、彼なりの解釈や行動理由があったことも、疑うべくもないところ。
“人の世は、人によって支配されてこそ、初めて存在価値がある”
以降では、彼の言葉の底にある思想についても考えてみたいと思います。
ガイウス・ヴァン・バエサルのたどった歴史
本項では、彼がアルテマウェポンを駆って冒険者と戦うまでの出来事をひととおりおさらい。無論、我々が知り得る“歴史”は彼の積み重ねた年月のほんの一部でしかありませんが、それをいくつかに区分するなら、“第一~第二次エオルゼア侵攻”“第七霊災前後”“エオルゼア新生後”の3つのカテゴリで解説していくのが妥当かと思います。第七霊災の前後にまたがるためかなり長くなりますが……過去に起きた事柄を1つ1つたどっていくことで、新たなつながりに気づくこともあるかもしれません。
銀泪湖上空戦――エオルゼア侵攻における飛空艇艦隊の壊滅
“ガイウス・ヴァン・バエサル”がエオルゼアの歴史に登場するのは、エオルゼアの『新生』(1577年)からさかのぼること約20数年前……彼が30代後半の頃のこと。帝国軍第XIV軍団の長としてすでに複数の都市国家を滅ぼす功績を挙げていたガイウスは、エオルゼアを次の侵略目標とするガレマール帝国の軍事計画に従い、自軍をアラミゴとの国境線上に配備(1553年)。それからわずか4年後(1557年)には、革命騒ぎの混乱に乗じて、エオルゼアで最も軍事的に強固であったアラミゴを一気に陥落させています。
革命についての詳細は『紅蓮編』のメインストーリーなどでも語られてきましたが……その発端は、“最悪の暴君”と呼ばれるアラミゴ最後の王テオドリックが政権を握ったことでした。テオドリックは国教を排し自らを“星神の代理人”として崇めるよう民に強要した独裁者であり、圧制を敷き搾取する者であり、暴虐で無慈悲な、治世を振り返れば処刑・虐殺の記録であふれているような人物。その振る舞いに苦しめられた民が集って反乱勢力となり、苦心と犠牲の末にようやくテオドリックを誅殺したわけですが……この運動そのものが、じつはガイウスの扇動によるものだったのです。
反乱が成就したときすでにガイウス率いる第XIV軍団はアラミゴのすぐ近くまで進軍しており、そのままアラミゴ正規軍、革命軍どちらにもまともな対応をさせぬまま、瞬く間に同地を占領したのだとか。これがちょうど“新生”時点から20年前の出来事。「勝敗は早さと速さが別つ」とはかのアラミゴの猛牛、ウルダハ不滅隊局長ラウバーン・アルディンの言葉ですが、あるいはその言葉は、最小の犠牲最短の時間で目的を達するガイウスの戦略を実体験として記憶していたからこそ持ち得た教訓なのかもしれません。
さて、アラミゴ陥落を受けて、エオルゼアの都市国家……リムサ・ロミンサ、ウルダハ、グリダニア、イシュガルドの4国はエオルゼア都市軍事同盟を結成(1561年)し、ガレマール帝国への対抗策を模索しました。
しかし、そもそも結成がアラミゴ陥落から4年も経過したあとだったことに注目。それまでエオルゼア諸都市国家はたびたび戦争や小競り合いを繰り返していたからか結束するまでの障害が多く、どの国も自国内に対蛮族問題などを抱えていたため、同盟を結ぶ段はもちろん、結成してからもなかなか足並みが揃わなかったものと思われます(ちなみに、イシュガルド以外はどの国もまだ首脳が現在のメンバーではありませんでした)。
エオルゼア諸国が浮足立っている一方で、ガイウスは着々とアラミゴの支配体制を整えていました。余談ではありますが、『紅蓮のリベレーター』のキーキャラクター“フォルドラ”はこの頃の生まれであるほか、『漆黒のヴィランズ』で語られた帝国の毒ガス兵器“黒薔薇”の製造・実験が行われていたのもこの時期。黒薔薇はその後実践投入寸前の段階まで研究が進められたものの、“無差別”“毒”“広範囲”“数呼吸で即死”という、兵器という枠のなかでもとくに凶悪な性質ゆえ、ガイウスの一喝で使用が見送られた経緯のある兵器です。その際に彼は「制圧作戦が完了した暁には、彼らはガレマール帝国の民となる……未来の自国民を無差別に殺すなど、仁義に反している」との言葉を残している様子。
そう、彼はエオルゼアの廃滅ではなく、あくまでも属州としての統治を目的としていたわけです。国として道義に外れた戦術を採用すれば、すでに支配下にある属州からも必ずや根強い反旗の芽が出てくるはず……そうした事態を防ぐ戦略的な意味合いを含めたか否かは定かでありませんが、いずれにせよ、ガイウスという人物の性質や矜持が垣間見えるエピソードと言えましょう。
その後、ガイウスはアラミゴ陥落から5年後(1562年)に大飛空艇艦隊による圧倒的戦力を組織し、エオルゼアの中心部であるモードゥナ地方へ進軍しました。クリスタルの産地であり、各都市国家の中心地でもあるモードゥナ。中間地点であるがゆえに各国の動きも鈍く、正直なところこの時点でここを抑えられていたら、エオルゼアの各国は連携もままならないまま帝国軍に順次屈服させられていたはずです。
しかし、結論から言ってしまえばそのような事態にはなりませんでした。モードゥナ“銀泪湖”の守り神とされていたドラゴン族の祖・幻龍ミドガルズオルムが突如出現し、その咆哮とともに空を埋め尽くすほどのドラゴン族が飛来。彼らの力によって帝国の飛空艇艦隊はことごとく墜とされ、旗艦“アグリウス”もミドガルズオルムによって砕かれたのです。なお、アグリウス撃沈の際に起きた液体燃料(青燐水)の大爆発によってミドガルズオルムも大きな傷を負い、相討ちの形となりました。以後はアグリウスに巻き付いた状態のまま、銀泪湖中央に朽ちた姿をさらしています。
この侵攻作戦の失敗で、第XIV軍団は戦力の多くを失いました。さらに1562年以降、アシエンたちの暗躍の結果か、帝国の脅威に対して獣人たちの危機感が高まり、エオルゼアの各地で蛮神の召喚が続出。帝国側には当時有効な対応策がいっさいなかったため、彼らは兵を引き、守勢に徹する構えに移行しました。
そして、この膠着状態によってエオルゼアには奇妙な平和が訪れます。のちに“凪の時代”と呼ばれるこの時間――エオルゼア都市軍事同盟はやがて有名無実化し、職にあぶれた傭兵がギルドを設立したことをきっかけとして、都市民から危険な仕事を請け負う“冒険者”が誕生。彼らの活躍する新しい時代が訪れたのです。ルイゾワを盟主とし、エオルゼア救済をかかげた組織“救世詩盟”が生まれたのもちょうどこの頃(1562年)。第七霊災という大きな渦に向かって、さまざまな物事が動き始めた時期と言えます。
ネール・ヴァン・ダーナスの台頭と第七霊災
こうして、ガイウスはエオルゼア侵攻の舞台から一時的に姿を消しました。“蛮神に汚染された地”エオルゼアを封鎖するため、ガイウスがアラミゴと黒衣森の境界区域に“バエサルの長城”を建造したのもこの時期です。
さて、エオルゼア侵攻においてガイウスの代わりに台頭したのは、彼から「俗物」と評された帝国軍第VII軍団長、白銀の凶鳥こと“ネール・ヴァン・ダーナス”。
……言わずと知れた、第七霊災(1572年)の引き金を引いた人物です。
第七霊災については情報が多く、さまざまな者の思惑が絡み合い複雑な様相を呈しています。ゆえに本記事ではかいつまんだ説明にとどめますが……発端は、古代アラグ帝国の知識を受け継ぐ名家に生まれたネール・ヴァン・ダーナス(実際は、ネールに扮した妹・ユーラ)率いる第VII軍団が、増援として西州攻略に派遣されたことでした(1572年)。ネールはアラグの知識を生かした蛮神殲滅の策があるとソル帝に近づき、衛星ダラガブを落下させエオルゼアを焦土とすることで蛮神召喚を行う者たちすべてを皆殺しにする“(第二次)メテオ計劃”を上奏。交信雷波塔およびアラグの技術を利用した誘導をへて、衛星をエオルゼアに降下させたのです。
余談ながら、メテオ計劃とは本来、第七霊災からさかのぼること10年前(1562年)に、蛮神討伐の方法を探るようソル帝から命を受けた当時の筆頭機工師ミド・ナン・ガーロンド(シド・ガーロンドの実父)が、“衛星ダラガブ=古代アラグ文明の産物”であると気づき、そこに秘められた莫大なエネルギーを利用しようと立案した計劃のことを指します。第一次メテオ計劃は実験段階にまで移行しましたが……あまりに大きなエネルギーが都市に降り注いだことで、実験場となったシタデル・ボズヤが街ごと消滅。このシタデル・ボズヤ蒸発事変によってミドは死亡し、メテオ計劃も無期限中止となったのでした。ネールが提案したのは、このメテオ計劃を利用したもの。エネルギーを制御できないのならば、その力ごと敵地に落としてしまえばいい。蛮族どもが神を呼ぶというのなら、神を呼ぶ者すべて焼き滅ぼせばいい。この進言に興味を示した帝国皇帝ソル・ゾス・ガルヴァスは計劃を推し進める許可を与えますが……ネール自身にはもとより別の狙いがありました。
ネールのメテオ計劃に対して、エオルゼア側は救世詩盟の盟主ルイゾワや当時の冒険者たちが危機を察し奮闘。交信雷波塔を破壊し、ネール・ヴァン・ダーナスを倒すことに成功します。しかし落下は依然として止まらず、衛星ダラガブは帝国軍第VII軍団とエオルゼア軍事同盟軍が衝突するカルテノー平原の直上に落下。さらには誰も予想していなかった事態として、ダラガブ内部に封じられていた蛮神バハムートが顕現し、メガフレアの炎がエオルゼア全土を焦がしました。ネールはじつのところ蛮神バハムートのテンパードであり、その真の目的とは、つまりはバハムートの復活だったというわけです。
ルイゾワと暁の賢人たちは、ダラガブの落下を押し止めるために集めていたエオルゼア十二神の力を呼び起こしバハムートの封印を試みますが、力及ばず……。ルイゾワは時神アルジクの力を借りてその場にいた冒険者たちを未来に退避させ、さらにエオルゼアじゅうに満ちた再生を願う祈りの力と、バハムートに砕かれた十二神の力――同地に満ちた大量のエーテルによって、自身に再生の象徴たる蛮神フェニックスを憑依召喚。バハムートの核を貫き……その後、自身が完全に蛮神化しないよう、自ら命を手放したのでした。これが世にいう“第七霊災”とその真実。『FFXIV』の始まりの物語とも言える出来事です。
多くの犠牲を生んだ第七霊災の渦中において、ガイウスは何をしていたか? じつは彼は、メテオ計劃阻止につながる機密情報を密かに賢人ルイゾワに流し、ネール誅滅のために裏で行動を起こしていました。前述のとおり彼はあくまでも人の力でのエオルゼア統治を目指しており、エオルゼアを焦土とするメテオ計劃には、明に暗に反対の立場をとっていたということですね。
しかしながら、ガイウスの密かな協力を受けつつも、結果的にエオルゼア側はダラガブの落下を止めることができませんでした。第VII軍団とエオルゼア軍事同盟の決戦の地――カルテノー平原でガイウスが見たものは、ダラガブより現出せし蛮神バハムートが、人を、大地を燃やし尽くすさま。そして対するルイゾワたちエオルゼア側が、エオルゼア十二神……祈りの力で顕現した偽りの神の力で、それを押しとどめようとする光景です。滅ぼさんとする者も、それを止めんとする者も“神”の力を用いる異常事態。
飛空艇で上空から一部始終を見ていたガイウスがどう感じたか、真実のところは想像するしかありませんが、第七霊災の光景がのちの彼の行動に影響を与えたかもしれないということ、これを機により強く“蛮神を屠る力”を求めたであろうことは、想像に難くないかと思います。
第七霊災を超えて――新たに“光の戦士”と呼ばれた者との戦い
カルテノー平原の戦いが収束するのを見届けたガイウスは、エオルゼア各地に自軍を送り込んで土地を確保したのち、ただちに拠点を設営。エオルゼアの諸都市国家は霊災後の救助活動と復興に追われ、これを止める術はありませんでした。こうして第XIV軍団はエオルゼアに大小7つの要塞を築き、エオルゼア制圧に向けて大きく歩みを進めたのです。
しかし、第七霊災と時を同じくして、ガレマール帝国内に皇帝の後継をめぐる問題が発生。にわかに巻き起こる混乱はガイウスら第XIV軍団にも及び、それから5年間、小規模な小競り合いは別として、帝国によるエオルゼア侵攻の動きはぴたりと止まることになりました。
この間にガイウスらが何をしていたか、明確な記述はないものの……おそらくは帝国本国の内乱鎮圧と、第XIV軍団幕僚長ネロ・トル・スカエウァによる対蛮神兵器アルテマウェポンの発掘・再生事業などが行われていたものと思われます。
ガイウスの姿が再びエオルゼアで確認されたのは、第七霊災の5年後(1577年)。のちに光の戦士と呼ばれる冒険者がエオルゼアの地に降り立ったのと同じ年でした。この5年、第XIV軍団は本国から半ば放置されていたようですが、その士気は衰えていなかった様子。ガイウスは新たにアルテマウェポンを軸とした侵攻作戦を展開し、焔神イフリート、岩神タイタン、嵐神ガルーダを討滅してアルテマウェポンの力を見せつけ、その圧倒的脅威によってエオルゼア諸都市国家に服従を迫ったのでした。
あとの顛末は、すでに多くの方が知るとおり。エオルゼア側では、延々と続く各地の蛮族・蛮神問題に追われ弱気になった諸国首脳陣がガイウスの要求を呑みかけるも、帝国の襲撃により壊滅したかと思われた蛮神問題の担い手……“暁の血盟”のミンフィリアらが帰還。ミンフィリアやアルフィノよる説得により彼らは意気昂揚し、3国グランドカンパニーと冒険者選抜部隊による大規模連携作戦“マーチ・オブ・アルコンズ”によって、各地の拠点を同時襲撃するに至ります。
ガイウスはその戦いにおいて、魔導城プラエトリウムで冒険者の最精鋭と邂逅。アルテマウェポンを駆り戦いを挑みましたが、冒険者の光の加護によって蛮神の力を引きはがされ、苦戦を強いられます。その後アシエン・ラハブレアの介入によって究極魔法アルテマが発動し、ハイデリンの守りは消えたものの……死闘のすえに敗北。その身を爆炎に焦がしたのでした。
ガイウスとアシエン、そして光の戦士とのかかわり
こうして、エオルゼア諸都市国家と第XIV軍団との戦いはエオルゼア側の勝利で幕を閉じました。しかしじつのところ、兵員や兵器といった戦力の面でも、要所に拠点を築かれているという意味でも、霊災で各国に甚大な被害が出ているという点を考えても、これがただの戦争であったのなら、本来は第七霊災直後の時点でエオルゼア側の敗北は色濃いものだったように思います。ではなぜ、帝国側は霊災後に強行策をとらなかったのか?
その理由は、前述のとおり本国の内乱があったことに加えて、“エオルゼアの民を追い詰めてしまうと、蛮神を召喚される”というリスクがあったから。なにせ獣人たちだけでなく、賢人と名高いルイゾワですら窮地に陥った際に神の力を頼ったわけです。極度に追い詰められれば、蛮神問題を由々しき事態と捉える賢者でさえ神を召喚する可能性があると証明されてしまった。ゆえに彼らは要塞を築いたあとはうかつに攻め込まず戦力を整え、まず最優先で蛮神に対抗する術を探し続けていたのでしょう。第七霊災によってエオルゼアが壊滅的な被害を被ったのは事実でありながら、あの一連の出来事の衝撃があったからこそ帝国もうかつに決定打を打てなくなったというのは、皮肉と言えるかもしれません。
アルテマウェポンが掘り出されたのは、ちょうどその第七霊災の直後。アルテマウェポンはガレマール帝国のルーツでもある古代アラグ帝国の遺産であり、蛮神を倒せる力を持つ究極兵器ですが、発掘当初は化石同然の代物で、天才ネロの手をもってしても再生は不可能とされていたようです。そこに現れたのがアシエン・ラハブレア。彼が動力源として“黒聖石サビク”をもたらしたことで初めてこの兵器が動いたわけですが……得体の知れない天使いの提供したものを受け容れてでもアルテマウェポンを起動したあたりに、当時のガイウスらがいかに“蛮神を屠る力”を求めていたかが察せられましょう。アシエンの狙いとしては、蛮族に神降ろしの方法を伝えて蛮神を召喚させ、帝国にこの兵器で屠らせ、さらに恐怖を煽って蛮神を降ろさせ……という、戦の激化へと向かう負のスパイラルを狙っていたものかと思います。
そして、風の噂かアシエンの密告かは定かでないものの、ガイウスが“人の身で何体もの蛮神を倒した者がいる”という情報を耳にしたのは、おそらくそんな折のことだったはず。かつてルイゾワが盟主をつとめた救世詩盟の後継組織にして、エオルゼアの蛮神問題の担い手である“暁の血盟”に属する冒険者。蛮神のテンパード化を受けない“超える力”の持ち主……。ガイウスがその者に興味を持つのは、至極当然の流れと言えるでしょう。
ガイウスの目指した世界――影の狩人としての贖罪
結局のところ、ガイウスが目指した世界とはどのようなものだったのでしょう?
うぬは、何のために闘う?
ならば、聞こう……。
このエオルゼアに、真実はあるのか?
虚偽で塗り固められた共存。
欺騙によって造られた街。
瞞着するために語られる神。
欺瞞に満ちたエオルゼアに、真実はあるのか。
蛮神の出現に「人」は恐れ慄き、
恐怖を拭うために「人」が戦う。
……おかしいとは思わぬか。
人の世は、人によって支配されてこそ、
初めて存在価値がある。
人は太古より、他者との争いで自己を鍛え、
奪うことで富み、支配することで栄えてきた。
つまり、争いの果てに、
強者が弱者を導く先にこそ、未来があるのだ!
民が、力無き者に導かれ、神に縋るゆえに、
世が乱れる……。
愚民を作るのは弱き為政者……。
弱き為政者を作るのも、愚民なのだ……。
誰かが力を持たねば、この流れは断ち切れぬ……。
貴様ほどの力を持つ者が、
なぜこの真理を理解せん……。
上記は、冒険者との決戦の際に彼自身が語った言葉。断片的ではあるものの、こうしていくつかまとめて読んでみると、あらためて感じるところがあるように思います。
このハイデリンという世界において、“神”とは、エオルゼア十二神やアウラ族の太陽神・月神のような創世神話に語られるものから、物に宿るとされるもの、この星そのものの理の代弁者まで、さまざまな形で人々に信じられています。それらの多くは人々の心の中に物語として、教訓として、自らの行いを見守るものとして概念的・無意識的に存在しているもののはずですが、時として、命にかかわるほどの切なる願い・祈りの力とクリスタルのエーテルが結びつき、それら“神”のイメージが具象化する場合がある……。そうして生まれるのが、“蛮神”。
しかし、それらは人が救いを求めた末に現れるものであるにもかかわらず、人の魂を焦がして信徒とし、存在しているだけで星の命であるエーテルを無尽蔵に消費し、廃そうとすればより多くの犠牲を強いる性質のものです。願いの産物でありながら人に、星に災いを撒くもののことを、はたして神と呼べるものでしょうか。それがあくまでも神だというのであれば、そのようなものは人の世において必要でしょうか?
そしてもう1つ。何かを実現しようと力を尽くすのが本来の“人”の姿であるならば、このような神などが存在してしまっては“すべては神に願えばいい”となってしまうでしょう。人の力で成し遂げる機会が、神への祈りによって奪われる……そのような世界は、神の存在が人の生を冒とくしていることにほかならないのではないでしょうか。
“人の世は、人によって支配されてこそ、初めて存在価値がある。”
つまるところガイウスの思想の根底にあるのは“神の排除”。「人の生きる道行きは神ではなく、自分たちでこそ決めるべき」という考えであるように思います。すべての人が競争し、優れた力を持つ者が持たざる者を導く。帝国の覇権主義のもと、平等に“争う”……自らの不遇を神に嘆くのではなく、自ら立ち上がり這い上がるべく努力する。そんな世界が構築できるならば、もはや“神”など不要である、と。そのような社会を作れず、徒に信仰を頼る為政者など力なき弱者に相違ない、と……彼はそう言っているのではないでしょうか。
しかし、ガイウスはそんな思想を持ちながらも、アシエンの力を借り、アルテマウェポンという強大な兵器の力を借りました。黒聖石サビクという、現行の人の知恵を超えた、どのようなエネルギーで駆動しているかも判然としない兵器……これははたして、“蛮神の力”と何が違うのでしょう。そのようなものに頼った結果、彼はアシエン・ラハブレアにいいように利用され、自分を信じた腹心の部下を、兵たちを永遠に失うことになってしまったのです。
『紅蓮編』の物語ののちに冒険者がガイウスと再会した際、彼は、自分を信じたかつての部下への贖罪のために“影の狩人”としてアシエンを狩っていると語りました。あるいは、アシエンに踊らされたこと、そしてなにより、人は人の力で立つべきという己の考えを見失い、得体の知れないものに頼ってしまったことを償う――そんな気持ちがあったのかもしれません。
今後、彼がどのような運命をたどるのか……まだその結末は見えていません。しかし、彼の行動の内に、その根源となる思いはまだ変わらず生きているのだと思います。
“神を廃し、世界を人の手に取り戻す”。
願わくばその道の先に、彼にとっての救いがあることを祈りつつ……ガイウス・バエサルの、ここまでの物語はひとまずの幕といたしましょう。
『新生編』の物語で対峙したガイウスは“光の戦士”にいくつかの言葉を投げかけましたが、1人の冒険者として人々の依頼に応え、がむしゃらに進んでいた当時の彼/彼女にとっては、まだあまりピンとこない内容であったように思います。ただ、少し後にあらためてその言葉を振り返ってみると、そこにはエオルゼアが抱える諸問題の解決に駆り出される光の戦士や、超える力を持つ者が対蛮神の最前線に立つ“生贄としての英雄”じみた現況に対して、「本当にこれでいいのだろうか」という問いを抱かせるに十分な印象が含まれていたのも事実。ある意味では、ガイウスの言葉が真に重みを持つのはこれ以後の物語でのことなのかもしれません。パッチ5.2以後の“ウェルリト戦役”にはガイウスが登場するということで、皆様もぜひこの機会に、来し方を振り返りつつ、いろいろと思いをめぐらせてみてほしいと思います。
といったところで、【The Villains of FFXIV】第1回は以上。次回は、『FFXIV』世界の成り立ちにかかわる大きなテーマ“蛮神”についてアレコレと掘り下げていく予定ですので、どうぞお楽しみに!
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