『FFXIV』竜と人の狭間で、戦いの終結を夢見て――“氷の巫女”イゼル追想録【The Villains of FFXIV】

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許して、シヴァ。 ……そして、フレースヴェルグ。
それでも私は、どうしても見てみたい……。
少女が雪原のただ中で、凍えずとも済む時代をッ!
【氷の巫女 イゼル・ダングラン】

 オンラインRPG『ファイナルファンタジーXIV(以下、『FFXIV』)』でこれまで冒険者の前に立ちはだかってきた数多の“敵対者”たちを追想する企画【The Villains of FFXIV】。第5回目は、竜詩戦争の渦中でヒトと竜の融和を願った女性――“氷の巫女”イゼルを追想する内容でお届けします。

 無論、彼女については「敵対者でなく、ともに旅をした仲間であろう」と訴える方も多いことでしょう。それは筆者も同様ですが……本記事では、かつて刃を交えた彼女もまた数多の敵対者と同じく運命の濁流に抗った反逆者であると定義し、その信念と意思を顧みてみようと思います。

※本企画の解説・考察は、ゲーム内の情報や世界設定本“Encyclopaedia Eorzea ~The World of FINAL FANTASY XIV”などを参考に筆者が独自に展開したものです。また、本記事には記事テーマに関するネタバレが含まれます。

【第5回:イゼル・ダングラン 目次】

◆氷の巫女イゼル 概略

・イゼルと聖竜の邂逅――“氷の巫女”が生まれるまで

◆イシュガルドの“異端者”――山都における貴族と平民の関係

◆氷の巫女イゼル、その最後の旅路

・イゼルの意思、彼女の祈り

氷の巫女イゼル 概略

 イシュガルドの貴族体制に反旗を翻したとある異端者勢力の指導者にして、その身に憑依型の蛮神シヴァを呼び降ろした“氷の巫女”イゼル。彼女は超える力を持つ異能者であり、光のクリスタルを得てハイデリンに導かれた、もう1人の光の戦士というべき人物でした。

 竜詩戦争において、彼女はヒトの身でありながらイシュガルド教皇を倒すべく政治活動を行った特異な立場にあり、邪竜の眷属によるイシュガルド侵攻の際には、防衛の要である魔法防壁を破壊するなど直接的に戦に介入。それによってイシュガルドの民に大きな被害が出ることとなったわけですが……その出来事は、彼女自身の心に深い後悔と罪の意識を生むこととなりました。

 それゆえに、やがてイゼルは冒険者やエスティニアン、アルフィノとともに竜との対話を為すべく長き旅に出ます。そして聖竜との再会で“シヴァ”と“蛮神”の真実を知り、打ちひしがれ膝を折るも、のちに仲間を救うべく戦い命を落とした……。それが、我々の持つ“イゼル・ダングラン”という女性の記憶です。

 以降では、まず彼女がいかにして竜とヒトの融和を願うこととなったのかをあらためて振り返ってみましょう。

イゼルと聖竜の邂逅――“氷の巫女”が生まれるまで

 クルザス川とスウィフトラン川が清らかな水を運び、豊かに牧草が茂るクルザス西部高地――。その一画にあるかつての山村“ファルコンネスト”が、イゼルの故郷。

  • ▲クルザス地方は今でこそ雪に覆われていますが、第七霊災以前は緑が映える高原地帯といった趣でした。

 竜への警戒のため鷹匠が常駐し、蒼天に多数の白隼が舞うその村を中心として、彼女は18~19歳の頃まで家族と平穏な時を送っていました。しかし約5年前、衛星ダラガブが落下した第七霊災をきっかけに、クルザス地方の気候が一変。西部高地はとくに寒冷化が著しく、一帯は瞬く間に雪と氷で閉ざされたといいます。作物は収穫前に霜枯れて蓄えもなく防寒具も十分でなく、ファルコンネストでは住民らに多数の凍死者が出る状況……。

 さらには寒冷地帯に適した猛獣が山から降りてきて人を襲うようにもなり、住人たちはもはや到底生きていけないという結論に至ったのでしょう。彼らは連れ立って、イシュガルド都市部への避難を試みることになりますが……急速な寒冷化によって生じた氷壁(スノークローク大氷壁)のせいで移動が難航。イゼルの眼前で大氷壁の一部が崩落し、数多の村人とともに、彼女の両親も帰らぬ人となりました。

 避難経路がふさがってしまったことで、残された村人たちはおそらくその場でしばし呆然と天を仰ぎ、やがて何処かへと歩き始めたものと思われます。そんななかイゼルはただ1人、ドラゴン族に襲われる危険を顧みず、寒さから逃れたい一心で西方を目指します。そうして彼女が生死の際をさまよいながらたどり着いたのが、ドラゴン族の根拠地・高地ドラヴァニア。

 疲労困憊の状態でドラヴァニアにたどり着いた彼女は、慣れぬ土地で迷ううちに、うっかり森を抜け出てしまいます。そこで目にしたのは、ちょうど狩りのために地上へ降りてきていた七大天竜・聖竜フレースヴェルグの姿。“超える力”を有していたイゼルはこれまでもたびたび過去視の能力を発動していたようですが……このとき彼女は、はるか1200年前の真実に迫るフレースヴェルグの過去を目撃することになりました。

 そしてこの出会いこそが、イゼルの運命を一変させる大きな節目となったのです。

 その後、イゼルは疲労と過去視の衝撃で気を失い、偶然にも付近を通りがかった猟師のマルスシャンらに助けられ、以後の数年間をテイルフェザーの村で過ごします。そこで彼女がどのような日々を送ったか……その答えは想像の裡にしかありません。しかし事実として、のちにイゼルは己の見た過去視の映像に心の拠り所を求めて村を出、竜詩戦争の発端はヒトの裏切りにあるのだという思いのもと、真実を隠して民を戦わせ続けるイシュガルド教皇らを倒すべく、抵抗活動を始めたのです。

 折しも、イシュガルドは戦に倦み疲れた暗澹たる状況。戦いの無意味さと、教皇こそが諸悪の根源であることを謳った彼女の理念は、主に貴族制度の下で苦渋を舐めてきた平民たちに受け入れられ、しだいにその構成人数を増やしていったものと思われます。

  • ▲不安定な社会情勢のなか、イゼル率いる異端者集団は勢力を拡大。彼らは、戦いに疲れて体制への不満を募らせた平民出身の兵らを中心に勧誘していたようです。

 ……まったくの余談ではありますが、冒険者が蛮神シヴァと対峙した際に聞いた彼女の曲“忘却の彼方 ~蛮神シヴァ討滅戦~”の歌詞を見る限り、この詩は、イゼルが氷壁の崩落で家族を失い、1人雪道を歩いているときの心境を歌ったもの……つまりは寒空に凍えた少女が、それでも前へ歩む決意を形にした唄ではないかと想像することもできるでしょうか。

イシュガルドの“異端者”――山都における貴族と平民の関係

 山都イシュガルドでは四大名家を筆頭とする貴族たちが平民の上に立つ形で政を担っており、貴族と平民とでは思想や文化、習慣なども異なるのが当たり前という観点で社会が成り立っています。そんな国における“異端”とは、イシュガルド正教の教えに反する者……あえてざっくばらんに言ってしまえば、1000年の“歴史”を紡いできた正教の思惑に沿わない者たち全般のこと。イシュガルド正教会が掲げる“正しい歴史”以外の説を主張する者や貴族体制に疑問を唱える者、そして敵であるドラゴン族に利をもたらす者たちは徹底して異端とされ、表社会から排除されることとなりました。

 ゆえに、ひとくちに“異端者”といってもその出自は様々。都市や村でまともな生活を送れなくなった犯罪者や逃亡者が集まる盗賊まがいの集団もあれば、イゼルたちのように教皇を倒して戦争を止めるという明確な目的で活動する者もいるわけです。共通しているのは、彼らはみな、イシュガルドという国に住まいながら国家に追われる者だということくらいでしょうか。

  • ▲イシュガルドにおいて、“異端者”を摘発する役割を担っていた捜査機関こそが異端審問局。蒼天騎士団のシャリベルも元異端審問官です。戦時中において異端者とは敵のスパイにも等しいため、異端審問官にはかなり広範囲な捜査権限が与えられており、ひとたび疑惑をかけられたならば高位の貴族でさえ追及を逃れにくかったのだとか。

 そのような貴族側=為政者側があまりにも強い社会だけに、イシュガルドではもともと平民たちから貴族批判の声があがっていた様子。それでも国という形が成り立っていたのは、ひとえに“貴族=建国十二騎士の末裔ゆえに尊い”という覆しにくい根拠が示されていたことと、竜との戦争中であるがゆえに国家がまとまらねば自分たちも危いという危機感、そして国が閉ざされている状況であるゆえに民たちが“ほかにどこへも行けない”という思いを抱いているから……という一因もあったのでしょう。

 しかしながら、皇都防衛戦の折に騎士や兵士は貴族たちの住まう上層区画を優先的に守り、下層区画の建物や住民は竜たちに襲われるまま大きな被害が出ました。これによって前述の、民の諦観とも言える感情的下地があってなお抑えきれない不満が上がることとなったわけで、状況的には、じつのところイシュガルドはもはや国としての体裁を保つのがやっとといった趣になっていたのではないでしょうか。

 それは裏を返せば、戦争の終結と現政権の打破を謳うイゼルらの集団に人心が集まる下地が、十分すぎるほどにできていたということ。教皇らにしてみれば民が戦からの救済を望みイシュガルド正教会に強く助けを求めるその祈りを蛮神ナイツ・オブ・ラウンドの力とすべく暗躍していたのですから、イゼルら異端者の活動は頭痛の種と言ってよかったはずです。

 さらに言ってしまえば、皇都防衛戦で活躍した英雄――フォルタン家の客人としてイシュガルドを闊歩する“光の戦士”が数々の手柄を挙げたことで、民の心がイシュガルド正教会=教皇から光の戦士に傾きつつあったのも手痛かったはず。つまるところハイデリンの加護を受けたイゼルと冒険者は、己の信念に基づいた自然な行動の結果で図らずも教皇らの力を削ぐことになった……と言うことができるでしょうか。これは果たして偶然なのか、それとも“運命”と呼ばれる何かなのか……その答えは、物語の遙か先にあるのかもしれません。

  • ▲フォルタン家の面々や宝杖通りの顔役・エレイズのように、身分にとらわれない物の見方をする貴族ももちろん少なからずいるようですが……それは全体にとってみればごく少数。
  • ▲冒険者はあくまでもフォルタン家の客人という視点でイシュガルドを見ていたため、自らの身で貧富格差を感じることはあまりなかったかもしれませんが……国の土台たる労働者=平民がいかに貧困に喘いでいたかは、サブクエストなどを中心に語られていました。
  • ▲貧困だからといって腐っている者ばかりではなく、竜を狩ることでの立身出世を夢見る私兵集団“聖フィネア連隊”など、前向きな活気に満ちた者たちも存在していたのもたしかです。

氷の巫女イゼル、その最後の旅路

 貴族体制と戦争に不満が募っている状況下で異端者の頭目として動きはじめたイゼルは、組織活動の最中、アシエンと思われるエレゼン族の男と邂逅。そこで彼女は初めて自身の力が“超える力”と呼ばれるものであると知り、願いと祈りをもとに“神”を具現する神降ろしの手法を授けられます。その後、彼女たちは皇都からの支援物資を積んでいた輸送隊を襲撃。大量のクリスタルを入手したイゼルは、かつて視た“聖女シヴァ”……自身の目指す融和の象徴を呼び降ろし、己の力としたのでした。

 その前後の彼女の動向は、多くの方がすでに知るとおり。彼女は一団の隠れ家としていたアク・アファー闘技場にて冒険者と対峙し、氷神シヴァの力で応戦するも敗北。一時退いて身を潜めていたものの……邪竜の眷属がイシュガルドに押し寄せた際にそれと呼応し、イシュガルド全体を覆う魔法障壁“ダナフェンの首飾り”を破壊して、ドラゴン族を皇都へと招き入れたのです。

 イゼルにしてみれば、教皇さえ倒せれば戦を終わらせられるとの目論見のもと、多少の犠牲はやむなしとした形でしたが……街へ押し入った竜たちは、教皇の座す上層ではなくただ目先のヒトを殺戮するために平民が暮らす下層区画へ侵入。無辜の民草に多数の死傷者が出る結果となります。悪に徹して戦を終わらせんとしたものの何の進展もなく、ただ徒に人の命が失われた……イゼルはこの軽慮を深く悔い、罪の重みに苛まれることとなりました。

 その後、イゼルは冒険者と二度会い、二度目に再会した際には彼らに過去視で視た“1200年前の融和と竜詩戦争の発端”を伝えて、旅に同行することとなります。ドラゴン族によるイシュガルドへの大侵攻……甚大な被害は避けられない戦いが眼前に差し迫るなかでの遠征。それは、竜との対話をもってイシュガルド侵攻を止めるために、ドラヴァニア雲海に住まう七大天竜・聖竜フレースヴェルグを訪ねる旅路でした。






  • ▲旅のなかで、イゼルが動物(?)好きであることも明らかに。スノークロークのフェンリル(と名付けた古代獣ボアハウンド)もイゼルになついていた個体だったようです。


 自分と同じ“超える力”を有する冒険者、ことあるごとに意見がぶつかる蒼の竜騎士エスティニアン、弟のようなアルフィノとの4人旅は、幾多の出来事をへて彼らを聖竜フレースヴェルグのもとに導きます。イゼルにとってみれば、数年振りに再会する憧れの聖竜。しかし、シヴァの名を聞き怒りを露わにした聖竜の口から語られたのは、イゼルの幻想を砕き膝を折らせるのに十分すぎるほど厳しい“真実”でした。

 その歴史的真実についてはすでに過去2回の記事で十分に語ってきたためここでは省きますが……イゼルにとってとくに衝撃だったのは、その身に降ろした蛮神が“聖女シヴァ”ではなく、ただの彼女自身の幻想の産物だったという事実でしょう。いずれにせよ、竜詩戦争終結に向けてフレースヴェルグの助力を得るという当初の目的は果たせぬまま、対話を目指す旅は終わりを迎えることになりました。

イゼルの意思、彼女の祈り

 寒さを逃れて高地ドラヴァニアにたどり着いた5年前のあの日……イゼルは聖竜の過去を視ることで、シヴァとフレースヴェルグの関係や、竜詩戦争が始まるに至ったエピソードの切れ端を知ることとなりました。その出来事は彼女にとって、これまで見てきた断片的な過去視とは異なる、まるで運命の啓示のように思える瞬間だったに違いありません。そしてその後の数年間をテイルフェザーで過ごすうち、彼女は自らの“これから”について考えたはずです。

 自分はこれから、どう生きていくのか――? 両親は死んで、帰る村も、寄る辺もなく、1人きりで生活していく術もない。しかし代わりに、ヒトの多くが知らない“真実”を知った。ならば自分は、自分にしかできないことを為そう……竜との融和を目指そう。かつての聖女シヴァのように。

 あるいは彼女はそのような決意のもとで、行動を開始したのかもしれません。つまるところイゼルにとって過去視で視た“聖女シヴァとフレースヴェルグ”とは、イゼルを彼女なりの使命へと誘った道しるべであり、彼女にとって、絶望という昏い雪原に灯った温かな光であった……とも言えるでしょう。ゆえにイゼルは神降ろしの儀で“シヴァ”を思い描き、その穢れなき心のままに竜とヒトの融和を目指してきたわけです。

 しかし、フレースヴェルグとの再会によって、彼女は自身が心のよりどころとしていたシヴァという人物像も使命も、すべてが幻想であると告げられてしまいました。つまりイゼルは、妄想で生み出した存在の声を聞き、それを信じて行動していた……言ってみれば、己の夢の中で彷徨っていたのと同じこと。そしてそれは、自らの愚かな夢想に基づく活動の果てに皇都へ竜を呼び込み、人々の命を失わせたという事実を、あらためて彼女に突きつける意味をも持っていました。……彼女がフレースヴェルグの言葉を聞いて自失し膝を折ったのも、無理からぬことであったように思います。

  • ▲融和への導き手として、強い願いと祈りのもと顕現したのがシヴァという蛮神。ならば、自らの信じたものが虚構であると知ってしまったイゼルは、この時期“願う力”を失いシヴァを召喚できなくなっていたのではないか……という考えもできそうです。

 その後、冒険者とエスティニアンは戦いによる直截的な解決を目指して邪竜討伐を成し遂げ、白亜の宮殿へと帰還します。彼らが持ち帰ったのは、1000年前にニーズヘッグへと貸し与えられた、フレースヴェルグの竜眼。

 ヒトの“裏切り”によってラタトスクが謀殺された直後、ニーズヘッグはトールダンらの襲撃を受けて両眼をくり抜かれ、瀕死の重傷を負っていました。フレースヴェルグはそんなニーズヘッグに眼を貸し与えることで彼の命をつなぎ、それがゆえに1000年の竜詩戦争が始まった……。つまりフレースヴェルグは、彼自身はシヴァの魂に誓った“ヒトの不殺”を貫きつつも、間接的には竜詩戦争の発端に関わっていたということ。そして、その眼を通じて戦いの様子をある程度感じていたのではないかと思われます。邪竜に己が眼を貸し与えた理由は、ニーズヘッグやラタトスクへの贖罪の念であるとともに、彼自身の復讐を願う心によるものでもあったのでしょうか。


 いずれにせよ、イゼルにとってみれば“かつて融和を為した、ヒトに寛大で心優しき聖竜”という幻想までもが砕かれた形。ゆえに彼女は激しく慟哭することとなったわけですが……激動の歴史は、彼女にこれ以上立ち止まる猶予を与えてはくれませんでした。


 皇都に異端者の一団が引き入れられたことで発生した、大規模な騒乱――。イゼルは自身の指示なく皇都に押し入った異端者たちを止めるべく冒険者やエスティニアンらとともにイシュガルドへ駆けつけ、彼らの前に立ちはだかりました。

  • ▲イシュガルドにとって、イゼルはまぎれもなく大罪人。しかしオルシュファン卿は彼女とともに皇都へ戻った冒険者を全面的に信頼し、何も尋ねず行動をともにします。


真実とは何かは、これから明らかにしていけばいい……
だから今は、互いの刃を収めてほしい!

 自らが融和への懸け橋となることも、聖竜との協力もなし得なかった。“氷神シヴァ”は幻想にすぎず、これまでの行動はイゼルの主我で描かれた夢にすぎなかったのかもしれない……。しかし、挫折ののちに放たれたイゼルのこの言葉は、余計な雑事を抜き去った根幹の意思であったに違いありません。「勝者も敗者もなく、ただヒトも竜も、これ以上もう無益な血を流してほしくない――。」そうした彼女の思いが人々に伝わり、皇都でヒトとヒトが相争う惨劇は未然に防がれたのです。

  • ▲異端者集団を手引きしたのは、教皇や蒼天騎士団の手下の者たち。民に間近で戦いを見せ、異端者と竜を恐れさせることでイシュガルド正教会により強く救いを求めさせる意図があった様子。

 この出来事ののち、冒険者は教皇らの思惑を阻止すべく行動し、彼らを追って魔大陸を目指すこととなりました。一方でイゼルは異端者の同志たちとともに皇都を去り、しばらくの間その姿を隠します。この間、彼女がどのような時を過ごしていたかは不明ですが……おそらくは、真実を包み隠さず同志に打ち明け、竜とヒトの戦いが終わりに向かっていること、そして国がこの先変わりゆくであろうことを告げて、異端者集団を解散させるなどの対応をしていたのでしょうか。

 戦後のイシュガルドが変革を遂げていった際は正教の守旧派を中心としたさまざまな事件が起こりましたが、かつてイゼルとともに行動した異端者たちは未だ鳴りを潜めています。無論、竜との融和のもとに成り立つ新たな体制は彼らの本懐でもあったという理由が大きいのだとは思いますが……ニーズヘッグが倒れ教皇が皇都を去った時分に、イゼルが“この後の未来を彼らがどう生きるか”というところまで含めてきちんと彼らと向き合ったおかげなのだと見ることも、あるいはできるのかもしれません。

 そしてイゼルは彼女を妄信する同志たちと別れ、ただ聖竜に決意を告げるため、白亜の宮殿を目指したものと思われます。冒険者やエスティニアン、アルフィノとともに歩んだ道のりを、今度はたった1人でたどりながら。このときの彼女は、はたしてどのような想いで足を進めたのでしょう。18~19の歳に家族を失い人生が一変し、そののちは教皇を倒すべく生きてきたイゼル。同志はいても友ではなく、ただ孤独に目標を見据えたその果てで重い罪を背負い、しかして融和への道はなお遠い……。それでもイゼルが希望を失わずにいられたのは、彼女が生きてきたなかで初めて、ともに道を歩むことのできる対等な仲間ができたからでしょうか。

 そうしてフレースヴェルグと再会した彼女は、しばし聖竜と語らい、冒険者たちと合流すべく、その背に乗ってドラヴァニアの空へ飛び立ちました。……そのときの様子は、蒼天秘話第2話にて語られています。

 その後の顛末は、皆さんがすでにご存じのとおり。エンタープライズ・エクセルシオで魔大陸の防壁を突破した冒険者たちはガレマール帝国の巨大飛空戦艦に急襲され、集中砲火を浴びる危機的状況に陥りました。そのときイゼルは聖竜とともに現れ、自らの光のクリスタルを使って氷神を召喚。冒険者たちの前に躍り出て、最後のダイヤモンドダストで帝国軍を足止めし……そののち、砲火に命を散らせたのでした。





 かつて聖竜から真実を告げられた際、イゼルはその幻想を砕かれ、己の信じるものが虚構であったと知りました。その際に彼女は、夢想のうちに思い描いた偽りの“聖女シヴァ”への信仰を失った……。そう仮定するのであれば、イゼルは、聖竜との再会からイシュガルドでの騒乱を通して自らの祈りの本質と向き合い、強い意思のもと、あらためてかつての“シヴァ”とは似て非なる“己が創り出した自分自身の氷神”を呼び降ろしたのだと理解することもできるでしょうか。

 そして、“祈り”とは、元来誰の心にもあるもの――。3.0メインストーリーにおいては、アイメリクの側近、ルキアの言葉がとくに印象的です。

貴公の旅路に、戦神の加護がありますように……。
……信仰とは無縁の帝国人が、神に祈るのは不思議か?
私自身も、少しばかり奇妙な気分だよ。
幼いころから、神に祈ったことなど、なかったのだからな。
ところが、大切な人が出来てからというもの、
その無事を祈らずには、いられなくなった。
祈りとは、本来こうした素朴なものなのだろう……。
それを神と呼ぶ力と成すために、歪め、利用している教皇たちを、
許してはいけない……そう思うのだ。

 イゼルの祈りとは、竜とヒトの融和に向けられたものでした。……そしてそれは同時に、よりよき未来を夢見るものであり、自分とともに未来を勝ち取るべく歩んだ“真の仲間”たちに、希望を託すためのもの。最期の氷神は、イゼルのそのような想いのもとで呼び降ろされた存在だったのだと思います。

これまで、自分の主我のために、多くの犠牲を出してきた。
結局私は、凍えた身体を温めるための、仲間が欲しかったのだ……
そのために、大義を創った。
許して、シヴァ。……そして、フレースヴェルグ。
それでも私は、どうしても見てみたい……。
少女が雪原のただ中で、凍えずとも済む時代をッ!

 といったところで、氷の巫女イゼルを振り返る【The Villains of FFXIV】第5回記事は以上となります。魔大陸の空に命を散らせたイゼルは、まぎれもなく光の加護を受けた存在でした。第一世界でのアルバートたちと同じく、己が道を定め困難を行く決意を固めたときにもたらされるのが“光のクリスタル”なのだとすれば、彼女は融和を為さんと自ら動き出したときにそれを手にしたのでしょう。

 いずれにせよ、冒険者とイゼルは竜詩戦争後の時代をともに歩むことが叶わなかったわけですが……第一世界での“希望の園エデン”の物語の内では、“氷の巫女”を想ってその身にシヴァを降ろしたリーンの手に、消えない永久氷晶が残る形となりました。かつて冒険者とイゼルが果たせなかった“友と一緒に未来を歩む”という行いを、継ぎ、実現してほしい……。そんな“誰か”の願いが込められた絆の証こそがこの永久氷晶なのだと思うのは、さすがに感傷が過ぎますでしょうか。

 さて、次回の【The Villains of FFXIV】は、故国アラミゴへの想いに囚われたイルベルドとフォルドラについて振り返ります。どうぞお楽しみに!

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