『FFXIV』怨嗟に蝕まれた偉大なる竜王――漆黒の翼・ニーズヘッグの生と死を想う【The Villains of FFXIV】

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聞け……ヒトと、ヒトに与する竜ども!
次にとどろく竜の咆哮は、最後の戦を告げる合図……
貴様らのすべてを、宿怨の炎で焼き尽くしてくれる。
その日まで恐れ、嘆き、絶望せよ。
それらすべてを蹂躙してこそ、我が怒りも晴らせよう……!
【七大天竜 ニーズヘッグ(邪竜の影)】

 オンラインRPG『ファイナルファンタジーXIV(以下、『FFXIV』)』でこれまで冒険者の前に立ちはだかってきた数多の“敵対者”たちを追想する企画【The Villains of FFXIV】。第4回目は、ヒトの裏切りによって永劫続く怨嗟に飲まれることとなった七大天竜・ニーズヘッグを振り返る内容でお届け。あわせて“ドラゴン族”についてもふれていますので、ぜひ最後までご覧いただければと思います。

※本企画の解説・考察は、ゲーム内の情報や世界設定本“Encyclopaedia Eorzea ~The World of FINAL FANTASY XIV”などを参考に筆者が独自に展開したものです。また、本記事には記事テーマに関するネタバレが含まれます。

【第4回:ニーズヘッグ 目次】

◆邪竜ニーズヘッグ 概略

◆ドラゴン族――異星生命体としての発祥

・ドラゴン族の生態
・人と竜の確執――アラグ帝国のメラシディア侵略

◆人と竜がともに生きた時代の追想

・人と竜の死生
・星の守護者として、ただ強く――。ニーズヘッグの真実

◆怨嗟からの解放――漆黒の翼の最期

邪竜ニーズヘッグ 概略

 ドラゴン族の祖・ミドガルズオルムが携えた卵から産まれし最初の七竜“七大天竜”の一翼にして、数多の眷属を従え人々を襲い続ける恐怖の象徴。イシュガルド千年の仇敵。それが、ヒトの大多数が認識している“邪竜ニーズヘッグ”という存在です。

 そもそもドラゴン族とは、長命ゆえに長い休眠期と活動期を交互に繰り返しながら生きる種族。ニーズヘッグもその例外ではなく、この千年間でおおよそ数十~百年ごとに計8度覚醒し、そのたびにイシュガルドの国と民に甚大な被害をもたらしてきました。近年では冒険者がエオルゼアに降り立つ約20年前(1557年)に目覚め、山村ファーンデールとそこに住まう人々を焼滅。そのときは先代の蒼の竜騎士アルベリク・ベイルが手傷を負わせ撃退したものの、かの竜はそれ以後も眷属とともにイシュガルドを狙い続けていたのです。

  • ▲山村ファーンデールはエスティニアンの故郷。のちに彼が邪竜の眼に選ばれ蒼の竜騎士となったのは、宿縁というほかありません。

 竜と人とが千年争う“竜詩戦争”において、冒険者はドラゴン族との対話による停戦を成すべく、仲間とともにはるかドラヴァニア雲海まで旅をしました。しかし融和への訴えは聖竜フレースヴェルグの心には届かず、結局、蒼の竜騎士エスティニアン(と冒険者)は“戦を止める直截的な道”を選択。邪竜の眷属が住まうドラゴンズエアリーでの激戦の末、ニーズヘッグの命を奪います。しかしニーズヘッグの怨嗟は己が竜眼のうちに深く息づいており、両の眼がひとところにそろった際、エスティニアンの身体を奪う形で“邪竜の影”が具現。のちに光の戦士との最終決戦が繰り広げられることとなりました。

 以上が、我々の知る“邪竜ニーズヘッグ”の概略。

 そんなニーズヘッグは、言わずもがな竜詩戦争においてドラゴン族の頂点に君臨する立場。彼はその命すべてを“イシュガルドの民を永劫に苦しめること”に注いでいたわけですが……偉大なる七大天竜がこのような狂気とも言える想いに囚われたのには、無論、相応の理由がありました。

 その理由……ヒトと竜の戦いの発端については前回の記事でも語ったとおり。両種族がまだ友好関係にあった約1000年前、ヒトの王トールダンが12人の騎士とともに七大天竜“詩竜ラタトスク”を謀殺し、竜王の莫大なエーテルが宿る眼を喰らったという裏切りの惨劇が元凶です。妹を惨殺され、あまつさえ力への欲望のために彼女の骸を肉として喰われたニーズヘッグの怒りと悲しみは、まさに雲海の底よりも深いものだったと察せられましょう。

 その後、ニーズヘッグはヒトを駆逐すべく一族に号令を発そうとしたのでしょうが……トールダン王と12人の騎士たちはいち早くニーズヘッグに不意打ちを仕掛け、両の眼をくり抜いてニーズヘッグを瀕死の状態にまで追い詰めます。ニーズヘッグは命からがら聖竜の住処へ逃げ延びて、その片目を譲り受ける形で辛くも生命をつなぎ留めたのち、ヒトを苦しめるべく己のすべてを費やすと決意したのでした。

 これが、ニーズヘッグが“逆襲の咆哮”を発するに至ったあらまし。しかしながら、『蒼天のイシュガルド』の物語を通じて冒険者が邪竜自身の言葉を聞いた回数は、じつはあまり多くありません。そして数少ない言葉はどれも、彼の竜がヒトに激しい憎悪を向けていることを示すものばかり。それはニーズヘッグの思考がもはや憎しみだけを中心に回っていることを示すものであり、邪竜がヒトを滅ぼす敵であると強く印象づけるものでもあったと思われます。

 いずれにせよ、冒険者は旅の中で過去視の映像やフレースヴェルグの言葉をもとに想像するしか、ニーズヘッグという竜の悲しみの底を理解(真に理解など、できようはずもないとはいえ)する術はありませんでした。ゆえに“邪竜ニーズヘッグ”とは、光の戦士のうち、ドラゴン族や過去の事柄について考えたことのある人ほど思い入れの強い敵対者だったと言えるかもしれません。

 というわけで以降では、『蒼天のイシュガルド』本編で語られた物語以外の要素も含めつつ、邪竜ニーズヘッグのヒトに対する憎悪の本質と、ドラゴン族とヒトとの関係について考えてみたいと思います。

ドラゴン族――異星生命体としての発祥

 ニーズヘッグという個について迫る前に、まず“ドラゴン族”がいかにしてこの星で息づき、人とどのようにかかわってきたのかを振り返ってみましょう。先に述べたとおりドラゴン族は長命であり、七大天竜ともなればゆうに数千年以上も生き続けている存在。ゆえにここで語られる“歴史”とは、ドラゴン族という種族の歩んだ道であると同時に、竜王たちそれぞれの来し方に迫るものでもあると思います。

 そもそもドラゴン族はこの星で誕生した生物ではなく、空の彼方からこの地にやってきた異星生命体でした。

 はるか古代、この星ではないどこか遠くの惑星間で大きな戦がありました。それは、高度な演算機能と自己改変能力、星をも砕くほどの戦闘能力を持つ機械兵器オメガを開発した星と、ドラゴン族の故郷である竜の星との戦。星間戦争は熾烈を極め、オメガが認識するところの最強の竜であるミドガルズオルムは、オメガを引き付けるためか、あるいは滅びゆく星から逃れるためだったのか、故郷の竜星を脱出。七つの卵を抱えながら長きに渡って星々の大海を飛び続け、ようやくこの惑星ハイデリンへとたどり着きます。

 猛々しい炎の鬣が燃え尽きてしまうまで力を使い果たしたミドガルズオルムは、この惑星に降り立つ際、星の意思たるハイデリンと交感。魔力(エーテル)の湧き出る要の地・銀泪湖を護り続けることと引き換えに、この惑星を安息の住処とする契約を結びました。以後、彼はこの星に卵を逃がした時点で生き永らえた命の目的を達したものと考え、全盛期の力を失って以後はハイデリンに従う“亡霊”として時を送ります。一方でオメガ側は、ミドガルズオルムが弱体化してしまったことで“最強の竜を倒す”という目的をロスト。行動の優先順位が書き換わり、自己修復のため長期間活動を停止することになった……というのが当時の様相でした。

 その後、エオルゼアと呼ばれるこの地に腰を据えたミドガルズオルムは、銀泪湖の豊富なエーテルを用いて7つの卵を孵します。このとき生まれた七頭の竜こそが、時をへて数多の竜の王となる“七大天竜”だったというわけです。

【①幻龍ミドガルズオルム】
【②光竜バハムート】
【③闇竜ティアマット】
【④聖竜フレースヴェルグ】
【⑤邪竜ニーズヘッグ】
【⑥詩竜ラタトスク】
【⑦星竜ヴリトラ】
【⑧月竜アジュダヤ】

 なお、エオルゼアの神話では、ドラゴン族の祖たるミドガルズオルムは、創世の昔……時神アルジクに続いて現れし星神ニメーヤの神力によって世界に水の理が生じた際、初めて現出したのだと語られます。

 ミドガルズオルムがこの星へたどり着いたのははたして“いつ”の頃だったのか? それについては未だ確証にいたる情報はないものの、彼が契約を結んだのが“ハイデリン”だったこと、そして“星が生まれたばかりの頃”という言葉を鑑みるならば、それはハイデリンがゾディアークとの戦いに勝利して世界が14に分割されたばかりの頃である可能性が高いように思います。すなわちミドガルズオルムは、失われしはるか古代の世界を知る、秘密の語り部たり得る存在だということ。いまは眠りについている彼に、この先再び話を聞く機会はあるのでしょうか……。

ドラゴン族の生態

 ドラゴン族には雄雌の区別がなく、単体で卵を産む形で子孫を増やしていきます。この星の最初の竜はミドガルズオルムとその七つ子であり、彼らがそれぞれに子を産み増えることで“ドラゴン族”が形成された……ということはつまり、ドラゴン族はみな七大天竜のいずれかの直系(ミドガルズオルムに七竜以外の子がいるか否かは不明)の子孫ということ。それゆえ彼らは血族関係を重視し父祖を敬い、とくに一族の始祖たるミドガルズオルムや七大天竜に対しては、崇拝的な想いすら抱いているのだそうです。

 さて、上記のとおりドラゴン族は遺伝子の交配を経ずに子を為す無性生殖(単為生殖)という繁殖方法を用いていますが、これはある種、自分の遺伝子的コピーを生み出しているのと同義。この方法での繁殖は世代を重ねても遺伝子的変化が少ないため適応進化が進みにくく、通常の生物であれば環境が急激に変化したときそれに対応できず絶滅してしまう危険が大きいと言えるかもしれません。しかし、ドラゴン族は長い寿命のなかで生活環境や必要性、嗜好に応じて個体ごとに独自進化する特性を有しており、例えば飛行に最適化したならワイバーン形態、歩行に特化したならレッサードラゴン形態……などなど、さまざまな形態に変化しながら成長していくのです。つまるところドラゴン族は、遺伝子交配をへて多様性を獲得せずとも環境や嗜好に応じて自ら進化することができる、生命体としてかなり完成された存在であるわけですね。

 ただ、“代を重ねた竜たちは、いずれも七大天竜ほど長命ではない”という点は気になるところ。もしこれが単一の遺伝子コピーを繰り返していることに対するシステム的な代償であるならば、ドラゴン族とは、生物として初めから完成されているだけに、始祖に近づくほど強く長命で系譜の末端に位置する子孫ほど弱く短命になっていく“終わりゆく種族”である……と見ることもできるかもしれません。

  • ▲ドラゴン族は、生まれて間もない子竜“ドラゴネット”の形から、さまざまな形態に進化を遂げていきます。種族としてはゆるやかな死に向かっている趣もありつつ、個としての進化の可能性は無限大……そうした矛盾も含めて興味深い種族と言えましょう。
  • ▲氷属性を好むドラゴンは鱗が青く染まり氷属性のブレスを吐くようになったりと、進化の形態は多種多彩。長く生きた個体のなかには、翼や手足すら排し風属性のエーテル操作のみに頼って飛行する“ファラク”など、極端に形態が変化するものもいる様子。

 また、ドラゴン族は基本的に優れた知性を有しており、思慮深く同族への情も厚く、特定の個体同士が“つがい”になることも珍しくありません。ただ、前述のとおり“生物として完成されている”“単性で子を為せる”といった特徴から、このつがいは我々のイメージする婚姻関係とは異なり、もっと精神的な“ともに寄り添い生きる相手”といった意味合いが強いようです。知的生命体にとって“孤独は死に至る病だ”という説はよく耳にしますが、人よりはるかに長命な竜だからこそ、長きを生きるうえでお互いを精神的に支え合える相手が必要だったのでしょう。

  • ▲一族の系譜に連なる竜たちが集まるケースはあれど、それはあくまでも父祖たる七竜を敬いつつ個々が気ままに生きる“群れ”“コロニー”であり、国家とは別物。七大天竜も、群れの頂点として力を発揮し眷属を統括する者もいれば、あまり干渉せず子らの自由にさせている者もおり、“ドラゴン族”全体が統一意思のもとに動いているわけではありません。
  • ▲ドラヴァニアのドラゴン族は寿命を悟ると霊峰ソーム・アルへと赴き、静かに死を迎えます。ゆえにこの地は聖域として墓所として竜たちから神聖視されているのです。
  • ▲ソーム・アルで戦った黒竜ティオマンはニーズヘッグのつがいでしたが……ニーズヘッグにとってみれば彼女ですらも対等に語らう相手として値しなかったのでしょう。それもまた、1つの悲劇と言っていいように思います。

 なお、ドラゴン族については過去に扱ったコチラの記事でも開発側に語っていただけていますので、ぜひあわせてご覧ください。

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人と竜の確執――アラグ帝国のメラシディア侵略

 この星で生まれた七大天竜たちは長い時をへて成長し、やがて思い思いに各大陸へ散って、子孫を産み育てていきました。彼らがいったいどの時代から“ヒト”の歴史を見ていたのか……。ドラゴン族は文字を持たないため人の身でそれを探るのは至難の業ではありますが、人の側には、数千年前の時点ですでにドラゴン族と接触していた記録が残っています。

 古代アラグ帝国による、南方大陸メラシディア遠征の記録――。

 しかしそれは、人の側からの侵略と戦争、そして命を弄ぶ数々の実験の記録でした。本項では、メラシディアのドラゴン族と古代アラグ帝国のかかわりについて、あらためて掘り下げていきましょう。

 今をさかのぼること約5000年、古代アラグ帝国時代の末期。クリスタルタワーの無限に近いエネルギーを軸として魔科学文明が隆盛を極めていた時代のこと。魔科学者アモンによりその時代に復活させられた“初代皇帝ザンデ”の南方大陸メラシディア遠征をきっかけとして、同地の民族とアラグ帝国の間に激しい戦いが起こりました。

 当時メラシディアに存在していたのは、樹状民族、ヒューラン族(を含む多民族の国)、人馬種族、そしてドラゴン族。ドラゴン族は同地で“大いなる存在”と敬われ、互いの領地を尊重し他種族と良好な関係を築いていました。それゆえに、アラグ帝国がメラシディア大陸を侵した際は光竜バハムートが民たちを率いる形で対抗。彼らは善戦し、なかでも竜たちは敵側の主力であったキメラ生物をものともせず、烈火の如き戦いぶりでアラグ帝国を苦しめたといいます。しかしこれを受け、アラグ帝国側は新型のキメラや機械兵器を大量投入。圧倒的物量に押され七大天竜の一角である光竜バハムートが死亡したことで、メラシディアに住まう者たちの結束は揺らぎ、一気に危機感が高まることとなりました。

 こうした状況で戦をさらに激化させるべく動いたのがアシエンたちです。彼らは各民族に神降ろしの儀を伝え、その結果、樹状民族の“魔神セフィロト”、多民族国家の“女神ソフィア”、人馬族の“鬼神ズルワーン”が相次いで顕現。帝国軍を一時押し返しますが……アラグ帝国は、ドラゴン族などの強大な生物を拘束・制御する目的で開発された技術を応用し拘束装置を作り上げ、三闘神を捕獲。神々は魔科学研究所を中心とした人工浮遊大陸アジス・ラーへ送られたのち、そのエネルギーを吸い上げられ、さまざまな研究に利用されることとなったのです。

 なお、アラグ帝国と戦った際、三闘神は互いに協力せず、それどころか衝突することすらあったのだとか。これが意味するところとはつまり、メラシディアの民の結束が欠如していたということ。おそらくは光竜が倒れたことで各種族は自らの領土を守ることだけに腐心し、連携を欠き……それゆえに三闘神は各個撃破され、捕らえられることになったものと思われます。

 一方でドラゴン族の状況はというと……光竜が死したとき、そのつがいであった闇竜ティアマットにアシエンが接触。闇竜と眷属の竜たちはかつての竜王に救いを求め神降ろしの儀に臨みますが、その結果現れたのは、元のバハムートとはかけ離れた、北方人への怒りに満ち満ちし破壊の化身でした。顕現したバハムートは恒星の大規模爆発現象――光と熱のフレアを操りアラグ帝国の軍を完膚なきまでに叩き伏せたものの、アラグ帝国側は魔王級の大妖異“暗闇の雲”との契約によって死体を依代とする妖異の軍団を得、これをもって、止むことのない攻勢に出ます。戦場に死体が増えるほどに勢いを増す妖異の軍団に龍神は消耗し、土地の環境エーテルもクリスタルも尽き……ついにバハム―トはアラグ帝国が手にしていた切り札“オメガ”によって拘束されたのでした。

 このようにしてメラシディア大陸の“神々”は捕らえられ、残された人々はアラグ帝国の支配下に置かれました。メラシディアの民がその後どうなったか、今現在メラシディア大陸がどうなっているのかを語る資料はほぼ残っていないものの、数少ない記述(魚類図鑑)によれば、“かの大陸の生物の多くは死滅した”とのこと。無論ドラゴン族も例外ではありませんが……冒険者は旅の最中、衛星ダラガブの残骸であるラグナロク級拘束艦や、魔大陸アジス・ラーで、彼らの“成れ果て”を目撃することとなります。

 アラグ帝国に敗北したドラゴン族(メラシディア大陸を住処とした光竜バハムートと闇竜ティアマットの眷属)は捕らえられ、魔科学に基づくあらゆる生体実験の被験体とされました。彼らが帝国で受けた仕打ちは、拘束具によって自由を奪われたのち、切り刻まれ、調べられ、“調整”ののちに知能を奪われ、文字通り新たなキメラ生物を作るための“素材”となったり、生物兵器となったり、ペットとして飼育されたり……およそ対等の知的生命体としてみなされない、筆舌に表しがたいものだったようです。

 竜詩戦争をめぐる旅の果て、冒険者は魔大陸アジス・ラーにて、虚ろな瞳で徘徊する獣同然のドラゴンたちと、隔離実験島内の研究所にある生体実験の“残骸”を目撃することになります。さらには、バハムートの魂をねじ曲げ蛮神としてしまった贖罪のために数千年もの間アラグの拘束具に囚われ続ける“闇竜ティアマット”と邂逅。幻龍ミドガルズオルムとともに、しばし言葉を交わしたのでした。

 冒険者がアジス・ラーで知ったのは、古代アラグ帝国という国に生きたヒトのエゴによってメラシディア大陸の命が根こそぎ狩られ、民たちが研究の“材料”となり、種族として、国として、個人として、生命体としてのあらゆる尊厳を奪われるほど冒涜的な行いを受けたという事実。そして、蛮神バハムートを生み出したティアマットの慟哭の深さでした。

 思うにティアマットにとっての“バハムートの蛮神化”とは、“伴侶たる光竜の魂をねじ曲げ、自分たちの身勝手な夢想のもと、まったく別の存在へと変えてしまった”ということなのでしょう。つまりティアマットはある意味では、竜たちの人格さえも破壊したアラグ帝国の者と同じ仕打ちをバハムートに対して行ってしまったわけです。人の身では彼の竜の心中をすべて察するなどとうてい不可能ではありますが、それでも想像するのなら、眷属の竜たちを守れず非道な実験の犠牲となるのを止められず、あまつさえ自らもそれと変わらぬ禁忌を侵してしまった……それゆえにティアマットは、贖罪と称した悲嘆と後悔の裡に、自らが滅ぶ時を待っているのかもしれません。

 蛮神“ナイツ・オブ・ラウンド”を呼び降ろしたトールダン7世は三闘神の力を得ることで竜詩戦争を終わらせ、民をテンパード化して平和を実現しようとしていました。蛮神の力で敵を排し、テンパード化によって相手の人格を無視し支配する……それはアラグ帝国と変わらない、自らのエゴを一方的に押し付けるに等しい行い。冒険者はティアマットとの出会いをへてヒトの非道を見、“エゴによる支配がもたらすもの”の結末を理解し、蛮神についての真実の一端に触れ……己の戦うべきものが何なのかを、自らの目で再び見定めることとなったのです。

  • ▲アジス・ラーで研究材料となった竜たちがいた一方で、オメガによって捕らえられたバハムートは多数の拘束艦に縛られ、太陽エネルギーを集める目的で衛星として星々の海に打ち上げられます。ダラガブ内には、バハムートの召喚を維持する目的で数多のドラゴン族もシリンダーに詰め込まれ、生きたまま“祈りを捧げる装置”とされていました。第七霊災の炎は、まさに彼らの数千年に渡る憎悪と悲憤そのものだったのでしょう。

 なお、アラグ帝国の盛衰や魔大陸についてはコチラの記事でも詳しく扱っているので、もしご興味ありましたらあわせてご覧いただければと思います。

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人と竜がともに生きた時代の追想

 ドラヴァニア近辺を根拠地としていたニーズヘッグやフレースヴェルグは、メラシディア大陸における同族の悲劇を知っていたのでしょうか? その答えはおそらく、YES。七大天竜たちは各大陸で独自の氏族を形成していたようですが、七大天竜の一翼・詩竜ラタトスクとその眷属たちは、世界各地を飛び回って兄弟たちに遠地の出来事を伝えるのを好んだといいます。彼らの竜詩が、同じ七大天竜であるフレースヴェルグやニーズヘッグに届いていないはずがない……とすればドラゴン族は、数千年の昔からヒトという種に対し警戒と疑心を抱いていたのかもしれません。

 約1200年前、ドラヴァニアにエレゼン族の一団が流れてきたとき、はたして竜たちはどのような気持ちでそれを見ていたのでしょう。アラグ帝国の滅亡から幾星霜……同族の仇とは異なる者たちであるとは理解しつつも、同じ“ヒト”であるのに違いはなく、あるいは即時排除すべきという意見を持つ者と静観すべしという意見の者とで、ドラゴン族の中でも意見の相違があったのではという見方もできそうです。しかし結果的には大きな争いは生まれず、数十年後、シヴァとフレースヴェルグが愛を交わしたことをきっかけに両種族は親交を深めることとなりました。

 その経緯は、前回記事で語ったとおり。シヴァとフレースヴェルグはお互いを知り、愛し、暫しの時をともに生きたものの……それぞれの命が持ち得る時間の差異に、両者は苦悩することになります。そして、悩み抜いたシヴァはやがて“魂だけでも永遠に寄り添いたい”とフレースヴェルグに懇願。フレースヴェルグはその悲痛な願いを聴き入れる形で彼女を喰らったのでした。

 あるいは最初のうちはわだかまりもあったのかもしれませんが、この悲劇によりヒトとドラゴン族は相互理解を深めて融和を為し、言葉を交わし、寄り添い、互いに協力してドラヴァニア雲海に壮麗な都を築きました。その後、彼らは200年もの蜜月の時を送ることとなりますが……それははたして、どのような時代だったのでしょう?

ヒトと竜の死生

 言うまでもなく、人の死生観は、個々人の思想や育った環境、文化、時代、宗教によってじつに様々であることでしょう。ただ、死を1つの現象として捉えた場合、私見ながら、そこには2つの段階があるように思うのです。1つは肉体の死。そしてもう1つは、その人のことを憶えている者や思い返す者が誰もいなくなり世界から忘却されたときの “存在の死”です。人はもともと悠久の時を生きるようにはできておらず、代を重ねればそのぶん過去の者たちの人格や思考は忘却されて、ごく一部の記録に、在りし日の姿を幻視することしかできなくなります。そうして世が移り変わるのは避けようのない現実なわけですが……人の身であれば、自分たちの過ごした時間や考えた物事がやがて誰にも認識されないものへと風化していくことに幾ばくかの寂寥感と怖れを感じてしまうのも、また事実でしょう。

 いったい何を言いだしたのかと訝しむかもしれませんが……ヒトと竜がともに生きた時代とは、ヒトにとってみれば“自らが死んでも、そのすべてを憶えていてくれるような存在がすぐ近くにいた”時代なのだと思います。例え肉体が滅びても、親しき竜がいる限り、自分の生きた事実は彼らの記憶の中に消えずに残っていく……命短きヒトにとって、それはある種の安堵を感じられる境遇だったのではないでしょうか。

 そんな時代において、ヒトと竜は信頼し合いながら時を過ごしました。竜はヒトを背に乗せ空を駆け、ときに重い資材を運び、ときに協力して野獣と戦い、ヒトは手先の器用さを生かして彼らに美味な料理を振る舞い身体を手入れし治療をし、暖かな寝床を用意し、竜はその炎で肉や魚やらを炙ってヒトとともに食し、ヒトは竜の背や腹を枕に眠る……そんなゆるやかな日々を送っていたのだと夢想しても、そう的外れではないでしょう。ヒトと竜はドラヴァニアの空におけるよき隣人として接し、ヒトは竜から父祖の記憶を聞いて自らのルーツを知り、今度は子や孫に偉大なる竜たちの物語を聞かせながら、命を紡いでいく。それは、人がとても心穏やかに生きることのできた、陽だまりのような時間だったのかもしれません。

 しかしその一方で穿った見方をするのならば、かの時代は“ヒトの生が、竜によって保護されていた”と言うこともできるでしょうか。もちろん、表向きヒトと竜は対等な存在として生活していたのかもしれませんが、ヒトという生き物の性質を考えるなら、強大で長命な生物が常に自分たちのすぐ近くにいることに息苦しさを感じる者がまったくいなかったかというと、やや疑問にも思えます。そのような人間にとってみれば、竜との生活は何を為しても為さなくても父祖の記憶と比べられ、自分たちより根本的に上回る存在がすぐ近くに居続け、時として見下されているような感覚さえも覚える……敵対もしていないし悪しき者でないのは理解しつつもどこか疎ましさと窮屈さを感じる、そのようなものだった可能性もあるでしょう。現状の安寧に甘んじない(あるいは満足できない)克己心や自立心がある意味でヒトの闇であるとすれば、“ヒトの保護者であり星の守護者を自認する高慢な竜など不要”“ヒトは真に対等となるために竜と同等の力を得るべき”との考えのもと「竜の保護下に甘んじるなど許されない」「自らの力で成し得た暮らしでなければ価値がない」などと唱える者たちが現れたとしても、特別不思議な状況ではなかったのだと思います。

星の守護者として、ただ強く――。
ニーズヘッグの真実

 ヒトと竜がともに暮らした時代にあって、はたしてニーズヘッグはどのような日々を過ごしていたのでしょう。じつのところ、ヒトへの憎しみに囚われる以前のニーズヘッグについて知ることのできる資料や口伝は、これまでの間、ほぼ存在していませんでした。それが初めて見られたのは『漆黒のヴィランズ』後の竜騎士レベル80ジョブクエスト。冒険者はこの物語の中で邪竜追悼の旅に出て、初めて“ニーズヘッグとは何を求め、どのような考え方をする竜だったのか”を聞き知ることとなります。

一言で語るのは難しいが……
どの竜よりも強くあろうとする孤高の竜であった。

 幼竜オーン・カイとともにドラヴァニア雲海を訪れ、黒竜ファウネムと再会した冒険者。ファウネムが語るところによれば、七大天竜ニーズヘッグとは、全盛期の力を失った幻龍ミドガルズオルムに代わって、星の守護者として戦える存在であろうとした竜だった……とのこと。

  • ▲無益な争いを忌避し邪竜の咆哮に抗ったこととその後の孤独な年月ゆえに正気を失い、かつて冒険者とエスティニアン、オーン・カイらに救われた黒竜……それがニーズヘッグ眷属のファウネム。聖竜麾下の白竜・ヴェズルフェルニルのつがいでもあります。

 前述のとおり、ドラゴン族の故郷たる竜星は機械兵器オメガによって滅ぼされ、オメガ自身もミドガルズオルムを追う形で惑星ハイデリンにやってきています。古代アラグ帝国によって時間凍結の封印が施されているとはいえ、いつオメガが再起動してもおかしくない……そんな当時の状況において、ニーズヘッグは一族を守るためにただひたすら強く在ろうとしたそうです。そして、そのような“強さ”に対しての思いゆえに弱く短命なヒトという種族そのものを軽く見ていており、「ヒトは脆弱で取るに足らない存在であり、母なる星の守護者に相応しきは、幻龍の子たる七大天竜だ」という考えを持っていたということでした。

 彼の悲劇は、その考えが最悪の形でヒト側に伝わってしまったこと。強さを至上としていたニーズヘッグは、交友に値するのは同格である七大天竜のみという思いからか詩竜ラタトスク以外とはあまり接点を持たず(ヒトと愛を交わし融和を推進した聖竜はもはや相容れぬとの思いもあったのでしょうか)、一方でラタトスクはヒトであれ竜であれ語らうことを好む社交的な竜でした。生物としての強さゆえ嘘を吐くことを知らなかったラタトスクは、トールダン王たちにニーズヘッグの意向を尋ねられた際、彼の言葉をそのまま伝えてしまいます。このような要因が重なった結果、トールダンらは“竜はヒトをないがしろにして星の支配者たらんとしている”という誤解を持つに至った……というわけです。

 その後の顛末は、すでに語ったとおり。“ドラゴン族はその両眼にエーテルを蓄積する性質があり、悠久を生きる七大天竜ともなれば、秘められたエーテルの量たるや莫大なものである”という秘密までも知ったトールダン王たちは、ドラゴン族に対抗する力を求めて詩竜を謀殺し、その眼を喰らいました。

 ニーズヘッグからしてみれば、己がうかつに吐いた言葉が発端となって最愛の妹竜であるラタトスクを失った形。それゆえにすべてを許せず、彼は永劫の復讐としてヒトを苦しめる道を選びます。……ただひたすらに強さを求めたニーズヘッグは、真に守りたかった家族を守れず、孤高ゆえに他者を頼れず悲しみを癒やす術も知らず、すべてを憤怒と復讐の念へ変えることでしか、己が以後も生き続けていい理由を見出せなかったのでしょう。

 強さと、強者ゆえの弱さを備えた孤独な竜王は、このようにして怨嗟の泥濘に溺れたのでした。

  • ▲ラタトスクを失ったニーズヘッグは、ドラヴァニア雲海の都を徹底的に破壊。このときより、イシュガルドとニーズヘッグの千年続く竜詩戦争が幕を開けることとなりました。

 さて、かつての融和の時代でさえもヒトと距離を置いていたというニーズヘッグですが……“裏切り”以前に大きな争いが起きたという話がなく、眷属たる黒竜ファウネムらが人を背に乗せても積極的に制止した様子がないあたり、ヒトという種を見下しつつも、案外穏やかに時を過ごしていたのやもしれません。……あるいは、ヒトとしては突出した力を持つはぐれ者と出会い、慣れ合わぬとも互いの力を認め合い憎まれ口を叩き合うその様子を、妹たる詩竜が見守っているような……そんな情景もあり得たのでしょうか。

 言うまでもなく、これは根拠のないただの願いにすぎません。フレースヴェルグに対するニーズヘッグの言動を見る限りニーズヘッグは当時からヒトに対して懐疑的だったことが見てとれますし、融和の時代においても、もしかしたら彼の眷属の一部がヒトを襲うことすらあったのかもしれません。しかしながら、父竜のもとを巣立った兄妹たちが各大陸に散り、彼が孤独に過ごしていた時代……すべてが壊れる前の、“邪竜”などと呼ばれる以前のニーズヘッグに、そうしたささやかな安らぎと呼べる時間があったのだと、そうであったらいいと思うのです。

 ……なお、トールダンらは前述の“裏切り”によって竜と決別する道を選んだわけですが、彼らがラタトスクの眼を喰らってまで力を獲得しようとした理由の1つには、無論、ヒトと竜の生物としての強さがかけ離れていることが挙げられるかと思います。竜に比べて、ヒト1人の力はあまりにも弱い。ニーズヘッグのことがなかったとしても、万が一ドラゴン族が徒党を組んでヒトを急襲したら、ヒトは大した抵抗もできず滅んでしまう……。つまるところヒトの運命は氏族の長である七大天竜の機嫌しだいというわけで、トールダンらはその事実に潜在的な恐怖を抱き、そうした事態にならないために、かねてより抑止力としての力を得たいとは思っていた……。そうした捉え方もできるのかもしれません。

 いずれにせよ、ニーズヘッグ襲撃の際にトールダン王は倒れ、十二騎士も4名が死亡。さらに、次代の王となるべきハルドラスを含む4名が離脱したことで、彼らの当初の計画は頓挫することとなります。残った4人の騎士……四大名家の祖先たちが事実を隠蔽し現行のイシュガルドを作るべく画策したことは、多くの冒険者はすでにご承知のことでしょう。

  • ▲詩竜の眼を喰らった結果、建国十二騎士の血には竜の因子が組み込まれることになりました。彼らの子孫は、特別に魔力を注がれた竜血を飲むことで“竜人”へと変化する性質を持ち合わせています。ある意味では呪いとも言えましょうか。

怨嗟からの解放――漆黒の翼の最期

 七大天竜にとって、同位階の兄弟は悠久の時をともに過ごすことのできる存在であり、世界で七頭だけの“生物として対等に接せられる相手”です。そのようなかけがえのない妹……ヒトと竜を隔てなく語らってきたラタトスクを惨殺されしニーズヘッグの怒りは、決して晴れることのないものでした。そしてその怨嗟の念は、肉体から遠く離れた彼の両眼にも、深く深く積み重なり続けていたのだと思います。

 旅の途中、冒険者とエスティニアンはドラゴンズエアリーでニーズヘッグの肉体を滅しましたが、のちに教皇トールダン7世を倒して邪竜の両眼がそろった際、眼に残留した怨念とも言えるエーテルがエスティニアンを侵食。彼の体を再構成する形で“邪竜”が復活を果たし、彼方の空へ飛び去ります。その後、邪竜の影はイシュガルドにおいてヒトと聖竜の眷属とが融和を成し遂げようとしたまさにそのときを狙って急襲。白竜ヴィゾーヴニルに深手を負わせ、すべてのヒトとヒトに与する竜に宣戦布告したのち、数多の眷属を従えて皇都イシュガルドへの最終侵攻を仕掛けたのでした。

  • ▲邪竜の根城ドラゴンズエアリーでニーズヘッグにトドメの一撃を加えたのはエスティニアン。しかしこのとき邪竜の返り血にまみれたことで、彼の身体はニーズヘッグのエーテルによる浸食が加速してしまったようです。

 さて、このように蘇った“邪竜の影”は、はたしてニーズヘッグ自身だったのでしょうか? ……正直なところ、それに対し明確に答えを出すことはできないように思います。ヒトの場合は肉体の内に精神エネルギーたる魂(エーテル)が内在しているわけですが、竜はその両眼にこそエーテルが集約されている。ゆえにある意味で竜の魂は眼にこそ宿っているとも言えるのでしょうし、眼のエーテルはあくまでも魔力であって、肉体が滅んだ時点でニーズヘッグ本来の魂もまた星に還っており、邪竜の影はあくまでもニーズヘッグの“残響”に過ぎないのだ……と見ることもできるでしょうか。

長らく、我が眼の力に触れ、
さらには全身に我が血を浴びながら、よく耐えてきた。
……だが、ついに貴様は願ったな、蒼の竜騎士よ!
すべての荷を降ろしたいと! 安らぎが欲しいと!

心の奥底に燻り続けた復讐の心……
「竜詩戦争」の影で散っていった者たちの慟哭……
我の「眼」は、そのすべてを視、すべてを写してきた!
今こそ、すべて貴様にくれてやろう……
……そして、我となれ!

 上記は、エスティニアンが邪竜の影に呑まれたときの言葉。これを見る限り、邪竜の両眼はニーズヘッグの身体を離れたのちも彼の意思とつながっていて、代々の“蒼の竜騎士”とともに、ヒトの側から見た戦の様子さえも記憶していたようです。

 これまで蒼の竜騎士として度重なる戦いで邪竜の眼からエーテルを引き出し己が力に変えてきたエスティニアンは、邪竜のエーテルに深く侵食されていました。それに加えて、エスティニアンとニーズヘッグはどちらも家族を敵対者に奪われ、復讐のためだけに生きてきた者。……ニーズヘッグにとってみれば、エスティニアンの魂は自らに近しく馴染みやすい色合いであったのでしょう。これらの要因が重なった結果、邪竜の眼に込められた怨念とも言える魔力によって強制的な同調が起き、エスティニアンの魂はあたかも空が嵐の黒雲で覆われるように邪竜の巨きな憎しみで上塗りされ……そして、それにふさわしい形に肉体が再構成されたものと思われます。

 いずれにせよ邪竜の影とは、エスティニアンの復讐心に満ちた魂が基盤となり、それがニーズヘッグの記憶と怨念に塗りつぶされることで生まれた、ニーズヘッグでもありエスティニアンの暗黒面でもある“混ざりもの”というべき存在でした。

  • ▲かつての兄弟であるフレースヴェルグの眼には、邪竜の影はニーズヘッグそのものとは映っていなかったのかもしれません。しかし邪竜の影の言葉はまぎれもなくニーズヘッグの昏き記憶すらも写したものであったように思います。

 そして……雲廊での最終決戦。冒険者は聖竜フレースヴェルグから竜眼の力を借り受けて死闘を繰り広げ、邪竜の影を降しました。邪竜の影はなお殺意を露わにし猛り続けるも、支配が弱まったことを受けてエスティニアンが一時的に身体の制御権を奪取。彼は冒険者に己を殺すよう切願しますが……アルフィノと冒険者は一瞬たりと迷うことなくエスティニアンに駆け寄り、その身体から邪竜の眼を引きはがしてエスティニアンを救います。その際に見たものが“何”であったか……それはあえて言葉では語らずにおきましょう。




 こうして、邪竜の影は蒼天の空に消え去りました。ニーズヘッグが最期に何を思ったか、その答えは無論、想像の内にしかありません。しかし1つだけ言わせてもらえるならば……ニーズヘッグの魂は決して無念のうちに消失したのではなく、ヒトの意思に触れて、怨念が霧散したがゆえに星へ還ったのだろうということ。そしてその救いは、ニーズヘッグがエスティニアンの魂と一時的に混合したがゆえにもたらされたものだったのだと思います。

 これまでの長い年月、ニーズヘッグは誰とも相容れず孤独に復讐の炎を燃やしてきました。それは基本的にはエスティニアンも同じ。しかしエスティニアンには国の未来を託せるアイメリクという友がおり、竜詩戦争を止めるためともに旅をした仲間がおり、同じ蒼の竜騎士としての定めを背負った相棒がおり、彼らと語らって、ひと時でも心を許した時間がありました。……つまるところ屠龍のエスティニアンは、決して竜を殺すことだけがすべての人間ではなかったわけです。そしてエスティニアンは、彼が邪竜の影に侵され命の分水嶺に立った際、我が身を顧みず行動した仲間の姿を目にしました。そのときに彼が少なからず抱いたであろう感情……ニーズヘッグは、エスティニアンの魂と同調していたからこそ、そのときに同様の感情を持ってしまったのでしょう。それは、ニーズヘッグがただ邪竜という個であった時分には、決して知ることのない想いだったに違いありません。

 ……あるいはニーズヘッグは、フレースヴェルグの言葉を「戯言」と本心で切り捨てつつも、頭のどこかほんの片隅では、今を生きるヒトに必ずしも罪があるわけでないことを理解していたのでしょうか。ヒトは短命であり、現代の人間と1000年前に罪を犯した者とはもはや別の存在であること……そして戦いの前にフレースヴェルグが言ったとおり、彼らは父祖の罪を償い、戦を止め竜とともに生きることを決めたこと。そうした事柄を仮に理解していたとしてもなお彼がヒトを許せなかったその理由は、復讐心とともに、ヒトという種そのものへの激しい嫌悪があったからにほかなりません。「短命で弱く、欺瞞や虚栄、裏切りの心に満ちた忌むべき者ども……ヒトという名の猿がこの星でのうのうと生を謳歌していいわけがない」それが、星の守護者たらんとしたニーズヘッグという竜の見解だったというのは、想像に難くないと思われます。しかしながら、今わの際に、ニーズヘッグは初めて“ヒト”という生き物の本質の一端に触れることになりました。


 それは、ヒトが、誰かの想いを受け継ぐ生き物だということ――。虚栄や裏切りも、たしかに人の本質の一端。しかしそれと同時に、人は誰かと接し、失われた者たちの想いや信念を受け継いで未来に向かうことができる。個では竜に及ばずとも、そうした繋がりのうちに命は続き、結果として1000年もの恨みを蓄積した邪竜の怨嗟すら断ち切った――。人は、ただ盟友のために、ただ盟友とともに在るために強くなれる生き物なのだと、ニーズヘッグはこのときはじめて理解したのではないでしょうか。孤高に生きた“邪竜”たる自分にはなかった可能性……その強さをヒトに垣間見たがゆえに彼の怨念は散り、そして逝ったのだと思います。

 さて、エスティニアンを救い出した際に邪竜の眼は雲海の底に投げ入れられたものの、のちに蛮神“神龍”召喚の触媒にされるなど数奇な運命をたどることになりました。

 つまりニーズヘッグのエーテルは、彼の魂がエーテルの海に還ったのちもアシエンや復讐心持つヒトに利用されることとなったわけですが……アラミゴを奪還した際、竜の眼はついにエスティニアンによって破壊されます。ヒトの裏切りから、1000年。数多の命を繋ぎつつ長きに渡って続いてきた蒼の竜騎士とニーズヘッグの因縁は、このようにして終幕を迎えたのでした。

 というわけで……以上をもって、邪竜ニーズヘッグに関する【The Villains of FFXIV】第4回記事は閉幕といたします。星の守護者たらんと、ただ強くあろうとした竜――ニーズヘッグ。冒険者と元・蒼の竜騎士エスティニアンは彼の想いすらも受け継いで、このあとも戦いに身を投じていくに違いありません。そして惑星ハイデリンに住まう多くの人間には“ニーズヘッグという竜”の真実が開示され、以後、竜とヒトはこの星のよき隣人として新たな関係を紡いでいくのでしょう。だいぶ長くなりましたが、竜騎士レベル80クエストは本当に一見の価値アリなので、まだ見ていない方はぜひニーズヘッグ追悼の旅に出てみてほしいと思います。

 さて、次回の【The Villains of FFXIV】は氷の巫女イゼルについて振り返る内容でお届け。どうぞお楽しみに!



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