曹操と董卓から貰った名馬、夢に出てくる白馬など“馬”にまつわる逸話3選【三国志 英傑群像出張版#21-1】

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 三国志に造詣の深い“KOBE鉄人三国志ギャラリー”館長・岡本伸也氏による、三国志コラム。数多くの書籍が存在するなか、“民間伝承”にスポットを当てて紹介しています。



 英傑群像出張版では、わたしが中国各地で集めた三国志武将の民間伝承の古書から、日本で知られていないものを厳選して文章をまとめて紹介しています。

 今回は【曹操】と【馬】にまつわるお話を選んでみました。

【汗馬の労】曹操が刻んだ汗馬功労橋

 献帝が許都に遷都した後、曹操は兵糧の問題を解決するため、許昌地域に「屯田制※」を導入した。輸送を容易にするため、彼は穎陰城の西郊から南北の軍営に通じる公道に穀物運河を掘った。

 ※屯田制とは:戦乱が続き世の中が荒廃してしまい、その食料不足を解決するために制定された、民に土地(国有地)を与え耕作させる制度のことで、対象が農民の場合は民屯(みんとん)、兵士の場合は軍屯(ぐんとん)といわれる。

 この運河には、長さ3丈以上の石橋が架かっていた。橋が架けられた時、船が通りやすいように、石橋の三日月のようにアーチ状で高く造られ、橋の両端には急な斜面ができた。

 ある時、曹操と荀彧が馬に乗って屯田の収穫を見に行った。彼らは穀物を運ぶ車列に阻まれ、馬を降りて歩かざるを得なかった。

 橋に着くと、穀物を荷車に積んだ兵士たちが、汗をかきながら坂道を必死に登っているのが見えた。曹操は部下に命じて彼らを手伝わせた。

 更に曹操は都に戻ると自分の馬を送って兵士たちに橋を渡る助けとするように命じた。曹操の馬は力強かった。穀物輸送隊の兵士たちは、曹操が自分の馬を派遣するのを見てとても感動した。しかし、絶え間ない穀物輸送の助けのため、曹操の西涼の馬は疲労で死んでしまった。

 その馬は都の洛陽で董卓から譲り受けたものであった。曹操はその知らせを聞いて心を痛めた。曹操による董卓暗殺未遂時に、呂布が選んできた馬だったのだ。

 その馬に乗って故郷に逃げ帰った。この馬は曹操のすべての戦いに騎乗した。そこで曹操は石橋にやってきて、この馬を運河の南岸の橋の近くに埋めるよう兵士たちに命じた。

 曹操はこの橋を「汗馬功労橋(かんばこうろうきょう)」と呼んだ。

夢の白馬

 ある年、曹操軍が許県に到着した後、彼は兵と糧食に困り心配でじっとしていられなかった。

 ある夜、空には月が明るく輝いていたが、曹操はそれを楽しむ気にもなれず、一人で裏庭を行ったり来たりしながら考え事をしていると、いつの間にか石の上で眠ってしまった。

 荒れ果てた無人の地で、雑草が生い茂りカラスが枯れ枝の上で鳴き骨が落ちていてハゲタカの群れが空を旋回し、曹操は果てしない荒野を手探りで進んだ。

 突然、大きな川が行く手を阻み、水の流れは速く、波も高く、渡ることは不可能だった。後ろから凶暴なオオカミの群れが彼に襲いかかり、前進することも後退することも不可能になり、彼はオオカミに襲われそうになった。曹操は喰われるぐらいなら水に飛び込んで自殺しようとした。

 その時、突然目の前で馬の嘶きが聞こえ一頭の白馬が彼に向かって飛ぶように走ってくるのが見えた。白馬は曹操を乗せ、川の流れに逆らって向こう岸まで泳いでいった。

 曹操は一昼夜その白馬に乗り、小さな川のほとりで止まった。曹操が辺りを見回すと、土地は平らで肥沃で、太った野生の馬の群れが悠々と草を食べていた。曹操は大喜びした。

 途端に目がさめた。夢だったのだ。曹操は部下に夢で見た場所を探させた。その土地は見つかり夢の中で見た大きな白馬を見つけた。

 その後、曹操はこの白馬の功績を記念するため、白馬廟を建てさせた。

 白馬廟の扉の両側の柱には、“出西天神鳥引路,回東朝天馬渡江(意味は、西の空からは神鳥が道を導き、東の王朝に戻ると天馬が川を渡る、となる”という対句が彫られた。

 廟の名前は「済犊廟(さいとくびょう)」と名付けられた。それ以来、ここは曹操の馬牧場となり、馬欄村(ばらんそん)の名前の由来となった。

火牛の計ならぬ火馬の計

 ある戦で、曹操軍が鄢陵(えんりょう)に来た時、突然、東を流れる大きな川に進軍が止められた。背後に迫る追撃軍の音は大きくなる。

 この重大な瞬間に、曹操は知恵を絞って馬の尾に枯れ木を結びつけ、油を注ぎ、「馬欄陣(ばらんじん)」と呼ばれる陣形を整えた。

 敵が近づくと、乾いた薪に火をつけて馬を逃がすように命令を下した。松明を引きずった数千頭の馬は、その勢いで敵陣に突入し敵は大混乱となり、曹操軍はこの状況を利用して逆襲に転じ、追っ手を撃退した。

 この勝利を記念するため、曹操は兵士に命じて戦衣を土を包み、高台に積み上げさせ、そこに石碑を建て、自ら「馬欄陣」と刻んだという。これが現在の馬欄鎮という地名として今も残る。

 いかがだったでしょうか? 曹操と馬にまつわるお話でした。

 1つ目の話。兵馬思いの曹操の逸話だといいたいところですが、曹操は大事な馬をなぜ橋の荷物を運ぶ重労働に使いまわしたのでしょうか?

 年老いた馬になっていたのかもしれませんし、曹操自らの馬を応援に出したという事で兵の士気を上げるための計算があったのかもしれませんね。

 どちらにしても輸送の効率化の為には橋の改良をしたほうがよかったのでは? と思ってしまいました。しかし、三国志演義で董卓暗殺未遂の際に董卓からもらった馬の話が民間伝承になっているというのはファン心理からしてうれしいものですね。

 2つ目の話。曹操が夢の中で白馬に助けられたというお話です。というか馬の群れを見つけれたというお話なのかもしれません。そういう言い伝えと地名が残っているのも面白いところですね。

 3つ目の話。“火馬の計”とっさの判断が戦いの結果を変えてしまうというお話でもあります。“火牛の計”の史記の逸話を知っていてアレンジしたのでしょうか? さすが曹操! というところでした。

 次回も「曹操」にまつわる民間伝承をお伝えしようと思います。

横山光輝三国志の交流会のご報告

 KOBE鉄人三国志ギャラリーでは、「横山光輝三国志 交流会」をテーマの人物を決めて毎月実施しています。

 8月は 夏侯惇、夏侯淵、夏侯覇 などの「夏侯一族特集」でした。

 今回事前に、横山光輝三国志(以後、横山三国志)と物語の三国志演義(以後、演義)を全頁さらって
夏侯と付く人を全て見つけ出し内容をまとめて準備しました。

 普通の武将1人よりかなり時間がかかりました。これら人物だけの演義年表を作り、当日横山三国志との差異をご紹介しました。

 今回、少しだけ内容をご紹介しましょう。

 それにしても横山先生、夏侯一族を省略しすぎ! 呂布VS夏侯惇とかも省略されています。

 閑話休題。人物名から作品を見てみると意外と違う発見も色々ありました。

 「この人ここで出てきたんだ!」とか1度斬られるだけに出てくるような人がいて、「こんな人いたんだ!」とか、いろんな夏侯さん達を掘り下げられて楽しかったです。

 演義では夏侯惇・夏侯淵は反董卓連合前に曹操と一緒に旗揚げで登場します。ですが横山三国志ではそれぞれコミック版13巻、8巻までは登場しません。

 横山三国志の傾向として<出さなければ仕方ない所で登場させる>ということが多めです。結果として伏線がなくなってしまう事もしばしば。

 それでも人を減らすことで分かり易くするのが狙いだということは理解できます。しかし、見落としてなければ夏侯淵は8巻で一度少し出てから漢中侵攻の36巻まで登場せず。8巻に出す意味はなかったのでは?! ってこともあります。

 演義では例えば夏侯淵が弓の達人的技を見せるシーンとかもあったりしますがそこもカット。

 全部皆さんと見なおしてから、演義ベースで主要な夏侯さん達を点数化しあいました。

 結構意見がわかれて平均を出しているので厳しめの結果になりました。 皆さんが評価するならどうでしょうか?

 最近の三国志演義(毛宗崗本)では長坂の戦いで張飛の声に驚き落馬するのは夏侯傑という架空人物。昔の日本に伝わる流れの本(李卓吾本)では夏侯覇。吉川三国志などもこれ。

 私が思うに夏侯覇が落ちるのは後半で魏から蜀に鞍替えする事を示した伏線なのではないか。なのに毛宗崗さんが史実とあわないと替えてしまったのではないか。

 ありがたいことに横山三国志では夏侯覇が落ちる方を採用してくれているので伏線が確保された気が個人的にはしています。

 次回:9/16(土)「周瑜、魯粛、諸葛瑾ほか」を予定しています。ぜひ一緒に深堀しましょう!

横山光輝三国志 交流会開催のお知らせ

 さきほどもご紹介した、毎月開催の三国志交流トークイベント「横山光輝三国志 交流会」を9月16日に開催します!

 周瑜、魯粛、諸葛瑾などの武将にご興味がある方はぜひ、そこまで……というかたでも構いません! お気軽にご参加ください。

●「横山光輝三国志 交流会」概要

日時:9月16日(土)16時半~19時
料金:1000円(ドリンク付き、要予約)
場所:KOBE鉄人三国志ギャラリー
〒653-0042
兵庫県神戸市長田区二葉町6-1-13
予約:078-641-3594


岡本伸也:英傑群像代表。「KOBE鉄人三国志ギャラリー」館長。元「KOBE三国志ガーデン」館長。三国志や古代中華系のお仕事で20年以上活動中。三国志雑誌・コラム等執筆。三国志エンタメサイトや三国志グッズを取り扱うサイトを運営。「三国志祭」などイベント企画。漫画家「横山光輝」氏の故郷&関帝廟(関羽を祀る)のある神戸で町おこし活動中!



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