ネタバレあり感想&考察:『終末トレインどこへいく?』1話。こんな簡単なノリで世界が滅ぶとは…。ほのぼのした雰囲気の中に終末世界らしい“エグさ”も感じた

米澤崇史
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 2024年4月1日(月)に放送されたTVアニメ『終末トレインどこへいく?』1話“ちょっと行ってくる”の感想記事をお届けします。

【注意】キービジュアルより先のテキストでは、『終末トレインどこへいく?』1話の物語に関する記述が多々あります。そのため本編をご覧になってから読むことを強くオススメします。

冒頭数分であっさり崩壊した世界【終末トレインどこへいく?】

 監督を水島努さん、脚本を横手美智子さんが務めるオリジナルアニメとなる本作。お二人は『SHIROBAKO』『監獄学園』など様々な人気作でコンビを組んでいたのもあり、本作に期待を寄せていたアニメファンも多いのではないでしょうか。

 今回のテーマとなっている“終末世界×電車×友情”。先行でこの情報が出た時も、どんな作品になるかまったく想像がついていなかったんですが、いざ放送が始まって冒頭を観た時にはさらに頭の「?」マークが増えるくらいカオスな状態に。

 唐突にドローンで拉致されたと思ったら、わけのわからないままボタンを押させられて、世界崩壊の引き金を引かされる葉香はかわいそうすぎました。いろんなポストアポカリプス作品に触れてきましたが、こんな軽いノリで世界が滅んだのを見たのは初めてかもしれません。

 そして本作の物語が始まるのは、その事件から2年後の埼玉県・吾野。東京・池袋から続く、西武鉄道池袋線の終点駅がある場所でもあります。

 最初に喋る動物たちを見た時、冒頭の7Gの暴走で人類すべてが動物になってしまったんだと思いこんでいたので、ごく普通に撫子たちや善治郎が人間の姿で出てきてビックリしました(善治郎は最初、上半身が丸ごとない存在なのかと思って、違う意味で度肝を抜かれかけましたが)。

 どうやら吾野では、21歳3ヶ月を過ぎると動物化するという謎の現象が7Gの影響で起きており、子供たちは人間のまま過ごしている様子。元々の大人だった人達は、2年前に一斉に動物になったんでしょうけど、21歳3ヶ月未満の子どもたちは、「あと◯年で自分も動物化する(しかも何になるか分からない)」という、一種の余命宣告のようなものを突きつけられていると考えると、なかなかにキツイ環境だなと思います。

 とはいえ、7G事件の影響は土地によってまちまちで、住人が木になった場所もあるようなので、自分の意思で動けて喋れる動物という吾野の変化はかなりマシな方なのも確か。「その場から一歩も動けず、言葉も話せないけど意識だけはある」状態が木になるということなら、死んだ方がマシなんじゃないかと思えるくらいで、想像するだけでもゾッとします。

 本作のメインキャラクターである撫子、玲実、晶、そして静留の4人の少女たちも登場。素直でちょっとギャルっぽい雰囲気の玲実と、現実主義で頭でっかちの晶の喧嘩は日常茶飯事で、その度に撫子が収めてきたんだろうなという関係性が、この短いやりとりだけですっと入ってきました。

 ただ、晶だけ制服のデザインがまったく別なのは何故だろうと思っていたら、Xで水島監督が明かしてくれた情報によると、吾野の学校は中高一貫で、晶は中等部、他の3人は高等部という違いがあったからのようです。高等部の中でも3人とも学年が違っていて、よくみるとスカーフの色に違いがあります(玲実と静留は同じ赤系で似ていますが、静留のスカーフの方がより赤が深い)。

 行方不明になっている葉香を入れた5人以外に生徒はいないようなので、晶にとって玲実は一番歳が近い、遠慮ない物言いができる相手なんでしょうね。口では悪くいいながらも、内面では玲実にちょっと甘えているようにも見えて、個人的にこの二人の間でどういうドラマが描かれていくかも気になりました。

 一方、元が人間とはいえ、熊を拳でぶっ飛ばす静留は戦闘力的な意味でヤバすぎました(熊を吹き飛ばすレベルの威力のパンチだと、殴った人間側の拳の骨が砕けそうな気がします)。どうにも静留は吾野柔術の有段者らしく、一人だけ完全にバトル物のアニメの世界に行っても生きていけそうなレベルの身体能力をしています。

静留の決断から旅立ちまでの流れは、ジェットコースターのようなスピード感【終末トレインどこへいく?】

 日本政府も機能していないほどなので、文明はほとんど崩壊したかと思いきや、唯一残っている黒豹マークの宅配便が、各地の集落に様々な物資を届けてるラインフライン的な役割を果たしていたようです。黒豹もそうですが、今はなくなってしまったと名前が出ていたカンガルーやペリカンも、「多分あの会社のことだろうな……」と想像してしまいます。

 玲実はこの状況でもアニメのムック本を頼むほどの、オタクに優しいギャル(というよりはオタクそのもの)というギャップも面白い。頼んでいた『練馬の国のアリス』のファンブックは、中の文字をほぼ読めるくらい書き込まれていて凄いんですが、よく文章を読むと「母乳を発射」とかいうパワーワードや、宴会で酔っ払いがいきなり同僚をバイクで轢き殺す展開があったり、本編以上にちょっとネジがぶっとんだ内容になっています。水島監督と横手さんのコンビでもあるので、『SHIROBAKO』の劇中劇だった『第三飛行少女隊』を思い出しました。

 銀梅花を注文したにも関わらず、その理由が自分でも分かっていないと撫子が打ち明けるシーンも気になりました。晶が何かを思い出そうになった途中に会話の流れが変わってしまったのですが、その後の旅立ちのシーンで、撫子は銀梅花の花を持ち込んでいましたから、今後の物語にも関わってくるキーアイテムになのはほぼ間違いないんじゃないかなと思います。

 一方、その銀梅花を包んでいた新聞から手がかりを得たことで、葉香を探しにいきたいという願望がどんどん大きくなっていく静留。回想シーンを見るに、冒頭の葉香は静留と大喧嘩した後、ショックを紛らわせるために街に遊びにきていたところ、7G事件に巻き込まれてしまったのかなと。葉香と静留は同じ色のスカーフをしているので、あの学校の中では唯一の同学年で、写真でも特別距離が近いように見えるので、親友同士といってもいい間柄だったんでしょう。

 そんな静留と葉香がなぜ喧嘩したのかも、そのうち明らかになっていくと思いますが、後から振り返ってみるとどうでもいい、些細なことだったんじゃないかと個人的には予想しています。本来は、時間が経てばすぐ仲直りできていたはずなのに、もう二度と会えないかもしれないのは嫌だという静留の心境は、すごく理解しやすいなと。

 そんなモヤモヤを解消するきっかけになったのが、その後の善治郎とのやりとりなわけですが、帽子の紐を拾った際、取り返そうをする善治郎をノールックの肘打ちで吹き飛ばす容赦のなさには爆笑しました。SEの効果もあって、すごい威力で吹っ飛んでいったように見えます。

 善治郎が正気に戻ったことで、冒頭で葉香と一緒にいたポンタローが7G事件の背後にいることも判明しましたが、善治郎の額の傷がまさか手術の跡だったとは……。

 善治郎については、吾野の人達が「昔はイケメンでシュッとしていた」と話していたセリフがあり、単に数十年前の若い頃の話をしていると最初思っていたんですが、ここでいう“昔”は、7G事件が起こる数年前のことを言っていた可能性が結構ありそうだなと。

 もしそうなら、ポンタロー達は頭を開いて廃人同然にした上に身体まで老人にするという、悪の秘密結社も真っ青になりそうな非人道的なことをやっている組織となりますが、そんな連中と一緒にいる葉香は大丈夫なのか心配になります。

 その後の展開は、まさにジェットコースターのようでした。それまでの流れがあったので、静留が旅立ちを決意するのはすごく納得なんですけど、すぐに母親が旅に出るのを承諾し、学校では退学宣言、静留が池袋を目指すことを聞いて、撫子やポチさんもそのまま電車に乗り込むまでがあまりにもスピード感がありすぎる。事前準備をしっかりしている静留はともかく、撫子達のためにせめて1回電車を止めて旅の準備をさせてあげてと言いたくなりました。

 運転席からの景色を見て、昔プレイした『電車でGO!』シリーズのゲーム画面を思い出したのは絶対に自分だけではないかと思いますが、でも何か違和感があると思っていたら、電車に電気を伝えるための架線が存在してないんですよね。

 1話では、7Gの力で今でも電気が供給されていると静留が話していたシーンがありましたが、電車を動かすのに必要な電力が賄えるようになり、高架が不必要になったという設定も、放送後に水島監督が明らかにしていました。

 全体を振り返ると、まさにロードムービーの始まりといった感じで、「主人公たちはこんなキャラクター」「この世界が今どんな状況に置かれているか」「なぜ主人公たちは旅に出るのか」という情報がギュッと濃縮されていた1話だったなと。

 その分情報量もすさまじく、話の流れだけではなく会話のやりとりもかなりハイテンポで進んでいくので、1回だとセリフを聞き取れず、何回も巻き戻して見直したシーンが結構ありました。作中ではまだ深く触れられていないですが、今後に関わりそうな設定や単語らしきものがチラチラ登場していたり、また考察しがいのありそうな作品が出てきたという印象を受けました。

 個人的に気になるのは、吾野の人達が動物化しているのと同じように、今後登場するであろう西武池袋線上にある地域がどんな風な影響を受けているのかという点。

 動物化はかなりマシな部類という話もあったので、どこかでエゲツない状態になっている街も登場しそうなんですよね。女の子達の友情をメインに、ほのぼのとした路線にいくのか、ポストアポカリプス的な終末路線にいくのか、いろんな方向に振れる幅がありそうな世界観なので、今後の展開にワクワクしています。



米澤崇史:ロボットアニメとRPG、ギャルゲーを愛するゲームライター。幼少期の勇者シリーズとSDガンダムとの出会いをきっかけに、ロボットアニメにのめり込む。今もっとも欲しいものは、プラモデルとフィギュアを飾るための専用のスペース。

©apogeego/「終末トレインどこへいく?」製作委員会

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