究極の騙し合い『嘘と詐欺と異能学園』野宮有先生が執筆中にキレそうになった理由は?

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 電撃文庫で活躍する作家陣のメールインタビューをお届けする“Spot the 電撃文庫”。今回は、『嘘と詐欺と異能学園』を執筆した野宮有先生のインタビューを掲載します。

  • ▲本作の表紙イラスト(イラスト:kakao先生)

 本作は、エリート異能力者が集まる“ハイベルク国立特異能力者養成学校”を舞台に、無能力の天才詐欺師“ジン”と、〈災禍の女王〉と恐れられる少女“ニーナ”が学園の頂点を目指すために、エリート異能力者を策略で蹴落としていく、究極の“騙し合い”エンターテインメントです。

 『マッド・バレット・アンダーグラウンド』の著者である野宮有先生の最新作が登場。詐欺師を描くために潜入取材を実行したなど、執筆のために体を張った野宮先生に作品の裏話をお伺いしました。

――この作品を書いたキッカケを教えてください。

 あとがきにも書いたのですが、本作は80年代のブラジルで活躍したカルロス・カイザーというサッカー選手の逸話から着想を得ています。彼は20年以上にわたって複数のクラブを渡り歩いた有名選手だったのですが、実は選手としての実力はほとんどなく、様々な策略で周囲を騙し続けて「一切サッカーをプレーすることなく」契約を勝ち取ってきた一流の詐欺師だったのです。

 この逸話を知って、「ファンタジー世界で同じことをやったら面白そうだなー」と思ったのがそもそものきっかけです。

――作品の特徴やセールスポイントを教えてください。

 共犯関係を結んだ主人公の二人をはじめとして、本作の登場人物は一切信頼できない「嘘つき」ばかりです。彼らに騙されて全てがひっくり返る快感を、存分に味わっていただければ幸いです。

 また、kakao先生による表紙イラストがあまりにも完璧すぎるので、とりあえず表紙買いしてみても損はないと断言しておきます。現に私も毎日30回は眺めてうっとりしています。おかげで作業効率がだいぶ落ちています。

――作品を書くうえで悩んだところは?

 あらすじを読んだ方の多くが察してくれると思うのですが、怪物だらけの異能学園で生身の詐欺師たちが頂点を目指さなければならないなんて設定は、ちょっとあまりにも作劇の難易度が高すぎます。能力を一切使わずに怪物たちを倒す論理的なトリックを考えるのが、それはもう本当に大変でした。執筆中は何度キレそうになったかわかりません(自業自得)。

 その分、これしかないという回答を思いついたときの快感はエグかったですね。それにこの作品を完成させられたことで、ミステリーを書ける自信もつきました(笑)

――執筆にかかった期間はどれくらいですか?

 企画の初期段階から数えると、なんやかんやで1年近くかかっている気がします。

――執筆中のエピソードはありますか?

 古今東西の詐欺師たちの手口を調べるために、書籍を読むだけでなく怪しいセミナーに潜入するなど様々な方面で取材を決行しました。今となっては、そこまで身体を張る必要はなかったんじゃねえかなと薄々思っています。

――本作の主人公やヒロインについて、生まれた経緯や思うところをお聞かせください。

 本作のダブル主人公であるジンとニーナは、どちらも書いていて本当に楽しいキャラクターでした。

 ジンは性根こそ完全に捻じ曲がっているものの、これまで私が書いてきた主人公の中で最も前向きで芯が強く、大胆不敵な人物です。何をしでかしてくるか作者の私にもまるで予想できないペテン野郎なので、書いていて毎回ヒヤヒヤさせられます。

 一方のニーナは性格こそかなりひねくれているものの、本作で唯一の常識人かつ苦労人です。ジンの滅茶苦茶な要求にいつも振り回され続けているので、なんか申し訳ねえなとこっそり思っています。みんなで応援してあげてください。

――特にお気に入りのシーンはどこですか?

 物語の終盤で、主人公の二人が詐欺と策略を駆使してある人物と対決するシーンです。読者全員を徹底的に騙すつもりで書いているので、ぜひ楽しみにしていてください。

――今後の予定について簡単に教えてください。

 現在は2巻の制作を進めています。まだ始まったばかりでどうなるかわかりませんが、もし可能であれば年内くらいには出せるように努力できればうれしいなあと思いたいところです。また、まだぜんぜん形になっていませんがミステリー小説の企画も進めています。こっちはさらにどうなるかわかりません。……本当に出せるのか?

――小説を書く時に、特にこだわっているところは?

 乾いた文体を褒められることが多いので、そこはうっすらと意識しています。

 あとは、主人公には絶対に安易な逃げ道を用意してあげないことでしょうか。毎回、主人公を後ろから羽交い絞めにして作者もろとも谷底に墜ちていく感覚でストーリーを考えています。

 今回も『オイッ! こっからどうやって逆転すんだよ!』と何度も絶望しかけましたが、冴えたアイデアを思い付いたときの爽快感は別格です。もちろんオススメはしません。

――アイデアを出したり、集中力を高めたりするためにやっていることは?

 マインドマップなどに断片的なアイデアを書き出して連想ゲームをするなどそれっぽいことも色々やっていますが、実際に採用されるアイデアは何も考えずダラダラ遊んでいるときにパッと思い浮かぶことが多いです。締め切り前に遊ぶのもこのためなので許してほしいです。

――学生時代に影響を受けた人物・作品は?

 たくさんいらっしゃいますが、特に影響を受けたのは乙一さん・東山彰良さん・朝井リョウさんです。乙一さんからは自由な発想やストーリー作りの基礎を、東山彰良さんからは乾いた文体や洒脱な台詞回しを、朝井リョウさんからは読者のメンタルを積極的に削りに行く姿勢を学びました。

 ライトノベルでいうと、成田良悟さんの『バッカーノ!』などは血眼になって読んでいました。実はデビュー作を出した際に担当編集さんを通してご感想をいただいたのですが、いまだに何らかのドッキリだったんじゃないかなと疑っています。

――今現在注目している作家・作品は?

 ここ一、二年で知った作家の中では、逸木裕さんの作品が特に好きですね。作風があまりにも私の趣味嗜好にドンピシャすぎるので、影響を受けてしまわないように「半年に一冊ずつしか読んではならない」という鉄の掟を自分に課しています。そのせいでまだ二作品しか読めていません。

 あと映画監督の内山拓也さんは、今後絶対に有名になると思うので今のうちにファンだと公言しておきます。誰か覚えておいてください。

――その他に今熱中しているものはありますか?

 大学生の頃から深夜ラジオが大好きです。今でもどうにか時間を捻出して、多ければ毎週10番組くらいは聴いています。最近のイチ押しは『Creepy Nutsのオールナイトニッポン0』『空気階段の踊り場』『さらば青春の光がTaダ、Baカ、Saワギ』『ハライチのターン』『ラランド・ツキの兎』などです。読者の皆様も、radikoのタイムフリー機能などを利用してぜひ聴いてみてください。あ、地方にお住まいの方もご安心を。月額385円(税込)で加入できるradikoプレミアム会員になれば、全国どこにいても好きな番組が聴き放題となっております。大変お得なサービスですので、ぜひこの機会にご検討をお願いいたします。
注:はい……。締め切りはちゃんと守るので大目に見てください……。

――最近熱中しているゲームはありますか?

 締め切り前はハードごと段ボール箱に入れてクローゼットの奥深くに封印しているのですが、サッカーゲームの『FIFA』シリーズはかなりやり込んでいます。深夜ラジオを聴きながらやってると3時間くらい平気で溶けていきますからね……。お、恐ろしい……。

――それでは最後に、電撃オンライン読者へメッセージをお願いします。

 スティング、オーシャンズ11、キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン、コンフィデンスマンJP……。一流の詐欺師たちが強大な相手を策略にハメていく物語は、いつの時代も世界中の人々に愛され続けてきました。

 大胆不敵で倫理観がトチ狂っている二人組の詐欺師が繰り広げる痛快な物語を、本記事の読者の皆様にも楽しんでいただければ幸いです。何卒よろしくお願いいたします!

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