『FGO 冠位時間神殿ソロモン』戦闘シーンは音楽にも注目! 劇伴・川﨑龍さんが語る“視聴前に知りたい見どころ!”

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 7月30日より全国の劇場で特別上映がスタートしたアニメ『Fate/Grand Order ‐終局特異点 冠位時間神殿ソロモン‐』。本作の劇伴を担当する川﨑龍さんにインタビューを行いました。

 『Fate/Grand Order -First Order-』から『Fate/Grand Order(以下、FGO)』のアニーションの音楽を作ってきた川﨑さんが、第1部の締めくくりとなる本作でどのような曲をイメージしたのでしょうか?

 インタビュー中では、映像と音楽が絡み合うイチオシの見どころシーンもお聞きできたので、これから映画館に足を運ぶ方はぜひチェックしてくださいね。

川﨑さんが音楽で表現した『FGO』の世界観は?

――『Fate/Grand Order -終局特異点 冠位時間神殿ソロモン-(以下、ソロモン)』のストーリーを初めてご覧になった際の感想はいかがでしたか?

川﨑さん:まったく予想していない展開の物語だったので、素直に驚きましたね。初めて結末を知ったタイミングは『Fate/Grand Order -First Order-』の劇伴を担当していた頃だったので、その結末を知った上でどう音楽を作るのか悩んだのを覚えています。「これは責任重大だな……」と感じました。

――『Fate/Grand Order -First Order-』の放送は2016年の年末でしたね。

川﨑さん:当時はまだ『ソロモン』の音楽を作ることは決まっていませんでしたが、物語のスケール感には驚かされていました。キャラクターも多く登場しますし、それぞれに感情移入できる内容だったので、全キャラクターに対する想いがズシンと響きましたね。

 『FGO』に加えて、他の『Fate』シリーズも見ましたが、その段階ではまだ世界観を理解しきれていない部分もありました。そこから時間を重ねるごとに、段々と『Fate』が持つストーリーの奥深さをジワジワと理解できた気がしています。

――約5年前の当時を振り返ってみていかがですか?

川﨑さん:『Fate/Grand Order -First Order-』のときは、劇伴の仕事を始めてからも2年くらいで、自分自身が手探りで作曲をしている状態でした。初めて結構な長さのフィルムスコアリング(※ある程度完成した映像に合わせる形で作曲や編曲を行う制作方法)を担当したこともあり、学ばせてもらったことや挑戦したこと、反省したことなどがあります。今回の『ソロモン』では、この期間にアップデートしてきたことを活かせたと思います。

――当時はプレッシャーも大きかったのではないでしょうか?

川﨑さん:『FGO』のアニメーション作品の劇伴はこれまで4作担当させてもらいましたが、ここまで何度も同じシリーズの曲を作れる機会はないと思うので、各作品でそれまでにアップデートしてきた自分の全てを落とし込もうという意気込みで挑んでいました。気分としては、4回受験があったような気持ちです(笑)。

――『FGO』の楽曲を作る際、どのようなことを意識していますか?

川﨑さん:『FGO』のストーリーは各章に方向性があると思いますが、僕が特に意識するのは“舞台”ですね。これだけさまざまな舞台が登場する物語はないと思います。章によって異なる舞台と、そこに住む人たち、英霊の物語をセットで捉えて、どのような音楽が合うのかイメージします。

――今回の『ソロモン』でのイメージはどのようなものでしたか?

川﨑さん:ソロモンは“冠位時間神殿”という舞台で、これまでの章とは雰囲気が異なる場所での物語になります。いわゆる“奥の間”みたいな印象と、クライマックスを迎えるストーリー、その中でも印象的な“これまで関わった英霊たちが藤丸を助ける”という展開を中心に捉えて楽曲を作りました。

――“冠位時間神殿”は、歴史上の国や地域が舞台の他の章とは違うわけですが、それが影響した点はありますか?

川﨑さん:僕が艦船やロンドンが好きということもあり『封鎖終局四海:オケアノス』と『死界魔霧都市:ロンドン』は印象に強く残っていますが、そういった実際にある舞台では、テーマに沿ったお決まりのサウンドがあります。

 逆に、今回の『ソロモン』はそれが無いことが特徴なわけです。抽象的な世界観を楽曲で表現するために、既存のテーマを基盤にしないで、『FGO』らしいオーケストラとシンセサイザーを融合させたような楽曲になっています。

 『Fate/Grand Order -First Order -』も世界観としては似ている部分があって、今回の『ソロモン』とは、始まりと終わりという意味で対比になっています。

――同じく劇伴を担当された『Fate/Grand Order -絶対魔獣戦線バビロニア-(以下、バビロニア)』はどのようなイメージだったのでしょうか?

川﨑さん:『バビロニア』では、世界観に合う民族音楽を元にたような楽曲も多く作りました。人物像のわかりやすいキャラクターも多く登場していたので、それぞれの楽曲を1つの方向に振り切って作っていました。
 『ソロモン』では、どこか抽象的な雰囲気の楽曲で、全体的に大人っぽいイメージを感じてもらえるはずです。

――『ソロモン』における作曲作業の際に、監督の赤井俊文さんや音響監督の岩浪美和さんからのオーダーはありましたか?

川﨑さん:最初の打ち合わせの際、監督と音響監督からは僕が思うイメージと同じ意見をいただきました。バトルシーンは、クライマックスだから派手に。感情に訴える部分は、大きな柱があるような芯のある楽曲にしたい、という内容でした。そのオーダーを主軸として、他にもソロモン、ゲーティア、マシュ、藤丸など、各キャラクターのテーマが音楽として入ってくる形です。

――川﨑さんが思う『Fate』らしい楽曲とはどのようなものでしょうか?

川﨑さん:音楽における『Fate』らしさはすごい、という話は芳賀敬太さんと過去にもしましたね。他に似たものが存在しておらず、奈須きのこさんの文章が持つ魅力と、ゾクゾクする魔術の感じ。そして、イギリス英語っぽい古風な印象など、それぞれの要素が音楽に表れていると思います。それらを音楽で表現し続けている芳賀さんはすごい方だと尊敬しています。

 それはゴシックやエピックといったジャンル感とも違う印象です。ただスケールが大きいのではなく「日常の影で魔術師たちが活動している」というようなイメージが音楽で伝わってきますよね。多くの作曲家さんたちが、そのイメージを引き継いで来ているので、それを僕の中でどう表現するのかは一番考えたところです。

――芳賀さんとはどのようなやり取りをされたのでしょうか?

川﨑さん:芳賀さんとのイメージの擦り合わせは『バビロニア』の時点で行っていたので、今回はそこまで多くのキャッチボールはありませんでした。一方で、監督からフィルムスコアリング的な指示として「このバトルは最後まで山場を持ってきたい」などがあり、シーンに合わせた調整などはいくつか行いました。

――芳賀さんとの共作を行うにあたり、作業の分担などはあったのでしょうか?

川﨑さん:ソロモンで初めて出てくる楽曲については、芳賀さんが中心に原曲を作っていました。それから、他の曲もオーケストレーションを担当する自分が劇伴として広げるような分担です。

 『バビロニア』の曲では「『Fate』シリーズだとこっちの方がカッコいい」など、芳賀さんから教わりながら曲を作った楽曲もあります。逆に「こんな雰囲気はどうでしょう?」みたいな提案もしたりしました。そこでかなり感覚が一致してきたので、『ソロモン』ではそこで得たものをさらに複雑に組み込んでいくようなことができたと思っています。

――芳賀さんと共作を行ってみて、どのような印象を持たれましたか?

川﨑さん:僕は音大でクラシック的な音楽の書き方を習ってきたので、シンセサイザーの音色のセンスがあまり良くありませんでした。逆に、芳賀さんは音大などのご出身ではないにも関わらず、メロディメーカーとしてだけでなく音色のセンスがズバ抜けていて、経験の積み重ねで楽曲を作る方でした。

 そこは『バビロニア』のときから、自分にないモノを持っている方という印象です。そのセンスこそ、他の作曲家の方々が展開してきた『Fate』の音楽の基盤になっているのかなと思います。

 今回コラボをするにあたり、その芳賀さんの感覚と“被らない部分”を出していきたいと思いながら常に作業をしていましたね。結果的に、僕と芳賀さんで作った楽曲は派手に仕上がっています。聴いていて楽しくなれますし、譜面的にもオーケストラの充実感も作り込むことができて、神聖な雰囲気の音色も芳賀さんからいい意味で盗むこともできたと思います。

同じようで異なる新曲に要注目!

――中にはゲームの曲をアレンジした楽曲ありますが、作曲の際に気を付けたことはありますか?

川﨑さん:ファンのみなさんが覚えて口ずさむような印象的な旋律は残しつつ、映像のシナリオに合う分厚さを加えることを意識しました。
 ……実はこれが難しい作業でして、元々の音が何かの楽器だけ太く作られていて、それがカッコいい要素として成立していることがあります。ですが、劇伴だったらこうかな? というイメージでバランスを取ってしまうと、元々の魅力である楽曲のインパクトが無くなってしまったり、違う楽器の主張が強くなりすぎて異なる印象の曲になってしまったりします。
 そうならないために、その楽曲に相応しい新しいバランスを再び考えさなければならないところが難しかったポイントですね。

――楽曲制作を終えられての感想はいかがでしょう?

川﨑さん:どの楽曲も良いバランスを見つけられたなと思っています。過去の作品でも、ご覧いただいた方の反響などで「ゲームの曲が同じ曲なのに、ガラリと違うカッコよさのある楽曲になっている」という感想をもらえた時は、素直に嬉しく思いましたね。

――アレンジ曲とオリジナル曲では、作業フローにおいてどのような違いがあるのでしょうか?

川﨑さん:両方違う手間が必要という感じです。アレンジというよりはリミックスという表現の方が近くて、“その曲を違うアプローチでカッコよくできる機会”をもらえたと考えています。原曲が元々カッコいいのはもちろんですが、それにさらに手を加えて良いと言われているわけなので、どこまで良さを伸ばせるのか、作業としてのおもしろさがありますね。

――オリジナル曲は全体的にどのような雰囲気をイメージされたのでしょうか?

川﨑さん:本編のコンテをいただいて、その話の流れを一目見てカッコいいと感じたのを覚えています。同時に、音響監督から細かいシーンにどんな楽曲を置きたいのかリクエストがあったので、その話の流れに対応できるカッコよさを持つ楽曲を作らなければと思いました。音響監督からのリクエストは、とても緻密にシーンと音楽の関係を考えているもので、それぞれの箇所に音楽が入る意味がはっきりと存在しています。

――フィルムスコアリング方式という点も考慮すると、シーンと音楽の結びつきがとても強い作品というわけですね。

川﨑さん:全体的に見ても、フィルムスコアリングは強く意識しました。共感が途切れてしまうとついていけないようなスケールの大きい話や、大事な伏線回収になるところで、音楽を聴かせつつ、その話の流れを止めないような楽曲になっています。

――具体的にフィルムスコアリングの色が強くでたシーンはどこでしょうか?

川﨑さん:最後の藤丸とゲーティアの決戦のシーンです。前のシーンで『色彩』をバックにしたインパクトのある戦闘シーンから、一気に静かなシーンになるので、そこでどんな曲を付けるのかという課題がありました。実際にしたことは、曲の中でわざと不自然な分断点を設けて、時制が飛ぶような感覚を演出してみました。ただ楽曲を流すだけでは盛り上がりを冷ましてしまいかねないので、このあたりのシーンに置く楽曲はかなり吟味しましたね。

――『バビロニア』と『ソロモン』楽曲を比較して、明確な違いはありますか?

川﨑さん:『ソロモン』では楽曲の成り立ちがフィルムスコアリングということで、その作りでなければ生まれない構成や展開が多く、音楽の中でできることの幅を広げている影響で、楽曲を聴いている方も少し垢抜けた印象を受けると思います。

――中には同じ楽曲でも違うバージョンが用意されているものもありますよね。

川﨑さん:『バビロニア』でも使われた楽曲は『ソロモン』でも見せ場のシーンで使われるのですが、ゲームやアニメで聴きなれているほど驚きを感じてもらえる楽曲になっています。『人理の光』や『不屈の覚悟』など、ベースになっているゲームの原曲は同じですが、『バビロニア』と『ソロモン』の両バージョンを聴き比べると違いを楽しんでもらえるはずです。

――今作のメインキャラクターたちのテーマについて、それぞれどのようなイメージを持って作曲をされたのかお聞かせください。

川﨑さん:藤丸のキャラクター自体のテーマは『バビロニア』の頃からありますが、キャラクター性というよりも、彼の意志を象徴する楽曲を用意しています。今回の『ソロモン』でも、その趣旨を引き継ぐような作りの楽曲です。メインテーマと藤丸のテーマは少し意味がダブっていて、カルデアの陣営が活気づいているタイミングで流れる楽曲が彼のテーマと言えますね。

川﨑さん:マシュは、彼女のキャラクター性に紐づく楽曲になっていて、すごく作曲していて難しい部分でした。ものすごく強いわけではないけども、絶対的に守れる盾があるという、攻撃的にならないアクション感の表現を特に意識しました。

川﨑さん:ソロモンについては、今作のために芳賀さんが書き下ろした新しいテーマでして、ソロモンという複雑な人物の物語を走馬灯のように描くイメージトラックのようなものを最初に用意して、それを並べ替えて、あるシーンにそのまま張り付けています。ソロモンのテーマ自体が、彼の歩んできた物語をイメージした曲になっているので、曲尺がすごく長いところが特徴ですね。ニュアンスも他のキャラクターとも少し異なるテーマだと思います。

川﨑さん:サーヴァントの登場シーンでは、それぞれの戦闘シーンで、同じ曲中で瞬間的に曲調が変わる部分があります。「あ、あの曲だ」と思う人が多いと思いますが、直後に新しい曲調に変わるので、少し裏切られたような驚きを感じてもらえるのではないかなと。わざと覚えているような繰り返しの部分を前に置くことで、逆に新鮮さを感じてもらえるようにしました。



――多くのサーヴァントが登場するシーンは『ソロモン』の見どころの1つでもありますから、楽曲もこだわりのあるものになっているわけですね。

川﨑さん:はい。サーヴァントの戦闘シーンは個人的に印象的なシーンであり、お気に入りの楽曲を使用したシーンでもあるので、サーヴァントが登場する戦闘シーンはぜひ音楽にも注目していただければと思います。他にも、戦闘シーンに限らず、続々と英霊が駆けつけるシーンは音楽関係なしに何度見ても色褪せない盛り上がりを味わえますね。

――最後にファンの方々にメッセージをお願いします。

川﨑さん:音楽に限らず、『ソロモン』は『バビロニア』のチームワークを作品のスタッフ全体で、作り上げてきた魅力を昇華させて完成させた作品です。音楽面でも、過去の楽曲を上回るようなものにしようと作曲をしたので、第1部の締め括りに相応しいものになっていると思います。一度の視聴では気が付かないような作り込みが、映像、音楽、各所に散りばめられているので、ぜひ長く楽しんでもらえると嬉しいです。

あらすじ

 七つの特異点での戦いを遂行し、ついに聖杯探索(グランドオーダー)の最終地点――終局特異点、冠位時間神殿ソロモンへと到達した人理継続保障機関・カルデア。

 全ての元凶である魔術王ソロモンを倒し、未来を取り戻す。そのときを間近に控えた一行は、それぞれの時間を過ごしていた。

 ロマニ・アーキマンは自分がこれから行うであろう選択に、マシュは限りのある命に、思いを馳せる。そして最後の作戦を控えた藤丸は、新たな礼装に身を包もうとしていた。

 これまでに得た多くの出会い、そして多くの未来を賭け、藤丸とマシュはついに最後の作戦へと赴く……。

STAFF

原作:奈須きのこ/TYPE-MOON
リードキャラクターデザイナー:武内崇
監督:赤井俊文
脚本原作:奈須きのこ
キャラクターデザイン:高瀬智章
サブキャラクターデザイン:岩崎将大・滝山真哲・川上大志
総作画監督:浜友里恵
クリーチャーデザイン:浅賀和行
プロップデザイン:道下康太・竹内志保
コンセプトアート:幸田和磨
テクニカルディレクター:宮原洋平
美術監督:薄井久代・平柳悟・臼井みなみ・合六弘(マカリア)
美術設定:塩澤良憲・竹内志保
色彩設計:中島和子
撮影監督:松井信哉・佐久間悠也
3DCG:株式会社白組
3Dディレクター:吉田裕行
編集:三嶋章紀
音楽:芳賀敬太・川﨑龍
音響監督:岩浪美和
制作:CloverWorks
配給:アニプレックス

CAST

藤丸立香:島﨑信長
マシュ・キリエライト:高橋李依
フォウ:川澄綾子
ロマニ・アーキマン:鈴村健一
レオナルド・ダ・ヴィンチ:坂本真綾
ソロモン:杉田智和

©TYPE-MOON / FGO7 ANIME PROJECT

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Fate/Grand Order(フェイト/グランドオーダー)

  • メーカー: TYPE-MOON
  • 対応端末: iOS
  • ジャンル: RPG
  • 配信日: 2015年8月12日
  • 価格: 基本無料/アイテム課金

Fate/Grand Order(フェイト/グランドオーダー)

  • メーカー: TYPE-MOON
  • 対応端末: Android
  • ジャンル: RPG
  • 配信日: 2015年7月30日
  • 価格: 基本無料/アイテム課金

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