ゲームシナリオライターよもやま話 その4。たった一つではない冴えたゲームシナリオの書き方【電撃PS】
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- 電撃PlayStation 、師走トオル
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『僕と彼女のゲーム戦争』などで知られる作家・師走トオル氏によるゲームコラム“名前のないゲームコラム”。今後定期的に“ゲームシナリオライターよもやま話”をテーマにお送りします。
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ゲームシナリオライターよもやま話:その4
たった一つではない冴えたゲームシナリオの書き方
シナリオライティングとは?
今回は第四回目にしてシナリオライターの本懐、シナリオライティングのお話です。例によってこれはただの“シナリオ執筆”のことなんですが、最近はカタカナ表記が流行っているらしいというだけの理由で“ライティング”と表記しております。
ではゲームシナリオライターはどのようにシナリオを執筆しているのでしょうか?
まず大体の場合、ライティングは二つの行程から成り立ちます。“全体的な物語の構築”と“実際の執筆”です。ようするにプロット制作とライティングです。
プロットというのはいわゆる小説やシナリオの筋書き・設計図のようなものです。「あらすじをもっと詳細にしたもの」と考えてもらって構いません。
つまり前回解説したラーニングで得た設定等を前提に、そのシナリオをどういった流れで展開し、キャラクターたちにどのような行動をさせるかをあらかじめ考えた上で、シナリオ執筆を行うわけです。
ただプロット制作については必要とされない場合もあります。ライターさんによってはプロットを書く人も書かない人もいますし、プロットを書く人であってもどれぐらい詳細に書くかはまた人ぞれぞれだったりします。シナリオを執筆してるうちにプロットと内容が変わることもありますし。
ただクライアントによってはシナリオ執筆に入る前にプロット提出を求められる場合もあるあります。
シナリオライティング具体例
では、少し具体例を出してシナリオライティングの行程を解説してみたいと思います。
たとえばクライアントから、次のようなシナリオを求められたとします(お題は妻に考えてもらいました)。
・媒体はスマートフォン用ゲーム。
・舞台は現代。異星人との戦争が起こっている。
・主人公は戦闘ロボットのパイロットで、
出撃する前夜のシーンを描く。
・主人公は実は臆病で、危険な出撃に抵抗がある。
・ヒロインはそんな主人公に出撃しないで欲しいと思っている。
・最後は主人公も心を決めて出撃しようとする。
実際にはもっと詳細な世界設定や主人公・ヒロインの設定などがあったり、スマホ用ゲームといっても色々ジャンルがあるわけですが、今回は細かいことは気にせず、あなたの想定するスマホゲーで普通のキャラクターが登場するとお考えください。
その上で、あなただったらどのようにシナリオライティングに取り組むでしょうか。
まず申し上げておきますと、あなたの考えた手順が正しいとか間違っている、ということはありません。最終的に完成したシナリオに、クライアントがOKを出してくれれば義務は果たせたことになります。
その上で、あくまで一例として私の考え方を紹介してみます。
私の場合、まず考えるのはそのシーンの雰囲気です。上記の設定ですと、危険な出撃の前夜ですから、誰もが緊張して全体的に暗めのシーンになることを想定すべきかもしれません。
ですが暗いシナリオというのは大体の場合においてウケが悪いんですね。考えてもみてください、気分転換のために空いた時間でいつでもプレイできるのがスマホゲームのウリの一つです。ですが気分転嫁のために始めたゲームのシナリオがやたら暗かったらそこでやめてしまうかもしれません。
もちろん、最初からそういう雰囲気をウリにしているゲームなら話は別ですし、クライアントから「雰囲気は暗めでお願いします」と注文されることもあります。また、暗めの雰囲気の中でも次の話を読まずにいられなくなるような“引き”を早めに提示できるならアリかもしれません。この辺り、前々回に触れた“MTG”などでどれだけクライアントの意向を理解しているかが重要になります。
とはいえ今回その辺りの注文はないことになっているので、とりあえず全体の雰囲気は明るめという方針を立てたとします。すると各キャラの立ち位置も大体決まってくるんですね。
主人公は明日死ぬかもしれない出撃を控えている。ヒロインはそんな主人公に戦場に行って欲しくない。その状況でどうやれば明るい雰囲気を出せるでしょうか?
私だったら虚勢を張らせるのが自然だと考えます。
つまり主人公は出撃を怖がりつつも、ヒロインを心配させまいと虚勢を張るわけです。「俺なら大丈夫さ、エースになって帰ってくるから」なんてセリフを言わせて。
するとヒロインの立ち位置も自然と決まってきます。主人公が虚勢を張っていることに気付かせ、「私を心配させないために明るく振る舞ってるんだ」という思考をさせるわけです。
ヒロインは主人公に出撃して欲しくないと思っている一方、ヒロインを心配させまいとしている主人公の気遣いを無駄にするわけにもいかない。そこで内心の心配を押し隠し、あえて笑って主人公を送り出すという形にすれば、湿っぽい雰囲気を出さずに書くことができます。
出撃を命じられる主人公。
不安になる主人公とヒロイン。
だが主人公はヒロインを不安にさせまいと振る舞い、
ヒロインもその主人公の心遣いを無駄にしないよう振る舞う。
そして主人公は笑って出撃――。
これはただの箇条書きですが、これをもう少し詳細に書いていけばシナリオの設計図、いわゆる“プロット”の完成です。
ライティング手法の一例
大体の方針やプロットが決まってキャラの動かし方も決まりました。では実際にどうやってゲームシナリオを書いていくのでしょうか。
といっても、この段階になるといよいよ人それぞれなのでなんとも言えません。
どれだけ参考になるか分かりませんが、例によって私の場合、まず脳内に前述したような物語の舞台を作ります。そしてキャラクターを放り込みます。
あとはそのキャラクターが「こういう状況ならこう動くよね」と脳内でシミュレートし、その行動やセリフを文章にしていけばシナリオになるわけです。
もちろん注意すべき点はいくらでもあります。たとえば起承転結や序破急に代表されるような、物語の緩急。淡々とキャラを動かしていくだけのシナリオが面白いはずもなく(キャラの掛け合いで楽しませるという方法もありますが)、なにか物語が動くきっかけは常に必要です。幸いゲームではお約束のきっかけがあります。戦闘です。
とはいえ今回の例のような場合など、戦闘にばかり頼ってるわけにもいかず、シナリオ中でなんらかの起伏は必須です。一方でゲームシナリオを書いてるのは自分一人ではないわけですから、自分の担当するシナリオだけで全世界に影響が出るような大事件を起こすわけにもいきません。この辺り、あまり使いたくない言葉ですが、臨機応変に対応せざるを得ません。
物語を作る上で大事なこと
こういったシナリオ制作等の際に、個人的に一番大事だと思っているのは“合理性”です。
ゲームシナリオは大体の場合、自分以外の人が設定したキャラクターを動かしてシナリオを執筆することになります。その際、“本来ならそのキャラクターが絶対やらないようなことをやらせてしまう”ことは絶対に避けなければなりません。
「こっちのシナリオとあっちのシナリオで口調が違うのはどうして?」
「本来はもっと静かなキャラのはずが、なんでこのシナリオだけ情緒不安定なの?」
「なんでこの世界の人たちはこんな大事件起こってるのにいつも通りの生活送ってるの?」
プレイヤーがそんな疑念を持ってしまったが最後、もはやシナリオはおろかゲームそのものに集中できる状況ではなくなってしまい、評価は低いものにならざるを得ないでしょう。
Aというイベントが起きたらBという結果が生じるのが当然、ですがもしBという結果が生じなかったのならそこにはCという理由があったことにすべき。この程度の合理性は、ゲームシナリオに限らず物語を作る上ではできて当然の基礎です。
ところが! 意外と自分で書いてるとそんな基礎中の基礎すら分からなくなることがあるので、いくら注意してもしきれません。
ちなみに、私の個人の場合ではありますが、ここで挙げた手法は小説を執筆するときも大体同じだったりします。もちろん小説とゲームシナリオをひとまとめにしてしまうと多くの問題が生じるのですが、“ライティングの手法”という観点だけで見ると、応用できる部分はかなり多いのでは、というのが個人的な意見です。これについては機会があればまた別の回で解説したいぐらいなんですが。
シナリオライティング最大のリスク
書いても出ない
ところで私のようなフリーのゲームシナリオライターがよく受注するシナリオが、いわゆるスマホゲーム用のキャラクターシナリオです。ざっくり解説すると、ガチャで手に入れたキャラを成長させたり好感度を高めることで読めるようになるシナリオです。
ご想像ください。
我々シナリオライターは、そのキャラクターの性格や趣味趣向、身長・体重・スリーサイズに至るまで頭に叩き込み、四六時中そのキャラクターのことを思い浮かべ、「この状況ならどんな台詞を口にするだろう?」とか、ひたすら考えるわけです。それこそ長いときは一か月以上毎日ずっと。
いざゲームにそのキャラが実装されれば、当然ガチャで出したいわけです。これはもう理屈じゃないんです。自分が担当したキャラなんて我が子のようにすら感じられるわけですから、そりゃ欲しいに決まってます。
ところが、ガチャ回しても出ないんですよね。
自分が担当したキャラに限って、信じられないぐらい出ない。もちろん理論上は課金して延々回せばいつか出るでしょう。でもそうじゃないんです。
なにせ自分であれだけ頑張ってシナリオ書いたキャラです。もう他人とは思えないぐらい脳内で動かしたキャラですよ。10連一回で出てくれてもいいんじゃない!? と本気で思ってガチャ回すんですがやっぱり出ない。
つい先日も思い入れのあるキャラがリリースされたので(しかも水着で!)、この日のためにと貯めておいた石を2万個費やしたんですが、やっぱり出ない。“かけば出る教”は有名ですがあれ多分まやかし(※)。
※【かけば出る教】ガチャで欲しいキャラクターの二次イラストや二次小説を書けば(描けば)、そのキャラが出やすくなると言われている、一種の宗教。
孔明チャレンジ裏話
ちなみにこれはライター界隈でわりと聞く話で、有名なのが三田誠さんのFGOこと“Fate/Grand Order”における“孔明チャレンジ”でしょう。三田さんはまさに今絶賛アニメ放映中の「ロード・エルメロイII世の事件簿」の作者であり、三田さんほど孔明ことロード・エルメロイII世にかかわっている人はいません。
ですがFGOで孔明ピックアップが開催される度、三田さんがどれだけガチャを回しても孔明が出ることはありませんでした。一年が経ち二年が経ち、多くの方が三田さんの挑戦に注目するようになりましたが、やっぱり出ません。三田さんは孔明ピックアップのためだけに普段から石を集めておくというプレイスタイルで、かなり大量の石を注ぎ込んでいらっしゃいましたが、それでもやっぱり出ません。
FGOのサービス開始が2015年7月30日。最終的に三田さんが孔明を手に入れたのは、なんと2018年9月12日。実に丸三年もの月日が必要でした。
言うまでもなく、このとき誰よりもヤキモキしていたのは三田さん本人です。実際、2018年に行われた新年会などで三田さんにお会いしたときは、次のように本気で嘆いていらっしゃいました。
「もういい加減“孔明出ないネタ”飽きてますよね!? でもマジ出ないんですよ!」
その後、孔明が出た後の三田さんの歓喜と安堵っぷりはガチでした。
【次回予告】
ゲームシナリオライターに必要な適性や能力とは?
さて、というわけで今回はゲームシナリオのライティングにまつわる話をあれこれしてきました。しかし私も書いてて思いましたし、みなさんも読んでて思ったかもしれません。なにせ手法がいくらでもある職種なので、一個人の意見はどこまで参考になるか分からない、と。
そこで次回は手法ではなく、ゲームシナリオライターに必要な能力や、どんな人がゲームシナリオライターに向いているか、という観点からお話を……と思っているのですが……。これがなかなか思いつかないんですよね。
たとえばなぜ私がゲームシナリオが書けているかというと、なかなか説明できないんですよね。強いて言うなら、学生時代は本をたくさん読みましたし、誰よりもゲームが好きだったことは確かです。あと私の場合は小説を40冊ぐらい出してから本格的にゲームシナリオのお仕事を始めたクチですので、そういう意味では小説を書くことがゲームシナリオの練習だったと言えるかもしれません(逆にゲームシナリオを書いてから小説を書かれる方もいます)。
実際、小説家やライターの方がゲームシナリオライターとなることは昨今非常に多いです。また小説にしろゲームシナリオにしろ、たとえばある程度文法や語彙力なんてものがないとさすがに書けません。そういう意味では、普段から活字に触れている方が有利であることは間違いないのかもしれません。
ただいずれにせよこればかりは一人のシナリオライターの意見なんて大してアテになると思えません。そこで次回は多くの方にアンケートを採り、「ゲームシナリオライターに求められる人材とは?」という観点でお届けしようと考えております。次回の更新をお待ちください(※)。
※なおアンケートが思ったより集まらなかった場合は、ひっそりと内容を変えてお届けする予定です……。
師走トオル氏プロフィール
ゲームをこよなく愛する作家。主な著作に『火の国、風の国物語』『僕と彼女のゲーム戦争』『無法の弁護人』『バイオハザード7 レジデントイービル ドキュメントファイル』等。最新作『ファイフステル・サーガ 再臨の魔王と聖女の傭兵団』は富士見ファンタジア文庫より発売中。
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