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2012年5月10日(木)

PSP版では条理をねじ曲げる勢いでキャラを幸せに――『Dies irae』シナリオライターの正田祟さんにインタビュー

文:ごえモン

■その世界の最強・究極を出すのが『Dies irae』のコンセプト

――『PARADISE LOST』のころから、神様シリーズの構想はあったのでしょうか?

 今ほどまともに考えてはいなかったですが、構想はありました。自分の作品は、何かというと戦力がインフレする傾向があります。それは自分が『ドラゴンボール』世代でパワーバトルが好きだからですけど、『ジョジョの奇妙な冒険』辺りから“能力相性バトル”的なものが流行ったじゃないですか。で、そういう作品では、一概に“最強”とは言えないキャラが主人公やボス格だったりしますよね。それはそれでいいんですが、そういうのは本をただせば“長期連載物の手法”なんですよ。今いる敵を倒したら、また新たな敵が現れるから、どんどん強くしていくとキリがないので、相性の概念を重視するっていうね。

 そういう作りは素晴らしいと思いますけど、ゲームって1本で終わっちゃうじゃないですか。だから、“最強”を出してもいいんです。その世界の究極を出してもいいのに、連載物の手法にかぶれてしまって、せせこましくなるのが嫌いなんです。実際、RPGなんかは大半が世界や宇宙を滅ぼせるクラスの奴がラスボスじゃないですか。そいつを倒して終わる話なんだから、ゲームは頂上決戦でいいんですよ。そんなこんなで突き詰めたら、神様までいっちゃって、じゃあ神様を倒す方向でどんどん世代交代していこうかと。

 なので『PARADISE LOST』のころから、その世界の最強を出すという手法は変わっていないですね。作品ごとの世界観=神を使い切るようにしています。

――その最強を出すというのが、『Dies irae』のコンセプトなんでしょうか?

 『Dies irae』のコンセプトは、単純に“男をカッコよく、女をかわいく”という基本的なものなんですよ。『Dies irae』の企画当初の段階は2005年くらいだったと思うのですが、ちょうどその辺りから“なんでもかんでも女の子”という風潮が目につきだしました。

――戦う女子とかですね。

 昔からそういうジャンルはあったんですが、あまりにも増え出したのが、たぶんそのくらいの時期で。それはそれでいいんですけど、かわいさも強さも、カッコよさも女の子に取られたら、男はなんのためにいるの? となるじゃないですか。それが気に入らなかったんです。だからそれと戦いたかったんですね。

 特にバトルものなんて、腕っ節の強さを競うものですし、男が大勢いるのが当たり前じゃないですか。当たり前の配役をしたかった、周りとの差別化をしたかった、それがコンセプトですね。

――カッコいい男キャラがたくさん登場するのが、魅力の1つなんですね。

 そうですね。でも“カッコいい”というのは、失敗をしないとか、そつがないとかいう意味ではなくて、“本気だ”ということなんです。この10年くらいの流れですけど、本気になっていると「なにマジになっているの?」と斜に構える風潮があるじゃないですか。これもあまり好きではなかったので、“本気であることのカッコよさ”を描いています。

 本気になると失敗もするし、恥ずかしい思いもするし……。それを押し出しているので、『Dies irae』のキャラはみっともない姿もたくさん見せているんですよ。それでも、こいつらはマジだからカッコいいだろ? というのが自分は魅力だと思っています。よくも悪くも、外面だけのカッコよさじゃなくて、裏も表も見せたうえで、カッコいいキャラにしたいんです。

『Dies irae ~Amantes amentes~』 『Dies irae ~Amantes amentes~』 『Dies irae ~Amantes amentes~』
▲登場するほとんどの男キャラに見せ場があり、どれもカッコいいというのが『Dies irae』の特徴だ。

――『Dies irae』のシナリオを執筆されるうえで、注意したこと意識したことは?

 ある主張が一方通行にならないように意識しました。例えば蓮の考えに対して、それをみんなが賛同するのではなく、例え味方であっても「お前はおかしい」と言えるキャラを1人置いておく。必ず、どのキャラの主張にもカウンターが存在するようにしています。自分の思想を代わりにしゃべっているキャラも複数いますけど、1人よがりにならないように注意していました。

――シナリオを執筆されるうえで、その主張の部分に苦労されました?

 いえ、特に苦労はしなかったです。苦労したのは、単純に書く量ですかね。自分の場合、一度書き始めると書けるんですが、イスに座るまでが長いという(笑)。うちのスタッフも、自分のそういうところに苦労していると思うんですが、いかにやる気を出すか。ホント、やり始めるとやれるんですよ(笑)。

 変な話ですけど、苦労した点は、いかに長時間、机に向き合っていられるようにするか……という感じです。

――さっきも話題になりましたけど、好きなキャラについて教えていただけますか? やっぱり全員でしょうか?

 全員ですね。ただ、コイツは書きやすい、コイツは書ききった、と思うのはトリファ、エレオノーレ、メルクリウス、ラインハルトですね。

『Dies irae ~Amantes amentes~』 『Dies irae ~Amantes amentes~』
▲トリファ(画像右)▲ラインハルト(左)とメルクリウス(右)

――全員敵側ですね。

 味方は課題が多いんですよ。今挙げた4人は、やりきったと自負しているので、そうそうコイツらに似たキャラは作れないだろうと思っています。

――だからこそ、人気があるのかもしれないですね。

 そうですね。その4人には、絶対にカルトな人気があるはずなので(笑)。

――では、逆に苦労したキャラは誰でしょう?

 マリィと蓮ですね。マリィは語彙が幼いキャラで、最初に出会った時は精神的にもかなり幼く、ものを知らないレベルからだんだん成長していくキャラなので、セリフ的なハッタリをきかせられないんです。“言葉を装飾できない”ので、発言がダイレクトに“いいこと”でないといけないんですよ。子どもでも感動させられるように。そこが難しかったですね。

 蓮は、単純にキャラが複雑すぎるんです。さっき言った“マジになるのがカッコ悪い”みたいに「やれやれ」なんて言ってしまう主人公っぽく見せつつ、実は違うという設定が、自分でも分裂してしまってわけがわからなくなりました。できれば二度と書きたくないレベルの主人公です(笑)。

『Dies irae ~Amantes amentes~』

――電撃オンラインで連載した、コメントつきキャラ紹介でもそのようなことが書いてありましたね。

 元々「やれやれ」みたいなキャラにするつもりだったんです。でも、できなかったんです(笑)。だから、そういうのにあこがれて目指しているけど、なりきれていない人……ようするに、自分が書けていないものをそのまま書いたキャラですね。なかなか難しい男です。今でも、「よくわかんないよな、お前は」と思います。

――でも、「やれやれ」キャラよりも、かなりいいキャラになったと思います。

 そうですね。ある意味とても人間くさいキャラになったので、いいかなと思っています。

→初めて書いた物語は、不良もの+伝奇もので主人公は司狼!?(4ページ目)

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データ

▼『Dies irae ~Amantes amentes~(ディエス・イレ ~アマンテース アーメンテース~)』
■メーカー:light
■対応機種:PC
■ジャンル:AVG
■発売日:未定
■希望小売価格:未定

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