2012年6月18日(月)
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――撮影に使用した戦車はなんですか?
押井:T-55です。T-55が稼働状態で保存されてたってこと自体が驚きなんですよ。とっくの昔に退役してるから。むこうの戦車部隊にいたオッサンで、仕事を辞めてから戦車のレストアをいろいろやっているマニアがいたりするんですよ。そういう民間のものです。
――えっ、個人所有ということですか!?
押井:そうそう。そのオヤジがT-55を3台持っているんです(笑)。持っていることよりもビックリしたのは全部動くんですよ! 撮影した後、みんなで乗って遊んだりしました。
――話を聞くだけで驚きですね……。
押井:他にもかなり状態のいいシャーマンがあったよ。
――本当に戦車大好きなオヤジさんなんですね。
押井:戦車の他にも、装甲車やサイドカー……。怪しげなミサイル砲車とかもあったかな。全部そのオヤジのもの。そういう人がいるんですよ。でも特に金持ちってわけじゃない。実は払い下げの戦車ってバカ安なんですよ。
――そうなんですか。もっと厳重に管理していて、民間に流れることなんてないと思っていました。
押井:僕も「買わないか」って言われたことあるんだけど、置く場所がない(笑)。それに保存しておくほうがはるかにお金がかかる。
――動く状態ってのがすごいですよね。
押井:エンジンとかは換装してるんだと思います。それなりにチューンしてるだろうし。ディーゼルを始動するプロセスを初めて見たけど「ああ、戦車のディーゼルってこうやって始動するのか」って。スイッチ1つでたちまち動く世界とは全然違うんだよね。暖気するだけでエラい時間かかるし。
とにかくけったいなものとか、おもしろいものが山ほどあった。だから、またぜひ行きたいですね。さっき話したシャーマンも「動くの?」って聞いたら「ちゃんと動く」って言っていたし。サイドカーだけでも10台以上あって、他にはT-34もありましたよ。
――聞くだけですごい世界ですね。
押井:ここだけでちょっとした映画が、すぐ撮れちゃうと思った。すごいところなんですよ、本当に。
――戦車を使いたいというリクエストを出したら、そのオヤジさんが出てきたんですか?
押井:現地のプロダクションとは、以前に『アヴァロン』という映画を撮影した時から付き合いがあるんですよ。そのプロダクションにお願いしたら「軍隊よりこっち(民間)のほうがいいだろ」と言われたんです。
軍隊にあたっても、T-72しかないんですよね。T-55なんてとっくの昔にお役御免ですよ。あんなの使っているのは中東とか、ボスニアくらいなもので……いや、中東だって使ってないですよ。お金あるから。昔の戦車って、ディテールに味があるんですよ。やっぱりこうだよなっていう。味があるとかないとかの話になると、今の戦車はつまんないんですよね(笑)。
――計器盤とかもかなり違いますよね。
押井:うん。今の戦車はスッキリしちゃっています。昔の戦車は独特のニオイというか、油臭さというか……人間工学を無視して作ってるのがよくわかるよ。
――ソビエト戦車は特にそうですね。
押井:兵隊のほうが戦車に合わせろっていうか、そういうつくりになってるから。あれはたまんないですね、あれね。
――昔から小柄な人しか乗せられないといいますもんね。
押井:そう。それととにかく、装填するシーン、主砲に装填するシーンとかも撮りたかったんで。
――T-64以降だと自動装填だったりしますので……。それもあってT-55にしたんですか?
押井:そうそう。自動装填じゃしょうがないし、世界観に合わない。ただ、さすがに民間人は実包を持てませんから(笑)。だから弾はオヤジさんが頑張ってイミテーションを作ったみたいです。その弾を使って装填シーンも撮ることができました。戦車の主砲の装填ってこうなってるんだという個人的な発見もあったりして、楽しかった。まぁ時間にしたら一瞬なんですけどね。
でも、主砲の装填シーンを撮ったのって日本人としてはたぶん初めてじゃないかな? それと50口径(12.7ミリ)ね。むこうでは“DShK(デシーカ)”って呼んでいるんですけど、50口径の機関砲をとにかく撃ちたかった。
――撃てたんですか?
押井:撃てました! 『アヴァロン』の時は街中だったんで撃てなかったんですよ。今回は練習場で50口径撃ちまくったので、念願果たした! っていう感じです(笑)。すごかったですよ。
――どうすごかったんですか?
押井:ブローニングM2は何度も見たけど、あのデシーカってヤツは、やっぱりすさまじいですね。「こんなにとてつもない音と火の玉が出るのか!」と驚きましたよ。あれは多分、鳴らしただけで威力あると思う。ものすごく威圧的な武器ですよね。
暴徒鎮圧用にはもう最高! っていうか、鳴った瞬間みんな逃げると思う。今回、いろいろとやりたいことがあって、そのすべてができたわけではないんですよ。でも、メインで考えていた主砲の装填と50口径を体験できたんで。満足ですね(笑)。
――それもあって引き受けられたと。
押井:ええ、そうですね。
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