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2015年12月31日(木)

『アイドルマスター』10周年を石原D(ディレ1)と振り返る。これまでのライブイベントの深いところに迫る

文:千駄木和弘

 皆さんは『アイドルマスター』というゲームをご存知だろうか? 一番最初はゲームセンターに始まり、家庭用ゲーム、スマートフォンへも活躍の場を広げ続ける、アイドルを育成するジャンルのゲームだ。

『アイドルマスター』インタビュー

 そんな『アイドルマスター』が世に出てから10年の時が経過した。『アイドルマスター』を10年追い続けてきた人、途中から参加して追い続けている人……と、さまざまなプロデューサー諸氏がいると思う。

 この記事では、『アイドルマスター』と10年、もしくはそれ以上の時間をともに歩んできた総合ディレクター石原章弘氏と、その軌跡を振り返っていきたいと思う。

『アイドルマスター』を語るうえでは欠かせないLIVEイベントから振り返る10周年

――「赤羽ですよ、赤羽!」から10年、ついに悲願の「ドームですよ!ドーム!」を実現した10週年ライブが“M@STERS OF IDOL WORLD!!2015”でした。ドームライブを成功させた感想をお教えください。

 とにかく密度が濃くて、何年も前にやり終えたイベントのような感覚があります(笑)。10周年のドームライブは、初報が2015年2月に開催した“劇場版アニメ・アイドルマスター打ち上げパーティー”イベントでした。

 ドームライブを開催するにあたり、最初に考えたのは西武ドームのキャパシティでした。『アイドルマスター』のライブは年々規模が拡大してきましたが、2014年2月のさいたまスーパーアリーナのライブで1万5000人超えくらいだったので、いきなり2倍以上となる3万人超の西武ドームが埋まるのか……? という心配はありました。

 いつもこういうインタビューで「埋まるかどうか不安」みたいな話をしているんですけど(笑)、今回だけは「埋まれば埋まったで、それに見合うものを提供できるのか……?」も不安でした。西武ドームは“密閉型ではないドーム球場”です。真夏のドームはすごく暑い……! と聞いていましたし、開催時間を考えると日中でのオープニングになるので、時間経過を意識した構成がいるな……と。

 環境的に今までのライブとは根本的に違う部分があるので、これまでより中身を作りこむ必要をヒシヒシと感じました。そこで、ドームライブ研究のために“ももいろクローバーZ”さんの西武ドームライブのブルーレイを繰り返し見て参考にさせていただききました。

 ももクロライブの開演時間とブックレットにあったセットリストから、映像の大体の時間を判断して、日没して暗くなるのはこのあたりで、日差しはどの方向の隙間から入るのか、19時10分くらいには完全に暗くなるから照明を意識した演出はここまで待たないといけないな……などなど、演出・構成を作る際に勉強させてもらいました。

 ステージの作りは、球場の担当者さんと話をしながら何度も過去開催されたLIVEの作り方を確認させて頂き、少しでも見やすいステージを作ろうと、自分で球場に足を運んで実際に何度も歩いて、写真をとりながら、最終的なステージ配置を作りました。

 『アイドルマスター』でアイドルを演じてくれている2人が出演しているだけで、基本的には関係のないはずのラジオ番組の西武ドーム取材にも無理矢理呼んでもらって、トイレの混雑具合などを確認して、休憩時間なども考えていったり(笑)。

 とにかく、今までで1番慎重に時間をかけて、ステージと構成を作り上げていったので、大きな混乱もなく無事終了した時は、本当にほっとしました。

『アイドルマスター』インタビュー

 ライブ当日・物販日を含めて、時間が空いている時は、西武球場駅前にフラフラと様子を見に行ったりしていたのですが、集まってくれているプロデューサーさんの人数に感動しました。とにかく、駅前にいる人の数がハンパじゃないないんですよね。

 あの2日間、駅前にいる人の目的は、ほぼ全員が『アイマス』だったと思うので、これだけの人数のプロデューサーさんがアイマスのために来ている……! というお祭り感は、今まで開催したライブの中で、個人的には断トツに近いものでした。ただその分、ライブ終演後は今までよりも「祭りの後の寂しさ」も感じました。

 普段のライブですと終演後は「早く片付けをしないと…!」という感じで余韻もなく慌ただしく終わっていきます。ただ今回は終演後に、バックネット裏にあるガラス張りの関係者席で中打ちをしていまして、そこから、ライブ会場が解体されていくところを出演者たち全員で見ていたんです。

 出演者とステージをバラすところを見る機会はなかったので、その時だけは、楽しいお祭りの“やりきった感”をハッキリと感じました。765プロのメンバーも、10年かけてたどり着いた場所なので感慨深そうでした。出演者たちにとっても、いい2日間になったと思います。

――10周年ライブでは初日が765プロが中心の構成で、派生タイトル組はサポートに徹していました。

 最初に大きな構成を考える時、1日目はざっくり“5年目くらいまでのアイマス”で考えていこうと思いました。最初の構成から、10周年を“765プロの10年”ではなく、“『アイドルマスター』が生まれてから10年”というように全体を見ていましたので。

 なので、1日目は765プロのキャラクターがステージに登場した時、『シンデレラガールズ』や『ミリオンライブ!』の子たちは、まだお客様の側にいて765プロのステージにあこがれをもって見ている側という構成にしました。少しずつ、アイドルの皆が合流していくという大きな流れを2日間かけて、構成しようと思っていたからです。

 もちろん、最初はいろいろな構成を考えていました。アーケードから家庭用と歴史を重ねていった『アイマス』の軌跡をなぞっていくという流れや、アーケードの曲からはじめていくといった、過去から未来へという構成が主でした。でも、僕としては、ただ“過去を振り返る”だけのコンセプトはあまり好きじゃないんです。

 “現在”という“今”は過去の積み重ねの先にあるものです。だから、今現在でできることすべてをやりきることこそが、歴史を見せることイコールなのかなって。初日からMA3の曲なども入れつつ、できることは全部やろうという構成としたのは、そんなコンセプトからです。

――初日に765プロのメンバーしかメインに出さないというのは思い切った判断ですね。

 “ドームのステージに最初に立つべきなのは誰かな?”と考えた時、それはやはり、765プロのメンバーだろうと誰でも思いますからね。

 サポートメンバーは、ドームの広さを考えると、客席トロッコは必要だろうなという判断と、先に話した「客席にいる人も、いずれはステージに上がることができる世界観」という流れを演出したかったので、出演してもらった感じです。

 しかし、演出的に結構苦労したのはトロッコでした。トロッコをもっと何度も有効活用したかったのですが、ドームはとにかく広すぎて、例えばバックネット裏からスコアボードの方に行ったら帰りは車がないと戻れないので、時間と距離的に使いどころをかんがえるのが大変でした(笑)。

『アイドルマスター』インタビュー

――2日目は『シンデレラガールズ』や『ミリオンライブ!』からのアイドルとユニット曲が多くを占めた演出でした。

 2日目は“13人のアイドルだけではない、アイドルマスター”の世界を見せたかったんです。やりたい曲、聞いてほしい曲は本当にたくさんあるのですが、アイドルたちに仲間が増えた「にぎやかさ」を出すために“ソロの曲はやらず、ユニットだけで構成する”というのは、意図的に決めました。

 仲間で助け合って進んでいく、新たな出逢いが新しい魅力の発見につながるという世界観を感じてほしいなって。

『アイドルマスター』インタビュー
▲会場の西武ドームの模様。

 メドレーコーナーのパート分けは、“曲名”、“キャラ名”、“演者”などをかけたダジャレを入れていました。例えば、前川みくの曲『おねだり Shall We ~?』であれば、高森奈津美さんと伊藤美来(みく)さんの“みくみくコンビ”にしてみるとか。

 最初は真面目に、キー的に歌いやすい組み合わせは誰かなとかいろいろ考えたんですけど、シンプルにお祭り感のあるダジャレにしました。ダジャレネタは結構な人数の方が気づいてくれたのでうれしかったです(笑)。これも10thならでは、でしたね。

――10周年ライブの後、最新の大規模イベントとしては11月28日・29日に開催された“アイドルマスター シンデレラガールズ 3rd LIVE ~シンデレラの舞踏会 ~Power of Smile~”がありました。

 “シンデレラの舞踏会”は、初日がアニメ1クール目、2日目は2クール目というようにアニメーションの世界をなぞる構成にしました。

 アニメ『アイドルマスター』の放送後に開催されました7周年ライブも同じようなアニメをなぞる構成だったのですが、まずは「アニメを見てくれた人」「アニメからシンデレラガールズを知った人」が楽しめるようなライブにしたいと考えたんです。

 そしてアニメ劇中の舞踏会には“Power of Smile”というテーマがあったので、リアルのライブでも笑顔がテーマであることを明確にしようと考えました。

『アイドルマスター』インタビュー

 『シンデレラガールズ』の2ndライブを制作した時は、いろいろな楽曲を確認していると『シンデレラガールズ』は“ショーアップ”的な見せ方がいいのかなと考えました。曲やキャラの持つ世界観を、舞台や照明などを駆使して盛り上げる方が、ポテンシャルを発揮しやすいのかなって。

 というのも、『シンデレラガールズ』はそれこそ野球の応援歌とオカルトな曲とキノコの曲が同じ世界にあるので(笑)、ただ順番に歌っていくだけだと脈絡がないかなと。だから「知らない人」にも楽しめるように、切り替わる世界観を、ミュージカルみたいに楽しめるようにショーアップしたいなと。

 “知らない人が見ても楽しめる”というのは、すべてのライブで意識してることですが、『シンデレラガールズ』では特にファン層の流入も多いので意識してます。プロデューサーさんがライブに連れてきてくれた『アイマス』を知らなかった友だちが「次も行きたい」と思ってくれたら大成功ですね。

 また、3rdは劇中の“みんなで作る舞踏会”というテーマも生かしたいと思いました。ただ、考えはじめたのがドームライブの後だったので、構成やステージを考える時、脳内で自然に規模感が大きくなっていました。

 最初は複数のステージを作り、あちこち同時に何人も登場するみたいな内容も考えてみたのですが、ステージ動線も難しく、いろいろとムチャなこと考えては自分でボツにしていたので、最終的に今の形に落ち着くまで時間がかかりました(笑)。

 でも、ドームの経験はいろんな場所で生きました。トロッコの使い方、オリジナルのミニ会場、ぴにゃこら太を会場に登場させたりと、お祭り感を出すのは、西武ドームを経験したからこそできたことですね。

『アイドルマスター』インタビュー

 それにしても、ぴにゃこら太の人気はすごかったです。ハリウッドスターレベルの人だかりでした(笑)。ファンを楽しませるという部分で、Cygamesさんにも本当に大きく協力していただき、劇中のような楽しい舞踏会を実現できたライブでした。トロッコならぬ馬車はCygamesさんに作ってもらえたので、あらためて、ここでお礼を申し上げます。

――オープニングが本当にミュージカルのようだったのを鮮明に思い出します。そして2016年1月からは『ミリオンライブ!』のライブツアーも始まりますが、こちらのツアーのテーマやコンセプトがありましたらお教えください。

 『シンデレラガールズ』はステージ全体を使う“ショーアップ”で見せる方向に舵をきっていますが『ミリオンライブ!』は、「人のつくりだす感動」を強く出していくスタイルです。これは、765ともシンデレラとも微妙に方向性が異なります。

『アイドルマスター』インタビュー

 僕は765のイベントをはじめた時から、演者に「キャラと演者はムリに合わせなくていい」と言っています。例えば、演者に「キャラクターと同じ髪型にして欲しい」とは言いませんし、言動もそれほど制限はかけません。

 自主的に見かけを似せていく……という人はあえて止めてはいませんが(笑)、僕はプロデューサーがステージの上に見ているのは「演者本人」ではなく、演者の後ろにおぼろげに見える、ゴーストのようなスタンドのような「担当アイドル」だと思っています。

 そして、演者にもそういう気持ちでLIVEに挑んでもらっているんです。極端なことを言うなら、アイマスのステージの上の演者はもともと、巫女やイタコのようなものだと思っています。

 でも、『ミリオンライブ!』は少し違う側面も持っているかなと感じています。CDリリースイベントを含めて、はじめから、積極的にステージイベントを行ってきた『ミリオンライブ!』は「アイドルキャラに触れるより、演者を先に見る」機会も多いコンテンツです。

 765→シンデレラ→ミリオンという順番でIPが誕生したので、石原もややスパルタ気味に多くの人の目に触れやすいアニサマなどの“フェス形式のイベント”にも積極的に参加させていました。そんな経緯もあり「パフォーマンスで魅了して、コンテンツに興味を持ってもらう」という今までにはなかった側面も持つようになりました。

 ですから、ツアーもどちらかというと、ゲームの世界観を表現する空間ではなく『ミリオンライブ!』世界の入り口として考えています。全ツアー会場で、ライブビューイングを開催するのも「まだ見たことのない人に見てほしい」という思いがあるからです。初のツアーイベント。予想外の物語を楽しんで欲しいと思っています。

 しかし物語を動かすにはキーマンが必要です。演者のパフォーマンスと、ゲーム中のアイドルが一緒に成長していくという大きな流れの中、山崎さん、田所さん、麻倉さんには先頭を切って、本当にありとあらゆるイベントに出演してもらいました。

『アイドルマスター』インタビュー
▲山崎はるかさん演じる春日未来。画像は『アイドルマスター ワンフォーオール』のもの。

 ツアーでも37人のメンバーの少し先輩として、パフォーマンスを引っ張っていってもらえるでしょう。もちろん、ドームに参加してもらった他メンバーも僕の中では、全体のパフォーマンスを引っ張ってもらえる大切なメンバーです。最終日はどんな結末が待っているのか、本当にわからないので、楽しみですね。

――4月に行われた2ndライブも素晴らしかったので、今後にも期待ですね! さて、今回はライブをメインに過去を振り返って頂こうと思います。過去の主要ライブで「あの時はこうだったなー」みたいな当時の感想をお聞かせください。

2006年:アイドルマスターシークレットライブ(会場:赤羽会館)

 AOUショーでイベントなども行いましたが、公式的にはこの赤羽会館が初ライブですね。この赤羽会館は10年前の“未熟なすべて”が詰まっているイベントでした。僕は大学で放送部所属だったんですけど、そこで学園祭のイベントなどを制作していました。RBSの人、元気ですか~?(私信)

 まあ、そんなわけで、「じゃあ、構成は考えますよ」と言ってしまったのです。ですが、当時は公演時間の肌感覚がまったくなかったんですよね。

 劇中劇のシナリオも書いてはみたものの、全然尺がわからなくて、台本を見せた途端「長い!」と演者の皆さんにダメ出しを受けまして、当日シナリオを4割近く削っていくという感じでした。また、モニタースピーカーの音量バランス、照明のきっかけの作り方など、ステージの基本的な初歩の初歩すらできていませんでした。

 演者たちも人前で歌うという経験がほとんどないうえ、歌だけでなくダンスもあるけど、どうするの? というバタバタした状況でした。今、誰かががこんな仕切りしてるのを見てしまったら、公演終了後に説教します(笑)。

 あの時、コロムビア側のスタッフの多くは割と簡単なトークショー的な簡単なものを考えていたのに、僕はとにかく、いろいろ盛り込みたかった。歌あり、トークあり、お芝居あり、プレゼントありと、せっかく来てくれたプロデューサーさんには楽しんでもらわないと……! という思いが僕にも演者にもありました。

 その結果、イベントは長時間となり、撤収時間をはるかにオーバーしている中、ステージ裏で僕は「違約金さえ払えばいいんだろ!?」みたいな逆ギレをしているという(笑)。

『アイドルマスター』インタビュー

 リハーサル時間も全然なく、中身もダラダラしていましたし、素人くさいイベントでしたから、反省も死ぬほどしましたが、楽しかったという記憶はとても強いです。でも、次に同じことをやるならしっかりやらないとダメ! 勉強しないと! と強く感じました。

 このイベントがなければ今の形の『アイマス』はなかったと思います。

2007年:THE THE IDOLM@STER ALL STAR LIVE 2007(会場:Zepp Tokyo)

 2ndライブで覚えているのは、まだ今ほど曲が多くなかったので、構成をライブ+イベントという形式にしたことです。コロムビアさん主導のイベントだったのですが、曲もないのにLIVEはできないでしょ!? と、ぎゃあぎゃあ言っていました(笑)。普通のライブであればおよそ22~24曲ほどなんです。

 でも、アイマスはこの時点でXbox版の曲が増えても16曲。なので、足りない部分はラジオの公開録音を混ぜて、とにかく楽しんでもらおう……! と、構成に頭を悩ましたライブでした。

 もともと『アイドルマスター』はアーティストのようなライブステージを行いたい……というところが出発点ではなく、楽しければ何でもいい、プロデューサーのみんなが集まるイベントとして機能させたかったのです。同好の士の集まりは、コンテンツを応援する勇気を与えてくれます。同じアイドルを応援する者同士の連帯感を感じてほしかったんです。

 だから、本当は現在の大規模ライブでもトークなどのバラエティもしっかりやって、客席も参加できる場面を入れていきたいんですけど、中々、曲数も多くなって難しくなってしまいました。

 しかし、シンデレラ3rdライブでの“あんきランキング”や“マッスルキャッスル”みたいな「歌だけではない楽しさ」みたいな空気は「ガチのLIVEではなく、プロデューサーの皆さんと作り上げる楽しい空間」が似合う『アイマス』には必要なんじゃないかなと思っています。

『アイドルマスター』インタビュー
▲画像は“アイドルマスター シンデレラガールズ 3rd LIVE ~シンデレラの舞踏会 ~Power of Smile~”のもの。

2008年:Go to the NEW STAGE! THE IDOLM@STER 3rd ANNIVERSARY LIVE(会場:パシフィコ横浜)

 3rdはプロジェクトフェアリーが登場したライブですね。黒井社長の映像を最初に画面に出したら客席みんなが、ポカーンとした顔だったのを覚えてます(笑)。

 イベントの在り方としては、あくまでも「同好の士」の集まりではありましたが、このイベントから「アイマスという現実世界に浸食する物語」の中で、イベント当日の出来事を話題の起爆剤にする、という考え方も進めはじめました。プロジェクトフェアリーを華々しく登場させたい! という思いも強かったですから。

『アイドルマスター』インタビュー

 でも実はこの時、某ゲーム雑誌に特報を一番最初に伝えなければいけないという謎の社内ルールがあったので、LIVEで華々しく告知をしたかった僕は「そんなもん知らねーよ!!」と広報と超絶ケンカをしていました(笑)。

 いろいろありましたが、折衷案として「アイドルマスターSP発売の速報は某ゲーム雑誌の速報でいい。でも新キャラクターの発表はライブで行なう!」としました。とてもリアルな話ですが、まあ時効でしょう(笑)。

 でも、ここでの出来事が、LIVE自体が『アイドルマスター』新情報の発表の場として機能する……という基礎を作ったイベントだった気がします。

2010年:THE IDOLM@STER 5th ANNIVERSARY The world is all one!!(会場:幕張メッセイベントホール)

 5thライブの会場は幕張イベントホールということで、今までのライブより規模が一気に大きくなりました。当時は5000人も埋まるのかが、すごく不安でした。はじめてホールを下見したとき、広すぎて怖くなったことを覚えています。

『アイドルマスター』インタビュー

 そして5000人という規模は「ゲーム会社主導のゆるいイベント」という規模ではないので、ステージを作りこんで、対価分の価値を作り出さないと……と頭を悩ませました。

 だから、ここまでのイベントは構成台本も自分で書いてましたけど、ここから演出の方に入ってもらい、石原の企画構成に大舞台に相応しい肉付けをしてもらうことにしました。その流れは今でも続いています。

 『アイマス2』の初報がこのイベントだったので、このタイミングから雪歩を演じていただくことになった浅倉さんにはいきなり登場してもらいましたが、見事大役をやりきってくれました。たくさんの光景が染みついているイベントです。

東京ゲームショウ2010(会場:幕張メッセ)

 いわゆる、ファンの間でいう“9・18事件”ですね。……10周年の節目ですから、少し正直な気持ちを話しておこうと思います。いろいろな思いのすれ違いにより、プロデューサーさんの気持ちを「もやっ」とさせたことは自覚しています。そのことは、本当にお詫び申し上げたいと思います。

 制作する側のスタンスについても、あらためて難しさを感じましたし、反省もしました。ただ、誤解はしてほしくないんですが、当時の騒ぎの中心となった設定(竜宮小町・ジュピター)に関しては当時も今も心底納得しています。

 アニメ企画も同時に走り始めていたので、グループ内での竜宮小町というライバル関係や、プロデューサーのライバルにもなりえるジュピターの存在は、物語を大きく動かしていくために、あの当時の『アイマス』には必要だった存在です。

 でも、自分の言葉の中に「本音・本心」に近い言葉が混じっていないので、説明する言葉に強い「説得力がない」「誠実さがない」と自分でも感じていました。正直に言うと、僕自身もアーケード版を企画し、自分で産み育ててきたアイドルを「完全なプレイアブル」にできないこと、TGSの時点ではまだ納得しきれていませんでした。

 そのことで上に抵抗もしました。でも時間の制約、予算の制約はどんなものにでもつきまとうものです。いろいろなスタッフが、制約の中でできる限りのことをしようともしました。愛でカバーしようと最後まで努力はしていました。ただ、結果としては、プロデューサーさんに誠実でいることができませんでした。

 ……急激に規模が大きくなっていった『アイマス』は、ここでいろいろな思惑がぶつかりあってしまったんだと、思います。この時の出来事は「制作サイド」と「応援するファンサイド」の関係性についても、いろいろと考えるきっかけともなりました。

『アイドルマスター』インタビュー

 制作側に「期待」をして、突きつけられた現実が「期待」に応えられていない! と感じるファンサイドの人たちは、応援をすることから離れます。でも、別の一部の人たちにとっては、突きつけられた現実が「期待」に応えてくれていることもあります。

 制作側はこういう時、最初に誰に向かって言葉を投げかけるべきか? ……それはやはり、応援してくれる人であるべきだと思うんです。ここで制作が一部のファンサイドと反論をはじめたりするのは、本来向き合うべき人のことを無視していることにつながる。でも、それを繰り返してイエスマンだけが残るコンテンツは、結局、小さくなっていくだけだとも思うんです。

 コンテンツは制作サイドとファンサイドが、お互いに緊張感を持って作り上げていくべきだと、今は思っています。制作サイドはファンサイドの希望を一方的に聞くだけではいけない。ファン全員の意見を全てとりいれても、結局は収拾がつきません。

 しかし、ファンサイドも制作サイドの言葉を一方的に受け入れる必要はない。最近は、WEBを通じて制作サイドにも声が伝わりやすい環境にあります。愛のある叱咤は、時には制作スタンスを見直すきっかけにもなります。

 ここで誤解されそうですが、やはり愛は重要なんです。叩くことは愛にはつながりません。「こうしてほしい!」という気持ちが愛だと思います。

 制作サイドは常に緊張感を持ってファンを「単なる数字」として見ないようにして、時には批判も覚悟で方向性を指し示す。応援するファンサイドも、制作サイドは神ではなく「間違いも起こす人間」なのだから、ある程度は愛をもってゆるす。

 永遠に続くものはないと思いますけど、そんな関係性が続けば、コンテンツはどんどん形を変えながらでも、長く長く続くんじゃないかな…という考えています。

 実際、多くの制作サイドの人間も、別のコンテンツのファンでもあるし、ファンサイドの人も何かを作り出す人でもある。表裏一体の関係なんだという認識をもって、皆が愛をぶつけあえれば……本当に最高ですね。

 そして、東京ゲームショー2010は、僕の中では“自分が納得しないことはやらない”と決めた、すごく大事な心に残るイベントです。後の『シンデレラガールズ』の企画発足時、企画してくれていた清水くんと2人で上の人に企画書を見せた際「売れない」と反対されましたが、そのまま作ったりしましたし(笑)。

2009年:THE IDOLM@STER 4th ANNIVERSARY PARTY SPECIAL DREAM TOUR’S!!(名古屋福岡東京大阪

2011年:THE IDOLM@STER 6th ANNIVERSARY SMILE SUMMER FESTIV@L!(東京札幌名古屋福岡大阪

 ツアーは、首都圏以外に住んでいるプロデューサーさんたちのために、一度はやってみようと思っていました。ファミコン世代なので、全国キャラバン的なものにあこがれてしまうんです(笑)。会いに来て貰うのではなく、こちらから会いに行く。ツアーって、そういうものだと思っています。

『アイドルマスター』インタビュー
▲画像は6thライブ東京公演のもの。

2012年:THE IDOLM@STER 7th ANNIVERSARY 765PRO ALLSTARS みんなといっしょに!(会場:横浜アリーナ)

 7thライブはTVアニメ『アイドルマスター』の集大成のつもりで作りました。765プロアイドルと小鳥さん含めての全員集合LIVE。いつも、LIVEは「一期一会」のつもりで制作しています。「この面子でやるのは今回が最後かもな」という気持ちは、ずっと変わりません。

 ゲームやアニメであれば、いつでも電源をつければ変わらない世界を楽しめますが、ライブは人間が演じることなので同じものは二度と見られません。セットリストが同じでも、全然違うものになります。このライブは、2日間とも実際に、セットリストは同じでも、全然うける印象は違いました。一期一会の感動は、このライブが1番だったかもしれません。

 横浜アリーナという大舞台は、やはり「大きい……!」とも思いましたが、アニサマへの出演でさいたまスーパーアリーナでのステージなども経験をしていくうちに、割と大きさには慣れてきてしまっていて、赤羽会館で感じた血の気がひくような恐ろしさは感じなくなっていました。

 アニメの成功も、自信をつけさせてもらえた、大きな要因だと思います。ステージに立つ皆が、誇らしくもありました。

 この頃は、アニメが終わった直後ではありましたが、『シャイニーフェスタ』のアニメーション制作なども行っていて、そのまま劇場版『アイドルマスター』の制作につながっていきます。アニプレックスさんとA-1 Picturesさんとは、その後も『シンデレラガールズ』のアニメでお世話になっていて、一蓮托生のような感じになっていますね。よい出逢いだと感じています。

『アイドルマスター』インタビュー
▲画像は『ファンキー ノート』オリジナルアニメ『Music is a friend』のもの。

2013年:THE IDOLM@STER 8th ANNIVERSARY HOP!STEP!!FESTIV@L!!!(名古屋大阪横浜福岡幕張

 ここで初めて765オンリーだったライブが『シンデレラガールズ』、『ミリオンライブ!』との混成のライブになりました。混成メンバーになったのは新人たちのお披露目という狙いもありましたし、2014年に“さいたまスーパーアリーナ”でのライブも決定していたので、早いうちに大きなステージに慣れてもらう目的もありました。

 でもこの頃には、これからは765だけのライブではなく、『アイマス』全体のライブという意識を持っていかないと「続いていくという未来」は、いずれ途切れるだろうなという予感が強くありました。

 何もかもが大規模化していく『アイマス』のライブは、この頃にはすでに、演者の皆さんにかなりの身体的負担を強いるようになってきました。レッスンやリハーサルなども、正直、余所のイベントよりはかなり丁寧に行うので、スケジュール的にも負担は大きくなっています。

 しかし、声優の本分は「声の仕事」です。イベント出演を優先して体調を壊してアイドルに命を吹き込んで貰うことが延期したり、声の仕事をする時間が減ってしまうことは本末転倒だと考えています。

 もし、声優の仕事が立て込んでいるのであれば、声優の仕事を優先してほしい、そう石原は考えているんです。だから、事務所とスケジュール調整を行う際も、無理強いはしません。プロデューサーさんたちの見たいステージがあることは理解していますが、多人数でカバーしていくこと。

 イベントでの人数を完全には固定化しないこと。それが、大規模化するイベントへの現実的な対処法だと考え、このあたりから模索をはじめました。スタッフは毎回人数が変わるとステージングも変わって大変なんですけど(笑)。制作スタッフ全員で声優の皆の負担を減らしていこう。

 そういった裏テーマも持って、最終的には10thに夢見ていた“ドームライブ”のために準備をはじめていました。

 ちなみに、今でこそ『シンデレラガールズ』の演者も、『ミリオンライブ!』の演者も威風堂々とステージに立っていますが、この頃はもう緊張がすごくて、特に横浜公演の田所あずささんは相当プレッシャーを受けてました。本番直前まで、延々と何時間も『Precious Grain』の振り付けを舞台裏で練習していたことは、とても印象に残っています。

『アイドルマスター』インタビュー
▲8thライブでは劇場版の発表もあった。

2014年:THE IDOLM@STER M@STERS OF IDOL WORLD!!2014(会場:さいたまスーパーアリーナ)

 SSAライブは「宣伝イベント」という枠も「同好の士の集まり」という枠も越えて、純粋に、『アイマス』を知らない人が見ても楽しいライブを目指しました。各コンテンツのファンが集合するのだから、これはアニサマなどの「フェス」と同じものだという意識で挑みました。

 SSAで印象に残っているのは……やはりウサミン(三宅麻理恵さん演じるアイドル・安部菜々の愛称)ですかね。どうしてだかわからないんですけど、ウサミンが歌っている姿を見てると泣けちゃうんですよね。

 で、僕だけなのかと思ったらスタッフのオッサン陣も泣いてる(笑)。そしてステージ袖では、いつでも気の抜けない顔をしているPAスタッフなどが満面の笑みで見ている(笑)。リハーサルで5回も6回もみてるのに何回でも泣けるんです。何の感動なのか未だに不明なのですが、これがウサミンパワーなんだな……と毎回思っています。

『アイドルマスター』インタビュー
▲三宅麻理恵さん演じる安部菜々。

 シンデレラ組とミリオン組がお互いのことを意識し始めたのは、この頃かなと思っています。終わった後に、シンデレラからは「ミリオンのあの曲、私たち歌う機会がありますか?」って聞かれ、ミリオンからが「シンデレラのあの曲、歌わせて!」と言われ、互いへの意識がすごかったです。

 これに頭1つ抜けている765プロのメンバーも加わり、全体を1つのチームとした一体感が出てきました。

2014年:THE IDOLM@STER 9th ANNIVERSARY WE ARE M@STERPIECE!!(大阪・名古屋・東京)

 9thは自分の中でかなり模索したライブでした。スケジュールなどの都合を考えると、どうしても1人辺りの負担も大きくなる内容になりそうだったので、春頃に「こんな内容だけど、できそう?」といった感じで、皆に話を聞きながら内容を決めていきました。

 そして、参加人数が少ないのを逆手にとって、ソロ曲を連続で聞いていくという構成にしてみました。

 最終的には生バンドの演奏に合わせて、多くの曲をしっかり聞かせてあげられるライブになりました9thライブはかなり好きなライブですね。曲はたまに天日干ししないと、カビてきちゃいますから。

――ライブから少し離れますが、『アイドルマスター』の曲名ではAの代わりに“@”が使われることが多いと思います。“@”がつく曲は大事な曲だったり、全体曲だったりするのかなと思っていますが、“@”の有無にはどのような違いがあるのでしょうか。

 『アイドルマスター』のタイトル表記『THE IDOLM@STER』で“@”が使われているので、そのままテーマソングということで“@”が入っています。「A」が@になった理由としては、アーケード版がネットワーク対戦ゲームなので、ネットワーク感やデジタル感を出したかったからです。

 当時のナムコは新作ゲームのタイトル案を社長に提出して、社長のOKがでないと採用されないシステムだったので、タイトル案の下に「Aを@にすることで、2次元アイドルのデジタル感を表わし……」というような言い訳をたくさん書いて提出したことを覚えてます(笑)。

『アイドルマスター』インタビュー

『シンデレラガールズ』のアニメにストーリーをつけたのは今後の作品のことを考えて

――アニメ版『アイドルマスター』、『シンデレラガールズ』の原作はどちらもバンダイナムコエンターテインメントです。アニメ原作として石原氏はどのような作業を行なっているのでしょうか?

 まず最初に“どういう作品にしたいのですか?”、“どういう方向性がいいですか?”と聞かれますので、両作とも作品コンセプトを決めることから始めています。まずは、アニメ版『アイドルマスター』ですが、そもそも、アニメで見せたい最大のものは「アイドルたちの見たことのない表情」や「行動」です。

『アイドルマスター』インタビュー

 彼女たちをよりいきいきとさせることが、アニメ化の最大の目的でしたから。でもPのいないところで、喜んでいるアイドルたちを眺めていても「俺たちは必要ないのか?」と、プロデューサーさんたちは微妙な気持ちになりますよね(笑)。だから、プロデューサーをアニメに登場させるということは、割とすぐに決めました。

 そして、女の子のさまざまなシーンを見せてあげたいと考えた時、ゲームのような自分の姿の出てこないP視点ではなく“客観的に引いた視点”が必要だと思いました。故に、プロデューサーをキャラクターとして作らなければいけなくなったというわけです。

 ストーリーは誰か1人のお話ではなく、アイドルもプロデューサーも小鳥さんも社長も含んだ“765プロ事務所”のお話にしたかった。

『アイドルマスター』インタビュー

 そして『シンデレラガールズ』ですが、こちらはぶっ飛んでいるアイドルが多く、アイドルたちの世界観がバラバラなんですよね。

 中二病の子と、お化けが見えるという子と、普通の女子高生と、酒飲みのダジャレ好きの女の子がいて、それがかつ同じ事務所で一緒にやっていると言われても、そこはどんな事務所なんだ……! と、まとめる方向性には悩んでしまいました。

 やや事務所に関しては設定がふわっとしてるので、絵として具現化するには、具体的なイメージできるモノに落とし込む必要がありました。もし、ゲームの設定をそのまま使ってアニメ化するなら、ぶっちゃけ“シンデレラ劇場”みたいな完全なキャラクター物アニメの方がいいだろうなとも思っていました。

 しかし、高雄監督の持ち味は緻密な世界観による「演出された世界」です。シンデレラという最高のキーワードを持つ、『シンデレラガールズ』ですから、最終的には「ストーリー」をしっかり作っていく方向にしました。でも、神は細部に宿ります。そういった無意識の情報で、彼女たちは、リアリティを身につけていったんです。

『アイドルマスター』インタビュー

 さらに、ストーリーによって、キャラクターの持っている背景や側面が見えたほうが、今後長く作品を続けるうえでも、メリットが多いとも感じました。

 ゲームの中では誰と誰が仲がいいという横軸はあったのですが、ゲームシステム上エンディングを持たない、シンデレラガールズでは、各キャラの目標や人生観みたいな縦軸や奥行きの描き方はまだ少し薄いかな……とも思っていたんです。

 そういうディティールを決めていくのが最初の作業でした。実際、『デレステ』ではアニメでうまれた設定などもいかされていますので、その辺りはよかったなと。

『アイドルマスター』インタビュー

 でも、ユーザーが気づかないだろうなあ……という設定はとても多いです。1期のEDだと、凛の実家は三軒茶屋で、卯月は世田谷線沿いの一戸建てという設定なので、凛と卯月は三軒茶屋まで一緒に帰る。卯月のほうが家が遠いので見送るのは凛のほう……などです。

 李衣菜と未央が太鼓の達人で遊んでいたシーンも、あの2人は総武線を利用しているので、いったん新宿に降りてから遊んでいたという感じです。

 ちなみに、もともと細かい設定付けは765のほうでもしていました。デザイナーに私服を発注するときに“大宮とか藤沢くらいの都市にあるルミネのこの店舗の、このくらいの金額の服”という感じで、非常に具体的に発注してましたから(笑)。

 『シンデレラガールズ』のほうではストーリーの大まかな構成を最初に作りました。その時から“魔法がとける”というテーマは掲げていましたね。アニメだと14話で魔法がとけましたが、一度、ドレスを脱がないといけないという構成自体は初期からのものです。

『アイドルマスター』インタビュー

 このストーリーラインは高雄監督にも賛同していただけました。そこからは脚本の高橋さんたちを含めてどんどん練り上げていく感じです。細かい設定がなかったぶん、『シンデレラガールズ』のほうが時間がかかって、苦労した印象がありますね。

11年目は『アイドルマスター』1年目のような気持ちで取り組んでいきたい

――『スターライトステージ』のコミュニケーションパートは、各キャラがアイドルとなった経緯や、キャラ同士が仲よくなった出会いなどのお話が多く、ファンとしてはとてもうれしいストーリでした。本作のストーリーはゲーム本編(スマホゲー)やアニメ内で語られなかった設定を補完しうるものでしょうか?  それともまったく別のパラレル設定なのでしょうか?

 『スターライトステージ』はアニメの346プロとは違います。そもそも、プロデューサーが武内くんの演じるPではなくプレーヤー自身ですしね。そういう意味では完全にパラレルです。

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 ゲーム『シンデレラガールズ』内の“マジアワ”、“NO MAKE”はアニメのストーリーを補完しうる内容として書いていますが、『スターライトステージ』のシナリオはアニメを補完するものではありません。

――アーケード版が稼働してから10年という区切りですが、開発期間や音声収録などを含めると12~13年前から始まっていますし、“ゲームリリース自体がなくなるかも?”という話があったと聞きます。そういった“10周年前”の思い出はありますか?

 とにかく“ゲームをリリースできるか?”だけを考えていましたね。アーケードのカードゲームは今で言うソーシャルゲームと似た部分があり、リリースした後も開発は終わりにならずに運営続くんです。まずはゲームが最後まで作れるか、しっかり売れるか、リリース後の維持をどうするか。

 そういうことを延々と考えていましたが、リリース後にもタイトル人気を維持しよう……! という気持ちで、いろいろなことをしていたら、なんだかあっという間に、10年たちました。最初のリリースが、いわゆる売り切り型の家庭用ゲームだったらここまで続かなかったかもしれません。

 最初がアーケードゲームだったからこそ、運営という考えが根付いていて、続けることに心血を注いでこれたんだと思います。

――『アイドルマスター』は10年を経て大きなコンテンツに成長しました。アイマスの成功を実感・確信したタイミングがあったとしたら、いつくらいの時期になりますか?

 実は、いまだに成功した、という実感をあまり持っていません。何を持ってして成功なのか? という判断が自分にないのでしょうね。客観的な視点で見れば、多くのフォロワーをうみだしたという点では先駆者として成功したのかもしれません。

 市場規模という点でも具体的な数字は言えませんが、大成功といってよいレベルで、グループに貢献しています。でも、自分自身の実感としてはどれも薄いんです。いつでもなぜか予算がもらえなくてピーピー鳴いていて、会社に優遇してもらったことがないからかな(笑)。

 まあ、それは冗談として(笑)、今までただ目の前のものだけを見て、コツコツと河原の石を積んでいるだけで、どこまで積み上がっているのか? が実感できないのかもしれません。

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 でも、成功の実感が唯一あるとすれば、一番最初の質問で回答した“ドームライブのステージの解体を見た時”でしょうか。この時だけは、ああ10年間もやってきたんだなぁという実感がありました。

 10年間、自分だけでなく、周囲のスタッフも、ファンのみんなも、ずっと走り続けてきた。それが大きな熱量を生み出してきた。あのライブはそんな熱をすべて受け止めたからこそできた、奇跡のような2日間だったんだと思います。

――10周年という区切りを経て、新たに感じた展望や意気込みがありましたらお願いいたします。

 いつも“どういう方向に行くべきか”という大きな方向性は決めていますが、その詳細なルートは決めていません。あまり細かく何をしていくかを決めてしまうと、それに縛られてしまうのがよくないと思うんです。手段が目的に変わるというか。

 11年目は各コンテンツが、独自の進化の方向性を決めていく時かなと。コンセプトが被っていても意味ないですし、『SideM』も本格的にスタートしてきました。

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 第1のステージは、765プロの作ってきた歴史であり、その中で『シンデレラガールズ』や『ミリオンライブ!』『SideM』という芽が芽吹いた。だから、第2のステージは、この芽を多くのプロデューサーさんたちと、どういった「木」に育てていくのか? ということが、ステージでのメインとなるでしょうね。

 もちろん、765プロはPS4で新作が予定されています。歴史が途絶えている訳ではありません。でも『アイマス』は彼女たちだけにカメラが向けられていた世界ではなくなり、より多くのアイドルたちが活躍する世界になりつつあります。876の娘たちも、アニメで登場したアイドルたちも、この世界のどこかにはいるんです。

 皆さんには、これまで以上に「愛」を持った叱咤激励をしていただき、制作側はこれまで以上に、真摯にプロデューサーさんたちとアイドルたちと向き合い、これからもともに“プロデュース”という楽しい日常を過ごせていければよいですね。

――最後に11年目、2016年へ向けての意気込みをお願いします!

 それでは、最後に。プロデューサーの皆さん。「ドームですよ、ドーム!」ではじまった『アイマス』の最初の物語は幕を閉じました。11年目は『アイドルマスター』の新しい1年目、リスタートの年です。どんな新しい物語がうまれるのかを、僕も楽しみにしています。

 さあ、あなたの日常に、『アイドルマスター』がこれからもあらんことを! ともに、素敵な2016年になりますように。

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(C)窪岡俊之 (C)BANDAI NAMCO Entertainment Inc. (C)BNEI/PROJECT iM@S (C)BNEI/PROJECT CINDERELLA

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