2017年8月19日(土)
あの名作の発売から、5年、10年、20年……。そんな名作への感謝を込めた電撃オンライン独自のお祝い企画として、“周年連載”を展開中です。
第62回でお祝いするのは、2002年8月10日にコミックマーケット62の会場で『鬼隠し編』が発表されてすべてが始まった『ひぐらしのなく頃に』です。竜騎士07さんが手掛けた原作PC版は2006年8月の『ひぐらしのなく頃に解 祭囃し編』で完結しましたが、その後もさまざまなメディア展開が行われ、15年もの間、多くの人に愛され続けてきました。
そんな『ひぐらしのなく頃に』の15年間を竜騎士07さん御本人に振り返っていただきました。制作当時のエピソードから、メディア展開の思い出などをたっぷり伺いましたので、ぜひご覧ください。
『ひぐらしのなく頃に』、『うみねこのなく頃に』シリーズや『トライアンソロジー』、『祝姫』などを手がけるクリエイター。現在は『なく頃に』シリーズ最新作を鋭意制作中のほか、『蛍火の灯る頃に』(双葉社刊、作画:小池ノクト)、『恋愛ハーレムゲーム終了のお知らせがくる頃に』(講談社刊、漫画:緋賀ゆかり)などの漫画原作も手掛けている。
――2002年8月10日のコミックマーケット62で『ひぐらしのなく頃に 鬼隠し編』を発表されてから、今年の夏で15年になります。そのことについて、率直な感想をお聞かせください。
もう15年も経ったんですね……時空の歪みを感じます(笑)。すごく前のようにも思えるし、ついこの間のようにも感じるし……。僕はおっさんなので西暦2000年になった時、「2000年って落ち着かないな~」なんて思っていたのですが、それすらもう15年以上前なんですから。
この15年間は僕の人生においてもかなり密度の高い期間で、実感としてはせいぜい10年弱程度しか経っていないように感じています。具体的には『うみねこ』や『Rewrite』の執筆と、『ひぐらし』のさまざまなメディア展開が重なった2008年頃が、一番忙しかったけど濃縮されていた時間です。そこからは時間が一気に加速して、どのメディア展開もついこの間の出来事のように感じますね。
――昨年には“BSスカパー!”でテレビドラマが放送され、今年に入ってからはソーシャルゲーム2本とのコラボもありました。15年経っても、さまざまな展開があることについて、どう思われますか?
自分でも驚いています。当時ファンとして楽しんでくださった方が、今度は企画を持って僕のところにやってきてお返しをしてくれるような、不思議な気持ちです。本当は『ひぐらし』をここまで大きくしてくださった皆さんに、こちらからお返しをしなければいけないのに。申し訳ない気持ちと、うれしい気持ちでいっぱいです。
本当にありとあらゆるメディア展開をしていただいて、色々な機会に恵まれて、僕は幸せ者です。それだけ大勢の方に支えていただけたということですから、感謝の気持ちを忘れないようにこれからも頑張ります。
――そもそも『ひぐらし』を制作されたことには、どのような経緯があったのでしょうか?
『ひぐらし』を発表した2002年から少し遡った1997年ごろ、当時の僕は普通に勤め人をしていて、毎日変わり映えのしないテンプレート通りの生活をしていました。「このまま毎日を過ごしていたら、何も変わらずに壮年、中年になってしまう」と、“大人中二病”みたいなことを考えてしまったんですね。それで「何でもいいから形として残したい」と思って、学生時代にしていた同人活動を再開しました。
そのころはいろいろなジャンルに手を出していて、漫画も描いたし、非電源ゲームっぽいものを作ったりもしました。でもイマイチ合わなくて……そして出会ったのがノベルゲームという発表方式でした。当時の僕が一番やりたかったのは“自分が作ったものを形として残す”ことだったので、もしノベルゲーム以外に相性がいいものと出会っていたら、そちらを手掛けていたかもしれません。
――ノベルゲームが自分に合っていると思ったことには、どのような理由があったのでしょうか?
スーパーファミコンで遊んだチュンソフト(現スパイク・チュンソフト)さんの『弟切草』や『かまいたちの夜』にハマって、さらにPCゲームではLeafさんの『雫』、『痕』、『To Heart』、Keyさんの『Kanon』、『AIR』といった、このジャンルの黄金時代を経験して、ノベルゲームには大いに関心がありました。
それで当時、セガサターンでアスキー(現角川ゲームス)さんから『サウンドノベルツクール2』というゲームが出ていて、『雛見沢停留所』(※)に限りなく近い作品を執筆していたことがあるんです。
※:竜騎士07さんが舞台脚本として執筆した作品で、『ひぐらし』のもとになっている。『雛見沢停留所~ひぐらしのなく頃に原典~』としてコミック版がスクウェア・エニックスより発売中。
僕はセガサターン用のキーボードを持っていなかったので、1文字1文字を十字ボタンで探して入力していましたが、今思うと狂気の沙汰ですね(笑)。しかも苦労してある程度作ったデータが消えちゃったんですよ。それで最後まで作ることはなかったのですが、消えてしまったからこそ、逆に印象的な出来事として強く頭の中に残り続けたんでしょうね。その後、とある劇団が賞金10万円で脚本を募集していたので、舞台脚本として『雛見沢停留所』を完成させて応募しましたが、採用されませんでした。
そして同人界にTYPE-MOONさんの『月姫』が登場します。まず弟がハマって、「『月姫』を動かしているNScripterは思ったより扱いやすいから、これなら僕たちでもゲームが作れそうだよ」と言い出して。それで「『雛見沢停留所』は結局舞台化されなかったし、これをもう一度ノベルゲームとしてちゃんと作り直したらおもしろいかもしれないな」と思って弟と作り始めたわけです。振り返ると『雫』や『痕』などを教えてくれたのも弟だし、僕がこの道に進んだのは弟のせいですね(笑)。
――そして『ひぐらし』を作られるわけですが、どのようなことを意識していましたか?
まずははやっていたノベルゲームのいい部分を取り入れようとしました。あのころのノベルゲームのキャラクターは、過去のゲームのキャラクターと比べると非常に個性的で、濃いキャラクターがとても多かったんです。僕は当時『Kanon』に一番ハマっていたので、『Kanon』のヒロインたちに負けないような濃さを目指してキャラクターデザインをしました。そしてホラー部分では大好きな『弟切草』や『かまいたちの夜』のエッセンスを取り入れています。
だから『弟切草』、『かまいたちの夜』、『To Heart』、『Kanon』などなど、当時自分が感銘を受けたさまざまな作品から好きだった要素を取り出して、自分の中で混ぜ合わせたら『ひぐらし』になったということですね。
それと『月姫』を遊んだ時に、開始15分くらいで衝撃的なシーンに辿りついて惹き込まれたので、『ひぐらし』ではさらに早く開始15秒くらいで衝撃的なシーンに辿りつくようにしてみました。もし『月姫』に出会っていなかったら、冒頭はもっと平凡な日常からスタートしたでしょうね。
『ひぐらし』以降でも、自分が感心した作品に影響を受けて、そのエッセンスを取り入れて執筆することは多いです。執筆することで、もう一度その作品を味わいたいという気持ちがあるのかもしれません。
・前原 圭一(まえばら けいいち)
「クールになれ前原圭一」
▲雛見沢に引っ越してきた主人公の少年。“口先の魔術師”の異名を持つ。 |
・竜宮 レナ(りゅうぐう れな)
「はぅ~お持ち帰りぃ~」
▲圭一の家の近所に住む同級生。“かぁいいもの”に目がなく、暴走すると何でもお持ち帰りしようとする。 |
・園崎 魅音(そのざき みおん)
「会則第一条! 狙うのは1位のみ!!」
▲圭一たちが通う学校で学級委員長を務める最年長の女の子。さまざまなゲームで楽しく真剣勝負する“部活”を主催している。 |
・北条 沙都子(ほうじょう さとこ)
「をーっほっほっほ! 貧民風情が私の相手を務められるかしら!」
▲圭一とは年の離れたクラスメイト。いたずら好きで、誰もが認めるトラップ作りの名人。 |
・古手 梨花(ふるで りか)
「かわいそかわいそなのです」
▲圭一のクラスメイトで、沙都子と同学年。物静かな性格だが、見かけによらずちゃっかりしている部分も。 |
――『鬼隠し編』は作り始めてからどれくらいで完成したのでしょうか?
▲『ひぐらし』の記念すべきスタートを飾る、『鬼隠し編』のジャケットイラスト。 |
『雛見沢停留所』を既に書いていたこともあり、7、8カ月くらいですね。ゲームを作るのが初めてだったこともあり、怖いもの知らずで行き当たりばったりで作っていたんですよ。プロットは考えていなかったし、細かい設定も頭の中で漠然としている段階で書き始めましたし。何しろ僕の最初の予定では『鬼隠し編』はアルファ版で、次の冬コミで解答編まですべてのシナリオを入れた完成版を出すつもりだったんです。
当時のコミケでは未完成版を出してから完成版を出すというのが主流だったので。「最初は絵を描いたりなんだりで時間がかかったけど、これからはシナリオに集中できるから間に合うだろう」なんて思っていたんですよ。しかも最初は選択肢まで入れる予定でしたからね。いやー、怖いもの知らずでしたね(笑)。
選択肢に関しては『鬼隠し編』の感想で「選択肢がないままバッドエンドになってしまったのですが、どうすればグッドエンドになるんですか?」というのがあって、最初は「まだ未実装です。完成版で実装します」とお知らせしたんです。ところが、いざ続きの執筆に入ったら、『鬼隠し編』の選択肢追加をやるくらいなら次の『綿流し編』を書きたいと思ってしまって。
それで『綿流し編』を出した後も似たような感想をもらったのですが、やはり選択肢追加をする前に次の『祟殺し編』を書いてしまったんです。それで『祟殺し編』を出した後にようやく吹っ切れて「ウチの作品は選択肢がないのが特徴です」と言うようになりました(笑)。当時は「ノベルゲームには選択肢があるもの」という考えが主流だったので、御理解いただくのに苦労しましたね。
――プロットも考えずに書いた『鬼隠し編』とのことですが、後のシナリオで矛盾点が発生するような事態にならなかったのは凄いですね。
誤字脱字はありましたが、物語の構成を変えるようなことはなかったですね。
――それで実際に『鬼隠し編』を発表されて、反響はいかがでしたか?
僕は『鬼隠し編』の前に、Leafのキャラクターが用いられたトレーディングカードゲーム『リーフファイトTCG』のイラストを描いてオリジナルカードを作るという同人活動をしていたんですよ。幸いなことに結構好評で、グッズながら最盛期で250部完売できるくらいの固定ファンが付いてくれてました。
そんな状況で『鬼隠し編』を出そうとしたのですが、それだけだと『リーフファイトTCG』目当てのファンが来てくれなくなるので、オリジナルカードの新作も一緒に出していたんですよ。ただそれでも、オリジナルカード目当ての方はほとんどそちらしか買ってくれませんでした。だからファンの方に「これもついでに遊んでみてください」と押し付けるような形で渡していましたね。
また当時は、オリジナルカードを自宅のプリンターで印刷していたので、会場で売り切れても後日郵送することができたんですよ。この郵送の時にも『鬼隠し編』を勝手に放り込んでましたね。「頼んでいないゲームまで入っているのですが」という問い合わせに「あ、間違って入れてしまったので、もしよければ遊んでみてください」なんてやりとりをしてました(笑)。それで律儀に感想を送ってくださった方が50人くらいいました。
さらに、交流があった皆さんに「今度ノベルゲームに挑戦します。感想を送ってくださるモニターになっていただけたら、作品が完結するまで続きを無料でお届けします」とお知らせしたら、予定していた50人の枠が埋まりまして。これで合計100人から感想をもらったら、その中の1人だけが「レナちゃん可哀想ですね。言ってることは何も間違っていないのに」と、レナが悪くないことを見抜いていたんですよ。他の人は「レナ怖い」、「この村はおかしい」という感想だったのに。
この100分の1という数字がおもしろかったので、販促品として作ったポスターに「正解率1%」と書いたんですよ。そうしたところ、これがキャッチコピーとして大いに受けました。ですからありがたいことに、『鬼隠し編』の時点からたくさんの反響をいただくことができたということですね。この反響が『ひぐらし』初期のモチベーションアップにつながりました。
――そのようにしてスタートした『ひぐらし』が、一気に広がっていくのを実感したのはいつごろからでしょうか?
『祟殺し編』を出してしばらくしてから、相方のBTさんに「無料で冒頭が遊べる体験版を出しているゲームが多いので、ウチも作りませんか?」と言われて、「それはいいね!」とお願いしたんですよ。それが2004年の5月に公開されました。それまでは作品を気に入って応援してくれる方がいても、周囲にすすめる方法がなかったんですよ。同人ショップでも扱われていませんでしたから。
体験版が公開されてからは、ファンの方がブログで「おもしろいからオススメ!」などとリンクを張ってくれることが徐々に増えて、遊んでくださる方がどんどん増えていきました。
また今だから言えますが、体験版は『鬼隠し編』だけを遊べるようにしていたのですが、体験版のファイル内に『綿流し編』、『祟殺し編』のテキストも残っていたんですよ。それで中身を解析した人が「テキストだけなら続きが読めるぞ!」と広めて、アングラな方面でも大人気になったらしいです。この辺からネットによる人の広がり、膨らみをかなり感じていました。
▲第2話『綿流し編』のジャケットイラスト。 |
▲第3話『祟殺し編』のジャケットイラスト。 |
『祟殺し編』の次には解答編の『目明し編』を出すつもりだったんですが、本業が忙しくて1度冬コミを休んでしまったんですよ。それで小規模な『暇潰し編』を2004年の夏コミで出したのですが、体験版の影響もあって非常に多くの方に来ていただけました。大勢の方が来てくださる雰囲気があったので、BTさんが作った7段スロットルのマシンを1週間使ってCD-Rを焼きまくり、会場へ2,000枚ほど持って行ったのですが完売しました。ここで「相当人が来るようになったなぁ」と実感しましたね。
またこのころに、初めてメディア展開のお話を持ってきてくださったのがドラマCDのホビボックスさんでした。当時は、無名の同人作家がランクアップするには、まず同人ショップのバイヤーさんから「ウチに委託しませんか」と名刺をもらうことだと言われていたのですが、それより先にドラマCDのお話が来たのは、不思議な気持ちでしたね。
それで夏コミ終了直後には、当時手伝ってくれていた方のおかげで秋葉原の複数の大手同人ショップに『暇潰し編』を委託販売できることが決まりました。実は以前1度、自分で「『ひぐらし』を委託させてください」と某同人ショップにお願いした時は蹴られてしまったんですよ。「一次創作で全年齢対象で、しかも絵がうまくないゲームは取り扱えません」と(笑)。委託販売が決まってからは「もう自分たちでCD-Rを焼くのは厳しい」と判断して、ここからはプレス工場へお願いすることになりました。
このころから「もう自分の都合で新作を休むなんてできないな」と思うようになりましたね。例えば同人ショップではコミケのひと月ほど前から事前予約が始まるんですよ。でも当然、そんな時期にはまだ完成してなくて。「自分で予約したら、ゲームが勝手に完成して届いてくれないかな」と妄想したこともあります(笑)。
▲前編のラストを飾る第4話『暇潰し編』のジャケットイラスト。 |
――どんどん広がっていく『ひぐらし』ですが、当時はどこまで広がると思っていましたか?
自分でも全然想像できませんでした。反響と忙しさが倍々に膨れ上がっていく感じで、てんてこ舞いでしたね。同時にとてもうれしかったですし「こんなに多くの人が遊んでくれているんだ」と感動もしました。僕のそれからの人生を決めるほどの鮮烈な期間でした。当時から応援してくださってる方はもちろん、当時だけでも応援してくださった皆さんには感謝してもし尽くせないと思っています。
――感想も相当数届いたのでは?
もちろんです。もともとはモニター制度をしていたこともあり、来た感想すべてに御返事を書いていました。しかし感想がどんどん増えて、御返事を書くだけでも2カ月ほどかかるようになってしまったんです。それで「この時間を執筆に費やした方が皆さんに喜んでいただけるのでは?」と思うようになって、御返事を書くのは辞めることになりました。
――ここからは『ひぐらし』本編以外の展開について竜騎士さんに振り返っていただきたいと思います。
▲編集部で用意した『ひぐらし』年表を見ながら、メディア展開のことを語ってくださった竜騎士07さん。 |
アンソロジーの素材にしてもらえるということは、作品がはやっていることの目安でもあったので大変光栄でした。その後もありがたいことにたくさんのアンソロジーコミックやノベルを出版していただけました。
▲2004年12月30日に発表された第5話『ひぐらしのなく頃に解 目明し編』のジャケットイラスト。 |
原作のメディア展開としては、このコミック版が皮切りでした。『ひぐらし』は長い話ですから、コミック化の際に普通は「どれだけコンパクトにするか」を考えると思うのですが、当時の編集さんは複数の作家先生方を立てて、複数誌で同時に連載するというとんでもない提案をしてくださったんです。もちろんそんな提案をされたのは1社だけでしたから、スクウェア・エニックスさんにコミック版をお任せすることになりました。
担当された作家先生方も、とても情熱のある方ばかりで、僕の目から見ても大成功だったと思います。実際、コミック版で初めて『ひぐらし』を知った方も大変多かったですから。『ひぐらし』の15年を語るうえで、コミック版は外せないですね。
――各シナリオを複数誌で同時連載なんて形式は、『ひぐらし』と『うみねこ』以外では後にも先にもなさそうですね。
聞いたことがないですよね。
――『鬼隠し編』から『賽殺し編』までで、合計32巻あるのもすごいです。
仕事場の本棚がヤバいです。しかも1冊1冊分厚いで、銃弾が防げるレベルです(笑)。
▲ドラマCD『鬼隠し編』のジャケットイラスト。 |
声が付いたのはドラマCDが初めてだったのですが、衝撃的でしたね。レナ役の中原麻衣さんが収録する時に、私とBTさんも現場に伺ったのですが、「はぅ~お持ち帰りぃ~」のセリフを生で初めて聞いて、2人で身悶えましたよ(笑)。このドラマCD化で、ボイスを含めた『ひぐらし』の世界観が完成したと言えますね。
――ドラマCDの完成度の高さはすごかったですね。
担当してくださったプロデューサーの方がとても情熱のある方で、非常に熱心に『ひぐらし』の世界をドラマCDとして再現してくださったんです。
――メディア展開の中ではかなり早くスタートしたドラマCDですが、最終話の『祭囃し編』が発売されたのは2012年3月で、完結まで約7年かかったことにも驚きました。しかも『祭囃し編』は前中後編でCDが合計14枚という空前絶後のボリュームでしたね。
声優さんたちに送られる収録の原稿が、ミカン箱数箱分という膨大な量でしたからね。プロデューサーさんが「どこも大事なシーンなので全然カットできませんでした」とおっしゃってました。その結果のCD14枚ですね(笑)。時間はかかりましたが、その分とてもクオリティの高いドラマCDになっています。
▲ドラマCD『祭囃し編(前編)』のジャケットイラスト。 |
外伝コミックも何本も連載していただきました。「スクウェア・エニックスさんで最後まで連載するので、コンプエースさんでコミック化する話がありません」と話したら「でしたら外伝を作りましょう」と提案されて、それはおもしろそうだなと。担当編集さんと一緒に新たな物語を作りました。
▲2005年8月14日に発表された第6話『罪滅し編』のジャケットイラスト。 |
▲2005年12月30日に発表された第7話『皆殺し編』のジャケットイラスト。 |
アニメ化はとても大きなお話しで、ありがたかったですね。やはりアニメから『ひぐらし』を知った方は非常に多かったですから。2006年は4月にアニメが放映されて、6月に解答編のコミック版連載が始まって、8月には『祭囃し編』で本編が完結してと、『ひぐらし』のムーブメントが1つの到達点に達した印象ですね。
そんな多忙の中、12月にしっかり『ひぐらしのなく頃に礼』を出していたのは、今思うと信じられないですね(笑)。アニメ第2期も2007年7月にスタートし、第1期以上の素晴らしいクオリティで、とてもよかったです。
▲2006年8月13日に発表された最終話『祭囃し編』のジャケットイラスト。 |
▲2006年12月31日に発表された外伝『ひぐらしのなく頃に礼』のジャケットイラスト。 |
コンシューマ版は、選択肢が追加されたことが1つの目玉でしたね。そういう提案を受けて、我々も驚きました。それとCEROさんのチェックを受けたのもこの時が初めてで。大量に積み上げられた原稿用紙から、たくさんの付箋がはみ出していて、それを見て一発でKOされました(笑)。
それを見るまでは「修正が必要な箇所は、すべて自分で吟味して書き直そう」と考えていたのですが、吟味してたら何年もかかりそうな量で。当時のメーカー・アルケミストのスタッフさんに修正の一部をお任せすることになりました。またこの辺から移植に関わる監修業務が増えてきて、そのための専属スタッフを立てたくらいです。スタッフには随分苦労をかけました。
――メディア展開が膨大ですから、その分監修は大変そうですね。
一時期は僕のメインの仕事である執筆時間よりも、監修にかかる時間の方が長かったんです。しかし感想に御返事を書くのと同じで、やはり執筆に時間を割いた方が皆さんに喜んでもらえるだろうと思い、監修のほとんどを専属スタッフに任せることになりました。
――コンシューマ版の制作は、基本的にはアルケミストさんにお任せしたうえで監修を行ったのでしょうか?
このころにようやく「すべてを僕だけでチェックするのは不可能だ」という当たり前のことに気付きまして。それでメディア展開してくださる方々と信頼関係を結ぶことを強く意識するようになりました。相手の『ひぐらし』に対する熱量や頑張りを推し量らせていただいて「この方々ならお任せしても大丈夫だ」と確信できたら、「よろしくお願いします。ある程度のことまでは、僕を気にせず勢いでやってしまって大丈夫です。もしもの時は後でフォローします」とお任せするようにしていきました。
もし相手を信頼できずに「僕が全部チェックします」と判断していたら、その時に出していた『うみねこ』の制作は大幅に遅れていたでしょうね。
――アルケミストさんに限らず、メディア展開を担った各社の皆さんが『ひぐらし』の原作をプレイしてファンになり、情熱を持って仕事をしてくださるから、竜騎士さんは安心してお任せできたということですね。
本当にその通りです。逆にメディア展開の最初のころは、少し疑心暗鬼になっていた部分もあって。「ちょっと有名になったからって群がってきやがって」みたいな、人間不信になったこともあったんですよ(笑)。
▲その後、コンシューマ版としてはPS2『ひぐらしのなく頃に祭 カケラ遊び』、DS『ひぐらしのなく頃に絆 第一巻~第四巻』、PS3/PS Vita『ひぐらしのなく頃に粋』が発売されました。 |
小説版の時に、僕の文章が講談社さんの校閲部に徹底的にチェックされまして。そこで“ことごとく”や“おもむろに”など、日本語の間違いをたくさん指摘されて、勉強になりました。国語の授業を受けているようでしたね(笑)。
僕もやはり、アニメと実写の間には大きな溝があると思っていたので、企画のお話を聞いたときは大変驚きました。撮影現場に1度立ち合わせてもらったのですが、キャストの皆さんもスタッフの皆さんも、よりいい作品にするため、とても頑張っていらっしゃいました。
その時に僕やBTさんが綿流し祭を歩いているシーンを撮影したのですが、現場では“雑踏の一部として使います”みたいな話だったんですよ。でも実際に映画を見たら、短時間ですけど画面中央にドーンと我々がアップで出ていて(笑)。あれは及川中監督のイタズラでしたね。
当時の思い出がもう1つあって、歩いているシーンを撮影している時に、BTさんはしっかり世界観に則ったモブキャラとして僕に話しかけてきたんですよ。彼は形から入るタイプだったので。でも僕は照れくさくてそこまで入り込めず「どうせ音声までは使われないよ」みたいなことを言ってましたね(笑)。
懐かしいです。このころはまだ“カウンター”や“キリ番”という概念がありました。今の若い子に「キリ番踏み逃げ禁止です。BBSにひと言挨拶お願いします」なんて言っても通じないでしょうね(笑)。
とんでもないお話しをいただきました。でも幸か不幸か僕は麻雀が好きだったので、ありがたく引き受けさせていただきました。コミック版が竹書房さんの近代麻雀で連載されたのもうれしかったですね。
僕の親友が好きだったので知識としては知っていましたが、自分はホールへ行く人間ではなかったので、パチスロパチンコには詳しくなかったんです。だからそもそも版権モノのパチスロパチンコがあることすら知らなかったんですよ。
しかしこの時に御一緒させていただいた開発スタッフの皆さんが、とても原作を愛してくださって。ここまでのさまざまなメディア展開で「愛情の度合いがそのまま完成度につながる」と身にしみてわかっていたので、これなら素晴らしい機種になりそうだと快くお任せすることになりました。チェリーに鉈が刺さっていたりなど、本当に細かい部分まで『ひぐらし』らしい機種になっていたと思います。
『ひぐらし』の次の作品である『うみねこ』が2010年12月に完結したのに、まだ『ひぐらし』が展開していることにある種の感動を覚えていました。梨花と沙都子が魔法少女になるという内容を聞いた時には「ここまでぶっ飛んでいるなら逆におもしろいからアリだなと」と思いましたね(笑)。
イベントを回すのが得意なスタッフがいて、その子が主催してくれました。ファンの方へのささやかなお礼として、書き下ろしの冊子を発表したり、いろいろな催しを考えたりしましたね。「自分のオンリーイベントを自分で開催してるのは竜騎士くらいだ」みたいな書き込みを見つけて、まったくその通りだなと自分でも思いました(笑)。
でも僕としてはファンと直接交流できて元気をもらえる貴重な場なので、だったら運営の労力はこちらが負担すべきだろうと考えただけなんですよ。
▲07th Partyはその後も不定期に開催され、2017年4月1日には5回目が開催されました。画像は4回目に販売された『07th Expansion オリジナルかるた』。 |
▲『ひぐらしのなく頃に奉』のジャケットイラスト。 |
発売からかなりの年月が経過して『ひぐらし』が入手しにくくなっていたんですよ。それでも「欲しいです」という声がチラホラ出ていたので、タイミングのいい時に新作を追加して全部入りを出そうとしていました。それが『奉』です。これもまた『月姫』における『月箱』みたいなものですね(笑)。
『ひぐらし』を全部くるっとまとめて、神様に奉納して「こういう作品に相成りました」と報告するような気持ちを篭めて『奉』と名付けたんです。僕の中では『ひぐらし解』の“牛”の部分の下をビローンと伸ばしたロゴはクリティカルな出来だったんですよ。だから今回も下にビローンと伸ばせる漢字を探していて、意味的にもしっくり来た『奉』を採用しました。
『解』の直後に出した『礼』の『賽殺し編』がシリアスだったので、完全新作の『神姦し編』は、シリアスのフリをしたコミカルな話にしてみました。僕の中における『ひぐらし』という世界観の、拡張性の確認ができておもしろかったです。「『ひぐらし』はあんな作品でも違和感なく書けるんだな」と。
――こちらに収録されていた“雛見沢停留所”は『ひぐらし』の真相部分がギュッと詰まった作品でしたね。
そうなんですよ。『ひぐらし』完結前に取材などで『雛見沢停留所』の話をしたら、「その脚本を見せてください」と方々から言われまして。でも完結前に見せるのはマズイので、思わせぶりなことを言って誤魔化していました(笑)。
海外のファンの方々が独自に翻訳されていたので、そういった方々に御協力していただき、Steam版が実現できました。先日も中国広州のイベントにお招きいただきまして、サイン会にたくさんの方が来てくださったんです。Steam版でそういった海外の方々の期待に応えることができたらいいなと思っています。ちなみにコミック版は既に5カ国語以上に翻訳されてます。最近ではポーランド語にも翻訳されました。
――Steamで販売されていれば、インターネット環境がある場所なら世界中どこからでも購入できますね。
Steamも含めて、TwitterやFacebookなど、2002年からネット文化も大きく変わりましたよね。よく指摘もされるし自覚もしているのですが、『ひぐらし』の盛り上がりにはネット文化が欠かせなかったと思っています。きっと、出すのが1年でも早かったり1年でも遅かったりしたら、『ひぐらし』はこんなに盛り上がってなかったんじゃないかと。ネット文化が広がっていくちょうどいいタイミングで作品を出せたことに幸運を感じています。
▲『ひぐらしのなく頃に』スタンプのサンプル画像。 |
LINEも2002年にはなかった新しいネット文化ですよね。僕は最初「わざわざ画像でスタンプをしなくても、顔文字で十分なんじゃ?」と思っていたのですが、今ではスタンプをよく使ってます(笑)。
実写は1度映画でやりましたが、今度はテレビドラマになるという幸運に恵まれました。撮影現場が大変遠い場所だったので実際に立ち会うことはできなかったのですが、「実写で原作を再現しよう」という情熱が伝わってくる素晴らしい仕上がりでした。
最初は僕も「実写で原作再現なんて、ムリですよ監督!」と言っていたのですが、まさかあそこまでこだわっていただけるとは! 1話から富竹フラッシュが炸裂してますからね(笑)。選抜総選挙の前に再放送があった影響か、ヒロインたちを務めたNGT48の皆さんは順位がアップしたらしいですよ。
この時に初めて白川村の村長さんにお会いして、感謝の気持ちを伝えることができたのがよかったです。ちゃんと『奉』も奉納してきました。
完成版をやらせていただきましたが、よくできてました。手を伸ばせば本当に届くみたいで。体験イベント限定という、極めて短い期間にしか使われないものでしたが非常に完成度が高くて、制作チームの本気を感じましたね。
これは不思議な偶然でした。まるで15周年に合わせたかのような。だって同じ会社のゲームではないですからね。どちらもありがたいお話しでした。ソーシャルゲームというものも、2002年には存在してなかったものですから、時代の流れを感じますね。
自分の作品の中には、執筆当時の時代の雰囲気を盛り込みたいと考えています。だから次に書く作品は、2002年の自分には書けなかった、今の時代に基づいた作品にきっとなるでしょうね。
――竜騎士さんが手掛けた『ひぐらし』は、今のところ『奉』が最後ですが、今後また『ひぐらし』を作る可能性はあるでしょうか?
今のところ予定はありません。よく言っているのですが、こればかりは「頭に雛見沢が降りて来た時」としか言えないですね。ただ、もう2度と書かないということはありません。聖地巡礼ツアーのときには、圭一と沙都子による朗読劇の台本を書きましたし。
だからいつかはわかりませんが、ひょっとしたらまた『ひぐらし』を書くことがあるかもしれません。その時は、どうかお付き合いいただけるとうれしいです。
――『ひぐらし』から始まった『なく頃に』シリーズの最新作についてはいかがでしょうか?
今までは外部の仕事の息抜き的に、余暇の時間を使って設定作りをしていたのですが、ようやく外部の仕事がすべて終わったのでこれから本格的な作業に入ります。今は登場人物の名前を付けていく段階ですね。近いうちにキャラクターのイラストも描き始めます。
『うみねこ』でもそうだったのですが、名前と顔が決まるとキャラクターが動き出し始めるので。『ひぐらし』の時はシナリオを全部描き終わった後に、イラストを描いていたんですけどね。
『ローズガンズデイズ』や『トライアンソロジー』ではいろいろな方にイラストを描いていただいたのですが、次の『なく頃に』シリーズでは久しぶりに、すべてのイラストを自分で描くという挑戦をしたいと思います。少し苦労はありそうですが、そこにはこだわりたいなと。来年出せるように頑張ります。
――最後に『ひぐらし』ファンの方々へメッセージをお願いします。
これだけ長い期間『ひぐらし』の展開が続いたのは、支えてくださったファンの皆様のおかげです。重ねて深くお礼申しあげます。皆様のおかげで乗り越えて到れた15年だったと思います。現在は『ひぐらし』、『うみねこ』に続く第3の『なく頃に』を鋭意制作中ですので、これからもどうかお付き合いいただけるとうれしいです。今後ともよろしくお願いいたします。
▲インタビュー中、終始笑顔だった竜騎士07さんでした。 |
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