2018年12月4日(火)
セガゲームスが配信するiOS/Android用アプリ『オルタンシア・サーガ ‐蒼の騎士団‐(以下、オルサガ)』。本作のメインストーリー第三部の完結を記念した、特集連載企画の第5回をお届けします。
現在『オルサガ』では、第三部“終章前編”までのシナリオが公開中。因縁の宿敵と共闘し、ついにダーイラ帝国皇帝・アスルへと肉薄する主人公――ヒロイックサーガならではの盛り上がりは、最高潮を迎えています。
電撃オンラインでは『オルサガ』第三部のクライマックスを徹底的に楽しむべく、キャラクターの掘り下げやストーリーの振り返り記事などを、短期集中連載という形で展開してきました。最終回となる今回は、開発者インタビューをお届けします。
開発陣を代表して、『オルサガ』開発プロデューサーの田口堅士氏と、『オルタンシア国営放送』などでおなじみのでぃでぃえ氏にお話を伺いました。驚きの開発秘話に加えて、『オルサガ』の今後についても語っていただきましたので、ぜひご覧ください!(※インタビュー中は敬称略)
▲田口堅士氏 | ▲でぃでぃえ氏 |
【注意】記事の内容は『オルサガ』のストーリーに関するネタバレを含んでおりますので、ご注意ください。
――間もなく『オルサガ』第三部が完結するということで、3年半もの長期間にわたって大作を書いてきたことに対する感想をお聞かせください。
でぃでぃえ:開発期間を含めると足掛け5年、僕は途中参戦なのですが本当にあっという間でした。キャラクターがどんな風になるんだろうとか一緒に考えながら、ユーザーの皆様と同じく、先を楽しみにしながらやってこれたという感じです。
――テキストにして何万字、単行本にすると何冊くらいになるのでしょうか?
田口:小説に例えると4章で1冊くらいなので、第一部と第二部がそれぞれ3巻ずつ、第三部が5巻くらいの全部で11~12巻になるかと。さらに外伝とか騎士伝もありますので。
――かなりのボリュームになりますよね。
田口:外伝がオルタンシア伝の半分くらいのボリュームで、両方合わせてメインストーリーとなるので、メインだけで15巻分くらいのシナリオを5年間書き続けてきたと思えば、結構急ぎで書いてきたかなという気はします。
ゲームに追われているというか常に出し続けなければいけないという状況で、なおかつクオリティもある一定の物をというところと、ゲームのバランスと一緒に作っていくという難しさはありました。リリースしてから3年半くらい経ちますが、大きな意味でのひと区切りをつけることができてよかったかなと思います。
でぃでぃえ:本編の他にイベントなども作り続けているので、ひと息つけることってなかなかないんですよね。
田口:当初想定していたところに近い部分と遠くなった部分はあれど、ある程度いいものができた、ちゃんと書けたなという喜びはあります。
――三部作の壮大なストーリーの軸となる部分は当初から決まっていたのでしょうか?
田口:大きな軸みたいなものはありました。一番最初はマリエル王女が国を取り返すくらいのところまで想像していたのですがどんどん話が膨らんで、第一部をリリースする頃にはもう三部作じゃないと描き切れないねというイメージでした。
そもそもユーザーさんが認めてくれて売れないと、途中で終わってしまうんですよね。リリースする前はそれがずっと不安で、せめて第一部の最後までは……と思っていたので、最後まで書けたというのはやっぱりうれしいですね。最初に考えていた流れもユーザーさんの反響はさまざまあったものの、ある程度思い描いていたところに着地できたというのはよかったです。
ソーシャルゲームでは、最初は骨太な路線で行っていたのにどんどん扇情的なキャラクターが増えてきて、という展開が珍しくないですよね。『オルサガ』の場合は最後までオッサンが活躍するので……。
――『オルサガ』は渋いキャラクターが多いですよね。
でぃでぃえ:特に主要なところでオッサン率が高いですね。
――しかもそういうキャラは強いので、使っていて楽しいです(笑)。
でぃでぃえ:シナリオライターさんもイラストレーターさんもオッサン好きなんですよね。先日も、来年以降の新キャラクターをどうしましょうかという話をしたときに、新キャラ2枠ありますとなると、だいたい1枠におじさんが入るんですよ。最近入った若い女性のシナリオライターさんに「こんなにおじさんばかりで大丈夫ですか?」と言われて、「う~ん、そうですね……」って(笑)。
田口:それ、5年前にチュートリアルを書いているときから言われ続けている話ですからね。今でこそアーデルハイドが登場しますが、最初は子どもとオッサンしか出てこないぞということで、アーデルハイドを無理やり登場させました。
でぃでぃえ:途中で退場しますけどね(笑)。
――『オルサガ』のような戦記物で渋いキャラクターが活躍するとワクワクしますけどね。
田口:結局ファンタジーとしてリアリティのない話を書くので、没入感を求めてそこにリアリティのある部分を入れたくなるんですよ。
でぃでぃえ:でも新章でマフムード、ウルビ、アルマース、ラエドとくると、「これは……」ってなりますよね(笑)。オッサンは大好きですけど、ビジネス的なバランスとしてはいいのか!? って。
――『オルサガ』はキャラクターの扱いが丁寧というか、いわゆるモブ扱いが少ないなと思うのですが、中でもフレーゲルがあそこまでキーキャラクターになるとは……。
田口:第一部ではまさに咬ませ犬的なすごく嫌な奴として登場した彼ですが、最初の軸から言うと存在しなかった部分なんですよ。あの嫌な感じが個人的に気に入っていて、なんか人間臭いじゃないですか。彼の嫉妬しちゃう感じがすごくよくて、フレーゲルをいい奴にしてあげたいよねみたいな流れから第二部で出すことになりました。それも、最初は“熊殺しのフレーゲル”とかね。
――どういうことですか!?
でぃでぃえ:修行です! フレーゲルが主人公に負けて旅に出て、1人山籠りしている感じで、山籠りしている間に熊を倒して。
――熊を倒して。
田口:最終的にはダーイラ帝国に渡っているわけですが、最初は毛皮を被った“熊殺しのフレーゲル”を第二部でどうやって出そうかみたいな話をしていたんですけど、それだとギャグになってしまうよねと。
でぃでぃえ:直前までその路線で行くのかと思っていました。
田口:僕もずっと“熊殺し”を推していたんですが、シナリオライターさんが違う形で書かれて、それがカッコよかったのでこれでいいかなと。
でぃでぃえ:伏線として、バルトハウザーがカメリアへ救援に向かうという話も最初はなかったんですよね。
田口:セルマン山脈攻防戦でのエピソード自体は、第二部への流れを作る、物語を動かすためという意味合いが強かったんですね。マフムードを少人数で撃退するシーンでバルトハウザーを登場させたのは、フレーゲルに紐づける結果となって、第三部でマフムードとフレーゲルの物語につながるわけです。
ですので、フレーゲルは本当に特殊といいますか、よいキャラクターがずっとよいままでいるよりは、そういう心情の変遷を感じられるほうが人間味があっていいなと。
――確かデフロットの騎士伝でも少しだけ“山籠り”の様子が描かれていましたね。
田口:僕たち発想が昭和なので、山に籠らせたいんですよ(笑)。山に籠ったらよい子になって帰ってくるみたいな。
――このあたりのおもしろさはメインシナリオだけ読んでいてはわからない部分なので、もし見逃しているユーザーさんがいるとしたら、もったいない話ですよね。
田口:そうですね、メインシナリオだけ読んでいる方がいるとすれば、ご都合主義に思われてしまうかもしれないです。その辺はもどかしくは感じながらも、もうこのままで行こうと。
外伝を読むと「なるほど、ここでこうだったからこのタイミングで登場するんだ」とか、実は前からちゃんと想定していたということがわかっていただけると思いますし、騎士伝にはさらに深いことが書いてあります。メインシナリオだけでは伝わらない部分でなので、そこも含めて見てもらえたらうれしいですね。
でぃでぃえ:主人公率いるオーベル騎士団が絡まない部分にも深い話が多かったりするので、実は外伝のほうが濃密だったりもします。
田口:ユーザーさんからは、第一部はメインシナリオがおもしろくて、第二部は外伝のほうがおもしろいというご意見もありました。
元々メインシナリオでは細かい話は意識して書かないように気をつけています。ともすると自己満足といいますか際限なく書きたくなって、アレも言いたい、コレも言いたいとなってしまうからです。
でも、必要以上に情報量が増えるとユーザーさんも混乱されるでしょうし、キャラクターではなく事象が物語を進めてしまうので、メインストーリーは極力情報と出来事を抑えました。
結局この1章で何が起きたのかを要約してみると「ココからココまで歩いただけです」といったシンプルさをメインシナリオでは大事にして、そのぶん外伝でその時に起こったことを語っていくというスタイルにしています。
――事象とキャラクターというところは、やはり戦記物ならではの難しさがあるのでしょうか?
田口:そうですね。国同士が動くと戦況の話がメインになってしまって、キャラクターの感情が置き去りになってしまうことも多いので。それこそ辻褄が合っていなくてもいいから、国と国の戦いの中にあるキャラクターの感情をちゃんと描こうというのは大事にしてきた部分です。
――遊び方にもよるかと思いますが、やはり騎士団戦メインで遊ばれている方が「新キャラクター登場」ときて真っ先に目を引かれるのはステータスですよね。
田口:そういう方もいらっしゃいますね。騎士伝の内容も、メインストーリーの新章に合わせた追加分に関しては、ある程度メインストーリーに寄せた騎士伝にしています。イベントで出すキャラクターは思い切りはじけて、閑話という位置づけでシナリオを組んでもらっていますので、その辺はだいぶ違いを出せているのかなと思います。
――シリアスとコミカルの度合いと言いますか、ストーリーの振り幅がすごいですね。
でぃでぃえ:田口さんの“B級”な部分も含まれるのかなと。
田口:そうですね、僕は『オルサガ』を“B級王道RPG”と思っているんですよ。いわゆる少年少女が活躍するヒロイックファンタジーに比べると、こんなにオッサンばかり登場する暑苦しいストーリーもそうそうないですよね。
万人受けするようなストーリーではないけれども、ユーザーさんが望む話を書く。そういう意味で“B級”という言い方をしています。イベントは振り切って、もう何も気にしなくていいからふざけようみたいな。個人的にベタとB級が好きなんですよ。
でぃでぃえ:エイプリルフールもB級な感じを目指して作っています。
――『オルサガ』のエイプリルフールは毎年全力ですよね。
でぃでぃえ:作るのは全力ですが、だいたいがシナリオ会議で話がそれて盛り上がった雑談から生まれています(笑)。
田口:よく「田口さんが来ると雑談のせいで進まない」と言われて、「今日の雑談は5分まででお願いします」とか、雑談に時間を区切られたりもしています(笑)。
でも、メインストーリーはそういう雑談の中から決まることもあったり、まあ何も決まらないまま終わってその結果、エイプリルフールや実装予定のないクリスマスネタが決まったり。こんな話を作ろう、でも出せないねみたいに散々話し合った挙句、「これは売れない」などと誰も望んでいないストーリーが生み出されることも……。
でぃでぃえ:エイプリルフールのためだけに、曲とかボイスとかB級強めのこだわりをもって発注しています。
田口:決して日の目を見ないクリスマスネタの1つに、ガストンとドクトル・グレフの心温まるエピソードがあるんですけど……。
――それは……どのような内容なのでしょうか……?
でぃでぃえ:ガストンの記憶が戻ってしまうんですよ。
田口:記憶を取り戻した彼がドクトルにやられた仕打ちを思い返して仲違いしていくんですけど、いろいろあってクリスマスの日に2人がハグして終わるという切ないストーリーになっています。
――な、なるほど。
でぃでぃえ:そもそもグレフなんて名前もなかったキャラですからね。
田口:最初は「嫌な医者を書いてください」というだけで出てきたキャラクターが第三部ではあのようなことになってしまいまして。ファイル名に名前がついていなかったですから。でぃでぃえさんも大好きですよね。
でぃでぃえ:あの組み合わせならおもしろい話いくらでも作れますよね。
――ドクトルが強化兵を作らなければ、終盤の展開も違うモノになっていたとも思いますが、そういう意味ではわりと早い段階から決まっていたのでしょうか?
田口:当初からではないですね。フレーゲル同様、ドクトルとガストンは第一部だけで終わるはずが書いているうちに好きになってしまって、第二部にも出したいから逃走させようと。最後はダーイラ帝国までたどり着かせて、どうせダーイラ帝国まで行くのであれば、強化兵に関わるのはドクトルでしょうと。
第一部が終わってドクトルとガストンを登場させたいよねなどと話していた時に、ダーイラ帝国に渡って敵として再会させたい。フレーゲルのようにいいキャラクターにはしたくなかったので、ああいう形になっています。それでも好きなキャラクターなので、クリスマスで2人の愛情を描いてみたかったんです。
――な、なるほど。キャラクターについてもう1点気になっていることがありまして。『オルサガ』では主役級のキャラクターがわりと潔く召されていますが、例えば話の流れ的に人気が出てしまってどうしようといった葛藤などはあったのでしょうか?
田口:やはりソーシャルゲームは続くことが大事とされているので、チーム内では「殺していいんですか? 殺しちゃったらもう出せないですよね?」という声はあります。
戦記物なのでキャラクターの死は避けられないとして、無理に殺す必要はないですよね。でも、ユニットとして登場させたいから殺さないというよりも、ユーザーさんが満足していただけるストーリーを描くことのほうが大事なので、必然性のある場面ではキャラクターに最期を迎えてもらうというやり方をしています。
もっともユニット排出というと、人気が出たので死んだあと1年後くらいにどうにか復活させたいというのはあるんですけどね。
でぃでぃえ:ユニットとして出すにしてもそこそこ時間をおかないと……というのはありますね。在りし日のキャラクターを描くにしても、多少は喪に服さないと。こちらの世界でのお盆の時期に合わせたりとか。レオンとアーデルハイドが新たに追加された“メモリーズガチャ”も、開発内では“お盆ガチャ”という名称でした。
――そういう意図があったんですか!?
でぃでぃえ:カードイラストは、キュウリに乗せようといった案もありました(笑)。
――お盆だけにキュウリの馬に……。
――ユーザーとしては第三部完結後の展開も気になるところだと思います。プロデューサーレター(第1回、第2回)では終わらないと明言されていましたが、今後どのような展開が予定されているのでしょうか?
田口:ベースとしては『オルサガ』がずっと続きます。物語に関してはいったん三部構想が終わって、今後新たな物語が始まりますよという認識です。もう少し踏み込んだ表現をするなら、現在の主人公視点で描かれてきたオルタンシア伝がエンディングを迎えると同時に、別のキャラへと主人公のバトンが渡されます。
――それは、視点を変えてこれまでの物語をなぞることになるのでしょうか? それとも別のキャラの新たな物語がスタートするのでしょうか?
田口:終章の後編で片鱗が描かれるのですが、何かを決意した別のキャラによる“新たな物語”とだけお伝えしておきます。単に視点を変えた物語であれば、これまでにも外伝や騎士伝で描いていますので。
でぃでぃえ:現段階でお教えできる情報として、ゲームサービスとしてはずっと続きますし、皆さんが手に入れて育ててきた騎士たちはこれからも使っていただけます。
――先日ユーザーからの質問に答える『オルサガぷち生放送』を行われていましたが、配信の意図などをお教えください。
でぃでぃえ:ユーザーさんから意見を募ってそれにお答えするようなことはたまに国営放送内でもやってきたのですが、ユーザーさんとの距離をもっと近づけていきましょうという理由で、配信させていただきました。
長い運営をしてきた中で、運営の意図とユーザーさんの「こうしてほしい」という思いがうまくマッチするような、もしマッチしていないように見えたとしても、運営としてはこういう意図があるんですよと説明する場所が必要であろうということで、ユーザーさんのご意見にお答えするという生放送を今後も定期的にやっていきます。
――国営放送とは別に、ぷち生放送が続いていくということでしょうか。
でぃでぃえ:別ですね。ぷち生放送は、バラエティ寄りの国営放送とは違う形で、ユーザーさんとの距離を少しでも縮めて、ご意見ご要望に少しでも応えられたらなと思っています。国営放送のほうも、第三部が完結しても続きますよ。
――では最後に、今後も『オルサガ』を楽しまれるユーザーに対してひと言メッセージをお願いします。
田口:もうすぐ第三部が完結しますが、『オルサガ』のユーザーさんだと3年半前の4月から遊んでくださっているユーザーさんって結構多いんですよね。第一部も第二部も、毎回12月5日に終わらせてきているのですが、第三部の完結までお付き合いいただけたことを本当にうれしく思います。
完結と聞いて終わってしまうのかと思われるかもしれませんが、『オルサガ』は今後も続いていくので、また1年後の12月に訪れるであろう、新たな区切りを迎えるまで楽しんでいただければいいなと思います。
でぃでぃえ:僕こういうの本当に苦手なんですよね。皆さんのようにちゃんとしたこと言えないんですよ……あ、すごい責める目を……。
田口:ちゃんとではなくて好きなことを言えばいいんですよ。なんだかんだ言って、でぃでぃえさんが心にためているものがひと区切りつくわけですよ。それを遊んでくれているユーザーの皆様が目の前にいると想像して、さあ!
(C)SEGA / f4samurai
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