レトロゲーム談義 千夜一夜 第3夜:日本ファルコム 中編『イースII』

池田英世
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 不惑(40歳にして迷いがなくなること)に至ってまだ悩んだり、知命(50歳にして天命を知ること)を過ぎてもなお明日が見えず、ふと枕を濡らす夜がある。そんな時は、気の合う仲間と昔(のゲームの)話に花を咲かせたっていいじゃない。


 本コーナーでは、いわゆるレトロゲームをちょっと変わった切り口で紹介しています。ベースにはもちろん、筆者の記憶と思いこみ、それと業界で身に付いた多少の知識や考察などがありますが、基本的にはゆるく曖昧なフィクションの形式を取っています。だって思い出話をする時って、記憶があやふやだからこそ楽しいってこと、ないですか?

2022年。シリーズ生誕35周年を記念して、出るかファン待望の最新情報!?

今夜はファルコム・ナイト!

村井:それじゃ、あらためてカンパーイ!

 バーテンから提供された色とりどりのグラスを手に、4人がそれぞれ乾杯のポーズをとった。

 東京都下、2021年12月31日午後7時15分。

 古いといってもアンティークを感じさせるほどではない。手狭といってもカウンターで隣同士肩が触れ合うほどでもない。だからこその丁度いい居心地の良さが常連の心を捉えて離さない。そんないかにも岸田が好みそうな裏通りのバーに、4人はいつもの中華屋から河岸を変えて落ち着いていた。

 運良くというべきか当然というべきか、岸田たちのほかに客の姿はなかったので、それぞれ壁に据え付けられたハンガーに上着と荷物をかけ、カウンター正面に並んで腰を下ろす。若いふたりを中心に、中年が脇を固めるフォーメーションだ。村井のノートPCは、すでに鞄から取り出されている。

●村井正道(むらいまさみち)と岸田 実(きしだ みのる)

 2人とも1971年、つまり昭和46年生まれのザ・団塊ジュニア世代。共に「生涯現役ゲーマー」を公言しており、それ故にこのささやかな会合は結成され、そして継続しているわけだが…。両者ともにその帰りを待つ者がない身であるということも、理由の一端ではあるのかもしれない。ただ村井に関しては、単純に何度目かの「離婚後状態」を繰り返している最中に過ぎないのだが。

 村井は4人全員がギリギリ画面をのぞき込める位置にPCを設置した。そしてやおら立ち上げたのはFalcomの『イースII』だ。どうやらバーまでの道すがら、次に語るゲームについて寒空の下、4人の間で会話があったようである。特に岸田と村井の中には、まだまだFalcomについて語り尽くせていないという想いがあったらしい。

※村井のPCには『ザナドゥ』、『ソーサリアン』、『イースII』の3本がFalcomのゲームとしてはインストールされています。そしてその中の『ソーサリアン』に関しては、前回の第2夜でテーマとして扱われました。ぜひご参照ください。

 とはいえ『イースII』にしても『ザナドゥ』にしても、やはり皆でワイワイやるタイプのゲームではない。かといって由芽の神がかったプレイスキルに感嘆し、盛り上がるようなタイプでもない。前回由芽が『ソーサリアン』を評する前に一言「これは家で、じっくりひとりで楽しむゲームです」と語った通りである。

 それより何より、ストーリーこそが重要なRPGというジャンルのゲームをプレイしようというのに、いきなり前半(人物紹介もあれば、伏線張りもある大事なパート)をすっ飛ばして始めようというのだ。謎解きや伏線回収など、クライマックスの感動を味わうどころか、その楽しさをすべて無にするかのような暴挙である。本来ならば。

●『イース』と『イースII』

 『イース』の正式名称が『イース Ancient Ys Vanished Omen』、そして『イースII』の正式名称が『イースII Ancient Ys Vanished The Final Chapter』であることからも想像できる通り、『イース』と『イースII』は数ある『イース』シリーズの中でも唯一「ひとつの物語が前編と後編に分けられ、別々に発売された」作品である。

 『イース』と『イースII』がよくセットになってリメイク・再版されるのも、そういった理由からだろう。実際、『III』以降はすべて各話完結で、毎回登場人物や冒険の舞台が異なる。

 しかしそれでも、ちょっとした片鱗でも、かつて自分たちが感じた興奮に触れてほしい。クリア直前のセーブデータもあるから、とりあえずそれを使って…などと考えながら村井がPCを操作しているとオープニングが立ち上がり…結論から言えば、すべては村井の杞憂だった。由芽も翔も、ものの1分とかからずに画面の虜になっていたからだ。

●舘原由芽(たてはらゆめ)と岸田 翔(きしだしょう)

 翔は1994年生まれの27歳。由芽は96年生まれの25歳で、二人は結婚を間近に控えたカップルだ。

 翔にとって岸田実は父にあたり、由芽にとっての岸田は職場の上司にあたる。そして由芽から見た翔は落ち着いていて思慮深く、読書家で優しいという父性のようなペルソナが心地よい婚約者であり、翔から見た由芽は逆に、時折見せるギャップがたまらなく刺激的でチャーミングな女性だ。

ゲームミュージック史に燦然と輝く至高の1曲!

 より正確に言うなら、2人の眼、というより耳か、そして心を奪ったのは、画面というより音楽だった。

 『イースII』のオープニングテーマはそれだけ完成度が高い至高の1曲であり、年齢、性別、時代に国籍、人種、血液型、星座にもしかしたら宇宙空間や次元まであらゆる垣根を超越して、聴く者をまとめて魅了するだけのリズムとメロディを持っていた。


翔:これ…凄いですね。

由芽:うん、これはトリハダだよ…。

翔:コンポーザー、誰ですか? 

岸田:曲名は「TO MAKE THE END OF BATTLE」。ゲーム史に残る名曲中の名曲で、作曲したのは古代祐三。俺もゲームのサウンドトラックは山ほど買ってきたけど、実際この曲ほどヘビィに聞いた曲はないよ。なんというか聴くタイミングを選ばない。

翔:そういえば『Final Fantasy Tactics』とか『Bayonetta』とか『NieR:Automata』とかのCD家にあったね。

由芽:『餓狼伝説Sepcial』とか『龍虎の拳』のCDも見たことありますよ!

村井:「TO MAKE THE END OF BATTLE」はアレンジ版もたくさん出てるから、今度色々聴き比べてみるといいよ。もちろん個人的にはオリジナル版がベストではあるけど、まだ先入観のない君たちなら違う感想もあるだろうし。

由芽:あ、始まりました。なんか空の島? みたいなところからのスタートなんですね。

岸田:そうだな、ここまでのストーリーをかいつまんで話すと…。

 岸田がグラスを手の中でくるくると回すと、その中でウィスキーと氷が軽やかな音を立て踊った。

岸田:冒険家を目指す主人公、赤毛のアドル=クリスティンが最初の冒険の舞台として選んだ“とある”島があるんだが、その島には魔物があふれていて、かつ山の上に巨大なクレーターがあるんだ。そしてそのクレーターがあった場所は数百年前、かつて栄えた王国『イース』の中心部があった跡で…。

翔:なるほど。さっき空に浮かんでた島が、もともとそのクレーターにあった王国中心部で、かつ『イースII』の舞台だと。

岸田:そういうことだ。前作『イース』では地上、つまり残った島の方だな。そちらの問題を解決するわけだが、解決したと思ったらまぶしい光に包まれて…。

翔:今度は空中の方の島へ飛ばされた、と。

 岸田が頷いて答える。

由芽:どうして空に浮かんでるんです?

 既に半集中モードに入っているのか、この質問は顔が画面に向けられたまま発せられた。画面の中のアドルは、既に最初の村ランスを出て、周辺の魔物と交戦中だ。

村井:あ、半キャラずらし。

由芽:有効みたいですね。

 村井が「さすが」と首をすくめる。言うまでもない、か。

●半キャラずらし

 アクション・ロールプレイングとはいっても飛び道具がなく(後に魔法を習得するが)、剣を抜いたり盾を構えたりする動作も持たない『イース』は、基本的に敵キャラに直接衝突することで攻撃を行なう。その際、自身の半分だけを敵にぶつけるように操作することで被ダメージを軽減させる戦い方、それが半キャラずらしだ。由芽でさえ認知していた言葉なので、おそらくそれほど珍しい言葉でもないだろうが、一応。

 Falcomの公式グッズとして、COSPAではこのようなTシャツも販売されている。「時には正面から当たらない方が良い問題もある」まさしく金言だ。

岸田:実はその辺の事情は『イース』や『イースII』の中だと詳しくは語られない。なにせ浮いたのは本編から数百年前の話だからな。でもまあ単純に、地上にあふれた魔物から逃れるためだったはずだ。

翔:オープニング以外のBGMも全部特徴的でいい感じだね。冒険心をくすぐるというか。

村井:後に稀代の冒険家と謳われるアドル=クリティン、その最初の冒険譚だからね。そりゃ盛り上げてくれなきゃ。

『イースII』もプレイできる! プロジェクトEGGとは?

 懐かしのゲームをWindowsでプレイ! PC-9801、PC-8801、X68000、MSXなどで発売されたゲームソフトが、会員制で有料配信中。

『イースII』:Project EGG内のページ。PC-9801版。

著者プロフィール

池田英世

 シバルリージャパン代表。1990年代初頭から文筆業を開始し、その後雑誌の編集、ゲームやアニメの脚本、楽曲の作詞やゲームの開発、プロデュースなどを経験しながら前職では某外資系オンラインゲーム会社にHead of Marketingとして勤務。現在は主に海外のゲーム会社向けにマーケティングコンサル、PR、ASO、QA等のサービスを提供している。

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