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『FFXIV』千年戦争の終わりに――教皇トールダン7世の願いとエゴが生んだもの【The Villains of FFXIV】

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永遠の神となった私が
闇の者もろとも光の使徒をも斬り伏せてくれる
そしてすべての人に祝福をあたえ
清らかなる聖徒に造り替え恒久の平和を授けよう
【イシュガルド教皇 トールダン7世】

 オンラインRPG『ファイナルファンタジーXIV(以下、『FFXIV』)』でこれまで冒険者の前に立ちはだかってきた敵対者たちを追想する企画【The Villains of FFXIV】。その第3回目は、1000年続く竜詩戦争を蛮神の力で終わらせようとした教皇トールダン7世と、蒼天騎士団および “ナイツ・オブ・ラウンド”に迫る内容でお届けします。

※本企画の解説・考察は、ゲーム内の情報や世界設定本“Encyclopaedia Eorzea ~The World of FINAL FANTASY XIV”などを参考に筆者が独自に展開したものです。また、本記事には記事テーマに関するネタバレが含まれます。

【第3回:教皇トールダン7世 目次】

◆教皇トールダン7世 概略

・“教皇トールダン7世”が生まれるまで
・教皇就任前後のエオルゼア情勢

◆冒険者と山都イシュガルドのかかわり

◆トールダン7世と竜詩戦争の真実

◆教皇トールダン7世のエゴ――竜詩戦争終結のための謀略

・蛮神ナイツ・オブ・ラウンド――トールダン7世の願い
・トールダン7世が見た“光の戦士”像
・国家の父として、人の父として

教皇トールダン7世 概略

 第七霊災ののち深刻な寒冷化に見舞われたクルザス地方を領し、戦争と氷河を司る神ハルオーネを崇める宗教都市国家“山都イシュガルド”。トールダン7世は、その国教たるイシュガルド正教会の最高位司祭“教皇”の位に座す人物です。

 そして教皇とは、王権を有する者……つまり数多の貴族の頂点に立ち、対外交渉、内政、軍事にいたるまですべてを統括するれっきとした国家元首。トールダン7世は若くから政に参画し、熾烈な競争に勝ち残る形でその権威を獲得したのです。

 そもそもイシュガルドの教皇は世襲制でなく、四大名家や高位の聖職者などの投票によって選出されるもの。ゆえに教皇とは、傀儡でもない限り、多大な実績を残し知恵と思慮深さを見せつけ人望を獲得し、さらに根回しを怠らない慎重さをも備えていなければ、到底手に入り得ない地位と言えるでしょう。狭く閉ざされた社会において猜疑心が強く利に敏い“貴族”の多くから信を得るというのは容易いことではないわけで、トールダン7世はおそらくその立身出世の道のりにおいて、“綺麗ごとでない”行いも含めたじつに多くのことを経験してきたのだと考えられます。

 資料によれば、トールダン7世は四大名家の一角であるデュランデル家(アドネール占星台などを管理)の遠縁にあたる下級貴族の五男として生を受け、のちに聖アンダリム神学院へ入学。その後、同院を次席という好成績で卒業し教皇庁入りを果たし、長年の権力闘争に打ち勝って教皇の地位に登り詰めたとのこと。

 若かりし頃のトールダン7世の人物像や、彼がどのように身を立てていったかについてこと細かに迫る詳細な資料は現在のところありませんが……いくつかの記述と彼自身の行動から、わずかながらの推察は可能かもしれません。以降では、まずそのあたりに迫っていきましょう。

“教皇トールダン7世”が生まれるまで

 聖アンダリム神学院は、人々に奉仕する聖職者を育成するためにイシュガルド正教が設立し、今現在も運営している学び舎です。五男という立場ゆえに家督相続を望むべくもなかった幼きトールダン7世は両親に勧められてこの神学院に入ったという話ですが……騎士などへの道でなく宗教家や為政者へと至る神学院へ入学を決めた理由については、諸説考えられるところ。

 すなわち、トールダン7世自身が聖職者となることに積極的だったのか、あるいは騎士や兵士として戦いたかったのだけれど親に従う形で入学したのか、兄弟たちの誰よりも信仰に篤かったのか、国を背負って立つ官僚となり家格を上げることを期待されたのか、人を導く資質のようなものを両親に見込まれたのか、野心と才覚があったゆえに長じて家中の相続に混乱を生むことを懸念され遠ざけられたのか……。などなど、論拠のない想像だけならばいくらでもできるでしょう。ただ、トールダン7世は幼少期から剣術の訓練を受けており、自身の特技として挙げるほどの腕前だった様子。それを鑑みるならば、“運動面に難があったから学問の道へ進んだ”という線は薄いと考えていいかもしれません。

  • ▲フォルタン家の次男エマネランによれば、イシュガルド貴族界には“次男以降の男子は何かしらの大きな手柄を立てねば独立できない”という暗黙のルールがあるのだとか。

 いずれにせよ、彼は神学院へと進むことになりました。それが彼の本意だったか否かは不明なれど、騎士として民の矢面に立つ未来を選ばなかった彼だからこそ、もしかしたら心の奥底には“国や民の危機を救う英雄騎士物語”への強い憧憬の念が燻ぶっていた……と邪推することもできるでしょうか。

 その後、神学院を次席で卒業したトールダン7世はイシュガルドの教皇庁へ入庁。“教皇庁”とは国家元首たる教皇のもとで辣腕を振るう官僚組織であり、国軍と治安維持部隊を兼ねる神殿騎士団や、内外の捜査機関である異端審問局、政治を担う各省庁が連なる役所群のこと。トールダン7世は国を担う逸材が集まるこの場所で頭角を現し、42歳で主教にまで登り詰めました。なお、主教となったその年、彼は愛人との間に一子を授かっていますが……これは生涯独身を貫かなければならない聖職者の身にあるまじきこととして、本来ならばスキャンダルの種となり得るものでした。

 このできごとがどのような物語のうえに起きたのか、そしてトールダン7世の心境にどのような影響を与えたかは定かでありません。しかしながら史実として、トールダン7世は身ごもった愛人とその腹中の子を害したりせず無事出産させ、子が生まれたのちはその子を跡取不在だった貴族(ボーレル子爵家)へ養子に出したうえ、己の子であることを覆い隠して、生きるに足る環境を整えています。

 それからもトールダン7世は息子の存在を秘匿しつつ……あるいはその事実を政敵に勘づかれ巷で囁かれたとしても意に介さぬほどの圧倒的な影響力を身につけつつ政に従事し、約14年後の1560年、先代教皇の崩御を機に、ついに教皇の座についたのでした。

 ちなみに、すでに多くの方がご承知のとおり、トールダン7世の“トールダン”とは、山都イシュガルドにおいて建国の祖と伝えられる英雄の名。教皇となった者は過去の偉人の名を継承して政務にあたるならわしがあるようで、つまるところトールダン7世は、“トールダン”を名乗った6番目の教皇だということになります(初代トールダンは教皇ではないため。また、就任にあたりどんな名を継ぐかは家系などを鑑みたルールがあると思われるものの、現状は不明)。

 そして上記の慣習は、“トールダン7世には、生まれたときにつけられた彼本来の名がある”という当然の事実を示唆しています。……しかしながら、彼は『蒼天のイシュガルド』本編においてもほかの様々な資料においても一貫して“トールダン7世”と呼ばれており、それ以外の名が登場したことはありません。つまりは『蒼天のイシュガルド』という物語において、徹底して"イシュガルドという国のトップ"として描かれていたというわけです。

 神に仕え、政に従事する公の人。愛人との間にできた子を我が身から遠ざけたのちは、さらに滅私の想いで国のため邁進してきた“王”。そのような見方をするのであれば、トールダン7世という人格について、あるいはこのように言うこともできるのではないでしょうか。

 教皇トールダン7世とは、個人としての欲を捨て、”ただひたすらイシュガルドの存続を願う公人たるべく自らを規定し続けた人物だった”――と。

教皇就任前後のエオルゼア情勢

 “教皇トールダン7世”が誕生した1560年という年をあらためて考えてみるならば……それは激動の渦中であり、イシュガルドのみならずエオルゼア全土に、戦の激化に向けて転がり落ちていくような不安や焦燥感が満ちつつある年だったように思います。

 3年前(1557年)にはガレマール帝国がアラミゴを侵略し属州としたほか、イシュガルドの宿敵たる邪竜ニーズヘッグが長き眠りから目覚めて山村ファーンデール(エスティニアンの故郷)を焼き払うなど、大事件が頻発。

 教皇就任の翌年(1561年)には、ウルダハ、リムサ・ロミンサ、グリダニアとの間にエオルゼア軍事同盟が締結されるも、さらに翌年(1562年)にはガレマール帝国の飛空艇艦隊がモードゥナの銀泪湖上空に進軍。幻龍ミドガルズオルムが多数のドラゴン族を招集してこれを撃滅したほか、低地ドラヴァニアに植民都市を築いていたシャーレアンの民が北洋本国への大撤収を敢行したり(大撤収の計画自体は1557年から進行)、なにより邪竜の眷属が活発化していたりと、イシュガルドの民にとってみれば不安を抱く要素ばかりでした。

 こんな情勢でエオルゼアに危機が迫ったとしても、南へ援軍を派兵するなどとうてい不可能……自国を堅守すべく彼らが1563年にエオルゼア都市軍事同盟から離脱したのも、無理からぬ話でしょう(対外的には「帝国からの侵攻が止み、当面の脅威は去ったため」と主張)。以後、イシュガルドは長らく国としての門を頑なに閉ざして、独自にドラゴン族との戦を続けてきたわけです。

 しかしながらその戦いは、お世辞にも人間側の優勢とは言えないものでした。度重なる激戦の末に兵員はその数を減らし、国内にはドラゴン族を信奉する異端者が跋扈し、貴族と平民の間ではさまざまな軋轢が顕在化し、体制に不満を持つ抵抗組織も活動するなどなど、ドラゴン族という外敵だけでなく国内にも多様な問題を抱える状況。

 トールダン7世はいつの頃からか混沌の使者たるアシエンと接触を持ち、この窮状を打破する幾重もの策をめぐらせていくことになります。

冒険者と山都イシュガルドのかかわり

 竜詩戦争末期におけるトールダン7世の思惑について迫る前に、冒険者がいかにしてイシュガルドでの戦いにかかわることとなったか、あらためてざっくりと振り返ってみましょう。おさらい的な項目となりますので、経緯についてすでにじゅうぶん把握しているという方は、本項の末尾まで飛ばしてしまっても問題ないかと思います。

⇒トールダン7世と竜詩戦争の真実

 第七霊災後に冒険者が初めてクルザス地方の人々とかかわったのは、第七霊災以前にシドが乗っていた飛空艇・エンタープライズ号の行方を追っているときでした。いわれのない異端嫌疑をかけられたフランセル・ド・アインハルトをフォルタン家の庶子オルシュファンとともに救い出すなど幾多の事件を解決に導き、クルザス中央高地の人々からある程度の信頼を得た冒険者。その後時をへてガレマール帝国第XIV軍団の主力をエオルゼアから撃退したのちには、長らく鎖国状態であったイシュガルドから暁の血盟に対して特使が来訪し、山都の意志を直接うかがい知る機会が生じたのです。

 瓦解しかけた暁の血盟を支えた立役者であるアルフィノは、第七霊災後、イシュガルドに対しエオルゼア都市軍事同盟へ再加入するよう説得を続けていたのだそうです。この会談の打診があったのはアルフィノと冒険者が各地の義勇兵をスカウトして“クリスタルブレイブ”を立ち上げたばかりの時期だっただけに、彼はエオルゼア各国の融和を成立させるための大きな一歩となるはずだと期待していたようですが……さすがに話はそう上手く進みませんでした。

  • ▲アルフィノの構想により、都市国家の枠を超えた“エオルゼア全体のグランドカンパニー”の先行統一組織・クリスタルブレイブが設立されたのもこの時期。さまざまな出自の者を集めたがゆえに、腹中に不穏な目的を秘めた者も多数入り込んでいました。

 会談の場において、イシュガルドの特使――神殿騎士団総長アイメリク・ド・ボーレルは、イシュガルドがドラゴン族との戦で手一杯であり、エオルゼア都市軍事同盟への再加入や対蛮神戦での戦力供給には応じられないと明言。しかし彼自身の心情としてはアルフィノや冒険者の目指すところを理解できるとし、暁やレヴナンツトール開拓団への継続的な協力を約束しました。と同時に、イシュガルド内に広がる“銀泪湖で朽ちている幻龍ミドガルズオルムが、じつは生きているのではないか”という噂について語り、モードゥナに集う冒険者たちに、その骸の様子を監視してほしいと依頼します。

 さらにこののち、ドラゴン族に与する異端者たちの頭目“氷の巫女”イゼルにまつわるクリスタル強奪騒動で神殿騎士団とクリスタルブレイブが共闘し、冒険者はイゼルが自身に呼び降ろした蛮神シヴァと対峙しました。こうしたいくつかの事件をへて、冒険者たち暁の面々とイシュガルド神殿騎士団との縁が深まったわけですが……実際にイシュガルドへの門が開かれたのは、そこからしばらくあとのこと。

 きっかけとなったのは、クルザスのアドネール占星台が“竜星”の異常発光を認めたことでした。この竜星はドラゴン族の上位存在が一族に対して大号令をかける精神波“竜の咆哮”に反応して発光するらしく、前回の異常発光が観測されたのは15年前、銀泪湖上空戦にて幻龍ミドガルズオルムが一族を呼び集めたときだったそうです。こうした報告を受けて、暁の血盟は“帝国戦艦アグリウスとミドガルズオルムが相討った残骸”こと黙約の塔の調査を敢行。斯くして冒険者は、塔の最上層でドラゴン族の始祖たる幻龍と邂逅を果たすのでした。

 ミドガルズオルムが語るところによれば、竜星の発光は自分ではなく、己の子である竜王“七大天竜”のうちいずれかが発した咆哮に反応したものだとのこと。考えるまでもなく思い当たるのは、かの邪竜ニーズヘッグ。ドラゴン族による皇都イシュガルドへの大規模侵攻が、ついに始まろうとしていたのです。

  • ▲“ハイデリンを守護する”という契約を交わしていたミドガルズオルムは、超える力に加えてさらに光の加護をも与えられた冒険者を見、“ハイデリンが助けを求めている”と察知。本当に力を貸すべき存在か否かを見極めるため、竜の爪によって冒険者の光の加護を封印し、彼/彼女が“人として”どのような道を選ぶのか見守ることを決めます。
  • ▲賢人ムーンブリダによって、“白聖石にアシエンの魂を封じ込め、エーテルの刃で対消滅させる”方式が確立されたのもこの時期。冒険者の光の加護が消えていることに気づいて石の家を急襲したアシエン・ナプリアレスも、この方法で消滅させることに成功しましたが……。

 そこからさほど時を置かず、ついにドラゴン族が皇都イシュガルドへの侵攻を開始。冒険者の報告を受けて防備を固めていたイシュガルド側は緒戦こそ大きな被害を出さず切り抜けられたものの、本格的な攻勢に抗うには大きな不安が残る形となりました。

 こうした窮地を鑑みて、皇都防衛の指揮官である神殿騎士団総長アイメリクは、暁の血盟の仲介のうえでウルダハ、リムサ・ロミンサ、グリダニアに援軍を求めます。しかし5年前の“カルテノーの戦い”の折、イシュガルドは友邦の求めにすら耳を貸さず参戦を拒んでいたため、各国の心象は不芳。国内の蛮族や不穏勢力に対応する必要もあり、結局、3国は正規軍の派兵を拒否し、グランドカンパニーに属する冒険者の自発参加を呼び掛ける程度の対応にとどめたのでした。

 戦力的な不安が残るなか、各国グランドカンパニーの冒険者部隊やクリスタルブレイブは義勇兵として皇都防衛に参戦。自発的に集った彼らは士気も高く、強大なドラゴン族相手に善戦します。しかし、皇都に潜んでいた氷の巫女イゼル率いる異端者たちが、ドラゴン族の攻勢に呼応する形で都市防衛の要である巨大魔法障壁“ダナフェンの首飾り”最外装を破壊。邪竜ニーズヘッグの眷属である巨竜ヴィシャップほか多数のドラゴン族がイシュガルド都市部へとつながる“雲廊”へ殺到する危機的な事態に。イシュガルド兵だけでなく下層区域の民や建造物にも被害が生じる惨事となりますが……冒険者は対竜バリスタを駆使して奮戦し、辛くもドラゴン族を撃退することに成功します。

 こうして皇都の防衛はひとまず成ったわけですが、エオルゼア全体が揺るぎかねない大事件は、これだけにとどまりませんでした。

 イシュガルド側がドラゴン族の侵攻を阻止した報せを受け、エオルゼアの3国はろくに派兵すらしなかったにもかかわらず“各グランドカンパニーとイシュガルドの共同作戦”に成功したと大々的に発表します。その後まもなくウルダハ王政庁にてイシュガルド戦勝祝賀会が催されましたが……会場内別室にて、あろうことかウルダハ女王ナナモ・ウル・ナモの暗殺(のちにナナモの生存が判明)事件が発生し、同室にいた冒険者は覚えなき“実行犯”として捕縛。アルフィノもまたクリスタルブレイブ隊員の計画的な造反に遭って身動きのとれない状態となり、さらにはクリスタルブレイブとウルダハの治安警備部隊“銅刃団”の武装兵が祝賀会場場内に押し詰めて、暁の血盟に逮捕勧告を発令する事態……。あまりのことに場内は騒然となりました。

 暗殺事件を裏で手引きしたのは、クーデターを画策していた大商人テレジ・アデレジと、さらに別の思惑で動いていたクリスタルブレイブ実戦部隊隊長イルベルドですが……当時は誰が何の思惑で動いているかも判然としない混沌たる状況。ナナモの死に動揺・激昂したラウバーンは黒幕と目したテレジ・アデレジを即座に切り捨てたものの、冷静さを欠いたまま相対したイルベルドに右腕を落とされ、膝をつきます。冒険者はなおも戦闘を続けるラウバーンの機転で拘束を解かれ、ミンフィリアたち暁の面々とともに逃走しますが、途中で散り散りになり……多くの人々の助けを受け、ほとぼりが冷めるまでクルザス中央高地のオルシュファン卿のもとで息をひそめることになりました。

 その後、冒険者たちはオルシュファン卿の力添えによってイシュガルド四大名家の一角であるフォルタン家から招待を受け、正式に皇都イシュガルドの門をくぐることに。

 冒険者はこのような経緯で北国イシュガルドに足を踏み入れ、ほどなくして、かくまってくれたフォルタン家の恩に報いる形で、イシュガルドとドラゴン族の千年戦争に深くかかわっていくことになります。旅の道連れは、“クリスタルブレイブ”という自身の青い理想を利用されていたことで失意に暮れるアルフィノと、暁の面々を心配する受付嬢のタタル。そして冒険者を見守る、ドラゴン族の祖・ミドガルズオルムの小さき幻体……。

 思うにこれまでの旅は、“超える力”と“光の加護”という過剰なる力を授かった1人の冒険者が英雄に祭り上げられ、エオルゼアの抱える諸問題に相対した物語でした。

 しかしながらこのときの冒険者は光の加護を失い、帰る場所や後楯を失った“英雄とは名ばかりの個人”として、身ひとつでイシュガルドに赴きます。そこで彼/彼女が目にしたのは、千年続く竜詩戦争の表と裏。『蒼天のイシュガルド』とはすなわち、かつて英雄と呼ばれた“ただの1人の冒険者”が、自らの行いによってもう一度光の加護を取り戻す物語。……そして同時に、それは旅の中で真実を知り、友の戦う理由を知り、何のために、何と戦うのかを1人の人間として見定める物語でもあったように思います。

トールダン7世と竜詩戦争の真実

 トールダン7世が竜詩戦争の“真実”を知ったのは、いつの頃だったのでしょう? むろんいくら考えたところで仮説を裏づける資料は存在しませんが、イシュガルド正教会が密かに真実を伝承し続けてきたと考えるのならば、彼は教皇となったときか、あるいは教皇になる直前に、前教皇やその側近などから真実を伝え聞いていた可能性が高いと思われます。

 いずれにせよ、何らかの機会にトールダン7世は建国神話の裏に隠匿された真実を知りました。そしてその結果、己が名を継いだ“トールダン”や四大名家が裏切りの罪人だったと知り、貴族と平民に血脈的な差はないと知り、信じてきた正教の根本が偽りだったと知ることになったのでしょう。由緒正しき貴族の血統、信じてきた歴史、守ってきた信仰すべてが虚構だと知る衝撃。彼のイシュガルド正教への信仰心は、そのときに息絶えたのでしょうか……。

 さて、多くの方はすでにご承知のとおり、竜詩戦争の発端と、その戦争の大義を語るイシュガルドの建国神話は、ヒト側の記録とドラゴン族の記憶とで大きな相違がありました。以下で簡単にまとめてみましょう。

◇イシュガルドの建国神話◇

 約1000年前、エレゼン族の王トールダンの夢に戦神ハルオーネが現れ、アバラシア山中に繁栄が約束された地があると告げた。
 トールダンは啓示を信じ、一族を引き連れ“神意の地”へ移住。深い谷間で邪竜ニーズヘッグに襲われるもトールダン王と12人の騎士が邪竜の片目をくりぬいて撃退し、その地にイシュガルドという国を築いた。

 このときの戦いでトールダン王と7人の騎士が亡くなったが、トールダンの息子ハルドラスと残り4人の騎士たちが四大名家の“貴族”となって、聖職者や民たちを支え導くこととなった。ハルドラスは邪竜の眼の力を引き出す“蒼の竜騎士”となって、その生涯を竜との戦いに捧げたという。

・イシュガルド建国は1000年前

・ニーズヘッグやドラゴン族は“人にとって理不尽な災厄”であり、父祖の時代からの不倶戴天の敵

◇ドラゴン族の記憶◇

 約1200年前、ヒューラン族のエオルゼアへの民族大移動に圧迫される形でエレゼン族がクルザス地方に流入し、のちのイシュガルドにつながる街を建設。ドラヴァニアを根拠地とするドラゴン族としばしば対立しながらも数十年ほど暮らしていたが、シヴァという女性とドラゴン族の王たる七大天竜の一翼・フレースヴェルグが種族を超えて愛情を交わしたことで、転機が訪れる。

 ドラゴン族の寿命は、人のそれとは比べ物にならないほど長い。いくら愛し合っても、やがて逃れられない死によって分かたれることになる。シヴァはそれを悲しみ、2人の魂(エーテル)が未来永劫寄り添えるよう、己を喰らってほしいと聖竜に懇願。フレースヴェルグはそれを受け容れた。

 この悲劇ののち、やがて人と竜は融和の道を歩むことになる。彼らは協力して高地ドラヴァニアやドラヴァニア雲海に壮麗な都を築き上げ、生活のなかで人と竜がともに寄り添う蜜月の時代が200年ほど続いた。

 1000年前、ときのイシュガルド王トールダンと12人の騎士が七大天竜の“詩竜ラタトスク”をだまし討ちし惨殺。ドラゴン族の力の源たる眼を喰らって異常な力を手に入れる。妹をむごたらしく殺されたニーズヘッグは怒り狂ってトールダンたちを襲うが、七日七晩の戦いの末に敗れ、両眼をくりぬかれ撤退(フレースヴェルグの片眼を譲り受ける形で生存)。

ヒト側もトールダン王と騎士の約半数が死に、何名かは王への忠誠を捨て野に下る。生き残ったうち、トールダン王の息子ハルドラスは王位継承を拒んで蒼の竜騎士として戦いつづける道を選び、残った4人の騎士たちは、国の聖職者を抱き込む形でこの歴史を改竄。イシュガルドは正教と四大名家によって導かれることになった。

 その後、ニーズヘッグは活動期と休眠期を繰り返しながら今にいたるまでイシュガルドを戦火のただ中に追い込み続けている。

・イシュガルド建国は1200年前

・ドラゴン族との融和の時代が200年ほどあった

・トールダン王と12人の騎士たちが竜を裏切り、それが戦の原因となった

・1000年前にくりぬかれたニーズヘッグの両眼はイシュガルドにある(片方は“蒼の竜騎士”の力の源として周知。もう片方はハルドラスの身体と融合した“朽ちぬ死体”として秘蔵)

・十二騎士は、四大名家の祖となった4人以外にも生き残りがおり、のちに平民となって子孫を残した(四大名家という枠組みや“祖先が建国十二騎士だから貴族”という根本が欺瞞だということになる)

・ニーズヘッグはその復讐心を満たすため、生ある限りイシュガルドの民を苦しめ続けている


 以上が、『蒼天のイシュガルド』付近で語られた“真実”の一端です。しかしながら『漆黒のヴィランズ』後の竜騎士ジョブクエストにおいて、“1000年前、人の王たるトールダンがなぜドラゴン族を裏切ったか”を示すさらなる秘話が、かつて邪竜の咆哮に抗った眷属・ファウネムの口から語られました。その詳細は邪竜ニーズヘッグについて追想する次回の【The Villains of FFXIV】で主に語ることといたしますが……ファウネムが紡いだ物語の概要は、おおよそ以下のようなものでした。

◇ファウネムの記憶◇

 邪竜ニーズヘッグは、ミドガルズオルムの代わりに星の守護者たるべくただひたすらに強く在ろうとした竜であり、それゆえに弱く短命な“ヒト”を軽んじ、「星の守護者にふさわしくない」という見解を持っていた。

 邪竜は、それを唯一の話相手だった詩竜ラタトスクに語った。一方でラタトスクは、人か竜かを問わず語らうことを好んだ竜。嘘のつき方を知らぬ詩竜は、人の王トールダンに邪竜の心根を問われた際、ニーズヘッグの言葉をそのまま彼らに伝えてしまう。

 ゆえにトールダンらは“竜はヒトを蔑ろにして、星の支配者たらんとしている”と誤解。竜という種族そのものへの不信を抱いた結果、彼らに匹敵する力を欲して詩竜を襲い、眼を喰らった。

 これが、1000年前の裏切りの真相。トールダンらが竜とヒトの信頼を壊す蛮行に至った最初のきっかけは“誰も決定的な悪意を持たない、誤解の連鎖”だったのです。

 無論、トールダン7世はヒト側の視点で記された真実を知ったはず。……ということは、彼が認識したのは我々冒険者が当初聞いた(フレースヴェルグが語った)歴史ではなく、“ニーズヘッグら竜がヒトを排そうとし、初代トールダンたちはそれに抗うために力を欲した”という解釈に基づいたものだった可能性が高いのかもしれません。どちらにせよ、ヒト側が最初の裏切りを為したことに違いはありませんが……それでも、そこに少しでも正当性を見出せるかどうかは、歴代の教皇たちの行動に多少なりと影響を与えていたとも考えられるでしょう。

 さて、トールダン7世が教皇となった17年前、はたして彼に“竜と対話し停戦を試みる”という選択肢はあったのでしょうか? 答えは言うまでもなく、否。

 そもそも、彼が教皇となる3年前にはニーズヘッグという狂気が目覚め、山村ファーンデールが消滅しています。すでに民に多大な被害が出ている状況……そしてなによりも、人の語る言葉などすべて怨嗟の炎の糧とする邪竜ニーズヘッグという相手を鑑みれば、今さら対話など望むべくもない。トールダン7世には、初めから戦う道しか残されていなかったことは明白かと思います。

 そしてそのうえで、トールダン7世は歴代の教皇と同じく国民に真実を開示しないことを選びました。彼が真実を前にどの程度思い悩んだかは定かでないものの、これまで長年に渡り政務を担ってきたトールダン7世は、“戦の発端はヒトの裏切りにあった”“貴族と平民という区分けに意味はない”といった一連の真実が国にとってどれほど致命的な毒となるかを、十分すぎるほど理解できてしまったのでしょう。すべてをさらけ出し、国そのものを変えるなどという苦難を歩む、愚かとも言い変えられる誠実さ――そのようなものは、為政者として長く生きたトールダン7世には持ちようがなかったはずです。
 

 ……しかしながら、戦い続けるしかないとはいっても状況は芳しくなく、対ドラゴン族のエキスパートである竜騎士も次々に戦死しており、自国内には貴族統治への不満も強く出ているなど政も安定しない状況。教皇就任後、この国が出口の見えない生殺しの状態なのだと誰よりも強く感じていたのは、あるいはトールダン7世自身だったのかもしれません。

 彼がアシエンと接触したのは、おそらくそのような折のこと。

アシエン……奴らは、混沌の種をまいて回る存在よ。
ドラゴン族との戦争を続ける我らに、
力をあたえると言ってきおった。

 アシエンがトールダン7世に伝えたのは、言わずもがな“神降ろし”という概念です。トールダン7世の立場で見れば、強大な力でドラゴン族との戦を終わらせられるうえに自国民の不満もテンパード化で塗りつぶすことができる画期的な方法……出口のない現況をまとめて打破するに足る唯一の方法と言ってよかったのではないでしょうか。彼が蛮神召喚という禁忌に対してどれほどの逡巡をしたかは不明ですが、もしトールダン7世がイシュガルドという"国”の延命を最優先に思考する人物だったのなら、彼はその手段を選ぶにあたってさほど悩むことはなかったのではないかと思います。

教皇トールダン7世のエゴ――竜詩戦争終結のための策謀

アシエン、ドラゴン、蛮神……
争いを生み出すすべてを、我が聖剣によって断ち斬り、
調和の世をもたらさん……。

 教皇庁に隠されていたもう1つの“邪竜の眼”に秘められた膨大なエーテルを用いて蛮神を呼び降ろし、邪竜と眷属を屠り、すべての人をテンパードと化して恒久の平和をもたらす。それが、教皇トールダン7世が目論んだ“竜詩戦争の幕引き”の筋書きです。

 アシエンたちはトールダン7世に"アラグ帝国の魔大陸アジス・ラーがアバラシア雲海に漂っていること”と、そこに数千年前から封印されている“三闘神”の存在をほのめかし、トールダン7世はそれらの闘神(のエーテル)を吸収することでさらに強大な“永遠の神”となろうと画策。アジス・ラーの中心部、魔科学研究所の深部にて冒険者と対峙することになりました。

 彼の計画を実現する鍵となったのは、己の手足となって動く強力な配下と、空へ至るための飛空艇技術。教皇にはもとより独自の指揮系統をもつ12名の精鋭“蒼天騎士団”が親衛隊として付き従う倣いでしたが、トールダン7世は彼らをテンパード化することで絶対の忠誠と戦力を獲得したのです。

 なお、トールダン7世の即位後、蒼天騎士団には品格や家柄などお構いなしに武力のみを重視した人員が採用されていたようですが……その理由は“テンパード化してしまえば人格など関係なしに従わせられるから”という乱暴なものでした。しかし言うまでもなく蒼天騎士団の面々にも個人としての過去や思想があり、教皇の計画を知ってなお“それこそがイシュガルドを救う唯一の道”と賛同する者も、単に力の限り暴れられればそれでいいという者もいたでしょう。

 いずれにせよ教皇トールダン7世はテンパード化によって彼ら個人の自由意志を多かれ少なかれ塗りつぶし、イシュガルドの平和という大義のためにすべてを捧げることを強制したのです。

  • ▲1562年にガレマール帝国からシド・ナン・ガーロンドが亡命しガーロンド・アイアンワークスを設立して以来、エオルゼアの飛空艇技術が発展。イシュガルドも例外ではなく大小さまざまな飛空艇が製造され、ひと昔前に比べると行動域が大きく広がっていたようです。これがなければトールダン7世の計画も動かなかったわけで、飛空艇技術の積極導入が決まった時節には、彼はもうアシエンと接触済みであったのかもしれません。
  • ▲これまでイシュガルドを生殺しにしてきたニーズヘッグは、唐突に皇都への総攻撃で戦を終わらせようとしていましたが……その理由は、トールダンがニーズヘッグの眼を触媒に蛮神を降ろしたことを察し、星の守護者としてそれを滅しようとしたからだと思われます。

 なお、蒼天騎士団員個々人の人物像については公式世界設定本“Encyclopaedia Eorzea ~The World of FINAL FANTASY XIV”が最も詳しい記述を掲載しています。ほかにも、公式の蒼天秘話第五話には最後の“正しき”蒼天騎士ヴァンドロー・ド・ルーシュマンドについてのショートストーリーが掲載されているほか、過去に電撃オンラインに掲載したコチラの記事(の末尾)でも開発側に語っていただけていますので、興味のある方はぜひご覧ください。

蛮神ナイツ・オブ・ラウンド――トールダン7世の願い

 トールダン7世が自身に呼び降ろした蛮神とは、かつて邪竜と戦い命を落とした英雄・豪胆将トールダンを神格化した“騎神トールダン”でした。さらにはそれに連なる形で、蒼天騎士団員たちの"強さ”や"平和の実現"を求める祈りを建国十二騎士として具現。かつての英雄たる円卓の騎士たちの願いを束ねる形で力を強めたのが、"群体としての神"ナイツ・オブ・ラウンドだったのだと思います。

 教皇の願いは、すでに語ったとおり“蛮神の力で竜もアシエンもすべて屠り、全国民をテンパードとして永遠の平和を実現すること”。……たしかに、それが叶えば戦に苦しむ人々を救えるでしょう。しかしながら、そうして実現する平和とは、人が魂を抑制され、心をトールダンへの信仰心で塗り染められることを前提としたものです。誰もが自由意思なく国というシステムの維持にだけ務め、それに疑問や変化が生じることなくいつまでも時が流れていく世界……。はたして、そのような寒々としたものを“平和”と呼んでよいものでしょうか?

 我々冒険者は、竜詩戦争をめぐるこれまでの旅路において、イシュガルドという国に生きる人々を目にしてきました。彼らは戦のただ中という状況や貴族社会での生きにくさに苦しみ、決して満ち足りているとは言えないながらも……懸命に、律儀に、強かに、ときに野心を抱いて日々を送っていたように思います。

 そうした者たちが集まって、各々の意思のもと生活している場所が“国”であるなら、その本質とは、そこに生きる“人”にこそあると言えるでしょう。人々の自由意志がぶつかり合う混沌とした場所こそ“生きた国”。トールダン7世が作ろうとしていた“全国民がテンパード化したイシュガルド”とは、外面だけ体裁を保った“国の死骸”とでもいうべきものにほかならないのではないでしょうか。

 国を救わんとしてそのような願いを持ったということは、結局のところ教皇トールダン7世は、イシュガルドという国を為政者としての立場でしか見ていなかったのかもしれません。つまりは、顔のない“国”という総体を救おうとして、国民個々人がどう在れば救われるのかを意識しなかった。

 ほかに手段が見つからなかったとはいえ、言うまでもなく、そのような身勝手な救いは大衆のため国のためという皮をかぶったエゴです。そして、どのような大義名分があれど、何も知らない者たちを己のエゴのために利用するという教皇の行いは、イシュガルドに住まう1人1人と関わって“ただ盟友のために”戦ってきた冒険者にとっては、到底許されるものには映らなかったのだと思います。

トールダン7世が見た“光の戦士”像

 英雄ではなく個人として仲間と旅をし、竜詩戦争の悲劇をその身に感じ、歴史に隠された真実にふれてきた冒険者。彼/彼女は旅の果てに光の加護を取り戻し、蛮神ナイツ・オブ・ラウンドという歪んだ願いの産物と対峙することになりました。その戦いはつまるところ、偽りの神の力をもって国を救う英雄たらんとしたトールダン7世と、1人の人間として、出会った人々の想いを受けて歩んできたからこそ英雄と呼ばれるようになった冒険者の対比とも言えるかもしれません。そしてその戦いの結果は、皆さんのよく知るとおり。

馬鹿な――千年 千年だぞ――
永き祈りの声と竜の眼でさえ及ばぬというのか!
貴様はいったい何者なのだ――

 散り際にトールダン7世が吐いたこの言葉は、1000年の祈り(本当に1000年間の祈りが眼に蓄積されているのか、トールダン7世の妄念ではないのかという疑問はありつつ)を力とした蛮神ナイツ・オブ・ラウンドですら届かない冒険者の強さについて言及しているもの。この言葉のせいか、当時は“光の加護を持つ冒険者とは、いったい何なのか”という問いが各所で見られたように記憶しています。その問いに対する明確な答えは今も出そろったとは言い難いため、あえて本記事では言及しませんが……代わりに、力以外の観点で“トールダンから見た光の戦士”について、いくらかの雑考を巡らせてみましょう。

 前述のとおり、トールダン7世は竜詩戦争を終わらせ人の側に平和をもたらすため、蛮神召喚という禁忌に手を染めました。しかし、アシエンから神降ろしの儀について聞くまでは、竜詩戦争を終わらせられる道筋が何も見えない、暗闇の中で苦痛に身を掻きもがき続けるような状態だったはず。

 そんな彼の立場を鑑みたただの想像ではありますが、もしかするとトールダン7世は自身のことを、どれだけ高い地位にいても、貴族であっても、竜詩戦争を終結に導くという大望を実現する力のない“持たざる者”だと感じる機会があったのではないでしょうか。ニーズヘッグによってもたらされる“どこへもたどり着けない絶望”から抜け出すための力……それを欲したからこそ、トールダンは蛮神召喚の手法を知って、単なる神降ろしでなく、自らが救国の英雄となる願望を強く持ったのかもしれません。

 その一方で、冒険者は超える力という異能と光の加護を持ち、常人とは比べ物にならない力を見せてきました。トールダンから見れば、己がいくら望んでも手に入ることのない、生粋の英雄たる力を持つ存在に見えたはず。そんな者がまるで神の気まぐれのように唐突にこの地に現れ、イシュガルドの民でもないのに、ただ友と、縁のある者のため千年戦争にかかわり始めた事態に、不気味さを感じていたとしても無理からぬこと。そのうえで、ほとんど勝手に敵地へ乗り込み、聖竜との対話を成して真実を知り、あろうことか邪竜を倒してしまった。教皇らにとってみればまさに「では自分たちはいったい何のために準備をしてきたのか……?」と問いたくもなる心境でしょうか。

 本来であれば、冒険者とエスティニアンによって邪竜が倒された時点で(多大な労苦を伴うとはいえ)教皇自らが民に真実を明らかにする道もなくはなかったはず。何せイシュガルドを脅かす敵の首魁が倒れ、懸念の大方が消えたに等しいのですから。

 トールダン7世がその道を選ばず国を出たのは、このままでは終われないという意地だったのか、国そのものが変わりゆく様を見ることを恐れたのか、地位を失い責められることから逃げたのか、蛮神を呼び出した者としてすでに後戻りができなかったからか……。いずれにせよ、トールダン7世は魔大陸で永遠の神となるべく行動し、その結果、光の戦士との戦いの末に敗北しました。長き計画のうえに絶対の自信をもって顕現させたナイツ・オブ・ラウンドが、光の戦士という予測不能な闖入者によって屠られる……そんな事態となれば、絶望のうちに“貴様はいったい何者なのだ”と問いたくもなるというものでしょう。

国家の父として、人の親として――

「トールダン7世には隠し子がいる。それはアイメリク・ド・ボーレルである――」その噂は、半ば公然の秘密として教皇庁内で囁かれていたといいます。そのせいで当のアイメリクは穢れた子と忌まれ、何を成し遂げても親の七光りと蔑まれてきましたが……彼は逆境に負けず誠実に実績を積み重ねて人望を得、相当な苦労をへて神殿騎士団総長という今の地位を得たわけです。

 ニーズヘッグが倒れ、冒険者から竜詩戦争の真実を聞いたアイメリクは、教皇本人に問いただすべく単身イシュガルド教皇庁へと乗り込みますが、蒼天騎士団により拘束されることに。ただ……このとき、教皇は彼を殺さず、テンパード化もせず、追って突入してきた副官のルキアやオルシュファンらに救出されるまま放置しています。折しも、トールダン7世が皇都を去って最後の決戦の地・魔大陸へ出発しようとしていたときのこと。

 あえて穿った見方で妄想を広げてみるのならば、邪竜が倒れ、千年戦争の発端と“貴族”の無意味が若者たちに周知となった時点で、トールダン7世はすでにこの国に“教皇トールダン7世”という存在は不要であると悟っていたのかもしれません。この先、国は大きく変わっていくことになる。そうした変化が進んでいく際に必要となるのはおそらく自分のような老人ではなく、変革に希望を抱く若きリーダーである、と。トールダン7世はそのような未来を息子であるアイメリクに見たからこそ、躊躇なく、最後に公人ではないただの己の願望を叶える道を進むことができたのではないでしょうか。

  • ▲アイメリクの持つ宝剣ネイリングは、自分のような子が生まれない社会を作るため変革を目指すアイメリクの身を案じた“父”が、せめて命を護れるようにとの祈りを込めて手渡したものだといいます。
アイメリク、愚かな息子よ。
千年……そう、千年もの間、受け入れてきた歴史と信仰を、民は易々と忘れられると思うのか?

 そういう見方をするのであれば、この言葉ののちに「それでも国を変えるというのならば、やってみせよ」というトールダン7世の声を夢想することもできるのかもしれません。


 教皇トールダン7世に関する【The Villains of FFXIV】第3回記事は以上で幕引きとなります。歴史とは、それを記憶する者の主観によってさまざまな見え方をするもの。人の側に語られる歴史だけでも、竜の側の記憶だけでも、双方合わせたとしてもまだ見えていない物事も、数多くあるように思います。……誰の視点からどう見るか。それを念頭に置いたうえで、ぜひ皆様もあらためて竜詩戦争の顛末に想いをめぐらせてみてはいかがでしょうか。

 さて、次回の【The Villains of FFXIV】は邪竜ニーズヘッグやドラゴン族について振り返る予定ですので、どうぞお楽しみに!

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