『FFXIV』“故国アラミゴ”に囚われた者たち――イルベルド/フォルドラの呪縛【The Villains of FFXIV】
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故郷を奪還したいと願う、俺たちの想いも、貴様の力も、
結局は誰かの思惑に組み込まれ、利用され……
自由に闘うことすら許されないッ!
それでは救えない! 俺たちの祖国を救えんのだッ!
俺は必ずアラミゴを取り戻してみせる……
どんな手を使ってもな!
【元クリスタルブレイブ隊長 イルベルド・フィア】
力が……。
力が欲しい……
私を罵るすべての者をねじ伏せるだけの力が……!
【髑髏の処刑人 フォルドラ・レム・ルプス】
オンラインRPG『ファイナルファンタジーXIV(以下、『FFXIV』)』でこれまで冒険者の前に立ちはだかってきた数多の“敵対者”たちを追想する企画【The Villains of FFXIV】。第6回は、故国アラミゴという鎖に囚われた2人……イルベルドとフォルドラについて振り返る内容でお届けします。
※本企画の解説・考察は、ゲーム内の情報や世界設定本“Encyclopaedia Eorzea ~The World of FINAL FANTASY XIV”などを参考に筆者が独自に展開したものです。また、本記事には記事テーマに関するネタバレが含まれます。
◆壊剣のイルベルド、その望郷
・イシュガルド戦勝祝賀会における各人の思惑
・イルベルドの最期――絶望と憎悪の果てに
・イルベルド、その憤怒の矛先
◆髑髏の処刑人フォルドラ、その帰郷
・フォルドラ・ルプスとして――彼女の贖罪と生きる意思
・第0回:企画序文、アシエン概論
・第1回:ガイウス・ヴァン・バエサルの目指した世界――“神”の廃滅と、人たる者の生きる道
・第2回:願いと祈りが生み出す偽りの神――“蛮神”と、創造魔法にまつわる仮説思考
・第3回:千年戦争の終わりに――教皇トールダン7世の願いとエゴが生んだもの
・第4回:怨嗟に蝕まれた偉大なる竜王――漆黒の翼・ニーズヘッグの生と死を想う
・第5回:竜と人の狭間で、戦いの終結を夢見て――“氷の巫女”イゼル追想録
壊剣のイルベルド、その望郷
不滅隊局長ラウバーン・アルディンの旧友にして、グランドカンパニー・エオルゼア構想の実験組織“クリスタルブレイブ”の元隊長、イルベルド・フィア。イシュガルド戦勝祝賀会でクリスタルブレイブを離反したあとは“鉄仮面”としてアラミゴ解放戦線の一団を率い、ギラバニア地方とエオルゼアの境界であったバエサルの長城へ侵攻。無理やりにガレマール帝国との戦端を開き、自分と仲間の命を捧げることで蛮神“神龍”を召喚して、世にさらなる戦乱の種を振りまいた……。それが、我々の知るイルベルド・フィアという男です。
故国アラミゴ奪還という悲願に、文字通りすべてを捧げたイルベルド。彼はエオルゼアいちの軍事強国と謳われたかつてのアラミゴで生を受け、幼き頃はラウバーンとともに剣の鍛錬に勤しんだといいます。しかし“今”から約20年ほど前……彼が24~25歳の頃、アラミゴ最後の暴君・廃王テオドリックに民が反旗を翻し、その混乱に乗じたガレマール帝国軍がアラミゴを強襲。城郭は瞬く間に陥落し、イルベルドは妻子を連れ、母国を命からがら脱出することになりました。
その後、彼は1人の冒険者として人々の依頼を受けつつ日銭を稼ぎ、妻子を養ってきました。しかし、5年前の第七霊災でバハムートが放った炎によって、エオルゼア広域に大規模な火災が発生。彼の妻と子は逃げ遅れて炎に焼かれ、1人生き残ってしまったイルベルドは、以後自らの命を“アラミゴを奪還し、妻子の遺骨を故郷に帰す”という目的のためだけに費やす決意をしたのです。……それはあたかも、自分自身にかけた呪いのように。
そのような状況下、悲嘆の底にあったであろうイルベルドが一縷の望みを託したのは、かつての同胞・ラウバーンでした。
アラミゴ陥落当時、ラウバーンはウルダハへ逃げ延びたものの帝国のスパイと疑われ、投獄されています。しかし彼は、その逆境をものともせず獄門剣闘士として前人未踏の1000勝を達成し、賞金でコロセウム財団の経営権を奪取。さらには莫大な資産を王家へ献上し、第七霊災から遡ること2年前の時点で、ウルダハの最高実力者たる“王家の相談役”砂蠍衆の一員にまで上り詰めていました。
そのようにラウバーンが不屈の立身出世を成し遂げたのは、自分と同じくアラミゴ奪還に向ける強き意思があったればこそ……イルベルドは“そうに違いない”と信じたのでしょうが、結果として、その期待は失望と怒りへ変じることとなります。
無論、ラウバーンとてアラミゴに馳せる並々ならぬ思いはありました。しかし第七霊災後のウルダハは、難民問題に加えてアマルジャ族との衝突や蛮神問題、王家の衰退による砂蠍衆および大商人の台頭などなど内外にさまざまな問題を抱えており、エオルゼア全体の現況を鑑みても、とても軍を挙げてアラミゴを取り戻すなどという事業に手を伸ばす余裕はなかったのです。
そして言うまでもなく、彼自身にも、未だ頼りない王女ナナモ・ウル・ナモを支えたいという思いがあった……。それゆえにラウバーンはあくまでも王女の右腕として、政を補佐する役割に専心していたのです。
しかしイルベルドからすれば、かつての友が“故国を奪われた無念を忘れ保身に走り、権益を貪り、アラミゴ難民の受け入れにすら消極的なウルダハの犬と成り下がった”……そのように見えたのかもしれません。そしてそれゆえに彼はラウバーンへ強い憎悪の念を抱き、現状に一石を投じるべく、砂蠍衆のロロリトと結託してクリスタルブレイブに潜入。その後のイシュガルド戦勝祝賀会では多数のクリスタルブレイブ構成員とともに造反を為してアルフィノや冒険者らを拘束し、ナナモ暗殺の報と砂蠍衆テレジ・アデレジの振る舞いに激昂し刃傷に及んだラウバーンを打ちのめすべく、剣を振るうこととなりました。
イシュガルド戦勝祝賀会における各人の思惑
さて、イシュガルド戦勝祝賀会のあらましについては多くの方がすでにご存知とは思いますが……あらためてざっくりと、関係者たちのおおよその意図をおさらいしてみましょう。
●当時のウルダハの状況
・砂蠍衆テレジ・アデレジが台頭してフロンティア計画を推し進めるなど、王家に比べて共和派(商人による自治を望む砂蠍衆)の力が強くなりすぎていた
・ナナモ女王が自信をなくして、王制をやめ共和制に移行したい意思を内々に示した
※フロンティア計画:不可侵地帯だったカルテノー平原に難民をなだれ込ませることでなし崩し的に土地を確保し、そこに眠る“オメガ”を手に入れようとしたテレジ・アデレジの計画。暁に阻止された。
●テレジ・アデレジの思惑と主な謀略
・共和制に移行しようとするナナモ女王にもはや傀儡としての利用価値はないと判断
・ナナモ女王を暗殺して、新たに前王朝(ソーン朝)の血を引く傀儡女王を立てようとした
・女王暗殺の罪を冒険者と暁の血盟になすりつけ、排除しようとした
・それらを成し、フロンティア計画を一気に進めようと目論んだ
・クリスタルブレイブに出資し密かに私兵化。クーデターの実働部隊として使った
●ロロリト・ナナリトの思惑と主な謀略
・彼の政商における権益維持のためには王家による政が成り立っている必要があった
・ゆえにナナモ女王が暗殺されるのはロロリトの望むところではなかった
・テレジ・アデレジのフロンティア計画も、当然好ましく思っていなかった
・暴走気味のテレジ・アデレジはもはや抑制が効かないと判断し、本人を排除しようと決めた
・テレジ・アデレジ排除のために、彼のナナモ女王暗殺計画を利用することにした
・実行犯(女王付侍女メルエム)を懐柔し(もともと支配下であったか否かは不確定)、致死薬を昏睡薬にすり替えさせた
・その一方で、ナナモ暗殺によって激昂したラウバーンに、黒幕たるテレジ・アデレジを斬らせようとした
・クリスタルブレイブに出資し密かに私兵化(真の雇用主)。テレジ・アデレジ排除の駒として使った
・いずれナナモ女王が復活した際にラウバーンや暁は必要と考え、一時的に捕らえはするものの、しかるべき時期に解放しようと思っていた
こうした権力者の思惑のもとイシュガルド戦勝祝賀会におけるナナモ女王暗殺未遂事件が発生し、ロロリトの策略どおりラウバーンがテレジ・アデレジを殺害することとなりました。ただ、実際に起きた物事の細部には、ロロリトの計算外の出来事がいくつも含まれていたようにも思えます。
まず第一が、テレジ・アデレジとラウバーンの行動。ロロリトにとってみれば、“ラウバーンがテレジ・アデレジ=黒幕と気づいたうえで自発的に彼を殺す”などという甘い予測のうえに計画を立てるはずもなく、本来は彼がそう行動するよう「黒幕はテレジ・アデレジ。殺るなら今しかない」とでも伝える役がいたはずです。そのための“旧友・イルベルド”という駒だったのでしょうが、実際には図に乗ったテレジ・アデレジが自ら犯行を仄めかしラウバーンを怒らせた結果、いわば自爆の形で斬殺されることになりました。
一方でイルベルドはラウバーンへの憎しみと侮蔑の念を露わにし、彼を打ちのめすために激情を煽って自らに剣を向けさせ、大立ち回りを演じています。これは本来の計画には必要のない行動のように思えますが……結局のところイルベルドは、“アラミゴを忘れ女王の犬となったラウバーンに、自分たちの何分の一かでも惨めな思いをさせたい”という欲を抑えられなかったのでしょう。ゆえに彼はラウバーンに対し「お前は守るべき者を守れなかったのだ」と告げ、「それを奪ったのは俺だ」と告げ、さらには彼に、その憎き仇に自分の誇りである剣技で負かされ捕縛され牢に繋がれるという屈辱を味わわせ、徹底的な惨めさを与えるべく行動したのだと思われます。すべては、故郷と家族を失ったイルベルドの憎悪ゆえに。
しかし、これもある意味ではロロリトの計算外の出来事なわけで、結果的には、戦闘中に冷静さを取り戻したラウバーンの機転によって、冒険者や暁の面々を取り逃がす事態となってしまいました。ロロリト本来の計画では、ラウバーンも暁もまとめて牢に押し込め大人しくさせたあとで事の真相を明かし、女王を目覚めさせる手はず。のちにロロリト自身もそう語っていましたが……実際には彼の予想以上の混乱を生む形となってしまったわけです。
イルベルドの最期――絶望と憎悪の果てに
おおよそこのような経緯でラウバーンを捕らえたイルベルドでしたが、ラウバーンの処遇にあたって、彼は雇用主であるロロリトと激しく対立することになりました。前述のとおり、ロロリトにすればラウバーンはまだウルダハと王政に必要な人材。ゆえにこれ以上の処分を下す気はなかったわけですが、イルベルドはあくまでも“アラミゴの誇りを忘れた犬など処刑すべき”という姿勢を崩さず、結局、両者は袂を分かつことになったのです。
このとき、イルベルドはロロリト傘下だったクリスタルブレイブ員の半数ほどを誘って離脱。さらには秘密裏にラウバーンを処刑すべく手勢とともにハラタリ修練所を占拠しましたが……これは冒険者とアルフィノ、ユウギリによって阻止されています。
その後、冒険者らが竜詩戦争をめぐる出来事に深くかかわっている間に、イルベルドはどこかのタイミングでアシエン・エリディブスと接触したのでしょう。そして彼は故国奪還に向けて動くべく、ロロリトから受領した資金を糧にアラミゴ解放戦線の急進派“鉄仮面”として人々を扇動し、戦力を募っていくこととなりました。
事態が新たな展開を見せたのは、竜詩戦争が終結を見たあとのこと。アルバートら闇の戦士たちが原初世界で次元圧壊を起こすため、アシエンの手引きのもと各地の蛮神の討滅を繰り返し、冒険者と衝突した一連の事件……その裏で、イルベルドはかつてウルダハで難民蜂起に加担した諜報員“写本師”ゆかりの者からクリスタルを極秘裏に入手して、アマルジャ族に横流していました。つまり、蛮神を召喚するための物資を流し、その見返りとして、アマルジャ族から傭兵を借り入れようと画策していたのです。
そしてあるとき、イルベルドはアシエン・エリディブスから邪竜ニーズヘッグの両眼を受け取り、己が計画の終着へ向けて動き出すこととなりました。それを成就させる舞台となったのは、エオルゼアと帝国属州アラミゴを隔てる長大な壁“バエサルの長城”。鉄仮面として解放戦線の人員を集めたイルベルドは、彼らを伴ってアラミゴ側からバエサルの長城を強襲します。
これは、本来であれば一時的に長城を奪取できたとしても戦力的に維持できず、すぐに奪い返されるだけの無謀な策でした。しかし、イルベルドはこのとき、解放戦線の者たちにエオルゼア諸国グランドカンパニーの軍服を着用させていたのです。つまりは帝国側に“エオルゼア同盟軍が攻めてきた”と認識させる状況を作り出し、無理やりにエオルゼアと帝国の戦端を開いた。そしてそのうえで、彼にはもう1つの狙いがありました。それは、圧倒的な“力”の顕現。
バエサルの長城を奪取し、一時的な勝利に喜びの声をあげる解放戦線の突入部隊員たち。そこに元クリスタルブレイブのローレンティスとユユハセが装置を起動させたことで、帝国の強力な魔導兵器がなだれ込み……瞬く間に、一帯は虐殺の場へと変じました。解放戦線の者たちの悲鳴と怒号が響く無残な情景……それを生み出したイルベルドの狙いとは、突入部隊を1カ所に集めて帝国の無人兵器で虐殺し、死の間際に絞り出された悲憤と“力への渇望”をもとにして、信仰に依らない、かのバハムート以上の力を備えた蛮神を生み出すこと。冒険者に追い詰められたイルベルドは、以下の言葉を残して自ら命を絶ち、憎悪と破壊への欲求をもとにして蛮神の召喚式を成立させたのでした。
長い……長い苦難の道だった……。
アラミゴ人は、あまりに敗北の屈辱に慣れすぎた……。
声を枯らして鼓舞しても、向けられるのは濁った目ばかり。
今もウルダハの流民街では、多くの同胞たちが惰眠を貪っている。
そして、ロロリトから得た資金と武器がなければ、
ここにいる者たちでさえ、決して立ち上がらなかっただろう。
祖国奪還、アラミゴ解放……口で言うのは容易いが、
それを成し遂げるには、すべてを捨てる覚悟がいる。
この化け物の「眼」が、人に扱えぬというのなら、
喜んで「鬼」にでもなってみせよう!
腐りきった魂を糧にして、俺がアラミゴ奪還を成し遂げる!
こうしてイルベルドは命を落とし、エオルゼアは、帝国との開戦が秒読みとなった緊迫感に包まれることとなります。イルベルドが生み出した蛮神は賢人ルイゾワの一番弟子・パパリモが命を費やした術によって封じられましたが……結界内の“それ”は、封印が時間稼ぎに過ぎないのだという現実をまざまざと突きつけるかのように胎動を続けていました。
そんな状況において、新たな災厄を防ぐ策として挙げられたのが、“バハムートを捕らえし者”オメガの起動。冒険者らはかつての帝国軍第XIV軍団幕僚長・ネロの協力のもと、カルテノー平原の地中深くに眠るオメガを目覚めさせます。斯くして封印を破って現出した“神龍”とオメガはぶつかり合い、およそ人の介入できない熾烈な戦いを繰り広げたのち、両者ともに彼方の空へと消え去ったのでした。
イルベルド、その憤怒の矛先
……エオルゼアにおけるアラミゴ難民とは、帰る故郷をなくした浮浪の民であり、各国の厄介者であり、日々の貧しさと焦燥に疲れ切った人々でした。イルベルドは長く冒険者として生活していくなかでその様子をつぶさに見、そして彼自身も、数々の差別や不条理に巻き込まれてきたのかもしれません。
そんな状態で、イルベルドは日々このような自問を繰り返していたのでしょうか。そもそもアラミゴの難民たちに故国奪還の意思はあるのだろうか? ……否、彼らの多くはすでに擦り切れて、日々を生きることしか考えられない。エオルゼア諸国の権力者たちに、帝国に立ち向かう意思はあるのか? ……否、奴らは己の権益と保身しか考えぬ屑である。
エオルゼアへ逃れたアラミゴ人にしろ、ギラバニアに残る者たちにしろ、その多くは貧しさに脳を灼かれ、どれだけ言葉を尽くしても心折れたまま立ち上がらず、そして無念にも、イルベルド自身にだって故郷奪還を叶えるだけの力はない。一時は期待をかけたラウバーンですらも、アラミゴという故郷を忘れ日々に忙殺される体たらく。旧友の左腕を斬り、牢に繋いでロロリトから報酬金を得、“鉄仮面”としてアラミゴ解放軍の人員を集めたとて、彼らの内に自ら立ち上がるほどの熱は見い出せない……。静かな絶望は精神を日々蝕み、それゆえにイルベルドは現況を打破し得る“人ならざるもの”の力を求め、アシエンの協力者となったものと思われます。
「鉄仮面はなぜ各国と協力して帝国に立ち向かう手法をとらなかったのか?」メインストーリーのなかでイダ(リセ)はそう口にしていましたが、仮に鉄仮面=イルベルドが各国に指名手配されていなかったとしても、彼はその選択肢は選ばなかったのでしょう。なぜならイルベルドはエオルゼア諸国にも、同胞たるアラミゴ人にも、もはや何の期待も抱いていなかったのでしょうから。絶望と怒りゆえに、彼はエオルゼア諸国を帝国との争いに引きずり出し、ともに立ち上がった解放軍のアラミゴ人をも蛮神の“贄”として扱い、憎悪と力への渇望だけを祈りとした新たな神を生み出した。彼の復讐心は帝国だけでなく、アラミゴの惨状をよそにエオルゼアで平和をむさぼり生きる者たち、そして覇気を失った同胞たるアラミゴ人にまで向いていたのだというのは、想像に難くないのではないでしょうか。
パッチ4.0メインストーリーにおいて、若きラウバーンがイルベルドとともに“アラミゴ革命軍”の英雄であるカーティス・ヘクスト(イダとリセの父)の演説を聞くシーンがあります。カーティスはそこで、革命の主義である“自由か死か”という言葉の意味――「戦いで得てよいのは自由か死のみであり、それ以外の富や権力は自由になったあとの努力でつかみ取るものなのだ」と説きました。自由か、死か。それは同時に、戦いで負けたとしても、暴君のもとで強いられる苦渋と屈辱の日々ではなく、“死”を得てもいいのだという、ある種の救いの教えです。
鉄仮面として己の最期を見据えたとき、イルベルドがその言葉をどのように思い返したのかは定かでありませんが……しかしながら彼のとった一連の行動からは、絶望のうちに“自由か死か”という言葉を曲げて理解していたのではないかという節も感じられます。それはすなわち「アラミゴ奪還などと口先で言うのなら、実際に命を賭けてみせろ。自由を得ようとしないのならば、死ね!」とでもいうような、自らの足で立たぬ者に対しての憤怒の念であったのかもしれません。
髑髏の処刑人 フォルドラ、その帰郷
バハムートとオメガが彼方へ消えたのち、エオルゼア同盟軍はバエサルの長城確保に成功。しかしながら同盟軍側はアラミゴの民の意思を無視した“侵略”をする意思はないとし、冒険者と暁の面々は、まずは現地のアラミゴ解放軍の協力を取り付けるべく、ギラバニア地方へと足を踏み入れました。
最初にコンタクトを取ったのは、アラミゴ解放軍のうち、イシュガルド戦勝祝賀会後にリセやパパリモを匿ってくれた1部隊。冒険者たちはリセの友人であるメ・ナーゴや指揮官のコンラッドらに迎えられ、彼らと共闘関係を結びます。しかし、どうやら“アラミゴ解放軍”の現状は小規模な組織の寄り合いとなっており、共闘できるのはあくまでもコンラッドの部隊のみである様子。帝国と渡り合うにはより多くの戦力が必要となるのは自明であるゆえに、冒険者は彼らの組織を立て直すべく、リセとともに奔走することになります。
そのような状況で冒険者らが遭遇したのは、フォルドラ・レム・ルプス率いる髑髏連隊の者たちが、同胞たるアラミゴ人の青年を徹底的に痛めつけ虐げる光景でした。
髑髏連隊とは、帝国の属州となったアラミゴにおいて、アラミゴ系帝国人の若者によって編成された部隊。彼らはアラミゴ人でありながら、両親が帝国の市民権を有していることでいちおうは“帝国民”という立場を許されています。しかしそれは決して恵まれた環境ではなく、アラミゴ人からは売国奴と白い目で見られ、生粋のガレアン人からは蛮族と蔑まれるなど、どちらの側にも属せず、双方から差別される境遇。ゆえに彼らはどれだけ有能であっても辺境の見回り程度の任しか与えられず、己の置かれた環境を憎みつつ、自らの力を認めさせることのできる場を、常に求めていたのです。
無論、フォルドラ自身もその例外ではありません。
彼女は約19年前にアラミゴの商家に生まれ、家族のため帝国に従い市民権を得た両親のもとで、好奇心旺盛な少女時代を過ごしていました。しかしあるときフォルドラの父は、彼らの一家を売国奴と憎む非市民――奴隷同然の暮らしを強いられていたアラミゴ人の群衆に襲われ、命を落とします。同胞に激しく石を投げられ、父の命が失われゆく間、ガレアン人は「いいガス抜きになる」と止めようともせず眺めているだけ……。そんな体験をしたことで、フォルドラは自分たちが帝国にもアラミゴにも属さない半端者であると強く認識したのでしょう。ゆえに彼女は似た境遇の若者たちとともに、本来入る義務のない帝国軍へと志願入隊し、新世代のアラミゴ人の地位向上を果たすべく、権力を求めて貪欲に手柄を欲したのです。
誰にも文句を言わせない、誰もが認める立場に――。そうした彼女の願いは、差別意識ゆえまともな任務も与えられない髑髏連隊においては、叶えるために行動を起こすことすら難しい状況でした。しかし、第XII軍団の軍団長ゼノス・イェー・ガルヴァスがアラミゴを訪れた際の評議会にて、彼が、“アラミゴ人を狩るための策を進言してみせるアラミゴ人”フォルドラの発言を認めたことで、事態は大きく動き出すこととなります。
そして起きたのが、フォルドラと髑髏連隊、そしてゼノス自身を含んだ少数人員による、ラールガーズリーチ強襲。
エオルゼア同盟軍がアラミゴに入ったことで人の動きが大きくなったためか、新たに加入した義勇兵のなかに帝国の間諜がまぎれていたものか……いずれにせよ、一帯の巡回を担当していた髑髏連隊がアラミゴ解放軍の拠点位置を掴んだゆえに、フォルドラはこの作戦を進言したのでしょう。そこで何が起きたかは、すでにご存知のとおり。己が未来を切り開きたい若きアラミゴ人が、同じようにアラミゴの民の未来を願って故郷奪還を目指した同胞と殺し合う悲劇……その円環は、こうして広がりを見せていくこととなります。
冒険者たちはこの襲撃でゼノスに手痛い敗北を喫し、その後、ギラバニア地方と東方を両面管理するゼノスら第XII軍団の翻弄と、アラミゴの民が再び立ち上がるための時間稼ぎを目的として、東方へ向かいました。
そこでの活劇は、あえて本記事では語りませんが……冒険者やリセたちは東方で幾多の人々と出会い、彼らの在り方を知り、死生観を識り、“生きて自らの道を勝ち取ること”その意味を感じることで、多くの成長を遂げました。そうして彼らはドマという国の新たな未来を切り拓き、今後の命運をともにする多くの味方を得て、エオルゼアへの帰還を果たします。
その頃、フォルドラは先の戦いの功績に加えて、さらに暁のクルル・バルデシオン拿捕に成功。ゼノスの指示で他の千人隊長が所持していたガンブレードを下賜され、その熾烈な戦いぶりから“髑髏の処刑人”の異名で呼ばれ始めるなど、着々と第XII軍団内での発言権を手にしていました。
しかし、そうした出世の道は、冒険者らの反撃によって危ぶまれる事態となります。ラウバーン率いるエオルゼア同盟軍とアラミゴ解放軍の共同作戦で、フォルドラたち髑髏連隊が駐屯していたギラバニア辺境地帯の拠点カステッルム・ベロジナが堕とされ、フォルドラ自身も冒険者に敗北。さらには撤退の際アナンタ族に不必要な恐怖を与え、美神ラクシュミ召喚のきっかけを作る失態……。フォルドラはそれらの責を負い、死の覚悟をもってゼノスの前に立つことになったのです。
後がない崖際の状況で彼女が口にしたのは、飽くなき力への渇望でした。ゼノスは彼女の覚悟を見届け、一度限りの機会を与えることとなります。それは現行人類の能力を超え、超越者たる力を得るための、煽惑の言――。
臨床実験から目覚めたフォルドラは、ゼノスの命により、アラミゴ山岳地帯の大拠点“スペキュラ・インペラトリス”へ押し寄せたエオルゼア同盟軍をせん滅すべく、味方までも巻き込む長距離砲撃を敢行。敵にも、彼女の同胞たる髑髏連隊の者たちにも多数の犠牲を出す惨事を引き起こしました。なお、砲撃に際したフォルドラは過去視を発現していたようですが……おそらくこのときの彼女の視界には、これから死する幾多の敵と仲間たちの“過去”が止めどなく流れ込んできていたのでしょう。
その後、冒険者たちはカストルム・アバニアにてフォルドラと三度対峙。そこでの戦いにおいて、エーテルを感知する能力が異常に高まったフォルドラはリセとアリゼーの連携攻撃を難なく避けて反撃に転じ、アリゼーに重傷を負わせています。彼女はそのうえで、冒険者にゼノスからのメッセージを伝えて戦場を離脱。アラミゴをめぐる解放戦争はいよいよ最終局面へ向けて動き出そうとしていました。
そして、舞台はギラバニア湖畔地帯。古くから塩業が営まれるロッホ・セル湖の向こうにアラミゴ城郭を望み、エオルゼア同盟軍が城壁攻略の糸口を探っていた頃……。冒険者たちはゼノスとの決戦前にクルルを奪還すべく、アラミゴの市街地であるアラミガン・クォーターの地下に潜入。居住区の主門を開錠してアラミゴ解放軍を引き入れたのち、“超越技術研究所”で待ち受けていたフォルドラと最後の戦いを繰り広げます。フォルドラは冒険者らの手の内を読んで奮戦しますが、ウリエンジェの“秘策”エーテルジャマーによって能力を阻害され敗北。リセによってその身を拘束されることとなりました。
その後の顛末は、すでに多くの方が知るところでしょう。アラミゴ城への突入、神龍を僕としたゼノスとの決戦と、彼の自刃……。長き解放戦争は終わりを告げ、アラミゴとそこに住まう人々は、死と炎の記憶を色濃く残したまま、否応なく新たな時代へ進んでいきます。そしてそれは、フォルドラという人間の物語も同様。当初は死を望んでいた彼女は、ここから“帝国の中のアラミゴ人”ではなく、囚人フォルドラ・ルプスとして生きることになります。
フォルドラ・ルプスとして――
彼女の贖罪と生きる意思
前述のとおり、フォルドラは帝国内で己が存在意義を確立すべく、同胞たるアラミゴ人を犠牲にしながら必死で這い上がって来ました。
その強き意思は功績へつながり、フォルドラは周囲からの承認と常人以上の力を手にすることとなったわけですが……他者を見返し、他者に自分を認めさせることだけを求めてきた彼女の心は、皮肉にも、自ら望んで得た超越者の力によって変化していくこととなります。
……超える力の過去視というのは、基本的に制御できず、たびたび予想外の場面で過去の映像が頭に流れ込んでくるもの。フォルドラの場合も例外ではなく、むしろ彼女の様子からすると常時と言っていいくらいの頻度で過去視が発動しているのでは思わせる場面もありました。彼女が超越者となって何が起きたか……それはひとことで言ってしまえば、他者の心を強制的に識る機会が、尋常でないほどに増えたということ。しかもそれは単なる知識やビジョンでなく、追体験と呼べるほど深いレベルのものです。
これまでの彼女は、自分たちが虐げられてきた環境を覆すために邁進してきました。しかし今度は、望んで得た超越者の力によって、自分たちもまた多くを虐げてきたのだという事実を、嫌というほどに思い知った。自分が殺した者たちの記憶がひっきりなしに彼女の頭に入り込み、何かを受け継がせようとでもいうように、心中に足跡を残していくこととなったのです。それが彼女の心に及ぼした影響の大きさは、想像に難くないのではないでしょうか。
そして、彼女の心境が劇的に変化するきっかけとなった出来事は、おそらくもう1つ。リセがフォルドラを捕らえた際、それまでの彼女とは打って変わって「すべてが無駄だったのだ」と諦めの言葉を吐いていましたが……つまるところ彼女はある時点で、ゼノス・イェー・ガルヴァスという男の過去を垣間見てしまったものと思われます。そしてゼノスが、フォルドラや髑髏連隊の功績など心の底からどうでもよく、拠点の防衛などにも興味がなく、彼女を含む配下の者たちの命すらもまったく意に介さず、ただ、己を愉悦に導く獲物と、戦いの昂揚を楽しむためだけに行動していたという事実を、知ってしまった。
フォルドラは“ゼノスの獲物=冒険者”の牙を研がせるための当て馬でしかなく、これまで命を賭けて戦ってきたことも、仲間を犠牲にしたことも、ただただ彼の狩りを楽しませる退屈しのぎのアトラクションに過ぎなかった。そう、知ってしまった。
ゆえに彼女は、ゼノスへのかつての崇拝心を一変させ、深い虚無感と無力感に苛まれていたのだと思います。牢に繋がれて以降、自分が虐げてきた者たちの過去に触れ続ける日々を送りながら、彼女は死を請うてうつむき、黙したまま己の来し方を振り返っていたのでしょうか。
しかしながら、リセがギラバニア地方の有力者を集めて会合を開いた日、フォルドラはついに自身の今後について選択を迫られることとなりました。
アナンタ族のカリヤナ派が呼び出した蛮神・ラクシュミの急襲――。冒険者とアレンヴァルドが対処するも手が足りず、集まった人々があわやテンパードと化す危機的状況。フォルドラは牢へ駆けてきたリセに「ここで死ぬか、アラミゴの未来のために戦うか」と問われ、他者のため戦う道を選んだのです。
一時は死を願った彼女が剣を手に戦った理由は、贖罪のためだったのか……あるいは今と未来を生きる、さらなる誰かを想ったゆえの行いだったのでしょうか。いずれにせよ彼女の行動は、会合の場に集った者を救っただけでなく、彼女自身の心と、その未来にも一筋の光を与える結果となりました。
これまで、他者を見返すために、他を虐げ打ちのめす戦いを続けてきたフォルドラ。しかし、その日々は、思うように存在意義を見出せない悔しさと帝国人からの蔑みの視線、出世への妬みの言葉が常につきまとうものでした。おそらくそこには感謝の言葉など、ただのひとつもなかった。しかしこのとき彼女は、他のために剣をとり戦うことで、初めて謝意を向けられた――。ある意味では、彼女はこのとき初めて己の心の帰る場所――故郷と呼べるものを見つけたのだと、そう捉えることもできるのかもしれません。
といったところで、イルベルドとフォルドラを振り返る【The Villains of FFXIV】第6回記事は以上となります。
イルベルドとフォルドラ……2人はどちらもアラミゴの帝国属州化に起因した悲劇で己が生き方をねじ曲げられ、その状況を覆し呪縛からの解放を得るべく、人生を賭して足掻き続けました。……しかしある意味では、そうした、己を規定する意思こそが彼らの呪縛であったとも言えるでしょうか。そのように歩んだ道のりの中で他を踏みつけ、己の命すら目的を達するための道具と為したところも、彼らの共通点。しかし、アラミゴ解放戦争における両者の結末は、それぞれで大きく異なるものとなりました。
イルベルドについてはその人物的評価も含めてさまざまな言われ方をしてはいますが……彼が行動を起こさねばエオルゼア各国がアラミゴ奪還へと乗り出す機会は長いこと訪れなかったであろうこと、もはやそうせずにはいられないほどすべてに絶望していたこと、そして、彼自身は命を失ったものの、結果だけ見ればすべての敵対者のなかでも珍しく本懐(アラミゴの奪還)を遂げていることなどを鑑みると、その行いについていろいろと考えさせられるところもあるように思います。
一方、フォルドラはまだ彼女自身の道を歩み始めたばかり。解放戦争ののち、彼女が囚人部隊の一員として既知の蛮神との戦いに参加していることは、紅蓮秘話第7話や召喚士レベル80のクエストで周知のとおりですが……かつての己の行いを顧みながらもなお異能の力を用いて戦い続ける彼女の心中は、決してひとことで語ることはできないものでしょう。
召喚士80クエストのなかでは、そんなフォルドラが己の戦う理由について言葉少なに述べる場面を見ることができますので、もし機会があれば、ぜひご自身の物語の一端として体験してほしいと思います。
さて、次回の【The Villains of FFXIV】は、ドマという国の表裏を彩るヨツユとアサヒ義姉弟を振り返ります。どうぞお楽しみに!
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