『チェンクロ』松永D×小高和剛氏がシナリオ論を語るクリエイター対談 前編【チェンクロ特集#11】

マスクド・イマイチ
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 本日11月26日より配信がスタートしたスマートフォン用RPG『チェインクロニクル 第4部 -新世界の呼び声-(以下、第4部)』の特別対談企画の前編をお送りします。

 今回は『チェンクロ』第3部完結&第4部始動記念企画として、『チェンクロ』松永純総合ディレクターと、松永ディレクターがかねてより対談したかったというシナリオライター・小高和剛氏(Too Kyo Games)の対談をセッティング。

 小高氏といえば『ダンガンロンパ』シリーズ(スパイク・チュンソフト)を生み出したクリエイター。『チェンクロ』ユーザーにとっては、2014年に開催された『絶対絶望少女 ダンガンロンパ Another Episode』とのコラボが懐かしいシリーズです。

 そんな本シリーズを生み出した小高氏は、2018年にToo Kyo Gamesを設立。その代表に就任しただけでなく、現在もシナリオライターおよびディレクターとして、『デスカムトゥルー』や『ワールズエンドクラブ』(ともにイザナギゲームズ)などさまざまなタイトルを世に送り出しています。

 『チェンクロ』と『ダンガンロンパ』、ジャンルは異なりますがシナリオがキモというところで共通する両タイトル。対談ではおふたりのシナリオ論に加えて、長くシリーズやサービスを続けることへの考え方、クリエイターとしての生い立ちなどについて盛り上がりました。

 松永ディレクターが「ぜひ、小高さんと!」ということで実現した今回の対談。『チェンクロ』および小高氏が手がけてきたタイトルのファンは、ぜひご覧ください。

  • ▲松永ディレクター(左)と小高和剛氏(右)。

『チェインクロニクル』特別企画一覧

松永純氏×小高和剛氏 対談

松永さん、小高さんの意外な関係は?
ユーザーを驚かせるモノづくり

――まずは『チェンクロ3』完結お疲れ様でした、そして、おめでとうございます!

松永:ありがとうございます!

――おふたりは「はじめまして」ではないんですよね?

小高:過去に2、3回ほど、食事などを一緒にさせていただきましたね。

松永:はい、そのときにもゲームのお話をさせてもらったりしました。

――それは『チェンクロ』と『ダンガンロンパ』のコラボがあったとかは関係なく?

小高:ですね。むしろコラボのタイミングではお会いできていなかったと思います。打越さん(※)の紹介でしたよね。

※打越鋼太郎氏:Too Kyo Gamesのシナリオライター。代表作は『極限脱出 9時間9人9の扉』、『極限脱出ADV 善人シボウデス』など(ともにスパイク・チュンソフト)。

松永:そうですね。あとコラボ当時は、たしかコラボが終わった後に、一度セガの近所でご飯を一緒させてもらって。いずれのときも、ワイワイ話す感じで、ものづくりの深い話まではできなかったので。

 今回、外部のクリエイターさんとの対談の場を設けていただけるとのことで、ストーリーの話をするならぜひ小高さんにということで、ご指名させてもらいました。

小高:『チェンクロ3』になってからでももう4年も経つんですね、それはすごいですね。

松永:コラボさせてもらってからもだいぶ経ちますよね。あれが2部の途中だったので。それからだともう6年ぐらいでしょうか。

小高:『チェンクロ』自体は何年続いているんですか?

松永:今8年目に突入しました。

小高:僕はあまりスマホでゲームをするタイプじゃないんですけど、リリースされた最初の頃やって、コラボするときにやって、それで今回の対談が決まって1週間ぐらい『チェンクロ3』を遊んでみたんですけど、改めてスマホゲームの物語の進化を感じました。歴史本みたいな。

 『チェンクロ』ってゲーム自体が優れているじゃないですか、シンプルでおもしろくて。1部の頃って、そのシステムを邪魔しないようにテンポよくゲームとゲームをつなぐようなシナリオだったと思うんですよ。

松永:そうですね。冒険RPGに寄せていたので、ストーリーをがっつり読ませるというよりはゲームを遊ばせるというポリシーでしたね。

小高:主人公もしゃべらないタイプだったり。ただ、『チェンクロ3』をやってみたら複数視点で物語が始まって、それこそ『ロマンシング サガ』シリーズのような、大きい感じで始まったぞと。

 本当にRPGとして先が気になるストーリーだなって思いました。こうやって進化しているんだと。ただそのなかでも区切り区切りでバトルをうまく挟めるようにしていて、参考になりました。

松永:ありがとうございます。それは1部と2部があったからこそかもしれません。『チェンクロ3』でこういう挟み方でもOKみたいな進化の仕方ですね。

小高:ストーリーだけを作るというよりは、ゲームのテンポ感を作るというところですね。

松永:どちらかというと“自分はゲーム屋だな”と改めて思うところですね。小高さんの作品を遊ばせてもらうと、ゲーム的な魅力だけでなく、映画的な展開にすごく魅力を感じます。

小高:よくも悪くもですが(笑)。

松永:すごく短時間で、プレイヤーに驚きを届けて、興味を「持っていく」モノ作りをされていますよね。比べると『チェンクロ』は、まったりずっと遊ばせるぞという気合でゲームシステムを作って、ストーリーは「水戸黄門」的に、長く楽しめることも意識して作っているので。スマホゲームとコンシューマゲームの差とも言えますが、あらためて相当違うなと思っています。

 今回お話させていただきたいと思ったのは、小高さんは新しい驚きにどんどんチャレンジされているじゃないですか。そのユーザーさんを驚かる部分というところを、どういうマインドで作っているのかを聞けたら嬉しいなと。

 『チェンクロ』も、3で群像劇のようにしたりとか、スマホゲームの中では、大きくやり方を変えてきたほうだと思っています。ストーリーを楽しんでもらうこと、驚いてもらうこと、近しいスタンスもありますが、より最前線を走っている小高さんとそのへんについて話してみたいなと。

小高:なるほど。

松永:驚き、というものについて、僕がいつも怖いなと思っているのが、ユーザーさんは新しい刺激を常に求め続けていて、驚いてもらったときも、そのあと「またもっと驚かせてほしい」と期待してくれるじゃないですか。でも刺激が過剰になると「それは違う」と言われることも増える。ユーザーさんに驚いてもらおうとするのって、とても怖いことでもあるなと。それにどう立ち向かっているんでしょうか。

小高:『チェンクロ』とかのスマホゲームと、僕がやっているコンシューマのプレイヤー層の質が違うというのは1つあって。あと、絶対的な母数が違うというのもありますね。

 僕の場合は“自分が飽きないか”というのが、1つすごく大きなテーマとしてあって。サービスとして考えていないんですよね。全部自分の仕事と考える場合は、サービスというより自分がやりたいことを優先しちゃうというか。

 物語作りも飽きてきたら展開を変えたくなるという。「ちょっとここで主人公変えますか!」と言って、みんなが「あはは」って思ってくれたらそれはアリかなって。

 それをやっていると『ダンガンロンパ』みたいなデスゲームじゃないものを作ったとき……たとえばこの前リリースした『ワールズエンドクラブ』を作ったときに、「デスゲームじゃないのかよ!」って声はありましたね。

 それは作品のなかでもそうなんですけど、「小高、なんでこういうことするんだ! おとなしくしろ!」みたいな。「いい感じのデスゲームを作ってろ」というのはあるんでしょうね(笑)。

松永:でも変わっていくことも作家性ですからね。

小高:そうですね。単純にサービスよりも自分がやりたいことをやりたいですし、ユーザーさんは基本的に受け身なんで、一度気持ちよいと感じたものしかやらないと言いますか。

 そこにちょっと違うものを出していかないと、その人の世界って広がらないかなと思うんです。変えたことによって最初不満に思われても、「最終的に好きになってもらえたら、その人にとってプラスなのでは」と思いながらいます。

松永:それだけ『ダンガンロンパ』のインパクトが強かったというのはありますよね。結果的に小高さんがおっしゃるように、前の作品を見て好きになってくれたユーザーさんがちょっと違うなと思いつつも虜になってくれればという感じのスタンスなんですね。

小高:やっぱり『ダンガンロンパ』って僕のなかでも偉大だなと思っていて、松永さんにとっての『チェンクロ』もそうだと思うんですけど、もしここから『チェンクロ』以外のものをやるとなったら結構怖いじゃないですか。

松永:そうですね、「お前(松永)のゲームなのにストーリーついてないの!?」みたいに言われるかも。たしかに社内ではありますね。セガって物語性があるゲームの割合が大きい会社ではないのもあって、「松永はストーリーもの得意でしょ」と言われたりして。

 僕自身はディレクター気質ですし、プロの作家さんたちのようには全然書けません。ストーリーを乗せる土台のシステムを作る方が自分としては得意だと思っていて。「ストーリーのことは松永に聞けば」って会社で言われても、シナリオ執筆の技術はたいして語れないぞっていう(苦笑)。

小高:でも読み手として“いいディレクター”であれば全然いいと思うんですよね。読めないディレクターも多いと思うので。そういう人がいないのが一番ゲームの物語を作るうえでダメなパターンだと思います。ディレクターとかその作品に力がある人じゃないと、シナリオをうまくゲームに組み込めないと思うんですよ

松永:その想いはあるつもりなんですが(苦笑)。でもそうですね、物語好きだし、こうしたいってのがあれば良いんですよね。さっき例えでストーリーの無いゲームを出したら、って話しましたが、たぶん次もストーリーめっちゃありますね。なにせ好きなので(笑)

2人が語るゲームシナリオ論
『チェンクロ』開発の初期は?

松永:僕は『ダンガンロンパ』をプレイしたとき、ふつうに泣きました。ストーリーの熱さに感動して泣いて、デスゲーム的なドキドキもあって、笑いもあってという。あらためてすごいバランスですよね。あれだけのクオリティのものを遊んでしまうと、ストーリーあるゲームを作るの怖くなりますね。

小高:でも松永さんはストーリーがあるゲームを作っていきたいわけでも別にないんですか?

松永:そういうものも作ってきてますが……実際わからないところですね。やっぱり好きですし。

小高:何がストーリーなのかというのもありますよね、言葉がなくともストーリー性のあるゲームもあるので。

松永:ですね。ゲームにおいて、ゲーム性以外の部分ってほぼ全部ストーリーとも言えますからね。戦略を考えて、反射神経を駆使して操作して、かけひきする。という部分以外は、テキストだけでなく、絵やインターフェースなど含めて、だいたいストーリーで埋まってます。

小高:最近のコンシューマで言うと、『Ghost of Tsushima』とか『The Last of US』(ともにSIE)みたいにストーリー性の強いゲームが増えてきたなと思います。もう少し前は“ナラティブ”と言ってなんとなくユーザーにぶん投げるみたいなものが流行っていたと思うんですよね。『The Last of US』なんかは「こんなにちゃんとやるんだ!」って驚きましたから。

松永:小高さんは『ダンガンロンパ』とか『チェンクロ』みたいにメッセージウィンドウがあるゲーム以外にも、ゲームでさまざまな表現をやっていますよね。そもそもマンガの原作をやったりアニメにかかわっていたり、いろいろなことをやられていますが、どんな違いがありますか?

小高:全然別といえば別ですね。まずはアウトプットの部分を想像して書かなきゃいけないので。マンガだったらマンガ向きのプロットじゃないと意味がない、ゲームのものを流用なんてできないわけですし。

 アニメの場合もそうですよね。お作法じゃないですけど、マンガだったら主人公の視点をがっちり固めないといけないとか、アニメの場合だったらよく言われるのは最初の1話~3話で山を持ってこないといけないとか、そのお作法に適したキャラやストーリーありきで考えるというか。

 ゲームの場合は逆にアウトプットの形が見えないまま書き出すこともあって。自分で出した企画ですと『ダンガンロンパ』もそうだったんですけど、“学級裁判”システムがどうなるのかわからないまま、仕様も並行してやっていましたし。背景もデザインもできていないなかで書かなきゃいけなかったりしました。

 そういう意味では、アニメとかマンガとかだと監督さんやマンガ家さんがいるから最終的にはお任せできるんです。ゲームの場合は選択肢が多すぎて、2Dでやるのか3Dでやるのかとか、移動はどうするのとか、だからシナリオ兼仕様書にしなきゃいけないのかなってとこはありますね。

松永:おお、ではシナリオとシステムを同時に作っているんですね。

小高:仕様の細かいところまでは書かないですけど、“ここはこういう風にしたい”とか、“ここはこういう風に表現したい”とか、そういうのもシナリオに全部書いていますね。コラボしていただいた『絶対絶望少女』も、この間にこれぐらいの距離を移動して、これをしゃべりますとか敵何匹と戦いますとか。

 そういうのを書かないでゲーム作るのを待っているといつまでも書けないですし、ゲームができちゃったあとだと“この短いとこでこの展開入れられないよ”とかなりますし。もう“先行してこれ通りやって”みたいな感じでやるので、ゲームシナリオが一番責任感強くやっていると思いますね。

 ただ、オリジナル作品が多いので、とっかかりが自分の中にしかないというか。背景とかキャラデザの方とかも「何を信じていいかわからん」となるので、まずは先行してシナリオをどんどん自分で決めちゃいます。それで「もっといいアイデアがあれば出して」という感じですね。

松永:そう聞くと、思ったより自分と一緒でした。ですよね、ある程度システムとストーリーがないと、まわりが何を作ればいいのかつかめない。

小高:ゲームシステムから考えるより、シナリオを考えてしまうほうが世界観は早目に作れるのかなと。外堀を固めやすいというか。ゲームはどうしてもクラッシュ&ビルドになってしまうから時間がかかりますし。

松永:そこはすこし差があるかもです。たしかに、ゲーム性は積み上がり切らないと何がおもしろいのかわからない、形が見えないことが多いので、ストーリーを軸にしたほうが作りやすいのかもしれないですね。なるほどなぁ。

――『チェンクロ』の最初はどうだったんですか? シナリオが先にできていったとか。バトルシステムからスタートしたとか。

松永:『チェンクロ』はゲームシステムを先に作りました。バトルシステムと、あとはシナリオシステムですね。キャラクターがたくさんいて、キャラから枝が広がるようにストーリーが展開していくゲームを作りますという設計図がありました。で、実際にキャラ設定を用意して。ストーリーはさらにその後ですね。

 もちろん大まかなストーリーの設定は、同時には作っていて。黒の軍勢がいて、なんとかするために世界中を冒険する、くらいの。その概要と、決まったシステムとキャラをもとに、プロットを書いて。最初の段階というと、そんな感じですね。以降はそれをベースにライターのみなさんと打ち合せてテキストを作っていくという形でした。

小高:そこが自分としては一番楽しいんですよね。プロット書いてるときがおいしいところというか、“こんなことやったら楽しいんじゃね?”って。あとはセリフ書くの面倒だなっていう(笑)。

松永:それ、中身も全部書く小高さんならではですね。作業量が全然違いますもんね。

小高:僕はプロット思いついたときが一番楽しいですね。それでサクッと終わると一番いいんですけど……。

松永:小高さんぐらいにどんでん返しがあるようなプロットをバーンと出せたら、それはすごい楽しそうだなぁと思います。

小高:そこからシナリオにするのはすごく面倒です……。と言っても、スマホゲームって展開が長いじゃないですか、どのぐらいまでシナリオを考えているものですか? それとも導入はこれぐらいでって感じで、あとから足していく形ですか?

松永:足していく感じのほうが強いですね。週刊マンガの連載とかに近いんじゃないですかね。まず最初に、導入、スタートのところとキャラクターの骨子だけ立てたら、あとはクライマックスの展開、“最後にこうなるよね”っていう結末を決めて。その間を埋めるストーリーは後から考えていこうと。

小高:まさに週刊マンガって感じですね。山場だけ抑えておいてという。

松永:そうですね。そうしないとたくさんの作家さんが参加しながらシナリオを毎月更新とかはできないんじゃないかなと思います。

複数ライター式だからこその
『チェンクロ』制作のライブ感

小高:『チェンクロ』のシナリオは複数のライターで書かれていますが、そうするために工夫していることはありますか? 例えば、どんでん返しはたくさん用意しないとか、難しい人物相関図にはしないとか。

松永:基本の執筆ルールや、テイストのポリシーはけっこう決めてますが、加えてそういう部分で言うと……「長引く小さな伏線は入れない」ですかね。

 例えば映画2時間の中にちょっとした伏線があって、それが最後クライマックスに全部回収されるとすごく熱いと思うんですけど、何年もサービスを続けていると最初の半年でやっていた伏線とかユーザーさんも覚えていられないと思うので、「出した伏線はその章のなかで回収しようね」って。大きな伏線だけ覚えて帰ってもらおう、っていう。ユーザーさんがいつのタイミングでどう読むかを意識して、忘れられちゃうようなことはできるだけ入れるのやめるようにしています。

 でもそう言いつつ、わりと入っちゃっていますけどね(苦笑)。だから、たまに総ざらいするようなシナリオを入れたりしています。

小高:人間関係も複雑にしすぎないというか、そのほうが書きやすいですか?

松永:そこは逆に結構自由ですね。「このキャラとこのキャラ、こんな込み入った関係にしてもいいですか」と聞かれたら、「おもしろくなるし、やっちゃおうぜ!」みたいな。キャラがたくさんいるから浅い、だと意味がないと思うんです。キャラがたくさんいるけど深い、というゲームだからこそ意味があるというか。

小高:そういう設定とかってデータベースにしているんですか?

松永:いや、そういうのはないですね。ニュアンスも含めてのキャラ同士の関係性だと思うので、リストに1行で書いていってもあまり効果がないというか。

 書いたあとに「こういうニュアンスで合ってる?」というのが判断できる人間がいてくれたり……ライター同士で、内容をちゃんと読んだり。わりと無骨に総当たりですね。膨大すぎて大変ですが。

小高:本当に週刊マンガ編集部みたいなライブ感があるんですね。長期間の運営をしていくモチベーションって、どういうところから生まれますか。お客さんの反応とかですか?

松永:ユーザーさんの反応はとにかく大きいです。精神論とかポーズではなく、本当にユーザーさんのおかげで、続けられるし、続けたいと思えます。

 今回、チェンクロは第4部に入るんです。1・2部の主人公に視点を戻して、もう一度最初の“冒険RPGの体験”みたいなものを強くしようと思っていて。これまでの世界を越えて、別の異世界を冒険していくストーリーになるんですが。

 2部が終わって、「3部どうします?」って話になったとき、「世界は平和になったので異世界に行くのはどうですか?」ってアイデアも出たんですけど、「それは違うだろう」とそのときは言ったんですよ。世界が広がっても、やってること一緒でインフレしていくだけだなと。

 たとえば2部で機械の大陸とかあったんですが、「そこに行くのと機械の異世界に行くのはどう違うの?」と。大陸のバリエーションが異世界になっただけになるだろうなと。当時は、新しい大陸をどんどん冒険していくロマンがあった反面、第1部キャラなど、それまでに登場したキャラクターがなかなかメインストーリーで描けないという問題があって。話がマンネリになりつつ、その問題が加速する未来が見えたので、これまでに登場したキャラがちゃんと活躍できるようにと、第3部の群像劇へ移行したんです。

 それで『チェンクロ3』を4年やって、「いよいよ終わるなぁ、4部どうしよう」となったときに、あのときボツって言ったアイデアが今ならいいかなと思えて。

小高:そういうタイミングによって判断が変わるというのはありますよね。

松永:はい。自分の何かが変わったというよりも、ユーザーさんの深まりがより強くなった今なら、こういう風に変えてみても熱中してもらえるんじゃないか、と思えたんです。

 第4部は、異世界を冒険していくんですが、新しい世界のキャラがどんどん出てくるよりも、これまでの仲間が異世界の理(ことわり)に触れて、新しい一面を見せることにコンセプトを置いていて。それって、ファンの皆さんが各キャラを深く知ってくれているから、楽しんでもらえることだと思うんですよね。

 これは、新しいゲームを作るだけだとなかなか得られない、ユーザーさんが長く続けてくれて、その反応をもらい続けたからこそ、できたことだなと思います。

ユーザーの熱が引き起こす
クリエイターへの化学反応

小高:ユーザーの反応を見ながらというか、その反応と融合してアイデアも変わってくるというのはスマホならではですよね。コンシューマとかアニメとかは基本的に作り終わってから見せているものですから。“こういう反応するんだったら、こうしたほうがおもしろいかも”みたいな作り方ができるのはいいですね。

松永:そうですよね、例えば今となっては笑い話なんですけど『チェンクロ』をリリースして1カ月ぐらいのタイミングで、早々に「コラボしませんか?」っていう話があったんですが……

 それはファンタジー作品ではなかったんです。舞台は現代で、ジャンルも格闘もので。絵柄も全然違う。「さすがにウチに合わないのでは」とそのときはなったんですけど、いろいろ他のコラボを続けていって、2年目になったら「そろそろいいかな?」って実現したんです。

――『バキ』じゃないですかそれ。

松永:そう、『バキ』コラボなんですけど。

小高:ユーザーさんも定着してわかってきてくれたからですね。

松永:はい。「今ならユーザーさんも笑って楽しめるんじゃない」って。

 昔は、ずっと同じタイトルをやっていくとやれることが減っていくと思っていたんですよ。でも最近「やれることが増えているな」っていうのが正直おもしろいなと思いました。

小高:ユーザーさんの理解度とか、共有するものが固まっていくと「これを乗せても大丈夫」みたいな感じですね。

松永:新しいことをやるためには、違うタイトルをやるしかない、そうじゃないとできないこともたくさんあるとは思うんです。でも、“同じタイトルを長年やっているからこそできる新しいこと”っていうのもあるんだなというのがすごい発見だなって。

小高:たしかに僕が『ダンガンロンパ』をやっていたときもそうだったかもしれないです。僕の場合は完全に新規のお客さんを狭める形でやっていましたけど、『1』の展開があったから『2』をこの展開にしてやれーみたいなのはありました。

 そういう『1』、『2』をやった人が遊ぶからこうなる、みたいなのは楽しかったですね。それは完全新規のタイトルではできないことなので。

松永:それは『チェンクロ』も同じかもですね。前シリーズがあるから、今回はこうしますね、というのを楽しんでもらおうっていう。小高さんはToo Kyo Gamesを立ち上げて完全新規のタイトルをいくつも作られていて、だからこそできることもあると思いますが、どうですか。

小高:はい、逆にナンバリングを作るなら作るでおもしろいことは別としてあると思っています。

1,000人超えのキャラクター錬成術
バックボーンで差をつける

小高:『チェンクロ』ってキャラクターが膨大じゃないですか。それってどう魅力的に作るんですか?

松永:……もう、自分たちでもよくわからなくなってきているところではありますね(笑)。

小高:膨大な蓄積されたデータがあるじゃないですか、こういうキャラは人気が出やすいとか。そこから導きされた、口調だったり初対面のインパクトなのか、ギャップなのか。

松永:最初の頃はギャップを大事にしていましたね。キャラストーリーを個別に用意したのはうちが初めてだったので、見た目はこうだけど中身は実は……みたいなよさを意識して出していました。

 あとは掘り下げも大切にしていて、“実はこういう過去を抱えていてキャラストーリーで悩みを超えて前に進む……”みたいなストーリー性が魅力を作っていました。でもそういう話はひとしきりやってしまって、これ以上の成長物語の幅がもうないという状態に至っています(苦笑)。

 最近は誰とどう絡むキャラなのかという、関係性が大事かなと思っています。いろんな成長の物語を1,000人以上のキャラにやってもらったので、自分自身を語るストーリーには限界がありますが、すでに魅力が発揮できているキャラクターとの関係性によって、魅力を出すという。

小高:では“こういう設定のキャラは受けそう”とかいう作り方ではもうないんですかね。

松永:そうですね。かつてはそういう視点で作っていたんですけど。100人とか200人とか考えるにあたっても、一般的なキャラクターづくりとは結構違っていて。10人前後のキャラクターで繰り広げられる、一般的なゲームやアニメだと、基本的なキャラクタータイプを被らせないようにしたうえで、細かな個性を設定していくと思うんですが、チェンクロの場合は基本的なタイプは絶対になにかしら被るので、細かな個性のほうで絶対に被らない要素を設ける、みたいな作り方をしていました。

 とはいえ新キャラを出す機会は昔より減っていて。過去のバックボーンも掘り切ってしまったキャラに、さらにどう活躍してもらうかみたいなところを今はやっている感じですね。

小高:全キャラの設定って覚えているんですか?

松永:全員の全部は覚えきれていないですね……。

――だからこそさっき話していたように、キャラが出てきたシナリオを新しく作るたびにチェックして読み直すという工程が必要なんですね。

松永:そういうことをみんなでやっています。

小高:ということは、キャラでストーリーが動いていく感じなんですね。

松永:そこは完全にキャラ駆動だと思います。だからキャラが何をしたかを覚えておくことは小高さんがおっしゃっているように大事で。『チェンクロ3』が始まってしばらく、リリースから4年目ぐらいまでは全キャラの名前もバックボーンも覚えていたんですが……。

 今ではライティングに専念しているメンバーも全部覚えていることは不可能なので、必要な情報を総ざらいして読んでやっていくという運用になっています。だからシナリオを作るのも、すごいカロリーになっています。

1部・2部での作り方から変わった
『チェンクロ3』メインシナリオ作り

小高:今、何人ぐらいでシナリオやられているんですか? イベントとかも含めて。

松永:タイミングによりますけど、基本的に関わっているのはひと桁ですね。10人未満です。

小高:あまり大人数になりすぎても共通項がわからなくなってしまいますからね。

松永:はい。かといって1人でやりきるのも難しくて。『チェンクロ』2部までは、メインストーリーが1つだったので、書くこと自体への重圧もすごくて。それを隔月ぐらいで書き続けてもらうのはすごく難しかったので、『チェンクロ3』では主人公を5人立てて、それぞれメインライターさんについてもらって、そのメンバー中心で回すようになりました。今もそれに近しいような体制でやってもらっていますね。

小高:ガッツリ分担してやっているんですね。

松永:キャラを掘りかえす作業も時間がかかるようになってしまったので、物理的にも大変になってきて。途中からは本当に週刊連載をやっている感覚に近かったです。それを作家さん1人に全部書いてもらうのは大変なので、連載漫画から連載漫画雑誌を作るように変化して、連載陣が5人いて……というような形にしたんです。

小高:そうなると、『チェンクロ』のなかでもライターのクセとか出てくるじゃないですか、たとえば句読点の打ち方とか。そういうのは許容するのか、上がってきたものをならしていくんですか?

松永:ある程度のルールはあるにはあります。でも句読点の打ち方でテンポやテイストも変わってきたりするので、ある程度そこは許容するようにしています。今となってはその答えはわからないですけど、7年ずっとストーリーのある作品をやっていて、ずっと同じ読み味でいいのかなという考えは途中からあって。むしろ第3部は、各メインストーリーごとの個性を重んじました。

小高:それこそ昔のアニメとか、特撮、例えば『仮面ライダー』シリーズとかでも「誰々脚本だ!」みたいなのはあって、ああいうのはいいのかなと思いますね。一貫性がある意味出ないでも、「今週は癖のあるやつがきたぞ」みたいな。

松永:わかります。シリーズごとでいうと、究極「“仮面ライダー”であればいい」というところでラインが引かれていますよね。

小高:僕はほとんど1人で書くので、どうやっているのか気になっていました。アニメで言う“本読み”みたいなのをやるんですか? 上がってきたシナリオをみんなで読んで討論するような。

松永:『チェンクロ3』だと違う主人公同士が絡むところを用意していたので、そのときとかは特にそういうことをやりましたね。

小高:基本そこ以外はライターさんと松永さんチェックで?

松永:そうですね、3はそれぞれ「個性を出そうぜ!」という方針だったので、こっちは不良モノみたいに殴って解決なアクション活劇、こっちはほのぼの系、みたいに全然違う内容なので、各々で進めてます。それで、ここ4年はやってきました。そのテイストの差とかはユーザーさんに楽しんでもらえたのかなと思います。

小高:じゃあ今はライターさんもほとんど固定して、長くやっている方が多いんですか。

松永:そうですね。レギュラーのメンバーが書いている感じですね。それで今も4部はおなじみのメンバーで書いてもらっています。

小高:それも長くやっているからこその強みですよね。

松永:4部は、1・2部と同じように一本の大きなストーリーに戻るんですが、世界ごとにテイストを変えつつ、ひとりにプレッシャーが積み上がらないように、4部では訪れる世界ごとに担当ライターが変わるという形式でやっています。なにしろ異世界で、これまでの世界とは異なる場所での冒険なので、今まで以上に「そんな設定でやるんだ」という個性的な世界を描くことにチャレンジしてもらっています。

 4部では1,000人を超える仲間キャラクターたちの中から、世界ごとにレギュラーメンバーが決まって、そのメンバーたちと新世界を冒険するという形式をとっています。新しい世界を冒険するだけでなく、そこに一緒に誰と行くのかというところにも楽しさが新しく作れないかなと思っていますね。

小高:オールスターじゃないですけど、あえて今までのキャラクターを使ってみたいな感じですかね。

松永:はい。第3部でも、たくさんのキャラが登場してという感じはあったんですが、あくまでもシーンに登場するという感じで、一緒に冒険する仲間という感覚はちょっと薄かったんです。今回はオールスターと一緒に旅する感じを、楽しんでもらえればと。

――1,000人もいると、選抜することの難しさとかはあるのでは?

松永:そうですね。やっぱりユーザーさんによって好きなキャラは異なるので。

小高:でもそれって純粋にキャラクターの人気順とかではないんですよね。逆に“こいつはもっと人気を上げてやりたい”みたいなキャラが選ばれたりしたらいいですね。

松永:はい。人気順とかでルールが決まっちゃうと、もうこのキャラは出てこないだろうなって、先を期待する楽しさがなくなっちゃうので。むしろ、こういう世界観だからこのキャラが合いそうと思ったら、いままで影が薄かったキャラでもあえて入れる形にしたりしていこうと思います。

小高:逆に下のほうから順番に選ばれた『アストロ球団』みたいなチームがいても熱くなるかもしれませんね。『エクスペンダブルズ』みたいな。

松永:それ熱いですね(笑)。『チェンクロ』では、人気ランキングが低いキャラでも熱量が高いファンがついていることもたくさんあって。“上位の人気キャラももちろん出るけど、こっちもちゃんと出るんだな”というのを楽しんでもらえればと思っています。

――今までは大陸や所属ごとの組み合わせで描かれることが多かったと思いますが、4部ではそういった枠組みを超えたやりとりも増えるのでしょうか。

松永:そうですね。むしろ、所属はかぶらないよう意識してるので、今までなかった新しい組み合わせが増えるのではと思います。

小高:無限に可能性ありますよね。なんでもできそう。

松永:今も1章、2章、3章と違ったライターさんにプロットを書いてもらっているんですが、今のところメインストーリーと思えないほど全部展開が違っていておもしろいです。

 個人的には王道展開というか、RPGと言えば魔王を倒せがほぼすべてというか。“主人公が成長体験をして、途中四天王みたいなのを倒して最後に魔王を倒します、四天王みたいなのは仲間になります”みたいなのがぶっちゃけ一番黄金比というかわかりやすい体験だなと。

 RPGを作るならそれが基本軸だと思って1・2部をやってきたんですが、4部は各作家の個性で、それとは違うものが生まれるかもしれません。4部は、今までのクロニクル世界と異世界とがぶつかってしまった、それによって何が起きるかわからないというところが物語の概要になるので、魔王なんていない世界も出てくると思いますし。

 とはいえユーザーさんがずっと長く遊び続けてくれているゲームなのもあって、こだわっていることが1つあって。長く続けている以上、毎回の大きな物語は、ハッピーエンドにしよう、というルールはあるんです。

小高:でもそれが続けていく中で変わって、壊れる可能性もあるのでは?

松永:たしかに。可能性という意味では、あるかもです。『チェンクロ』も7周年のタイミングでそのルールを破った、“黒騎士伝”という悲劇しかないようなストーリーを配信して、「今までと違う」という声をたくさんもらって。否定的な声も強かったので、特別な理由がない限りは、と思っていますが、そういったことも含めて、ユーザーさんの声を聞いて変わり続けていく以上、可能性はありますよね。

スマホゲームにおけるシナリオ論
ストーリーはそもそも必要なのか?

小高:『チェンクロ』からスタートして『Fate/Grand Order』とかがあって、スマホゲームでもシナリオをガッツリ読むようになったという感覚はありますか?

松永:ちょっと前まではその感覚が強かったんですけど、また最近わからなくなっている部分でもありますね。実も蓋もない話ですけど、シナリオをガッツリ読むのって、けっこう大変ですからね。スマホゲームの本質に、大変なのは嫌、というのがあると思うので、その流れがあらためて強くなってる部分もあるなと感じます。

小高:どのぐらいストーリー部分に期待しているかもわからないですよね。やっぱり飛ばしてしまうという人もいるとは思いますし。

松永:はい。7年経っても、一定の割合でストーリーを飛ばすユーザーさんは、やはりいますね。とはいえ、本当の意味で“ストーリーが全く必要ない”と思っている人は実は少ないと思っていて。世界観とかバックボーンがあるから、キャラを使っていて楽しいというのは明確にあると思うんですよね。なので“飛ばされても別にいいので、ストーリーは置いておこう”と思っています。

 また実際問題、皆さんが読んでくれるかという話とは別に、ストーリーに対する期待が“ないのが普通であったらすげー”だったのが、“あって普通”になってきているという話はありますよね。

小高:「ちゃんとシナリオでもおもしろくさせてよ」という声ですね。どんどん作りがリッチになっていますよね。

松永:シナリオだけでなく、なんでもリッチになってきましたよね。逆にコンシューマの作品を作っている中でそういう変化みたいなものはありますか?

小高:スマホゲームも同じだと思うんですけど、“戦う相手が強すぎるな”というのはありますね。同じ値段で『Ghost of Tsushima』があって、僕の出すゲームは同じ値段でも予算はまったく違うと。そういうのがあるから、リッチには勝てないですね。

 だからこそ、そっちではできない、他にはない要素を入れようと思っています。『ダンガンロンパ』のときはそれがデスゲームだったかもしれないし、この作品でしか味わえないテイストは絶対入れないと並べないなと。『デスカムトゥルー』を作ったときは実写だというところとか。そういう1個の武器で戦うしかないです。

 スマホゲーもそうじゃないですか? 中国産のタイトルもリッチなものがたくさん増えてきていますよね。

松永:ですね。当時チェンクロを作ったときなんかは黎明期で、今の日本のゲームと比べても予算感が低かったので。この前ニュースで見た中国のゲームは、当時のチェンクロのほぼ100倍の予算でしたね。100倍って、って思いました(笑)

小高:そういう意味では“『チェンクロ』をやれば今日も1日ハッピーに寝れるぞ”じゃないですけど、ハッピーエンドに1つこだわるというのはいいのかもしれませんね。

松永:小高さんの言う、その作品だけのテイスト、ですね。たしかに、どんなに他にリッチなものが並んでいても、このゲームなら自分が求めている何かをちゃんと満たしてくれる、というのは超大事なことだと思います。ハッピーエンドがもたらす安心感が、大事なのかもしれません。

小高:安心感があるサービスというかゲームというのもアリかなと思いますよ。

松永:そうですね、サービスでもある運営ゲームだからこそ、安心感は大事だと思います。そして、それを大事にしているからこそ逆に変化をいれたとき、効果的にそれを感じてもらえるというのもあると思いますし。

小高:仕事で疲れてたら『The Last of US』みたいなのはやれないもんなぁと今思いました。疲れて帰ってきて『The Last of US』はちょっと重いな……と。

松永:それは忙しいとき、映画館に足を運ぶのを敬遠するのと、ちょっと近い感覚かもしれませんね。

小高:寝っ転がってプレイできる手軽さってスマホゲームの1つの武器だなと思っていて。コンシューマは座ってないとできないので。僕は自分が作るモノはコンシューマでも手軽にしたいなと思っています。逆にスマホゲームを作るんだったらコンシューマみたいな感じがいいっていう。単純に“逆張り”しがちなだけかもしれませんが(笑)。

松永:僕も逆張りしがちですね(笑)。『チェンクロ』もスマホゲームだけど本格体験を売りにしようと思ってというのがスタートなので。

小高:それが作っていておもしろいのかもしれませんね。

松永:それでユーザーさんが驚いてくれたときが一番うれしいですよね。市場にそういうものがなかったけど、ユーザーさんが実は求めてくれていて、ちゃんと喜んでもらえたら勝ちかなと思います。

膨大になるマーケティングデータ
それがゲームに与える影響は?

小高:『チェンクロ』ぐらい長く続いているゲームになると、マーケティングデータ的なものも出てくるわけじゃないですか。そういうのって参考にしたりしますか?

松永:そういうデータは同じようなものを作ろうと思ったときには役に立ちますね。たとえば定期的な運営イベントを開催するときとかは、やっぱり以前のイベントのプレイデータを分析して、次につなげたりします。

 スマホゲームの市場って、似ているゲームが多いじゃないですか。あれって小高さんが言ったようにマーケティングのデータが明確にあって、“その通りに作れば同じぐらいの数字が出る”というのが証明されている世界だからなんですよね。だから運営だけでなく、開発の段階から、同じようなものを並べて、確実な結果を求めたりして。

 コンシューマはそこが違いますよね。本当に同じような作品が隣にあったら、「そんなの誰も買わない」という話になると思うんですよ。スマホゲームは比較的同じような体験のゲームでもユーザーさんが触れるタイミングが違うこともありますし、そもそも無料だから、いったんプレイしてみようかってなる。そうなったときはむしろ既存のゲームに似ているほうが安心だし、ずっと続けていくうえでは保証が効くみたいな感覚が強いのかもしれません。

 っていう感じで、マーケティングデータは重要です。でも、なんか逆張りしたくなるんですけどね(笑)。

小高:僕は他の会社のことをあまり知らないんですが、そこはやっぱりセガはゲームの会社だからデータだけでは作らんみたいなところはあるんですかね。

松永:セガだから、というのはあるかもしれませんね。なんせ社是が「創造は命」なので(笑)。でも本当、新規開発の部分だけですね。運営ではみんなデータは見ていますよ。あと開発でも、どういうタイミングでユーザーさんが離脱しちゃうとか、そういうのは意識しながら物作りはしています。

 個人的には攻守のバランスが大切だなと。ユーザーさんは逆張りとまではいかなくても、これまでのゲームと違う部分も重要視していて。安心して遊べるのはもちろんの上で、そのゲームを自分のスマホに入っているゲームで1番にしてくれるかどうかにその“違い”が影響していると思うんです。

 スマホゲームで、その人の1番になるってすごく大切で。2番目とか3番目のゲームって、ぶっちゃけそんなにやらないですよね。iPhoneのなかにアプリっていっぱい入りますけど、そのなかで毎日触るゲームって1個か2個じゃないですか。その1個か2個に選ばれるためには逆張りをしてでも、そのゲームにしかないものを入れるのが大事なんだなと思っています。

小高:じゃあ同じですね、存在意義みたいなものを出さなきゃいけないという。逆にそれさえあれば、よりリッチなものが来ても対抗できるんじゃないですかね。“これはこれだ”っていうものがあれば。

松永:ですね。だから中国や韓国産のリッチタイトルへの恐怖みたいなものはそこまでないかもしれません。

小高:僕もアドベンチャーゲームといっても『Detroit:Become Human』(SIE)とかと比べられても……というのはありますね。でも「ストーリーではそこよりもっと強烈なやつを作ってやるぜ」だったり、「もっと強烈な体験をさせてやる」とかがあればなんとかなるのかなって思います。逆にそんなにお金かけなくてもいいのでは? と思うこともありますね。

松永:お金をかけすぎると、作るのに時間がかかりすぎるというのもありますよね。

小高:飽きちゃうじゃんって(笑)。アドベンチャーのいいところって少人数で作れるところもあって。『ひぐらしのなく頃に』とかTYPE-MOONの作品もそうですし。チームとして意思疎通がしっかりできるというのもあるので。だからむやみに人を増やすのもいいとは限らないというか。

 アドベンチャーゲームってもともとが古臭いから、今さらもう古くならないみたいなところはありますよね。

松永:それはあると思います。意思疎通できなくなると、出来も悪くなっちゃうし。あと時間がかかる体制だと、他に先を越されても大丈夫なようにってアイデア勝負ができなくなるんですよね。

 あと運営を長く続ける上でも、お金かけすぎは要注意で。最近スマホのゲームでストーリーシーンを3Dでやるゲームとかも増えていて。1回ちょっと見積もってみたんですけど、それだと絶対『チェンクロ』は運営できないなって。作るペースとかも含めて、物語をどんどん届けようとすると、ちょっと合わないんですよね。

 だからキャラクターが出て、下にメッセージウィンドウが出るシンプルな作りの価値というか、作る側からすると“こういうストーリーやりたいな”と思ったときにすぐそれを作ってユーザーさんにお届けできる。そのメリットがあまりにデカすぎて、そこは変えないだろうなと思いますね。

小高:フルボイスでやったとしてもユーザーさんは読み終えたら飛ばしちゃうという方もいますしね。最後まで聞かないということは多いと思います。

 例えば『龍が如く』シリーズみたいに1つのセリフごとにカメラがちゃんと変わっていくようなものじゃないと厳しいなあと。普通にイベントとして見せられると、“さすがに飛ばさせてよ”ってなるという。

松永:フルボイスもやってみたくはあるんですけどね。

小高:セリフの最初だけボイスが付く、パートボイスで十分っていうことはあると思います。

松永:パートボイスよいですね。フルボイスにすると、シナリオを描き上げてから世に出るまでの期間がすごく変わるじゃないですか。あと、収録したら変えられないというのは大きいですよね。そこが運営としては非常に難易度が高いです。

 ちょっとここを細かくギリギリまでよくしたいみたいなことがあったり、最後に力入れたシーンとかセリフとかでユーザーさんの感じ方が変わるのを考えると、『チェンクロ』を運営していくうえでは今のやり方……古風ですけどそういう風にストーリーをどんどん提供させてもらうのが一番ベストなんだなと思っています。

作りながら出すスマホシナリオ
完成してから出すコンシューマ

小高:1章辺りのストーリーを用意するのにどれぐらいの期間がかかっているんですか?

松永:だいたい『チェンクロ3』のメインストーリー1章とかだと、2週間から3週間ぐらいかけてですかね。早くて……ですが。シナリオ部分だけでそれで、そこから演出を入れて、バトルを入れてみたいな。

小高:どれぐらいストックを作っているもんなんですか?

松永:……全然ないですね(苦笑)。

小高:それってドキドキしませんか?

松永:「誰か倒れたらどうするの?」というのはありますね。1章ぶんくらいは、先に作ってあったりするんですが、そもそも最近は運営イベントがストーリーと連動してたりするので、先に作ってあるものと入れ替えで済まないことも多くて。なのでその場合は、むしろ自分やまわりの作家陣で引き継いで、なんとかその章を書き上げちゃう、という対応ですね。

小高:かなりライブ感のある作り方なんですね。

松永:ですね。でも今ぐらいの大変さとライブ感でできるなら、それをやっていくべきなのかなと思います。臨機応変に、運営側のイベントと連動させたりとか、ユーザーさんの反応見てちょっと調整入れたりとか、すごくプラスなことが多いので。

小高:コンシューマで作っていてもお客さんの反応が気にはなったりしていましたね。“ここの反応が大きいんだったら、もうちょっとこうしたいぞ”みたいなのは作っていてありますよね。

――小高さんは『ダンガンロンパ』の『2』、『3』と作るときに、前作の反応を集めたりしましたか?

小高:“僕がユーザーだったら”ということを考えていました。あまり反応を集めたり見なかったですね。そうやっていたらもうちょっとちゃんとしてたかな……。『3』なんて死ぬほど叩かれましたからね! 僕がユーザーとしてひねくれていたせいもあって、おかしなこともあったのかなあと。

 『ペルソナ』シリーズとかもナンバリングで変わっていますが、根っこは同じだなあと思います。超えない一線はあって、“ここから先には踏み込まないのね”みたいなところは統一されていると思っています。同じ雑誌感はありますね。

――『ダンガンロンパ』を作るときは同じ雑誌感みたいなのは意識しましたか?

小高:むしろ『ダンガンロンパ』は雑誌を変えようとしていました。しかも『2』を王道の「少年ジャンプ」にしたくなっちゃって。『1』はちょっとひねくれたものにしないと新規タイトルなので注目浴びないなと思っていたので。

 僕はもともと「ジャンプ」が好きなので『2』はそうしてみました。そうしたらユーザーが増えて、『3』でも「ジャンプ」っぽいものを期待されていたところで……また作風を変えてしまったので(笑)。

 僕としては『3』はPS4とVitaになったので、ハードが変わるとさっきの話のようにストーリーも変わるでしょうという感じだったんですが。

松永:雑誌のイメージがあるんですね。僕は『2』が一番好きだったんですけど「少年ジャンプ」と言われてピンときました。少年漫画感が一番高いんですね。

小高:そうですね。『2』が一番多くの人に受け入れてもらえるかなと思って作ってはいました。

松永:『ダンガンロンパ』シリーズから先、今作っている作品群もそれぞれ読み味が違いますよね。

小高:全然違うと思いますね。でも僕は違うと思って作っていても、やっている人はある程度は感じ取る“テイスト”みたいなのはあるかもしれません。極端にまったく違うものをしてやろうとも思わないし、同じこともしたくないと思っていて。自然と別の作品をやろうという感じです。

 たとえばミュージシャンとかでも前のアルバムの評判がよかったら次のアルバム変えてくるじゃないですか。昔を否定するかの如く“変えすぎ!”みたいな(笑)。それよりは違うアルバムだけど、同じ魅力もあってみたいなのがいいなと思っています。

→後編に続く。次回はおふたりが影響を受けた作品について伺いました。

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