2010年3月24日(水)
麻枝准さん書き下ろしの『Angel Beats!』前日譚小説第1話を限定公開!
4月から放送開始するTVアニメ『Angel Beats!(エンジェルビーツ)』。その前日譚が描かれる小説『Angel Beats! -Track ZERO-』の第1話を掲載する。
『Angel Beats! -Track ZERO-』は、アスキー・メディアワークスの美少女キャラクター誌『電撃G’sマガジン』で連載されているオリジナル小説。『Angel Beats!』の原作・脚本を手掛けている麻枝准さんがシナリオを、『CLANNAD-クラナド-』のサイドストーリー集『光見守る坂道で』のイラストを手掛けたごとP先生が挿絵を担当。理不尽な人生を与えた神に反抗するための組織“死んだ世界戦線”立ち上げまでの物語が描かれていく。
電撃オンラインでは、『Angel Beats!』特集企画の一環として『Angel Beats! -Track ZERO-』の第1話を掲載する。第2話以降を掲載する予定はないので、続きは『電撃G’sマガジン』のバックナンバーか、モバイルサイト“美少女キャラゲー 電撃G’sモバイル”でチェックしてほしい。
![]() |
---|
『電撃G’sマガジン』2009年11月号掲載
『Angel Beats!』前日譚小説
『Angel Beats! -Track ZERO-』第1話 『二人のロケット』
Word:麻枝 准(Key)
Illustration:ごとP
Character Design:Na-Ga(Key)
屋上のフェンスに登り、この学校の一番高い場所から周囲を見渡す。
校舎棟から一段低くなったところにグラウンド、その左手奥にテニスコート、講堂のようなものまである。
とんでもなく広い敷地を有していた。
そして、その向こうの世界を俺は探した。
ただ広い森が広がっていて、その先は薄く霞がかっていてよく見えない。
「なんなんだ、ここは……外の世界はどうなってんだ……」
「せーのっ」
後ろで女の声がした。
どすっ!
「うわああああぁぁぁぁぁーーーー………」
「はっ」
気づくと、ベッドに横になっていた。
白で統一された室内。
保健室だった。
隣にはヘアバンドをした見知らぬ女生徒。
「なあ……」
「あなたが言いたいことはわかるわ。そう、あなたが考えてるとおりよ。言わなくてもわかるわ」
「なんのことだよ! 言うよ!! 蹴り落としてくれたのはてめーかよっ!! 死ぬとこだったろ!! つか、あの高さから落ちてよく生きてたな、俺!! 奇跡が起きたよ!!」
「あら、死ぬかどうか試そうとしてたんじゃないの?」
「どんな度胸試しだよっ」
「なあんだ。思ったよりバカなのね。とっくに気づいてるのかと思った」
顎に手に当て、鼻から息をふんっとひと吐きし、呆れたようにそっぽを向いた。
「なんの話だよ」
「あなたたち、授業どうするの?」
ヘアバンドの女生徒の向こうから別の女性の声がした。養護教諭のようだ。
「あー、出ます」
女生徒が振り返り、そう返事をしていた。
「場所を変えましょ」
直後、チャイムが鳴り渡った。
![]() |
---|
女生徒について、再び屋上に出る。
「で、なんだって? 俺が何に気づいていないって?」
「ここが死後の世界だってことよ」
「はあ? わけがわかんねぇ」
「あなたには死んだ記憶があるはず。目覚めたらここにいた」
はっ、と息をのむ。
俺は死んだのか……。
最後の記憶を辿(たど)ってみる。あれは事故だった。
迫る大型トラック。
俺は酩酊としていて、かわすことはおろか、動くことすらできなかった。
訪れる衝撃。空と地面が何度も入れ替わって見えた。
やがて止まると、空を見ていた。体がズタボロなのがわかる。とにかく全身隈(くま)無く痛い。
いてぇ……いてぇ……と俺は繰り返し呟いていた。
死ぬんだな……という確かな予感とともに、意識を失った。
次、目覚めたら見知らぬ学校の敷地内に倒れていた。
見知らぬ制服を着ていた。怪我はなく、五体満足だった。
同じ制服を着ている奴らが学校に登校していた。
呆然と立ち尽くしていたら、生徒会長と名乗るひとりの女生徒が俺の手を引っ張っていた。ついていったら、自分の席があった。
教師がやってきて、朝のホームルームが始まった。
見知らぬクラスで、俺の名前が呼ばれた。
いないのか、と問われたので、います、とだけ答えた。するとその間抜けさにか、女生徒たちから笑いが漏れた。
そのまま次の奴の名前が呼ばれた。
そうして出席は取られていった。
どういうシステムになってんだ、この学校は。突然現れた奴の席が用意してあり、誰もがそれを自然に受け入れる。
なんなんだ、ここは……。
「ようやく理解した顔ね。じゃ、やることはひとつね。結託しましょう」
「いや、なにひとつ理解していないから。困惑のただ中だから。そもそも、おまえは誰だ?」
「人間よ」
「馬鹿にしてるのか?」
「あなたねぇ、少しは頭を使いなさい。あたしをあまり失望させないで。これからこんな奴と組むのかと思うと、うんざりしてくるわ……」
「言いたい放題だな……」
「じゃ、考えてみなさいよ」
「く……」
目の前にいるのはどう見ても人間じゃないか。俺だって人間だ。
ん……?
「じゃあ人間じゃない奴がいるってことか……?」
「二十五点」
「点数なんて聞いてねぇよっ、答えろよっ」
「だから、あたしを失望させないでって言ってるでしょ」
男の俺がうろたえるほどの目つきで睨まれる。
なんて女だ……。美人ではあるが……。
人間じゃない存在……。
確かに俺は、突然現れたはずの“俺”という存在を、それまでもずっといたかのように受け入れたクラスの連中に、薄ら寒いものを覚えた。
「え、まさか……あいつら生徒が人間じゃない?」
「八十点」
「嘘だろ……じゃ、なんだって言うんだ……」
「先に満点取ってくれるかしら?」
「じゃあ、教師たちも人間じゃない」
「九十点」
いいぞ……。あと、十点だ。
「わかった! 残るはモンスターで学校の外を徘徊してるんだ!」
「あー、やっぱアホだったかぁ! こいつは残念! 他の奴を探すわ。さようなら」
背を向けて、去っていこうとする。
「待てよっ、ここまできて、そりゃねぇだろっ、教えろよ!」
「なら答えなさいよ。今、最大のヒントをあげたわよ。これで無理なら今度こそ、さようならね」
どうしてだろう……。これだけ言いたい放題言われておきながら、こいつに見放されてしまうことに不安を覚えた。
クラスの連中にはなかった、人間味を感じる。そう、こいつこそが初めて出会えた本物の人間なんだ。見放されたくない……。
そして、こいつはこの世界について知っている。それを知る資格を今、試されているのだ。
(C)VisualArt's/Key/Angel Beats! Project
- ▼『Angel Beats! -Track ZERO-』
- ■発行:アスキー・メディアワークス
- ■発売日:2010年6月23日
- ■予価:1,890円(税込)
- ■『Angel Beats! -Track ZERO-』の購入はこちら
-
- ▼BD『Angel Beats!』第1巻(完全生産限定版)
- ■メーカー:アニプレックス
- ■品番:ANZX-6401
- ■発売日:2010年6月23日
- ■価格:7,350円(税込)
- ■BD『Angel Beats!』第1巻(完全生産限定版)の購入はこちら
-
- ▼DVD『Angel Beats!』第1巻
- ■メーカー:アニプレックス
- ■品番:通常版 ANZB-6401/完全生産限定版 ANZB-6401
- ■発売日:2010年6月23日
- ■価格:通常版 5,250円(税込)/完全生産限定版 6,300円(税込)
- ■DVD『Angel Beats!』第1巻(通常版)の購入はこちら
-
- ■DVD『Angel Beats!』第1巻(完全生産限定版)の購入はこちら
-