2013年4月25日（木）
『バイオショック インフィニット』は人種差別や歴史の闇に真っ向から取り組んだ意欲作！ その“毒”のある世界観を考察レビュー
■ブッカーが働いていた“ピンカートン探偵社”って、どんなところ？■
本作の主人公であるブッカー・デュイットは、酒やギャンブルのために多額の借金を背負った私立探偵です。ブッカーは、「コロンビアからエリザベスを連れ出してニューヨークまで届けろ」という依頼を受けて、コロンビアへと潜入しまずが、その報酬は借金を帳消しにするというものです。
ブッカーは過去に軍隊にいた経験があり、軍を辞めた後はピンカートン探偵社で働いていたという設定になっています。そしてピンカートン探偵社から独立して、個人で私立探偵を開業したのです。
軍隊での経歴は後で触れるとして（※この部分も意外と重要だったりします）、ブッカーが以前に働いていたピンカートン探偵社とは、いったいどんなところだったのでしょうか？ 実はこの点が、19世紀後半から20世紀初頭のアメリカ社会の問題を浮き彫りにする、重要なポイントになっているのです。そしてそれは、コロンビアの社会とも大きく関わってきます。
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| ▲ゲーム中に何度か登場するブッカーの夢の中では、彼の探偵事務所の様子が描かれています。事務所のテーブルの上には酒の空き瓶と一緒に、競馬の出走表と外れ馬券が置かれています。 |
アラン・ピンカートンが1852年に創設したピンカートン探偵社は、アメリカ南北戦争の際、リンカーン大統領の警護を担当しました。その一方でピンカートンは、南部の支配地域に潜入して敵軍の情報を収集する、スパイの役目も請け負いました。
南北戦争の終了後、西部の荒野を列車強盗や駅馬車強盗が暴れ回るようになると、ピンカートン探偵社は高額の賞金と引き替えに、彼らを追跡する仕事を請け負いました。19世紀後半のアメリカには、州をまたいで広域捜査を行う司法組織が存在しませんでした。現在のアメリカでFBIが行っている役目を、当時はピンカートン探偵社が代行したのです。ジェシー・ジェイムズやワイルドバンチ強盗団といった、今なお伝説として語り継がれている西部のアウトローたちが、ピンカートンの捜査員による追跡を受けました。
しかし、こうした華やかな仕事の陰で、ピンカートン探偵社の主力事業とも言える仕事が存在していました。それは炭鉱や工場で働く労働者の監視と、彼らが行うストの妨害です。
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| ▲本作のロード画面の背景をよく見ると、ブッカーがピンカートン探偵社に所属していた際の証明書と、探偵である証しのバッジが描かれています。これによるとブッカーは、1892年の1月にピンカートン探偵社へ入社したようです。 |
南北戦争で北部が勝利して、アメリカ全土で急速に工業化が推し進められるようになると、工業資源を採掘する炭鉱や、製品を加工するための工場で、大勢の労働者たちが過酷な労働条件で働かされるようになりました。これに対して労働者たちは組合を組織し、時にはストライキを行ったりして、労働条件の改善を訴えるようになりました。
すると経営者側は、労働組合の内部にピンカートンの探偵をスパイとして送り込み、労働者の動向を監視・密告するようになったのです。さらに労働者がストを行うと、ピンカートン探偵社は“実力行使”でストを妨害したり、労働者を現場から排除したりといったことを行いました。ブッカーが自分の経歴を「自慢できるような仕事じゃない」と自嘲するのは、こういった背景があるからなのです。
ショーン・コネリー主演の映画『男の闘い』は、アイルランド系移民の労働者が“モリー・マガイア”と呼ばれる秘密組織を結成している炭鉱に、ピンカートンの探偵がスパイとして潜り込み、組織を瓦解させたという実話を映画化しています。ピンカートン探偵社の仕事の実態という視点だけでなく、労働者の生活ぶりや登場人物の服装など、本作の参考になる描写がいくつも登場しています。
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| ▲コロンビアの支配階級と対立する立場にある“ヴォックス・ポピュライ”は、この都市の住人たちには社会を混乱させるテロリストとして宣伝されています。お祭りの屋台では、“ヴォックス・ポピュライ”を的にした射的ゲームが出店しているほどです。 |
空中に浮かぶハイテク都市のコロンビアは、過酷な環境で働く労働者たちに支えられている高度な工業社会です。それゆえ現状に不満を持つ労働者の中には、“ヴォックス・ポピュライ”と呼ばれる過激派組織に身を投じる者も出ています。本作の時代設定である1912年の5年後には、ロシアに世界初の社会主義国家であるソビエト連邦が誕生します。本作には、この時代のそうした空気も反映されているのです。
さて、コロンビアが歩んできた歴史には、これ以外にも現実の歴史で起こった2つの事件が大きく関わってきます。次のページでは、ブッカーの過去にも関係する、この2つの事件について見てみましょう。
→知っているとより本作を楽しめる！ 2つの歴史的出来事（5ページ目へ）
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