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2013年4月25日(木)

『バイオショック インフィニット』は人種差別や歴史の闇に真っ向から取り組んだ意欲作! その“毒”のある世界観を考察レビュー

文:イトヤン

 エリザベスを救出したブッカーは、やがてコロンビアの中にある“英雄ホール”という場所を訪れることになります。ここはコロンビアの歴史を住民に紹介し、それと同時に預言者カムストックの偉業を称えるという、要するに戦争博物館のような場所です。ここではカムストックとコロンビアが関わったとされる、2つの歴史的事件が紹介されているのですが……。

『バイオショック インフィニット』
▲“英雄ホール”は、コロンビアと預言者カムストックにまつわる重要な事件を、ジオラマ風に再現した施設です。ブッカーとエリザベスがなぜこの建物を訪れるのか、そしてこの中で何が待ち受けているのかは、ぜひ実際のゲームで確認してみてください。

 このパートは、実際の歴史を知らなくても理解できるように作られてはいるものの、歴史についての予備知識があったほうが、よりいっそう楽しむことができるようになっています。そこでここでは、ゲームで語られる内容と、現実の歴史とを比較して検証してみたいと思います。

■ウンデッド・ニーの虐殺 ~それは“戦い”などではなかった~■

『バイオショック インフィニット』

 “英雄ホール”の展示されている最初の歴史的事件は、“ウンデッド・ニーの戦い”です。ここでの展示によると、コロンビアが空中に飛び立つ以前の1890年――当時はアメリカ陸軍第七騎兵連隊の指揮官だったカムストックが、ウンデッド・ニーの地でネイティブ・アメリカンの軍勢と激しい戦いを繰り広げて、大勝利を収めたということになっています。……これは実際の歴史をひも解くまでもなく、ゲームの中でもブッカーによって、はっきりと否定されています。

 実際の歴史においては、この事件は“ウンデッド・ニーの虐殺”として知られています。雪が降りしきるサウスダコタの荒野で、ゴースト・ダンスと呼ばれる宗教儀式に熱中するスー族に対して、アメリカ陸軍は「白人に対する反乱を企んでいるのではないか?」と疑いました。そして、スー族の戦士を武装解除しようとした時に銃が暴発したことがきっかけとなって、第七騎兵連隊の兵士たちは一方的な虐殺を開始します。この虐殺で、約300人ものスー族の人々が殺されたと言われています。

 この事件が当時のアメリカ社会で大きく採り上げられたのは、第七騎兵連隊が関わっているからでした。この事件の14年前(1876年)、カスター将軍に率いられた第七騎兵連隊は、リトルビッグホーンでネイティブ・アメリカンの軍勢と戦い、壊滅的打撃を受けています。現在では、このカスター将軍の軍事行動は周囲の反対を押し切った無謀な作戦だということがわかっていますが、当時はインディアンによる虐殺を受けたとされて、この戦いで死亡したカスター将軍は英雄とみなされました。そのため、ウンデッド・ニーの虐殺は、第七騎兵連隊がカスター将軍の復讐を遂げた戦いとして、声高に宣伝されたのです。

『バイオショック インフィニット』 『バイオショック インフィニット』
▲英雄ホールでのこの事件の展示は、当然ながら邪悪なインディアンが白人を襲撃し、それに対して預言者カムストックが、果敢に立ち向かったという内容に改変されています。

 しかしブッカー・デュイットは、この事件が第七騎兵連隊による一方的な虐殺であり、カムストックは部隊の指揮官でもなければ、この現場に立ち会ってもいないという真相を知っていました。なぜなら彼は、第七騎兵連隊の隊員として、この虐殺に関わっていたからです。ゲーム中に何度か出てくるブッカーの夢の中で、彼の探偵事務所には、第七騎兵連隊の制服につける記章が飾られています。ブッカーが軍隊を辞めて、ピンカートン探偵社に加わったのが1892年のことですから、おそらく彼は、この虐殺によって軍に嫌気が差したのでは? と想像できるのです。

『バイオショック インフィニット』
▲ブッカーの探偵事務所の壁には、第七騎兵連隊の軍服につけていた記章が、額に入れて飾られています。軍人としてのブッカーは、どうやらかなり優秀な戦士だったらしいのですが……!?

 ケビン・コスナーが監督・主演した映画『ダンス・ウィズ・ウルブス』をはじめ、現在では多くの映画で、当時の白人によるネイティブ・アメリカンの人々に対する弾圧の歴史が描かれています。ヴィゴ・モーテンセン主演の映画『オーシャン・オブ・ファイヤー』は、映画の題材となっているのは中東の砂漠で行われた競走馬レースなのですが、映画の冒頭でネイティブ・アメリカンの血を引く主人公が、ウンデッド・ニーの虐殺を目撃するという描写を見ることができます。

→中国の事件とコロンビアとの関係とは?(6ページ目へ)

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