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2013年4月25日(木)

『バイオショック インフィニット』は人種差別や歴史の闇に真っ向から取り組んだ意欲作! その“毒”のある世界観を考察レビュー

文:イトヤン

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■義和団事件 ~天空都市がはるか遠くの中国まで出張!?~■

『バイオショック インフィニット』

 英雄ホールに用意されている2つ目の展示は“義和団事件”です。義和団事件とは、1900年に中国の北京で起きた大規模な反乱のこと。中国の事件がコロンビアといったいどんな関係があるのか、まずは実際の歴史からひも解いてみましょう。

 19世紀後半の中国は清帝国が支配していましたが、イギリスとのアヘン戦争や、日本との日清戦争に敗れた清は、西欧や日本といった外国から不平等条約を結ばされて、さまざまな干渉を受けていました。この状況に不満を感じていた中国の民衆の間で急速に規模が拡大したのが、“義和団”と呼ばれる秘密結社です。義和団は中国拳法と民間宗教が融合した組織で、孫悟空や三国志の英雄たちの霊が乗り移ることで、刀も銃弾も通じない不死身の肉体を得られると信じていました。このように、義和団の組織は中国拳法がベースになっているために、英語では義和団事件のことを“Boxer's Rebellion=拳士の反乱”と呼んでいるのです。

 勢力を拡大した義和団は、首都である北京になだれ込み、外国人の排斥運動を繰り広げます。これに呼応して、清の西太后は列強各国に対して宣戦布告を行い、各国の公使館があった地域を軍隊で包囲しました。約2カ月に渡る攻防の結果、イギリス、アメリカ、ロシア、日本など列強8カ国の連合軍は北京を制圧し、これによって中国はもはや、独立国というより列強各国の半植民地状態になってしまったのです。

『バイオショック インフィニット』 『バイオショック インフィニット』
▲義和団事件の展示は、大軍で襲いかかる清朝の兵士たちに対して、天使に導かれたコロンビアが上空から舞い降りる……といった感じになっています。エリザベスの横にある旗に書かれている文字は“扶清滅洋”、つまり清朝を助けて西洋文明を滅ぼすという、義和団が掲げたスローガンです。

 実際の歴史では、列強8カ国の連合軍は近隣のロシアや日本が主力になっており、アメリカはそれほど多くの軍勢を派遣してはいません。これに対してゲームの中の世界では、カムストックが指揮官として華々しく活躍したという英雄ホールの展示はデマカセだとしても、コロンビアが中国まで出張して、義和団や清朝の軍隊を攻撃したのはどうやら本当の話のようです。なにしろ、この義和団事件がきっかけとなって、合衆国政府とカムストックの関係が悪化し、翌年にはコロンビアが合衆国からの分離独立を宣言することになったのですから。

 チャールトン・ヘストン主演の映画『北京の55日』は、あくまで欧米から見た視点ではあるものの、義和団事件の顛末を克明に描いています。また、ジェット・リー主演の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ 天地大乱』では、義和団事件の5年前という設定で、当時の中国の人々が邪教に魅せられて外国人排斥へと進んでいく様子を、中国人自身の視点から描いています。

■ふと立ち止まって考えてみることで、コロンビアの世界の奥行きが深まる!■

 気が付いたらつい、歴史に関するウンチクを長々と語ってしまいましたが、改めて念を押させてもらうと、『バイオショック インフィニット』は歴史についての予備知識が特になくても、心の底から楽しむことができる作品です。

 歴史好きの自分としては、現実のアメリカの歴史の裏でハイテクの天空都市が存在しているという、一種の歴史改変SFのような感覚にワクワクしてしまうので、今回のようなレビューになってしまいましたが、本作は他にもいろんな楽しみ方ができる、非常に懐の深い作品だと思います。

 やさぐれた中年探偵と、特殊な力を持つ美少女とのボーイミーツガール(?)という視点でもドキドキとした気持ちが味わえますし、エリザベスを警護する巨大なソングバードや、機械仕掛けの兵士であるモーターパトリオットなど、ユニークなクリーチャーが次々と登場するバトルものとしても、文句なしにエキサイトできるはずです。

『バイオショック インフィニット』
▲筆者のお気に入りは、コロンビアの子どもたちに大人気という設定のキャラクター、ディムウィットとデュークの2人組です。良い子のデュークと愚か者のディムウィットが、子どもたちにこの世界での常識を教えているのですが、それが現在の常識と微妙にズレているところが、なんとも楽しいんですよね!
『バイオショック インフィニット』
▲このマンガでは、愚か者のディムウィットが「この銃って重いよ~」と言っているのに対して、いい子のデュークは「真の愛国者は常に警戒を怠らないんだ!」と言っています。

 その中で筆者としては、緻密に作り込まれたコロンビアの世界をただ見て回るだけでなく、プレイの途中でちょっとだけ立ち止まって、“これにはどんな意味があるんだろう?”と考えることをオススメしたいと思います。コロンビアの世界を観察して、自分なりに考えてみることで、表面とは異なるまた新たな意味が見えてきます。本作の世界はそれだけの奥深さを備えていると、自信を持って断言できます。

 これを読んでいるあなたもぜひ、ブッカーやエリザベスとともに、天空の世界へ旅立ってください!

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