2013年6月19日(水)
――そんな中で、林さんは永田さんの、永田さんは林さんのどんなところに魅力を感じますか?
林:ダンスミュージックやゲームミュージックの明るい曲調の中に、あえて暗さを混ぜる永田の技法に魅力を感じますね。
あと僕は、『ローランド・TR-909』(ドラムマシン)や『TR-66』(リズムマシン)の機械らしい楽器を使うのが好きだけれども、永田はサンプラーを使いこなして楽曲を作ります。そこは真似できないし、昔からそこが好きだなぁとは思っていました。
永田:純粋なテクノを作っている人って“機材”が好きな人が多いよね。サンプラーメインの人は、フレーズや音の質感が好きな人が多い気がします。
サンプラーは、普通に録音した何気ない音を機材を使って歪めて、普通に聴いても聴こえない音を作るんです。僕は、その“煙たい音”が好き。汚れたまんまの音が好きだから汚して作ることも多いです。
林:昔、『サウンドブラスター16』を卒業して、新しい機材を会社から与えられた時に、永田はサンプラーを使って、1日1曲くらいのペースでブレイクビーツの楽曲を作ってたんです。
※ブレイクビーツとは、サンプラーや波形編集ソフトウェアなどを使用して、ドラム演奏のフレーズを録音、分解し、シーケンサーで組み立て直す音楽制作の方法。
永田:あれって、全然仕事に関係なかったね(笑)。
林:仕事とは関係ないのにすごいの作ってたんだよ(笑)。細かくサンプリングして、細かく打ち込んで。事情があってリリースはできなかったけどね……。永田はゲーム業界でサンプラー使わせたらトップクラスの打ち込みをしていたと思いますよ。
永田:例えば簡単に言うと、何かの曲の間奏からドラム音を切り抜いたものがブレイクビーツ。「ドンドンカッツカ」ってドラム音があったとしたら、僕はそれを「ドン」「ドン」「カッ」「ツ」「カ」って全部バラバラにして使うんです。普通の人は面倒くさいからやらないと思うけど、僕はそこまでやらないと気が済まない(笑)。
林:その“切る”という作業で便利なソフトもあるんですが、なぜか永田は使っていないというのも不思議でしたね。ソフトウェアテクノロジーに頼らないからテクノじゃないのかもね。
――職人気質ですね……。
永田:多分、聴く人は誰もそんなところに気が付いてくれない。でも、そう言ったこだわりは、クリエイターは皆持っているものだと思います。
林:『カラス』の音楽が評価されたのは、そんな永田の気迫あふれるドラムンベースがあったからだと思う時がありますよ。
永田の音楽の魅力を一言で表すと、“リズムが歌ってる”だと思う。リズムがメロディなんです。だから、リズムだけ聴いていても飽きない。
永田:何それ、カッコイイ(笑)。
林:じゃあ、俺の曲の魅力は?
永田:わかんないな~!
(一同、爆笑)
永田:林とは長いこと一緒に仕事をしているから、なんの心配もないんです。信頼しているから。僕も林も、結構他人の作る楽曲に厳しい一面があるんです。林に自分の作った曲を聴かせた時に、「手、抜いてない?」って言われるんじゃないかって心配になるから、いまだに緊張感があって、一生懸命作っちゃうんだよね。
林:ホントに、「手、抜いてない?」って言う時もあるしね(笑)
永田:突っ込まれる時に限って、本当に手を抜いたりしてるから、気を付けないとって思うよ(笑)。
▲林さん撮影による永田さんの写真。普段から、iPadで永田さんの写真を撮って、無断で使用しているとのこと。 | ▲仕返しに、永田さんが林さんを撮影した写真。 |
▲取材中のミゲルを、iPadで撮影しだす林さん。 |
――お互いに、相方の作った楽曲の中で好きなトラックはありますか?
永田:林の作った曲の中では、『カラス』の『Sex pervert of a silence』がいいですね。僕が林に「ガバ(ハードコアテクノの中の1つ)を作って」ってリクエストして作ってもらったものなんです。今まで、リクエストすることなんてなかったから、珍しい楽曲。この曲も、いろんなリミックスのバージョンがあって、最後が「Bitch!」だったり、「I Love You」だったり、「さよなら」で終わったりしておもしろいんだよね。
『Sex pervert of a silence』サンプル
あとは、『ラジルギノア』の『Liver Dysfunction.』が好き。この曲は、林の“Orbital(オービタル)”好きの要素が表れていておもしろいと思いますよ。
※オービタルとは、イギリスのテクノユニット。アンダーワールド、ケミカル・ブラザーズ、プロディジーらと並び、1990年代のテクノシーンを代表するアーティストだ。
『Liver Dysfunction.』サンプル
林&永田:『Are We Here?』(オービタルの代表曲)だよね。
永田:これは名曲。『Snivilisation』ってアルバムに入ってるから絶対聴くべき!
林:永田の曲は、『イルマティックエンベロープ』の『I Wanna Be With You In This World』が好きだな。これはリミックスより原曲のほうが特にいい。大きいゲーム音楽イベントに出演した時に永田が流していて、それがすごく気持ちがよかったんだよねぇ。
『I Wanna Be With You In This World』サンプル
あとは『Nostalgia』が好きだな。居酒屋で一番最後にお茶出されてほっとするような感覚があるんです。「聞いてよかったね」って言える曲ですね。
――自分が作った曲の中ではどれが一番好きですか?
永田:新しい曲が好きです。昔作った曲にあんまり自信がないんですよね。だから、自分の曲の中でどれが一番好きってのはないかなぁ。一番新しい曲を聴いてもらいたいって思います。
例えば『1000 Clouds』だったら、今回発売する『Sakura Flamingo Audiography -PINK-(以下、-PINK-)』に入ってる『1000 Clouds -Not Be Mine-』が一番イイ。
林:永田と同じですが、最新の曲の中だったら、『-PINK-』に入ってる『Trillion』とか、『Timeline』が好きかな。今しか聴かせられない、今伝えたい曲が『-PINK-』には入っているから。
『Timeline』は、東日本大震災の後に札幌の実家で作った曲で、すごく印象に残っています。あの震災の時って、皆がTwitterのタイムラインに異常なほど張り付いていたでしょう? ツイートが被災者への情報になることも多かったけど、反対に無責任なやり取りが行われていたよね。実際に起きていることに目を向けないで、機械と情報にばかり夢中になってる人間の恐ろしさみたいな気持ちを込めた曲が『Timeline』です。それ以外の意味もあるけど、ゲーム以外で書いた曲は久々だったかな。
過去の曲で言えば、『Sakura Flamingo Audiography -GREY-』(以下、-GREY-)に収録されている『24/7 -Christopher Street Remix-』は、今では書けないなって思います。仕事でニューヨークに行った時、やることがなくて(笑)ホテルでホットドッグばかり食べながら、ずっとリズムトラックを作っていたんです。日本に帰って来て音を追加したら、しっくりきたから完成した曲。自分が海外に行って作ったら、こういう音になるんだろうなって。思い入れがあって、今でも好きだなぁ。場所とか環境とか世の中の動きとか、やっぱり生きていれば作曲に影響するんですよね。
永田さんは野生的!? 林さんは鼻歌!?
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