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2014年6月30日(月)

【FFXIIIシリーズ後日談小説 #01】「運命の始まりは“パージ”でした」~ホープ・エストハイム

文:電撃オンライン

 スクウェア・エニックスから発売中のPS3/Xbox 360用RPG『ライトニング リターンズ ファイナルファンタジーXIII』。その後日談を描く“ファイナルファンタジーXIII REMINISCENCE -tracer of memories- 追憶 -記憶の追跡者-”の第1話を掲載する。

 著者は『ファイナルファンタジー』シリーズや『キングダム ハーツ』シリーズのシナリオに携わってきた渡辺大祐氏。今回の作品では、『FFXIII』シリーズ完結後の世界を舞台に、とある女性ジャーナリストを主人公にした記憶を巡る物語が描かれていく。

 今回お届けするのは、ホープに関するエピソード。取材を終えたジャーナリストがホープにぶつけた“いつもの質問”とは?


“ファイナルファンタジーXIII REMINISCENCE -tracer of memories- 追憶 -記憶の追跡者-”

 ジャーナリストという仕事柄、私は日々たくさんの人々の話を聞く。取材の相手は老若男女を問わず、国家を動かす権力者から通りすがりの子どもまで幅広い。さまざまな人々が語ってくれる話は千差万別でどれも魅力的だ。私は半ば趣味のように取材の仕事を楽しみ、おかげで女性ジャーナリストとしてそこそこ売れているといえば、売れている。

 そんな私は仕事とは別に、ひとつの“謎”を追いかけている。それは常識では説明のつかない現象だった。最初は気のせいだと思っていたが、気になりだして調べてみると、不可解な一致がどんどん出てきた。私はその謎に夢中になり、どうしても自分の手で解明したくなった。そのためにはできるだけ多くの人の話を聞く必要があった。

 だから私は取材で会う人たちに、いつも決まって同じ質問をする。それは奇妙な質問だ。たいていの人はあっけにとられ、まともに答えてくれはしないが、真剣に語ってくれる人も少なくない。そんな証言を集めていくと“謎”はますます深みを増した。

 今夜も私は取材に向かう。このごろの社会情勢や政治経済について、とある識者へのお固いインタビュー。真面目な仕事の話が済んだら、雑談がてらに“いつもの質問”をしてみよう。彼は答えてくれるだろうか? いや、彼ならきっと答えてくれると、私はひそかに確信していた。

 彼は在野の研究者だ。世間的には無名の人物だが、人類と社会にかかわる幅広い分野で業績をあげ、学術界で大いに脚光を浴びる若き学究――彼の名を、ホープ・エストハイムという。

■(1)ホープ・エストハイム

「――今日はお疲れ様でした。貴重なお時間をありがとうございました」

 一礼してインタビューを締めくくり、私はほっと息をついた。充実した取材ができたおかげで、満足をともなう心地よい疲労があった。

「いえ、こちらこそありがとうございます」

 ホープ・エストハイムの端整な顔立ちは和やかなままだ。彼は終始リラックスした様子で、初対面の私に親しく接してくれたし、答えにくそうな質問にも率直に応じてくれた。

 とはいえ彼は人当たりがよいだけの人物ではなかった。言葉づかいは常に柔らかであったけれど、この社会の現実を見つめる彼の見識には透徹した鋭さがあった。まだ若いにもかかわらず、甘い理想など通用しない世界で長年のあいだ生き抜いてきたかのような、静かな重みが感じられた。

 興味深い人物との出会いに胸が高鳴る。さっそく“いつもの質問”をしてみよう。彼なら、どう答えてくれるだろうか?

「あの……お時間まだ大丈夫でしょうか? ご迷惑でなければ、お尋ねしたいことがあるんです。取材ではなくて、私的なことですが」

「ええ、どうぞ。なんでしょう?」

「あなたは“別の世界”をおぼえていますか?」

 これが“いつもの質問”だった。

 彼は何かを見極めるように、かすかに目を細めただけだった。礼儀正しい反応と言えた。唐突にこんな質問をされたら、戸惑うか呆れた顔になるのが当然だ。「馬鹿げたことを」と腹を立てる人もいる。

 彼は黙っていた。詳しい説明を聞いてから判断するつもりなのだろう。私は言葉を継いだ。

「この世界とは違う世界での、違う人生の思い出とでも言えばいいでしょうか。体験したおぼえがないのに、くりかえし夢に甦る出来事ですとか。心当たりがなくても忘れられない言葉や、誰かわからないけれど懐かしい人の顔、ふっと脳裏に浮かんでくるイメージ……言わば、前世の記憶のようなものです」

「夢のある話だとは思いますが……もしやあなたにも、そんな不思議な記憶が?」

 正直に答える。

「はい、あります。何度も何度も夢に見る光景があるんです。この世のものとは思われない、説明のつかない思い出が」

 ずっと追いかけている“謎”。

「最初は気のせいだと思っていました。でもどうしても気になって、いろいろな方々に尋ねるようになったんです。私以外の人にも“別の世界”の記憶がないか、聞き取り調査を始めたんです。そうして取材した証言は、かなりの分量になりました」

「それは熱心ですね。ただ水を差すようですが、人々が証言した“記憶”の正体は、単なる錯覚や無意識の願望かもしれません」

「大部分はそうでしょう。ですが証言を集めるうちに、無視できない事実が浮かび上がってきました」

 私は一冊のノートを取り出した。これまでに収集した、数百件の証言をまとめたものだ。

「人々の“記憶”に、いくつもの共通点が見つかったんです。生まれも育ちも違う人たちが、まったく同じ光景をおぼえていたケースもあれば、面識のない他人なのに、同じ体験をしたとしか思えない事例もありました。特に目立つのは言葉です。何十人もの人々が、意味もわからないままに知っていた言葉があります。たとえば――」

 ノートを開き、読み上げる。

「“コクーン”“ファルシ”“グラン=パルス”“ブーニベルゼ”」

 ホープ・エストハイムの瞳に強い光が揺れた。

「口裏を合わせた形跡もないのに、多くの人々が同じ言葉を用いて、よく似た記憶を語ってくれました。『人間は地上を離れ、空の上で暮らしていた』『コクーンと呼ばれる、空飛ぶ大地があった』『安全なコクーンの中にこもり、外の世界を恐れていた』『天のコクーンは楽園、地上は地獄』……似通った証言がいくつも出てきたんです。彼らは心の底で、同じ記憶を共有しているのでしょうか? それとも、どこか“別の世界”で生きた過去を共有していて、その記憶があるのではないでしょうか?」

「それで僕のところへ……僕にも“別の世界”や、コクーンの記憶がないか、確かめにいらしたわけですね」

「それだけではないんです。実は多くの人の証言に、あなたの名前が出てくるんです」

「僕の名前が?」

「『ホープが率いて人々を救った』『コクーンを支えたのはホープだ』といったふうに、たくさんの人が“ホープ”という名の人物を、指導者として記憶しています。

 ですから今日は、あなたにお会いするのを楽しみにしていました。あなたの話を聞けたら、この謎を解く手がかりが見つかる気がして」

 彼は目を閉じ、深いため息をついた。緊張を解いたのか、それとも覚悟を決めたのか。ややあってから彼は言った。

「あなたの記憶を聞かせてください。お願いします」

 私は話し始める。それは物心ついたころから、繰り返し夢にみた光景だった。

「住んでいた街を追われて、列車に乗せられた記憶。逃げようとして凍りついた湖を逃げて……でも寒くはなかったんです。湖は水が凍ったものではなく、水晶でできていました。何もかも、ファルシとかいうもののせいだった。それだけはおぼえています。

 たびたび夢に見るのは、自分がマイクを力いっぱい握りしめて、カメラに向かって何かを訴えかけている記憶です。驚いたことに私のほかにも、この時の情景を憶えている人がいました。その人はどこか別の場所のスクリーンで、私がしゃべっている映像を観た記憶があるそうです。

 こうした記憶は、私たちにとってどんな意味があるんでしょうか。私はどうしても知りたいんです」

「……わかりました」

 いつのまにか開かれていた瞳が私を見つめていた。

「僕の記憶をお話ししましょう。

 あの時代、人はコクーンという地で暮らしていた。

 僕もまた、コクーンを故郷として生まれ育った人間のひとりです。

 あの時、僕は14歳でした」

“ファイナルファンタジーXIII REMINISCENCE -tracer of memories- 追憶 -記憶の追跡者-”

■始まりの旅

「運命の始まりは“パージ”でした」

 初めて聞く言葉ではなかった。これまで何人もの証言者が、恐れや怒りをこめて口にしてきた言葉だ。

 彼は詳しく語ってくれた。当時の人類は、空飛ぶ人工天体コクーンの内部にこもり、安楽な生活を営んでいた。だがある時コクーンの統治機関“聖府”は、ひとつの街の住民をまとめて追放し、その多くが死に追いやられたという。それが“パージ”という事件だった。

 14歳だった彼は運悪くパージに巻き込まれ、苦難の運命に翻弄されることとなった。母の死、呪われてルシにされたこと。聖府軍の包囲網、そして復讐の思い。

「今にして思えば、あの時の僕は怒りで自分を支えていました。母さんを亡くしたことやルシにされた絶望が重すぎたから、何かに思いをぶつけてごまかそうとした。それで母さんの死をスノウのせいにして憎んだんです。ライトさんが引き止めてくれなかったら、どうなっていたかわかりません」

 彼はかつての仲間たちや、逃避行のさなかに出会った人々の名を挙げていった。ライトニング、スノウ、サッズ、ヴァニラ、ファング、セラ……これまでの聞き取り調査で出てきた名もあれば、初めて聞く名もあった。

「ライトニングさんというのは、どういった方でしたか?」

「……厳しくて、優しい人でした。優しいからこそ甘やかさずに、僕を厳しく見守ってくれた」

「ホープさんを守り導いた、保護者のような存在だったのでしょうか」

「最初は頼ってばかりでしたね、強い人だとしか思っていませんでした。でも本当はあの人も、迷いや悲しみを抱えていた。そのことに気づいた時、僕は思ったんです。この人に守ってもらうだけでは嫌だ、自分もこの人を守りたい、と」

「一緒に困難に立ち向かう“仲間”になったんですね」

「ええ、みんなで支えあって、いろんなことを乗り越えたんです」

「そして人間を支配する神々と戦った。ファルシ=バルトアンデルス、それにオーファンと」

「驚いたな、よく調べましたね。当時の人々は彼らの存在にさえ気づかずに暮らしていたのに」

「のちに情報が公開されたようですね。あなたがたがファルシを倒して、世界を救ったあとのことです」

「世界を救った、か……」

 ひとりごとのように呟く。

「たしかに僕らはファルシに勝った。でも今から思えば、あれはまだ始まりにすぎなかった」

「ファルシとの戦いを終えてからも、旅を続けたということですか?」

「再び旅立つことになったんです。新しい時代に、新しい戦いが始まってしまったので」

「それは“解放者”をめぐる戦いだったのでしょうか」

「……その言葉は、どこで知りましたか」

「“別の世界”について語ってくれた、多くの人々の証言です。たくさんの人がこの言葉を記憶していました。たぶん、あの世界で広く知られた言葉だったのだと思います。私はこの言葉が気にかかって仕方ないんです」

「なのに僕のこれまでの話には、一度も“解放者”が出てこなかった。それで推測したわけですね? ファルシが支配していた時代には、“解放者”はまだ存在しなかった。だが新しい戦いが始まったので“解放者”が現れたのではないか、と」

「そうなんです。私の想像は当たっていますか?」

「当たらずと言えども遠からずですね。“解放者”が現れたのは、ずっとあとの時代のことです。

 その前に長い長い戦いがありました。世界は破滅の危機にさらされ、大きく傷ついた。

 信じられないと思いますが、それは時代を越える戦いでした」

“ファイナルファンタジーXIII REMINISCENCE -tracer of memories- 追憶 -記憶の追跡者-”

■時代を越えて

 そして私はAF(アフター・ザ・フォール)と呼ばれる時代の物語を知った。AF0年にファルシによる支配が終わり、人類の安住の地だったコクーンの機能は衰えていった。人々はやむなくコクーンを離れて、グラン=パルスと呼ばれた荒野に移住。自然の脅威と戦いながら生存圏を切り拓き、数百年がかりで文明を再建したという。

 ホープが語った歴史は、今まで私が集めてきた情報にも符号した。アカデミーという組織が人類の再興を先導し、巨大な都市を築き上げるまでの経緯を物語る、さまざまな証言があった。ホープの話を聞いたおかげで、それぞれの証言の関連性や時系列が、一気につながって見えてきた。

「これはまさに、知られざる人類史ですね……」

「コクーンという狭い世界で安穏と暮らしていた人類にとっては、厳しい試練の時代でした」

「しかも、ライトニングさんは姿を消していた。支えを失って不安だったのでは?」

「当時は記憶を歪められていましたからね。ライトさんは死んだ、コクーンを守ってクリスタルになったと、皆が思い込んでいました。ですがセラさんが真実を見出してくれた。ライトさんが生きていると聞いたとたんに確信しました。いつかかならず会えるから、それまで自分にできることをやればいいって、迷いが消えてなくなったんです」

「かつて過酷な旅をともにした、仲間同士の絆のおかげ……でしょうか」

「少し違うかな。たとえばノエルとは、住む世界も生まれた時代すらも違いました。共通の過去はなかったけれど、出会ってすぐに共感できた。それは彼と僕が、同じ目標をめざしていたからだと思います。人々が安心して暮らせる未来のために、それぞれ自分のやるべきことをやろうとしていました」

「セラさんとノエルさんが、カイアス・バラッドと時詠みの巫女ユールをめぐる戦いに身を投じる一方で、ホープさんはアカデミーを指導して、破局への備えを進めたんですね。古いコクーンの崩壊と、それに伴う大災害に備えての人工コクーン建造計画――数百年がかりの人類救済プロジェクトを、あなたは見事に成功へ導きました」

「あの計画は、数多くのスタッフが何世代もかけて、地道な努力を積み重ねて成し遂げたものです。僕は始まりと終わりを見届けただけですよ。

 ……そう、本当に終わりになってしまった。セラさんたちがカイアスを倒して人工コクーンの打ち上げが成功したAF500年が、滅びの時代の始まりでした」

「もしかすると、それは“混沌(カオス)” のせいでしょうか? これまでの調査でも“混沌(カオス)が世界を覆った”“混沌(カオス)の侵蝕は止められない”といった証言が多々ありました。混沌(カオス)は世界をおびやかす敵だったようですが」

「はい、僕たちは“混沌(カオス)”の脅威に立ち向かった。その戦いの果てに“あの世界”を終わらせる物語が始まった。

 世界の最後の物語……“解放者” ライトニングの物語です」



 私はしばし絶句した。ずっと気になっていた“解放者”の正体が、あっさりと明かされたのだ。動揺を抑えこんで尋ねる。

「では、ぜひ詳しいお話を――」

 けれどホープ・エストハイムは、笑って首を振った。

「今お話できることは、ここまでです。解放者の物語は、ライトさん本人に聞くべきですね」

「そんな……」

 ここまで来て、と思った。ずっと追いかけてきた謎の尻尾を掴みかけたところで、するりと逃げられたような感覚。

「では、せめてライトニングさんの居場所だけでも教えてください」

 食い下がってみたものの、彼はまたしても首を振る。

「ご自分で探してみませんか。あなたは粘り強い調査で証言を集めて、僕にたどりついてみせた。あなたならきっとライトさんに出会えますよ」

 どうやら私は試されているらしい。

「わかりました、探してみます。探せというからには、ライトニングさんはこの世界にいるんですね?」

「一緒に戦った仲間は皆いるはずです。ライトさんを追いかけていけば自然と会えると思います。みんなに話を聞いてみて“あの世界”の真実を知ったら、また僕のところにいらしてください。その時は、僕の知る限りのことをお話しします」

 彼は笑顔で静かに告げた。淡々としているからこそ、何かを秘めているような気がして、私は思わず尋ねた。

「まさかとは思いますが――ライトニングさんの行方は、あなたも知らないのでは? いつか会えると信じていても、今までずっと出会えていないのでは?」

「……さあ、どうでしょうね」

 彼の笑顔は変わらなかった。眼差しに寂しげな影がかすめたような気もした。


 別れ際に彼はひとつだけ手がかりをくれた。かつての仲間のひとりの居場所だ。

 さっそく休暇をとって、会いに行こうと思った。

 ちょっとした旅行に出かけるぐらいの気分だった私は、これが長い旅の始まりになると、知る由もなかった。

“ファイナルファンタジーXIII REMINISCENCE -tracer of memories- 追憶 -記憶の追跡者-”

→#2 サッズ・カッツロイ

(C)2009,2013 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved. CHARACTER DESIGN: TETSUYA NOMURA

データ

▼『ライトニング リターンズ ファイナルファンタジーXIII』(ダウンロード版)
■メーカー:スクウェア・エニックス
■対応機種:PS3
■ジャンル:RPG
■発売日:2013年11月21日
■希望小売価格:7,000円(税込)
▼『ライトニング リターンズ ファイナルファンタジーXIII』(ダウンロード版)
■メーカー:スクウェア・エニックス
■対応機種:Xbox 360
■ジャンル:RPG
■発売日:2013年12月3日
■希望小売価格:7,000円(税込)

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