2015年2月25日(水)
『パルフェ』はなぜ傑作なのか? 10周年を記念して今一度魅力を振り返る【周年連載】
あの名作の発売から、5年、10年、20年……。そんな名作への感謝を込めた電撃オンライン独自のお祝い企画として展開中の“周年連載”。
連載第19回は、2005年3月25日にオリジナルのPC版が発売された『パルフェ ~ショコラ second brew~』の10周年をお祝いするコラムをお届けします。べ、別に無理して見てくれなくてもいいんだからねっ!! でも見てくれたら私……な、なんでもないわよっ!!
なお、記事中ではTGLから2月26日に発売されるPS Vita版の写真を使用しています。
▲そう、10周年。 |
『WHITE ALBUM2』『冴えない彼女の育てかた』などで知られる丸戸史明のルーツ
2005年に発売された『パルフェ ~ショコラ second brew~』。もう10年も前の作品ですし、TVアニメ化もされていないので若い方にはなじみが薄いかもしれません。しかし、『WHITE ALBUM2』や『冴えない彼女の育てかた』の作者である丸戸史明さんの初期作品であり、氏の出世作だと言えば気になってくる人も多いのではないでしょうか?
『パルフェ』は『ショコラ ~maid cafe “curio”~』という作品の続編ですが、ストーリー的なつながりはないので、本作だけで楽しむことができます。ぜひ、この機会にPS Vita版をプレイしてみてください!
本作では、火災で店舗が燃え、経営できなくなってしまった義姉の喫茶店・ファミーユを大学生の主人公・高村 仁(たかむら ひとし)が大型ショッピングモールで復活させ、仲間たちとともに切り盛りしていくストーリーが展開します。
ちなみに2005年のゲームというと『あやかしびと』や『車輪の国、向日葵の少女』『Fate/hollow ataraxia』といった、それぞれオンリーワンの設定と魅力を持った作品が数多く登場しています。
なぜ、一見するとひねりのない設定の『パルフェ』が10年も愛され続けているのか。それは“このキャラクターたちと一緒にいて楽しい”という居心地のいい世界を見事に作り出していること、そして、その世界を一瞬で反転させる“ある仕掛け”にあるのではないかと思っています。
ただ、“ある仕掛け”に関しては物語の重大なネタバレになるので、その部分は最後に解説。まずはPS Vita版から本作を始めるという方のため、公式サイトに記載されているレベルで、ストーリーとキャラクターを紹介していきましょう。
【ストーリー】
中世ヨーロッパの町並みをイメージした大型ショッピングモール“ブリックモール”はグランドオープンを控え、人気飲食店の誘致を積極的に推し進めていた。そんななか、大学生・高村仁のもとにブリックモールから電話がかかってくる。義姉である杉澤恵麻が経営していたお店で、火災により店舗を失った開店休業中のファミーユにも出店の依頼が舞い込んでくる。
復興のチャンスとばかりに開店準備を進める仁だが、真向かいのお店はファミーユがコンセプトを模したオリジナルのお店“キュリオ”であることを知る。圧倒的な人気を誇るキュリオを前に悪戦苦闘を強いられる仁。アルバイトの雪乃明日香、涼波かすりと3人で開店を迎えることになったが、その前日深夜、滑り込みでアルバイト志望の少女・風美由飛がやってきて……?
▲会話のテンポのよさも大きな魅力。PS Vita版は体験版が配信中ですので、ぜひプレイして感じとってみてください。 |
▲仕事はできないが、人を惹きつける魅力を持つ由飛。 |
ちなみにキュリオは第1作『ショコラ』の舞台となる喫茶店です。『パルフェ』に登場するキュリオは3号店なので『ショコラ』に登場したお店とは違いますが、プレイしていればニヤリとするシーンも多いので、ぜひこちらも一度プレイすることをオススメします。
システム的には不親切な部分も目立ちますが、丸戸さんのシナリオライターとしての原点は『ショコラ』にこそ詰まっていると思いますので機会があればプレイしてみてください。
▲『パルフェ』にも『ショコラ』のキャラクターがサブキャラクターとしてちょこっとだけ登場。 |
主人公の仁を取り巻くキャラクターたち
さて、少し横道に逸れましたが『パルフェ』の話に戻りましょう。ここからは本作のヒロインたちを原画ねこにゃん氏の美麗なビジュアルとともにお届けします。
あと、せっかくの周年お祝い企画なので、ボクの各キャラクターへの雑感も加えてお送りしたい思います。キモいと思った人は読み飛ばしていただいて構いまテン!
●風美 由飛(かざみ ゆい)
ファミーユの新人店員。よく言えば誰にでも物怖じしない性格で、逆に悪く言えばなれなれしい女の子。生まれつき人を惹きつける性格で、次第にお店の看板ウェイトレスとなっていく。歌うことが好きで、仕事中もよく鼻歌を歌って叱られている。
【ライターコメント】
一応はメインヒロインの立ち位置ですが、下で紹介するカトレアや里伽子のせいでイマイチ不人気になってしまっている由飛。彼女の天然っぽいところがニガテなユーザーさんも多いのかもしれません。というか、かくいうボクもその1人でした。
ただ、本稿を書くにあたって久々に『パルフェ』をプレイしたところ、彼女がかわいくて仕方がない! 当時は「ウザったいなー」と感じていましたが、今は放っておけない気持ちのほうが強いです。
それに注意深くプレイすると意外と勘のいいところもあって「おっ」と思わせますし。皆さんもぜひ、もう一度彼女のシナリオをプレイしてみてください。もしかしたら、ボクと同じように彼女に対して違う感情を持つかもしれませんよ!(って、もとから彼女のファンだった人には失礼ですね。すみません!)
●花鳥 玲愛(かとり れあ)
キュリオ3号店のチーフウェイトレスで自分にも他人にも厳しい完璧主義者。じつはライバルのファミーユを目の仇にしながらも理にかなったアドバイスを残してくれるツンデレだったりする。本名を縮めたカトレアというあだ名で呼ばれるが、本人はこのあだ名を嫌っている。
【ライターコメント】
『パルフェ』をプレイしたことはなくても、カトレアのことは知っている(見たことはある)というユーザーも多いぐらいの人気キャラクター! その人気のヒミツはなんといってもツンデレ。美少女ゲームの歴史を語る際には彼女がツンデレ界のクイーンとして説明されることも多いです。
ただ、じつはツンデレを抜きにしても細かい部分で女子力(?)が高かったり、何より会話をしていて楽しい部分が魅力ではないかと思います。
●雪乃 明日香(ゆきの あすか)
ファミーユで働く高校2年生のアルバイト。以前から仁が家庭教師をしており、彼を「せんせ」と呼んで慕っている。基本的に素直でかわいらしい性格をしているが、やきもちをやいてふてくされたり、無邪気に誘惑してきたりと多彩な顔を見せる。また、アルバイト時は仁のことを「せんせ」ではなく「てんちょ」と呼んでいる。
【ライターコメント】
主人公攻略型ヒロインの明日香ちゃん。小動物的な愛くるしさに比例した、あの巨乳はズルいですよね! やきもちの感情を隠さなかったり、自分で背負い込みすぎて失敗したり、年齢の幼さゆえに未熟な性格がマイナスに見えてしまう部分もあります(そこがかわいらしいところでもあるのですが)。
しかし、ファミーユを復活させようとした仁に対して最初に手を差し伸べたのはほかの誰でもない彼女。『パルフェ』の物語は、彼女がいなければ始まってすらいなかったんです。本質的に“いい子”であることはわかってもらいたいです! あと、何気に彼女のシナリオは主人公の仁が最高にカッコいいところもポイント。
●涼波 かすり(すずなみ かすり)
老舗和菓子屋の娘で、フロアもキッチンもこなすことができるマルチプレイヤー。気さくな性格をしており、異性というよりは友だちに近い感覚で接することになる。ファミーユが火事になって閉店した時に実家に強制送還されたが、仁が迎えにきたことをきっかけに家出をして復帰する。
【ライターコメント】
美少女ゲームに存在する“人気投票で1位になれないことを宿命づけられた悪友キャラ”の1人。しかし、『パルフェ』という世界観を形成するうえでなくてはならないキャラです。
コメディリリーフとしてのお笑い要素はもちろん、女性キャラクター同士の和気あいあいとした雰囲気も彼女の存在が大きいと思います。
また、個別シナリオもドタバタ劇が中心で楽しく読むことができます。キュリオへの●●(ネタバレにより伏字)も燃える展開ですし……ぜひ彼女にも愛を注いであげてください!
●杉澤 恵麻(すぎさわ えま)
仁の義姉。しかし、入籍した直後に夫(仁の兄)が帰らぬ人となってしまったため、結婚生活は皆無である。もともとお菓子作りが趣味で夫と2人で喫茶店を開店する予定だったが、夫が死亡したため、1人で店を切り盛りしようと悪戦苦闘。
その店がやっと軌道に乗ったと思ったら、今度は火事で建物を失うなど、不幸の塊のような女性である。ちなみに、重度のブラコンで仁のことを溺愛している。
【ライターコメント】
シナリオ的には不憫なところもある恵麻ですが、彼女のブラコン具合いはとても突き抜けていておもしろいです! 朝が弱かったりマイペースなところがあったりと頼りない面もありますが、いざという時は芯の強さを見せてくれます。年上好きはま~姉ちゃんに決まりでしょう!
●夏海 里伽子(なつみ りかこ)
仁の同級生で、焼失前の店ではチーフを務めていた女の子。「情に流されるとロクなことにならない」が口癖で、当時のお客からの人気は今ひとつだった。
今回のファミーユ復活の時は、就職活動があるからという理由で1人だけ復帰しない。ちなみにお店の方針であるキュリオを参考にするというアイデアは彼女のもの。
【ライターコメント】
うなぎパイは地元だから受け取れない里伽子。『パルフェ』を語る時は、“キャラクターのカトレア、ストーリーの里伽子”などと言われることがありますが……。いい加減にしろ! 里伽子が一番かわいいだろ!!
「しょうがないなぁ、仁は」状態のヤレヤレ里伽子もかわいいですが、やはり“面倒臭い女”状態になった時の里伽子こそ至高!! いや、彼女について“面倒くさい女”で片付けるなという皆さんの言い分はわかります……。
でも……。いや、これ以上はネタバレで書けない!! とにかく里伽子は幸せにするしかない!! そしてエンディングで号泣するしかない!!
以上がメインヒロインとなる6人です。また、PS Vita版ではPS2版で新たに追加された以下の2名も攻略が可能になっています。
●川端 瑞奈(かわばた みずな)
キュリオ3号店のサブチーフ。玲愛の友人であり、彼女のサポート役でもある。玲愛がファミーユと敵対しているのとは正反対に、仁とは積極的に話しかけてくる。
明るくさっぱりとした性格をしているが、キュリオの悪口を言われると怒るなど、純粋な心も持っている。また、かなりの勉強家でもあり、仁すらも納得させるほどの喫茶店の知識を披露する。
●沢崎 美緒(さわざき みお)
卸会社“沢崎珈琲”の営業部員。ファミーユとは本店のころから付き合いがあり、恵麻の復帰とともにファミーユの店員となる。
バリスタの日本選手権で新人王に選ばれており、コーヒーの知識だけでなく技術も高い。男勝りな性格や口調をしているが、見た目とは裏腹に繊細な心の持ち主である。
以上が攻略対象キャラクターです。ほかにもキュリオのマイペースな店長・板橋孝明(いたばし たかあき)をはじめとして個性豊かなサブキャラクターが登場。『パルフェ』の世界を彩っていきます。
▲かすりの姉・紬さんもノリがいいキャラクターですね。 |
というわけで、書いているうちに『パルフェ』への想いがあふれてきてしまい若干ネタバレ気味の文章になってしまいましたが、キャラクター紹介でした。
上で紹介した通り、それぞれ個性的ですし丸戸さんのセンスが光るテンポのいい会話劇が見どころですので、ぜひプレイしてみてください!
※ここからは少しだけ本作のネタバレを含みます。未プレイの人は注意してください※
語れなくてごめんねぇ……10周年の今こそ里伽子ルートを語る!
さて、ここからはすでにプレイ済みの人やネタバレを気にしない人に向けて、ボク個人のクリア後の感想を綴りたいと思います。最初に書いたとおり、本作の魅力は“このキャラクターたちと一緒にいて楽しい”という居心地のいい世界を見事に作り出していること、そして、その世界を一瞬で反転させる“ある仕掛け”です。
“このキャラクターたちと一緒にいて楽しい”という部分は、サブキャラクターを含めてイヤなキャラクターがいないことです。プレイヤーの主観によって性格の好き嫌いはあると思いますが、いわゆる“邪悪”な人間はいません。それぞれが自分と向き合い、努力して報われるストーリーなので清々しい気持ちになれます。
▲“人間の死”などといった方法論に頼らず、極上のヒューマンドラマを描くのが丸戸さんのすごいところ。 |
また、キャラクターたちの作り出す和気あいあいとした雰囲気もステキです。美少女ゲームというと主人公とヒロインの2人の会話になることが多いですが、本作ではマップで選んだ以外の人物も会話に登場するため、つねにファミーユの楽しそうな雰囲気を楽しむことができます。
「こんなお店で働けたらおもしろそうだなー」と思える魅力がつまっています。TVアニメ『WORKING!!』や『デンキ街の本屋さん』などを見た時にも覚えたあの感覚。とにかく居心地がいいんですよね。
▲ルートが確定した後もほかのヒロインたちが物語にかかわってきます。日常会話もすごくおもしろいのでまったく退屈しません。 |
そして、本作におけるもっとも重要なネタバレにして、もっとも語りたかったこと! ……いやぁ、まさか里伽子の●●が●●●●なっていたとは!
あの有名マンガ『るろうに剣心』にて、乙和瓢湖が「相手の心理の裏に暗器を隠す!!」という名言を残しましたが、この大胆な仕掛けに途中で気付いた方は何人ぐらいいたのでしょうか? ちなみに自分は里伽子ルートを進めるまでまったく気付きませんでした。そして文字通りあのシーンで世界が崩れ落ちる音を聞きましたよ。
▲真実を知った後にプレイすれば、いくらでも物語中にヒントがあったことに気付くことができます。 |
真実を知ることで、ここまでゲームをプレイしてきて感じていた心地よさが見事に反転。各ヒロインのルートでハッピーエンドを迎えた時に得られた幸福感すら里伽子に持っていかれます。まさに大ドンデン返し。すごい仕掛けです。
すべてのプレイヤーが「今まで自分は何をしていたんだろう」と自己嫌悪に陥るはずです。また、この仕掛けが上手(そしてよりヘビー)なのは決して仁のせいではないことですね(里伽子が一番頼ってきたタイミングで恵麻を優先してしまったことや彼女の異常に気付けなかったことなど、ケアできた部分はあるかもしれませんが)。
仁(プレイヤー)の行動がカギになって初めて真実が判明するところもシナリオの妙です。里伽子の言うとおり、このシナリオは“パンドラの箱”なんですよね。
▲里伽子は自分が近づくことで真相がわかり、仁が背負いきれない罪の意識を持ってしまうとわかっています。そのため、ほかのルートで仁の幸せを願うのも紛れもない本心です。それだけに里伽子ルートをプレイした時のダメージが大きくなります。 |
▲少し踏み込むだけで壊れそうな里伽子。彼女の精神が危ういバランスで成り立っていることが伺えます。 |
▲ルートに入る(恋人として結ばれる)ことにより、はじめて“仁の近くにいたいという気持ち”と“●●●●●●を呪う気持ち”が重なった魂の叫びをぶつけます。 |
真実を知ったプレイヤーは“優しい『パルフェ』の世界”すべてを否定して里伽子を救うために奔走することになるのですが、ここで1つの疑問が。本作は“ファミーユを舞台にしたホロリと泣けるドタバタ劇”ではダメだったのか。はたしてこんなに重い里伽子ルートは必要だったのか?
……答えはYESです。すべてがつながる伏線とその衝撃、里伽子の本音と仁の行動、そしてあの圧倒的なハッピーエンド。『パルフェ』のすべてを踏み台にしなければ書けないシナリオですし、書かなければいけないシナリオだと思います。まぁ、あの笑顔を見せられたら誰もが「本当に…しょうがねぇなぁ…里伽子はぁ…っ」と言いますよ!
▲すべてが収束する里伽子ルートで最高のカタルシスを得ることができる『パルフェ』。仁がどのように里伽子を救うのかは実際にゲームをプレイして確認してみてください! |
『パルフェ』は里伽子のルートがなければ“心に残るゲーム”だったとしても“歴史に残るゲーム”ではなかったと思います。それほどまでに完成されたシナリオですし、あのエンディングに価値はあると思っています。ぜひ、皆さんにも今一度、本作をプレイしていただきたいです。
と、真面目に語りましたが、里伽子は単純に世界一かわいいということも書き加えさせてください! 特にルートに入ってからの駄々をこねるシーンとかご飯を食べさせてもらうシーンとか! みんな彼女のシナリオの重たさで忘れますけど、最高にかわいいですから!!
▲仮初(かりそめ)の幸せでしかないことが後からわかるシーンですが、里伽子がかわいいことに変わりはなし! |
あと最後に。仁だけでなくファンにも「メガネが本当に似合わない」と言われている里伽子ですが、似合ってますから! かわいいですから!!
▲似合ってますから? |
オマケ:ねこにゃん氏が手掛けた当時のラフを公開!
【周年連載 バックナンバー】
→第19回:『パルフェ』が10周年だからって祝わなくていいんだからね! でも、祝ってくれたら私……【本記事】
→第18回:『ゴッドイーター』5周年。リンドウやアリサの過去に胸打たれたシリーズ処女作の思い出
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(C)TGL/Alchemist/だいだい
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