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2017年12月16日(土)

【ディバインゲート零】魔力界編・第1~3話を一挙公開!

文:電撃オンライン

 ガンホー・オンライン・エンターテイメントがサービス中のiOS/Android用アプリ『ディバインゲート』の新章『ディバインゲート零』。そのキャラクターストーリーを追っていく連載企画をお届けします。

 今回お届けするのは、魔力界編・第1~3話。魔法少女を夢見るカターレに、兄のベントをはじめとする魔力界の旅団の面々が振り回されます。そして、敵地でナゾの展開に……。

魔力界編・第1話“キラキラとの出会い”

テキスト:沢木褄
イラスト:bomi/okutron/ちてたん

 その時、彼女の運命は動き出した。

 人生で足りなかったものに、ようやく出会えた気がした。

(カターレが求めていたのは――この『キラキラ』だ!)

 カターレは魔力界に住むごく普通の女の子。14歳である。

 生まれつき、魔力に高いポテンシャルを持っていた。

 ただ、性格的に自らが戦場に立つよりも研究分野の方が向いていそうだったので、対理力界組織『旅団』に入ってからは術研究セクションを任される。

 カターレはその環境と持っていた才能をフルに活用して日々を研究に費やし、高い評価を得ていた。

 研究三昧の日々を、カターレは退屈だと思ったことはない。

 試行錯誤を繰り返して自分の定義した仮定が実証されることは楽しかったし、それがみんなの役に立つことも嬉しかった。毎日が充実していた。これ以上、自己表現できる場所なんかはない。最高の日々だと思っていた。

(けど今思えば、カターレはお兄ちゃんの陰にいることがイヤだったのかもしれない)

『旅団』幹部のベントは、カターレの年の離れた兄だ。

 由緒ある軍人の家系に生まれた彼は、『旅団』発足時からの古参で、数々の武功を立てている。

 謹厳実直で公正無私。曲がったことを嫌う高潔さは、多くの人間から信頼を得ており、反面、畏怖されてもいた。

 そのベントの妹というだけで、周囲の人間はどこかよそよそしかったり、変に気を遣ってきたり、怖がったり、おべっかを使ったり……。

「ベント様の妹様」と思われるのが、むずがゆくて、居心地が悪かった。

 魔法が得意なのは本当だけど、自分みたいな若輩者が『旅団』の術研究セクションにいられるのも、兄の威光が働いているおかげなのかもしれない。

 なんだか、自分の存在が無視されているような、兄があっての自分のような。

(……別にそんなこと、気にしてなかったはずなのに)

 だけどきっと、それはずっと、心のどこかで引っかかっていたのだ。

 そのことに気づかせてくれたのは、『キラキラ』だった。

 あの少女――『魔法少女』たちとの出会いが、カターレに本当の気持ちを気づかせてくれた。

※   ※   ※

「あ、ファル!理力界はどうだった?おもしろかった?」

「げっ」

「なによ~、その反応は。せっかく労ってあげようと思ったのに♪」

「必要ない」

 ある日、カターレは日課を終えて研究室から出たところ、理力界への出撃から帰還した旅団幹部の金髪少年ファルと出会った。

「お子さまはもっと愛嬌があった方がかわいいよ?」

「か、仮にも僕は上官だぞ!?もっと敬え!」

「えー、だってカターレより年下なのにー?」

「うるさいうるさいっ!僕はお前と違って忙しいんだ。お前にかまってる暇はない!じゃあな」

「ホントは暇なくせにー。ねね、一緒にご飯でも……」

 その時カターレの目に、ファルが持っている映像ディスクが写った。

「それなぁに?」

「ん、これか?理力界で鹵獲(ろかく)した……」

「ちょっと貸して!」

 ファルが言いきらない内に、カターレはその手からディスクを取り上げ、さっと研究室に入って行く。

「お、おい!何を……!」

 ファルが慌てて追いかけると、カターレはディスクを魔映灯に読み取らせる。

「馬鹿者!勝手なことをしてはダメ……うぶっ!」

 近づいて来たファルの口を、カターレは片手でふさいだ。

「だいじょーぶ。ちょっとだけならバレないから、ね?」

 ついでに、ふさいだ手でファルのふっくらした頬をぷにぷにすると、ファルは赤くなってカターレの手を払いのけた。赤くなったのは照れたからではなく、怒ったからである。

「ふざけるなっ!一般人に理力界の情報はいかなることでも与えるわけには……」

「カターレは一般人じゃないしー。それに幹部のファルがいるじゃん。ねっ!」

「それでもっ……」

「ひかえおろー!」

「はっ!?」

「ここにおわすは旅団幹部ベントの妹であらせられるぞー!」

「な、何言ってるんだ?」

「えへ、ちょっと言ってみたかっただけ」

「ふざけるなっ!お前はベントの妹である前に、僕の部下なんだからなっ!」

「ここにおわすは旅団幹部ファル様の超優秀な部下……」

「うるさいうるさいっ!あーもうっ!」

 カターレは、心の中でほくそ笑む。

(ふふっ。思い通り。余裕をなくしてイライラしたファルはきっと……)

「……ったく、ちょっとだけだぞっ」

「やったぁ~」

 カターレの作戦は見事に成功した。なんだかんだ、ファルはカターレに丸め込まれ、いつも要求を受け入れてしまう。

「……ありがとね、ファル」

「フン!」

 ファルが自分を『ベントの妹』であることを少しも気にしていないことが、カターレは嬉しかった。

「さて、何が映ってるかなぁ~?」

 映像が再生される。

 その瞬間、カターレの視界いっぱいに星が散った。

 画面に映っていたのは、自分と同じくらいの年代だろうか。可愛い衣装を着た少女たちが、踊っている。

(なに、これ……)

 踊っていた少女たちが、今度は戦っている。装飾された杖を振りかざして呪文を唱え、魔法を放ったり、自分よりも大きな男性や魔物を相手に、格闘技を繰り出している。

 少女が華麗に魔物を蹴り上げる。

 少女が可憐に大男を投げ飛ばす。

 少女が優雅に杖の先から魔術を放出する。

 色違いのお揃いの服を着た少女たちがみんなで、杖の先を合わせ、上級魔法を放つ。

 その度に、カターレの頭の中には、いっぱいの星が――『キラキラ』が満ちた。

【ディバインゲート零】

「ファル!この人たちは誰!?」

「なんだっけ、確か……『魔法少女』だったか?」

「なんで理力界の人たちが魔法を使えるの!?」

「詳しいことは分からないが、なんかの理論を駆使して、魔力を疑似的に使え……ぐぶっ!」

 説明の途中で、ファルの口は再びふさがれた。

 魔法少女たちが、みんなで歌い始めたのだ。

 ファルは手を払いのける。

「カ、カターレ、お前なぁ……!」

「魔法少女……!ステキっ!」

「は、はぁ?」

「魔法と少女を組み合わせるって、どういう発想なの!?すごくないっ!?」

 カターレは興奮した面持ちでファルに詰め寄る。

 ファルは戸惑う。

 こんなにカターレの目が輝いているのを、初めて見た。

「も、もういいだろ!ディスクを返し……ふぎゅぐ!」

 カターレは両手でファルの両頬を挟んだ。

「ちょっとだけ外で待ってて♪」

 抵抗するファルを押しやって無理やり研究室の外に出すと、カターレはすぐさま映像の共時作成を始める。

 ファルが何やら叫んでいるが、扉はカターレの魔力符号を認知しない限り開かないので、入って来られない。

「……キラキラ……」

 カターレはもう、画面いっぱいに広がる少女たちに――少女たちが発する『キラキラ』から、目が離せなかった。

 カターレは映像ディスクをカバンに忍ばせて、自宅に戻った。

「あ、お兄ちゃん、ただいま。今日は遅くなるんじゃなかったっけ?」

「カターレか。会議に必要な資料があってな、取りに帰っただけだ。また司令部に戻る」

「そうなんだぁ。おつかれさま~」

 カターレはなんとなく、カバンを背後に隠しながら、鍛え抜かれた兄の巨大な体躯とすれ違おうとする。

「カターレ」

「な、なに?」

「研究の方はどうだ?」

「別に?問題なくやってるよ」

「そうか。最近お前の研究室に顔を出せなくてすまないな」

「気にしなくていいよ。また理力界への出撃があるから、忙しいんでしょ?」

「わたしにとって戦場に出ることは、特別なことではない。戦を理由にはできぬ」

「そ、そう……。でも、本当にカターレは大丈夫だよー。ファルも仲良くしてくれるし」

「それならいいのだが。……研究セクションは、縁の下の力持ちのようなものだからな」

「え……?」

「日々、地道に研究を続ける。華々しい評価を得る機会も少なく、お前のような若い娘には、退屈に感じることもあるかもしれないが、『旅団』にとって、なくてはならない存在だ」

 カターレは兄が自分を励ましてくれるのだと分かった。

 生真面目で不器用な、兄なりの妹へのエール。

 いつもなら当たり前のように受け取って、嬉しい気持ちになるはずなのに、今のカターレは何かが引っかかった。

(そうか、カターレ……)

 ベントが外出したのを確認して、カターレは自室に戻り、共時体ディスクを魔映灯に読み込ませた。

 魔法少女たちが踊り、歌い、戦う。

(お兄ちゃんの陰にいるんじゃなくて……)

――縁の下の力持ちのようなものだからな。

(縁の下じゃなくて、……キラキラいっぱいの舞台に、立ってみたかったんだ)

 それから、カターレは変わった。

 激変した。

 これまでのパンクルックを脱ぎ捨て、フリフリレースにリボンのワンピースを。

 今まで時間をかけず、簡単にまとめていた髪も、30分かけてセットするようになった。

 その姿はまるで、魔法少女のように――。

 カターレはいつものように、研究所の扉を開く。

「希望輝く魔力の光!マジカルパッション・カターレ参上☆」

「お、おはようございます……カターレさん……」

「なぁに~?テンション低いぞぉ?可愛くスマイル!忘れちゃダメだよ☆」

「は、はぁ……」

 同僚たちの視線も変わった。誰も「ベント様の妹様」という目で見なくなった。

 だいぶ引かれているのは分かっていたが、それでも構わなかった。他人からの見え方が、自分の思い通りになることは、嬉しくもあった。

 そしてカターレは、術研究セクションから理力界に出撃する前線部隊への異動願いを出す。

 当然、ベントは猛反対だったが、最終的にはカターレの熱意を尊重し、その要望を受け入れた。カターレはベントを援護する魔力部隊の隊長となり、名実共に戦闘に加われる立場となる。

「おい、カターレ。何してるんだ?」

「ファル、おはよう!理力界への出撃にそなえて、装備を整えてるんだよ」

「装備って……」

 カターレが手にしているのは、戦闘の装備とは思えないような、カラフルでチャラチャラした装飾が施されている物ばかり。

「キャーっ!このステッキ激かわっ☆くるくる☆マジカルパッションハート!口の悪いお子様上官を愛と希望のパワーでやっつけろ~☆」

「……」

「……あれれぇ?ファル、なんで怒んないの?」

「いや、色々と頭が追いつかなくてな……」

「見たいよ!あなたのとびきりサンシャイン☆スマイル」

「………………」


「…………ベント、お前の妹はどうしたんだ?」

 そんなカターレとファルのやり取りを遠巻きから見ていたのは、ベントと同じ旅団幹部のライアだ。

 細身のしなやかな身体からは想像もつかない戦闘力を持ち、長く燃えるような赤い髪を翻して戦う姿は、ベントでさえも一瞬、見惚れてしまうほどの美しさがある。

「いや、よく分からんのだが……」

 ベントは妹の変貌ぶりに驚きつつも、その様子があまりにも活き活きと楽しそうなので、深くつっこめずにいる。……だが、そろそろ放っておくこともできなくなりそうだ。

「何かよからぬことを考えているような気がしてな……」

 武人として研ぎ澄まされた直感が、そう告げている。

 そしてそれは、見事に的中していた。

 カターレの魔法少女を愛する気持ちは止まらず、いつしかその憧れは理力界自体にまで及んでいた。理力界はどんな世界なんだろう。どんな生活をしているのだろう。知りたい。見たい。興味は尽きない。

 本物の魔法少女になるべく、カターレは『マジカル☆イミグレ作戦』――もとい、理力界への移住計画を着々と進めていたのである……。

『いつでも希望とステッキといちごのショートケーキはお友達!魔法少女カターレ、作戦開始だよっ☆』

魔力界編・第2話“出撃への道程”

テキスト:沢木褄
イラスト:bomi/okutron/ちてたん

 深い海の底にいるような、重く息苦しい空気が流れている。

 会議室に集まった面々は、みな、一様に緊張感のともなった顔をしていた。

 ここは『旅団』最高司令部――。

 当初の想定より難航している理力界侵攻への作戦会議を行っているところだ。

 次回の出撃はどれだけの兵力を費やすか、攻略地点をどこにするか、どのような戦術を用いるか――時に怒号が飛び交う、激しい討論が交わされている。

「ライア、先日の出兵について報告を受けた。腹心を失ったそうだな。……心中察する」

 激論の合間に、ベントは隣に座るライアへ声を掛ける。

 ライアはベントを一瞥して、「フン」と鼻を鳴らした。

「くだらぬ下僕がくだらぬ理由で我を裏切っただけ。取るに足らないわ」

「あははっ!他人の心配してる場合か?次はベントが出撃するんだろ。うっかり首を取られないように気を付けるんだな?」

 ライアの隣に座っていたファルが、身を乗り出す。

「ベントは旅団随一の武人。間違っても、貴殿のような醜態はさらすまい」

 数か月前に理力界へ出撃したファルは、これと言った戦果もなく、兵力だけを削って魔力界へと逃げ帰っている。

「うるさいうるさいっ!たまたま調子が悪かっただけだ!!本来の力を出せば、あんな連中、ひとひねり……」

「耳元でキーキー騒ぐな。ガキ。うるさいったらない」

「なんだとぉーっ!?だいたいお前だってヒドイもんだったろ!」

 ライアはファルを鋭く睨みつける。

 彼女の引き締まった口元が開きかけた時、ベントが仲裁に入る。

「仲間同士で言い争うな。わたしが二人の分まで、理力界を制圧する。安心しておけ」

 二人は押し黙る。

 ベントの低い声は、大小に関わらず相手を圧倒する。手足で押さえ込まれなくとも、相手は身体の自由を失い、戦意を喪失するのだ。

 ベントはたくましい腕を組み、深く座り直す。そして、ゆっくりと瞑目する。

 こういうちょっとした彼の所作でさえ、ライアとファルは身が引き締まる思いがした。

 極限まで鍛え抜かれた身体と厳格な表情には、惑うことのない不屈の精神と、戦場に立つ者の激しさ、非情さ、悲哀、虚しさ、そして、それらを全て受け入れ、それでもなお武器を取り戦場に赴く男の、清らかなるも猛々しい風格が漂っている。

「……みんな、聞いてくれ」

 その、偉大なる武人の口から重厚な声が響いた。

【ディバインゲート零】

 周囲の人間は、一斉にベントを見やる。

「此度の出撃は、このベント……」

「と、妹のカターレも参加しまーっす☆」

 突如、カターレがベントに抱き付くようにして、背後から顔を出した。

「カ、カターレ!?」

 不意を突かれて、威厳ある武人の声は、ひっくり返る。

「というわけで、お兄ちゃん!次の理力界侵攻はカターレも一緒だよっ」

「何がどういうわけなんだ……!馬鹿を言うな」

「カターレのキラキラ☆ヴェールがあれば、お兄ちゃんも向かうところ敵なし!試してみたいでしょ?」

「な、なに?きらきら……?」

「キラキラ☆ヴェールだよっ!一回で覚えられないなんて、魔法少女失格だよー」

 妹のカターレは、最近になって激変した。

 少し生意気な口を聞いたり、イマドキの若者特有の脱力感はあったが、明るく真面目で、ごく平凡な少女だったのに。

 その理由がどうやら『魔法少女』なる理力界の戦闘組織にあることは、ベントも気づいていた。

(まさか……魔法少女に会いたいばかりに、理力界への出撃を望んでいるのでは……)

 ベントの頭に不安がよぎる。カターレを問い詰めたいが、『旅団』の幹部が集まる場では、敵方の名前を出すのは憚られた。

 ベントは咳払いする。

「カターレ。その話は後にしよう。今は下がりなさい」

「ヤだ☆理力界の出撃に連れて行ってくれる約束をしてくれなきゃ。レジェンド☆カターレはここから出て行かないよっ」

「れじぇ……何?」

 最近、ベントはカターレが何を言っているのか、よく分からない時がある。

 それに気のせいか、言葉一つ一つが妙に弾けているというか、チカチカしているというか、『☆』が散りばめられているような気がする。

「まったくもうっ☆お兄ちゃんじゃ話にならないよーっ。出撃の最終決定権は最高司令官にあるよねっ?ねねね?」

 カターレはベントの背中を離れ、踊るように一回転してファルに近寄る。

「うっとうしいぞ、カターレ」

「お子様上官はお口が悪いなー」

「だ、誰が……!」

「最高司令官はまだいらっしゃっていない。だから後で……」

 ベントは実力行使に出るべく妹の腕を取ろうとしたが、カターレはひらりとスカートを翻して逃れる。

(このわたしを、かわした……!?)

 思いがけない妹の成長に、ベントは頭に落雷を受けたような衝撃を受ける。

「じゃあ、直接司令室に行ってみるっ!こうなったら司令官に直談判☆」

 光の速さで会議室を出ようとするカターレ。

 衝撃のあまり自失するベント。

 呆然とする幹部の面々。

 カターレは扉に手を掛ける。その時……。

「小娘、弁えなさい!」

 誰もが真面目で目立たない存在だったカターレの変貌に驚き、さらには首をつっこみづらい兄妹間のやり取りに呆然と成り行きを見守っていた中、発せられた鶴の一声――ライアだ。

「貴方のような子どもが出る幕はないのよ」

「え~……」

 一瞬立ち止まって、何か考える素振りをしたカターレだが、すぐさまにっこりと笑う。

「いきなりどうしたのぉ?あんまり怖い顔すると、ダメだよ~、ふるふるふるっ」

「な、なんだ?」

 両手を回して、わざとらしい『震えている』の身振りをするカターレに、ライアは眉をひそめる。

「額と目元と口元に……おばちゃんの大敵、加齢による皮膚のたるみがぁっ……ふるふるふるっっ」

「おおおお、おばちゃん!?」

「ほらほらぁ~。刻み込まれたまま元に戻らなくなる皮膚の老化現象がぁ……」

「シ、シワと言え!わずらわしい!!」

「おばちゃん、あんまり怒るとシワが増えちゃうよ☆」

「くうぅ……!」

 ライアは顔を赤くして、カターレからの屈辱的な舌鋒に耐える。

「おばちゃん、おばちゃん♪こんなお肌ぴっちぴちの小娘の相手してないで、早く帰ってお肌パックした方がいいんじゃないの~?」

「くううぅぅっ……!」

「……ベント、そろそろ立ち直らないと、お前の妹がライアに殺されるぞ?まぁカターレのことだから、ただ挑発してるだけじゃなさそうだけどな」

「はっ……!」

 ファルに声を掛けられて、ベントは我に返った。

 非戦闘員だった妹に手の内を読まれ、攻撃をかわされたことで、自分の鍛錬は間違っていたのではないかと、今までの修行の記憶を走馬灯のように思い返して自省している場合ではない。

「キャッ!おばちゃん顔こわ~い☆☆」

「カターレ!無礼だぞ」

 ベントはカターレの肩を掴む。

「わわっ、お兄ちゃん……!」

「ラ、ライア……すまない。なんと謝罪していいのか……」

 ライアは額まで赤くなり、静かに激高していた。

「……わかった。出撃の許可を与えよう」

「なっ……」

 ベントが上げた驚きの声を、カターレの黄色い声が覆った。

「いいの?やったぁーっ!」

「あぁ。そんなに死にたいなら、な」

 ライアの目は据わっている。

「ベント、今、謝罪をしたいと言ったな?」

「あ、あぁ……。二言はない」

「それなら、そこの小娘と一緒に出兵して、我らが成しえなかった戦果を挙げてくるがいい。お守りをしながらお前がどこまで戦えるのか、見届けてやろう」

「ぐっ……」

 ここでベントはようやく、ライアを挑発したのはカターレの作戦であることに気づいた。

 全ては出撃の許可をもらうため。

 ライアは逆上して、自分に出撃命令を出す。こうなることを、読んでいたのだ。

(我が妹ながら、恐ろしい知恵……いや、あっぱれと言うべきか……)

「了解しました~っ!幹部ライアの命に従いま~すっ☆」

「これはもう止められないな……」

 ファルは呆れ顔でつぶやいた。

 ベントは大きく溜息を吐く。

「仕方がない……」

(何事も起きなければいいが……)

 悲しくも、ベントの不安は的中してしまう。

 カターレの本当の作戦は、これが『始まり』に過ぎないのだから……。

――こうしてベントは、カターレと共に理力界へ侵攻をすることになったのである。

『みんなぁ~っ!ギャラクシー☆カターレの推しメンは魔法少女のメイちゃんとロールちゃんなんだぁ~。覚えてくれないと、星に代わって、お仕置きしちゃうよ☆』

魔力界編・第3話“魔法少女”

テキスト:沢木褄
イラスト:bomi/okutron/ちてたん

 ベントは、大剣を一閃させた。

 すさまじい風圧が起こり、紫のノイズを巻き込み竜巻のようになって『少女たち』に襲い掛かる。

「このベントを阻む者は、何人たりとも許さぬ!」

 ここは魔影蝕の中――。

「くっ……つ、強い……!」

「単騎でこの戦闘力……強すぎます……」

 巌のように立ち塞がるベントの眼前で地面に伏しているのは、頭上で髪を二つのお団子にまとめている華奢な少女と、金の糸のような美しい長い髪の少女だ。

 一見、戦場に立つ者とは思えないような格好をしているが、油断してはいけないと、ベントは気を引き締める。

 少女たちは『強い』。倒れながらも、瞳だけはベントに向けて、その意志に満ちた輝きは失われていない。

「私たちは……負けるわけにはいかないんですっ!みんなの笑顔を守るために……!」

「メイの言う通り……」

 二人の少女は、立ち上がった。

「ロール、私たちのとっておき、行きますよ ……!ときめき☆スターライト……!!」

 長い髪の少女――メイは、ステッキを握り呪文を唱える。

「うんっ!『ヒロインズアカデミー』での訓練を思い出して、確実に……!」

 メイに合わせて、ロールもステッキを掲げる。

(魔法……!?)

 理力界で魔法は使えないはずだ。

 なのに、目の前の少女たちは魔法らしきものを発動させ、その強大なエネルギーがベントに向かって奔る。

 ベントは咆哮を上げた。

 巨大な竜が天へ飛翔するような、すさまじい地響きが起こり、少女たちは思わず目を閉じた。

「……!?」

 少女二人は、目を見開く。

 最後の力を振り絞って行使した魔法が、霧散している。

 あの武人の雄々しい『声』だけで。

 少女――メイとロールは膝を折る。極限の疲労と、絶望感が襲った。

(優勝劣敗。強き者が勝利を収めるのは、普遍の心理……)

 ベントは少女たちに向かい、ゆっくりと歩を進める。

 近づいてみると、想像していたよりも少女たちは幼かった。

(カターレと同じくらいの年齢か……)

 ベントは年の離れた妹・カターレのことを思った。

 妹と同じ年頃の少女たちが戦っている。

 その少女たちの命を、今ここで、自分が散らそうとしている。――ベントは大剣を振り上げようとしたが、身体が言うことを聞かない。

(迷うな……たとえ見た目は幼くとも、彼女たちは覚悟をして戦場に立っているのだ)

 ベントは自分に言い聞かせる。

 しかしどうしても、彼女たちのあどけない表情が、最愛の妹とかぶる。

(迷うな……!)

 ベントは大剣を持つ手に力を込める。

「あたしはっ……!」

 突然、ロールが叫んだ。

「絶対に負けられないのっ……」

「私も……まだ、戦えます……!」

 ベントは目をみはった。

 今にも倒れそうだった少女たちの瞳に、輝きが蘇る。いや、むしろ今まで以上に、熱く燃えている。

 圧倒的な戦力差を見せつけられた状態で、再び立ち上がる力が、どこに残っていたのか。

 敵ながら圧巻の不屈の精神に、ベントは胸を打たれた。

 その瞬間、電光石火の速さで、少女たちはそれぞれ反対の方向に駆け出して、ステッキを掲げる。

「「キラキラ☆マジカルクラーッシュ!!!」」

 二人の声が重なる。

 ベントの左右双方向から、まばゆい光を帯びた魔法が放たれた。

「ぐっ……!」

 回避する暇はなかった。息の合った少女たちの無駄のない動きと、峻烈な魔法の発動に、ベントは至近距離から放たれた攻撃を受ける。

 大剣を盾のようにして直撃は防いだ。――が、歩き出そうとすると、視界が歪んだ。相応のダメージを負ってしまったようだ。

「さぁ、戦いはまだ、始まったばかりです!」

 メイは叫んだ。美しく勇ましい姿で。

(このベント……一生の不覚。だが……)

「失礼した。貴殿たちも、戦士なのだな」

「えぇ!」

「当たり前じゃん!」

 ベントの胸は、不思議と高揚している。

 一方的な『侵略』は好きではない。

 強者と対峙する喜び。認め合えた者と、武器を交える高鳴り。

(何物にも代えがたい……!!)

 メイとロールも、ベントと同じ気持ちを抱いているようだった。

 誇り高く情け深い武人と対等な目線で戦えること。そんな相手に出会たことは、血なまぐさい戦場で出会える、唯一の希望だ。

「次は容赦せぬっ!」

「あたしたちだって――!」

 ベントは片手で大剣を振り上げた。――常人なら両手で使役する武器を、彼は片方の手で、軽々と扱う。

 ごくりと息を飲んだ少女たちも、動いた。

 ロールはベントに向かって跳躍し、メイは魔法を唱え始める。

 ベントの渾身の一撃と、ロールのステッキが交わる……その瞬間。

「前方に魔力障壁を展開!」

 カターレの強い声が響き、ベントとメイの間にマジック・ウォールが生じる。それはベントの振り下ろした大剣と接触し、激しい衝撃音を起こした。

「す、すごい……」

 跳び退き、間合いを取ったロールは、思わず漏らす。

 あと一秒遅かったら、自分はベントと激突していた。そのわずかな間隙に、雷のような速さで、しかもあの大剣の一撃を物ともしない強度の障壁を展開できるなんて。

 ロールもメイも、それを発生させた主を探す。すると、背後で……

「ま、まさか……本物!?ウソ!?」

 興奮した女の子の声に、魔法少女たちは振り向く。そこには、自分たちと同じような格好で、顔を赤くした少女が立っていた。

「えっと……?」

「カターレ!?」

 ベントも、魔法少女たち同じく驚きの表情を浮かべている。

 カターレは撤退経路の確認のため、別行動をしていたはずだ。

「どうして……!」

 ベントがカターレに詰め寄ろうとしたが、カターレの行動の方が早かった。

「魔法少女のメイちゃんとロールちゃんですよねっ!?」

 ものすごい速さで少女二人に駆け寄るカターレ。ベントの目にも追えない速度だった。

「大ファンなんですっ!握手してくださいっ!!」

「何……?」

 自分の妹が、熱戦を繰り広げていた敵方の少女と熱く手を握り合っている。

……というナゾの展開に、ベントは呆気にとられる。

「カ、カターレ、いつかお二人みたいな魔法少女になりたいんですっ……」

 カターレは顔を伏せた。もじもじして、恥じらいに満ちた様子は、恋する乙女を彷彿とさせる。

「そ、そうなんだ……?」

 突然の事態に、ロールは言葉を失う。

「あ、だからそんな格好を……?」

 戸惑いながらも、メイはカターレに微笑んだ。

「はは、はいっ!この衣装は、ロールちゃんが着る予定だったけど変更になった衣装をモチーフにしてるんです!」

「ホントだ!伸縮性がイマイチで、却下になったやつ……」

 ロールがカターレの衣装をまじまじと見て、ハッと驚く。

「ちょっと、変わってる……?」

「はい!カターレなりに改良してみて……。この衣装、大好きだったので……いつか、ロールちゃんにも着てほしくて……」

 驚いているロールとメイを見て、カターレは慌てて言葉をつけ加える。

「あ、あの、ロールちゃんの着るはずだった衣装なんて、恐れ多いかもしれないですけど、でも、カターレも早く憧れの魔法少女に……」

「君って……」

 先ほどのベントとの戦いを中断させた魔法や俊敏な身のこなしは、只者ではない。そして、『魔法少女』にかける情熱……。

 会ったばかりの違う世界の少女は、自分たちと変わらず、魔法少女になるべく努力を重ねているのだ。

「君はもう、立派な魔法少女だよ」

 ロールはカターレに親近感を抱き、尊敬のような気持ちさえ持った。

「私も、そう思います」

 ロールとメイがにっこり笑うと、カターレは感激して身体を震わせる。

「ああああ、ああ、ありがとうございます!すっごく嬉しいー☆キャーっイヤーっ」

(そうか、これがカターレの言っていた魔法少女か……!)

 と、ベントが気づいた時、カターレはメイとロールにサインをもらっていた。

 ベントの目には、メイとロールと、彼女たちと同じような格好をしているカターレが、まるで三人組の魔法少女のように見える。

(なじんでいる……我が妹が、魔法少女なるものになじんでいる……!!)

 この混沌とした状況に頭が追いつかないベントの元へ、カターレが近寄って来る。

「お兄ちゃん、お兄ちゃん☆写真撮って~」

「お、おう……」

 押し付けるように渡された『マジック・フィルム』――魔力で光を集め、対象物の静止画を記録する装置――で、ベントは魔法少女三人組の写真を撮る。

【ディバインゲート零】

「もっともっと~☆」

「こう……か?」

「そうそう~」

「縦でも撮っておくか……」

「お兄ちゃん気が利く~☆」

 不測の事態においては、頭を空っぽにして無心になることも必要だ。

 戦場において、時に「無」になれる武人が、真の強者といえる――。

 ベントは、幼き頃に父親から言われた訓戒を思い出していた。

(そうだ、非常事態では無心もまた一手……)

……と、ベントが必死に己の頭と心を整えている一方で、カターレは……。

(お願い!カターレが本当の魔法少女になるため、お二人の力を貸してください……)

 カターレはメイとロールに小声で密談を始めていた。

(えっ……?)

(カターレが合図したら、三人がかりでお兄ちゃんを気絶させちゃいましょう!)

((え、えええええぇぇぇっ!?))

 メイとロールが同時に叫ぶ。

(カターレが注意を引き付けておきますから、お二人は背後からドスンと、そのステッキで渾身の一撃をぶちかましてくださいっ。名付けて、マジカル☆ショックです)

(それマジックじゃなくて物理……!!)

「ちょ、ちょっと……」

 メイは思わず、普通の声で話してしまう。

「それはいくらなんでも……」

「あの人、お兄ちゃんなんだよね……?」

「そうです!だけど、こんなチャンスは滅多にありませんからっ☆」

「そんな無邪気な笑顔で言われも……」

 メイとロールは顔を見合わせる。

 カターレがどうしてそこまで必死なのかは分からないし、戦場に立つ者同士、認め合えた相手を背後から襲うような卑怯な真似はしたくないし、魔力界の人間が理力界に留まることってできるの?

……とか、とにかくなんだか色々なことがあって考えがまとまらない二人は、戸惑う。

「きょ、今日は止めておきませんか……?」

 小さい子を諭すように、メイは苦笑した。

「先延ばしはよくないと思います!」

「だ、だけどさ……。えと、じゃあ、今おとなしく撤退してくれるなら、いつか三人で新しいユニットを組もうよ!」

 ロールの提案に、カターレは目を輝かせる。

「え……メイちゃんとロールちゃんと……三人ユニットってこと!?」

「うん。だから今日は、お互い引き分けってことで……」

「はわわ~☆憧れのお二人と魔法少女ユニットに……!」

「いいでしょうか?」

 戸惑いながらもメイが確認すると、カターレはなぜか敬礼した。

「もちろんですっ☆それまでに魔法も歌も踊りも練習して、カターレも腕を磨いておきます!お二人に負けないような、キラキラした魔法少女になります!!」

 メイとロールは目線を合わせて、思わず笑ってしまった。

 カターレも自分たちと同じ。

 本当に魔法少女が大好きなんだ。

「必ず、またお会いしましょうね~☆☆」

 無心になっている兄の手を引いて、カターレは紫のノイズがいっそう激しい最奥部へと去って行くのであった……。

※   ※   ※

「なんと報告すべきか……」

 帰還の途中、無心状態から意識を取り戻したベントは、頭を抱えていた。

 理力界の敵を倒すどころか、まるで友達のように会話を交わしたり、写真を撮ったりしてしまった。この『戦果』をどう報告すればいいのか。

「我が妹ながら、困ったもんだ……」

「何か言った?お兄ちゃん」

 だが無邪気な妹の笑顔を見ると、つい気が緩んで何も言えなくなってしまう。

(カターレ……あんなに嬉しそうに笑うんだな……)

 ずっと心配だった。

 真面目で器用で、なんでも卒なくこなすが、どこか冷めているように見えた妹の生き方が。

 だからベントは、途方に暮れながらも、心のどこかでは喜びを感じている。それはカターレの本当の笑顔を見ることができたからだった。

(……だが、次はないぞ。魔法少女たちよ。このベント、真の戦士を相手に容赦はせん……!!)

 戦士たる決意をしたベント。

 一方、カターレは……

(ユニット名考えて~、お揃いの衣装も作って~♪きゃーっ☆あ、主題歌も作らなくちゃ☆)

 兄妹は、まったく明後日の方向で、それぞれの想いを胸に抱いていた……。

※   ※   ※

 帰還後、ベントは戦況の報告のため最高司令官室を訪れていた。

「……戦果をご報告申し上げます。まず此度は貴重なお時間を……」

「ハハハ、ベントさん。堅苦しいことはやめましょう。どうぞ、首尾をお話しください」

 最高司令官――ハイラム・バーナンドは、柔和な笑顔を浮かべる。

 ベントは此度の出撃が、特に大きな成果もなく失敗に終わったことを謝罪した。

 そして、苦々しい表情で、カターレと魔法少女たちのことを打ち明ける。

「ほう。そうですか。いえいえ、まずはベントさんたちが無事でなにより……」

「もったいないお言葉……」

「……それに、貴方の妹と少女たちの友情。それは案外、塞翁が馬ってやつかもしれません」

「は……」

 ベントは言葉に詰まった。

 意味が分からなかったわけではなく、ハイラムの意図が読めず、反応が遅れた。

「ハハハ、唐突でしたね。深い意味はないんです。ただ、少女たちの友情は、何かを変えるきっかけになるかもと、そう思っただけで……」

 ハイラムの思考には、理解が及ばないところがある。

「いやいや、ハハハ。引き続き、理力界の攻略を頼みます。ベントさん、貴方には期待をしていますから」

「はっ!今度こそ必ず、魔力界に益する戦勲を挙げて参ります!」

 ベントが退出した後――。

「……ベントさんの妹がねぇ……」

 暗がりで一人、優しげな笑みを浮かべるハイラム。

「……理力界に間者を忍び込ませましょうか?偽りの情報を握らせ躍らせてみるのも面白いでしょう。駒は多ければ多いほど、戦局は激しく動くものです。ハハハハ……」

 穏やかな笑い声は不気味に響き渡るのだった。

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