"ゲームシナリオライターよもやま話"最終回。自分のオリジナルゲームシナリオをゲーム化する方法【電撃PS】
- 文
- 電撃PlayStation 、師走トオル
- 公開日時
『僕と彼女のゲーム戦争』などで知られる作家・師走トオル氏によるゲームコラム“名前のないゲームコラム”。今回は“ゲームシナリオライターよもやま話”の最終回をお送りします。
ゲームシナリオライターよもやま話 バックナンバー
ゲームシナリオライターよもやま話:最終回
自分のオリジナルゲームシナリオを
ゲーム化する方法
お便りをいただきました
さて、このシリーズを始めて早い者でもう8ヶ月となりました。この間いくつかお便りも頂きまして、その中に次のような質問がありましたので、今回はそれを題材にしてみたいと思います。
「自分の書いたオリジナルゲームシナリオをゲームにしてもらう方法はないのか?」
熱心なゲームファンはもちろん、ゲームシナリオライターも必ず一度は見る夢でしょう。なによりこの質問にご回答することが、ゲームシナリオというお仕事の本質を説明することにも繋がると判断しました。
それはゲームでなくてはいけないのか
まず大前提として、小説などはかなり作者の好き勝手にできるものですが、ゲームシナリオというのは非常に多くの変更・注文が入るものです。
昨今の例で言えば、ガチャだってその要因の一つです。たとえば「ユーザーがガチャを回したくなるようなシナリオにして欲しい」とは、どこのクライアントからも要求されることです。
こう書くと「ようは金を巻き上げる話にしろってことか!」と解釈される人もいるかもしれません。ただ、"ガチャを回したくなるほど欲しい魅力的なキャラ""ガチャを回してでも読みたくなるシナリオ"といった要素はゲームシナリオに限らず、あらゆる物語で求められるものだとは申し上げておきたいです。
そうでなくとも、次のような修正を求められることはごく当たり前のことです。
「現状のシナリオだと要求されるグラフィック素材が多すぎるので修正して欲しい」
「現状のシナリオだとゲームらしいバトルが少ないので戦闘シーンを追加して欲しい」
どんなにシナリオが面白かろうと、まずゲームとして完成しないとまったく意味がない以上、こういった修正が入ることは当然のことです。
自分がせっかく書いた物語に、山のような修正が入ることに耐えられるでしょうか? ゲームではなく小説や漫画などの表現媒体を選択すべきでは? まずその判断をしておいた方がいいでしょう。
一番手っ取り早い方法
ところでゲーム開発プロジェクトが始まるにあたり、"シナリオライターを選び、どんなシナリオを書いてもらうのか"を決めるのは一体誰でしょうか?
この辺りはプロジェクトによって様々ではありますが、多くの場合はゲームプロジェクトを立ち上げた人の特権ということになります。これはゲームプロジェクトに限った話ではなく、映画やアニメでも似たような話を聞きます。
プロジェクトを立ち上げた人とは誰か。大体は次の3つです。
・予算を出す人
・予算を集める人
・プロジェクトの中心となって制作を行う人
ようするにスポンサーとかプロデューサーとかディレクターといった、プロジェクト全体に大きな責任を持つ人たちですね。最近はプロデューサーにしてもエグゼクティブプロデューサーとかいろんな肩書きもありますが。
そう考えれば、"自分のオリジナルゲームシナリオをゲーム化する方法"の一つは簡単に答えが出ますね。そうです、スポンサーかプロデューサーかディレクターになればいいんです。それこそ宝くじにでも当たればスポンサーになるのは容易でしょう。そもそも宝くじに当たる方が難しいかもしれませんが。
付け加えますと、昨今は様々なゲーム製作のためのツールやエンジンが進化し、一人で制作されたゲームも珍しくはありません。自分でゲームプロジェクトを立ち上げ、スポンサーとプロデューサーとディレクターを兼任すれば、自分の好きなシナリオで好きなゲームを作りたい放題というわけです。実際、少人数の同人サークルから始まって大成したコンテンツ・クリエイターさんの実例はいくつもありますし。
ただ現実問題として、一人でゲームを作ることは簡単ではありません。誰だって自分の仕事や学業を抱えていますし、ゲーム開発の技術を一から学ぶのもまた大変です。できればもっと楽な方がいいです、具体的にはこんな流れで。
「面白いゲームシナリオを書きました! これをゲーム化してください!」
「すてきっ! 作らせて!」
私とて一度は夢見るまさに理想型です。
社風の問題
では仮にオリジナルのゲームシナリオがあったとして、どこかのゲーム会社に送ってみたとします。果たして「これは面白い! すぐゲームにさせて!」という反応があり得るでしょうか。
恐らく難しいでしょう。たとえそれがどんなに面白いゲームシナリオだったとしてもです。
なぜならまず、このシリーズで毎回のように申し上げてきましたが、ゲームとは基本的にチームで制作するものだからです(前述のように一人で開発される場合もありますがそこはそれ)。
仮にX社という"剣と魔法のファンタジーゲーム"を作るのが得意なゲーム会社があったとします。
そんなX社に、たとえば「宇宙を舞台にした壮大なSFシナリオ書きました!」と持っていったとしても、
「ウチはゴブリンやオーガはモデリングできるが、宇宙船をモデリングするとなると1から勉強し直さないといけない」
「ウチはユーザーからファンタジーを求められているので、その期待に応えたい」
そんな返答をされるのが関の山でしょう。もちろん「ウチはファンタジーばかりやってきたのであえてSFに挑戦したい!」という前向きな返答が得られる可能性もあります。しかしもし私が経営者の立場だったら、数千万から数億円もかかるプロジェクトでこれまでやってきた路線を大きく変更するという決断は、容易にできないでしょう。
では仮に、たとえばX社の作る"剣と魔法のファンタジーゲーム"が大好きなファンがいて、「その続編のつもりで書きました!」というゲームシナリオがあったとしたら?
社風には合うかもしれません。それでも難しいでしょう。実績という問題がかかわってくるからです。
実績の有無と、面白いゲームシナリオ
そもそも面白いゲームシナリオとはなんでしょうか。
個人個人が「このシナリオ面白い!」と判断することは容易です。
ですが「このシナリオは1000万人にウケるに違いない!」と判断することは極めて困難です。それが容易にできるなら100億円かけた大作映画がコケることはもっと少ないでしょうし。
ゲームプロジェクトも同様です。プロデューサーやディレクター等、シナリオの善し悪しを判断する立場にある人はたくさんいます。ですが「このシナリオ1000万人にウケるに違いない!」と100%誤りなく断定できる人は果たしているのでしょうか。いや、色んな人に接しているとそんな神がかった人がいるような気もするのですが、今まではうまくいっても次に失敗する可能性は常にあるわけです。
ではそんな現実の中で、実際にシナリオライターが選ばれる基準はどこにあるのでしょうか?
その重要な指針が実績ということになります。
つまり、
・すでに他の分野(小説やマンガなど)で高い評価を受けている
・すでにたくさんのゲームシナリオを書いて高い評価を受けている
こういう人であれば、「面白いゲームシナリオを書いてくれるかもしれない。じゃあ任せてみよう」ということになる可能性はあります。それどころか、一番よく耳にする事例です。
逆に、前項で触れたような"外部の人がシナリオを持ち込む"ことがいかに難しいかがよく分かると思います。なにせその人の実績が分かりませんから。
「実績はないけど、送ったシナリオが面白ければそこを評価して欲しい!」
そう思われるかもしれません。ですがこの考え方には大きな問題が2つあります。
一つはまず前述の“シナリオの面白さを判断するのは容易ではないこと”。
そしてもう一つの問題が“読む時間が確保できないこと”です。
ゲームシナリオを読むのは簡単ではありません。なにせ一つのゲームで使用されるゲームシナリオの文量は、下手すると文庫本5冊分に相当することもあります。
仮に文庫本1冊相当だったとしても、丹念に読み込むとなれば2時間はかかるでしょう。通常のお仕事を抱えてる人が、それほどの時間を確保するのは簡単ではありません。小説の新人賞だってお金をもらって投稿作を読み、一次選考というふるいにかける“下読み”という職業があるぐらいです。
もちろん可能性はゼロではありません。たまたま手の空いたディレクターがいて、たまたまあなたの送ったシナリオ原稿に眼を通してくれ、たまたまそれがディレクターが面白いと思う判断基準を満たしており、たまたま次に予定されていたゲーム開発プロジェクトのコンセプトに合致していたら?
ただそれがどれだけ可能性の薄いことかはお察し頂けると思います。つまりもしあなたが書いたゲームシナリオをゲームにしてもらいたいなら、まずゲームシナリオライターになり、実績をあげていくところから始めるのが一番の近道かもしれません。
その上で「実はオリジナルのゲームシナリオ原稿があるんですけど」と事ある度にアピールしておけば、いつか声がかかるときもあるかもしれません。曖昧な表現ばかりで恐縮ですが、この辺りは本当に運というかタイミングに依存する部分が大きいんですよね。
そもそもシナリオライターになるには
とはいえ本シリーズでも触れてきましたが、お仕事がもらえるゲームシナリオオライターになるというのも簡単ではありません。ゲームシナリオに近しい実績(小説やライター業等)があれば話は変わりますが、そもそも今は「ゲームシナリオライターとして実績をあげるには」という話をしてるのでいささか本末転倒気味です。
実際、このコーナーにも「実績があればお仕事をもらえるゲームシナリオライターになれるかも、という話は分かりました。じゃあ実績がないときはどうしたらいいんですか?」という質問を頂いたこともあります。
幸い、この辺りの事情も変わってきました。
たとえば【第5回】でアンケートにご協力いただいた株式会社Qualia Writers代表取締役社長の下村さんは、よくシナリオライター交流会を主催されています。これはシナリオライター交流会という名前にはなっていますが、"モノづくり"に関わっているプロの方であればシナリオライター未経験の方でも参加でき、この交流会を通してゲームシナリオのお仕事をもらう方も少なくないそうです。
私も昨今はそういった交流会の情報をよく耳にしますし、もし興味があればツイッターなどで検索してみるといいかもしれません。
実は最終回のお知らせ
さて、“名前のないゲームコラム”の新規企画として今年8ヶ月にわたって続いてまいりましたこの“ゲームシナリオライターよもやま話”シリーズ、実は今回が最終回です。
2010年代に入ってかつてない活況を迎えたゲームシナリオライター業界ですが、その流れはもう少し続きそうというのが個人的見解です。この企画を通して、そんなゲームシナリオライター業界への理解、あるいは興味を多少なりとも持って頂けたのでしたら、書き手としてこれに勝る喜びもありません。
ただ、“名前のないゲームコラム”自体は幸いまだ最終回ではありません。今後もまたどこかでお目にかかれれば幸いです。
それでは良いお年を!
師走トオル氏プロフィール
ゲームをこよなく愛する作家。主な著作に『火の国、風の国物語』『僕と彼女のゲーム戦争』『無法の弁護人』『バイオハザード7 レジデントイービル ドキュメントファイル』等。最新作『ファイフステル・サーガ 再臨の魔王と聖女の傭兵団』は富士見ファンタジア文庫より発売中。
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります