ゲーム制作ユニット・1000-REKAが開発を手がける『早咲きのくろゆり』のレビューをお届けします。
エビテンで購入する人気イラストレーターのフカヒレ氏がキャラクター原案&原画を担当する『早咲きのくろゆり』は、2023年9月26日にPC(Steam)向けに発売されたアドベンチャーゲーム。
プレイヤーが選択肢を割り込ませて運命を変える“割り込み選択肢”という独自システムを搭載しており、その没入感を生む仕掛けから多くのユーザーから賞賛を浴びた百合ゲーです。
そんな本作について、待望のNintendo Switch版が2026年10月29日に発売されることが発表されました。そこで今回は、改めて本作の素晴らしさを伝えるレビューをお届けします!
男女での恋愛が推奨されている架空の現代を舞台にした作品
『早咲きのくろゆり』は女の子同士の恋愛を描いた百合作品です。百合作品には女の子しか登場しないものも多いのですが、本作には男性キャラクターも登場します。
ただし、男性が世界に存在する意味がしっかりと用意されており、そのなかで女の子が女の子を好きになることの葛藤や、抑えられない心の機微が鮮明に描かれていくことになります。

本作は、15歳未満にだけ感染する高い致死率のウイルスス“CLII”が流行し、未成年の5割が亡くなってしまってから18年後の世界を舞台にした作品です。
CLIIの流行によって経済は悪化し、犯罪率も上昇してしまうなか、国はそこから立ち上がるために“はぐくみ政策”を立ち上げ、男女の恋愛を推奨しました。
結婚・出産・子育てをする夫婦は税金の優遇が図られ、逆に独身者には独身税が課せられる時代となっています。


我々(プレイヤー)が生きている現代以上に男女の恋愛と結婚、子育てが推奨されているそんな時代に、“女の子を好きになってしまった女の子”を描くのが本作になります。
本作の主人公は一見穏やかで物静かに見えるものの、心のなかは騒がしい笹森 花。人に対して理解と敬意を持っている一方で、恥ずかしいことや混乱することがあると一人であたふたしてしまう女の子です。
花はプレイヤーの分身であるとともに、思わず応援したくなるような魅力を持っています。ゲームを進めていくことでどんどん彼女のことを好きになる人も多いのではないでしょうか。

そんな花が想いを寄せるのが近江谷 樹という女の子です。元陸上部で運動が得意なムードメーカー。笑い、驚き、悲しみと感情豊かにコロコロ変わる女の子です。
本作は立ち絵がアニメーションで動くのも特徴になっていますが、そのアニメによって、より魅力的に描かれたのは樹ではないかなと。

この樹は花と同じ大学に合格していて春から通うことが決まっていますが、仲間たちには秘密にしていることがあり、卒業が近付くにつれて影を落とすような表情を見せることも増えていきます。

さらに本作には花と樹の親友である二色 青と、そんな青と幼なじみで姉妹のような関係の一色 藍も登場。このふたりも複雑な感情を抱いており、そんなふたりの関係と導き出す結論が花の行動に影響を及ぼすことになります。

青はツッコミポジションであるもののサメ映画が大好きでサメのことになるとテンションがおかしくなったり、藍は裏表がない猪突猛進な女の子で、見ているこちらも元気になる女の子だったりと、どちらも個性的で物語を盛り上げてくれる存在になります。


また、本作には前述の通り、男性キャラクターも登場。お調子者であるものの根は優しい少年である蛎崎 夏と、クールに見えるものの本当はマイペースなだけの櫻井 柊が物語に関わってきます。
特に夏は樹のことが好きで彼女に勇気をもって告白をしようと行動をするので、物語を大きく動かすことになるキャラクターです。
夏は花にとっては恋のライバルとなる人物ですが、本作においてはとてもいいアクセントになっています。男性キャラクターの夏や柊がいるからこそ、深く物語に刺さる内容になっていますし、本作にはこれらのキャラクターがいてよかったと思っています。
男性キャラクターが存在するなら本作をやらないという選択肢はあまりにもったいないので、ぜひ触れてみてほしいですね。


Steamのストアページに、“本作は純粋で青春的な三角関係が発生する要素はありますが、男の子側も悪意はなく、いわゆる胸糞展開のようなものはありません”と記載されている通り、そういった展開は存在せず、物語はあくまで青春モノとして描かれているので安心してください。

文字を入力して悲劇に介入するシステムが斬新!
本作はループもののストーリーとなっており、そのままゲームを進めていくと悲劇的な結末を迎えます。そして各章の悲劇を抜け出すと次の章へと進むことができ、次のループに挑んでいくという仕組みになっています。
おもしろいのは通常の選択肢は存在せず、自分の意思で特定会話中に選択肢を割り込ませて運命を変えていく点です。

選択肢を割り込ませたあとは実際にタイピングで文字を入力する必要があるので、物語のなかにある運命を変えるワードを推察することになります。
コマンド選択式アドベンチャーが流行する前のコマンド入力式アドベンチャーのようなシステムですが、本作は令和の作品ということもあり、とてもプレイしやすくなっています。
難易度がBeginner、Casual、Expertの3種類があり、Beginnerであれば重要な分岐をするワードに色が付き、メモライズという機能に自動保存されます。
また、重要な分岐部分で心音が鳴るようになるので、心音が鳴ったタイミングでメモライズから適切なワードを探せばいいのでかなりスムーズにゲームが進行します。

Casualは重要なワードにある程度“色”がついて教えてくれますが、メモライズ登録は手動でおこなう必要があります。そしてExpertは重要なワードに色が付かずに分岐箇所で心音もなりません。
Beginnerであればストレスフリーで遊ぶことができますが、本作は文脈を読んで物語に介入していくのがおもしろく、Expertはそのおもしろさを純粋に楽しめるので、ぜひ挑戦してみてほしいですね。
なお、難易度に関してはいつでも変更可能であり、途中で難易度を下げた場合はそれまでの展開で取りこぼしていた重要なワードも自動登録してくれる仕組み。そのため、難しくて詰まったら難易度を下げるというプレイはアリかなと思います。

なお、“能動的に選択肢を割り込ませて適切なワードを入力する”と書くと、とても難しそうですが、入力するタイミングは花が悩んだり考え込んだりするときなので、わかりやすいのではないかと。
入力する文字に関しては余計な言葉を入れないのがポイント。たとえば電話をするか迷っているときは「もういちど電話する」などではなく「電話」のような単語レベルのほうが成功しやすいです。
この方法で正解のはずなのにうまくいかないと思ったときは、入力する文字を変えてみましょう。

アドベンチャーゲームのループものは、ループを抜け出すことができたときに感じられるカタルシスが見どころですが、本作はプレイヤー自らの手でその道を切り拓いていくことになるので、さらに気持ちいいです。ループに関しては章ごとに分かれているので、どこでなにをすればいいのか考えをまとめやすいのもいいですね。
正解がわかるまでループを繰り返すことになりますが、失敗した場合はどこでなにをすればいいのかヒントが与えられますし、便利なチャート機能も活用できます。ゲームをプレイしていて不便に感じることはなく、しっかり物語と謎解きに集中することができました。
また、メモライズ登録できるワードのなかには緑色の文字もあり、これは章と章の間にある“メモリーコール”で使用できます。寝る前の花ちゃんに特定ワードを打ち込むことで、短編ストーリーを解放できる機能です。
多彩なストーリーが存在しており、メモリーコールを集めたくなるような楽しみがあります。



アドベンチャーゲームというジャンルは進化が少なく、そこが“誰でもプレイでき、かつ物語に没頭できる”というよいポイントでもありますが、本作はその部分を維持しつつアドベンチャーゲームに新しい魅力を与えています。人が人を好きになるとはどういうことなのかというテーマを素晴らしいシステムとともに表現してくれています。
まだプレイしたことがないという人もNintendo Switch版の発売をきっかけに、ぜひ遊んでみてください!