電撃オンライン

『シュレディンガーズ・コール』開発者インタビュー。4年半の苦悩と試行錯誤を経て、世界に届いた終末ノベルアドベンチャーの魅力

文:長雨

公開日時:

最終更新:

 5月28日にリリースされたSwitch/Steam用ノベルアドベンチャー『シュレディンガーズ・コール』の開発者インタビューをお届けします。


 『シュレディンガーズ・コール』は、京都のインディーゲーム開発チーム・Acrobatic Chirimenjakoが開発を手がけ、集英社ゲームズがパブリッシングを担当するノベルアドベンチャーゲーム。21ナノ秒後に終焉を迎える世界で、世界最後の話し相手として生と死の狭間で彷徨う魂たちの心残りに寄り添っていく物語が展開します。

 今回、Acrobatic Chirimenjakoのディレクター・アート担当 Achabox氏、エンジニア・サブシナリオ担当 ame氏、メインシナリオ・音楽・演出担当 入交 星士氏、集英社ゲームズのシニアプロデューサー・林 真理氏にインタビューを行いました。

 月にまつわる独特な世界観が生まれたきっかけや、ストーリーや登場人物たちに込めた想いなどを伺いましたので、ぜひチェックしてください。
▲5月に開催された「BitSummit PUNCH」の集英社ゲームズブースは『シュレディンガーズ・コール』一色でした。
▲「BitSummit PUNCH」の会場でお会いした林 真理氏(写真中央)、入交 星士氏(写真右)
▲会場では多くの人が『シュレディンガーズ・コール』試遊版をプレイしていました。

 なお、電撃オンラインでは尖っていてオリジナリティがあったり、作り手が作りたいゲームを形にしていたりと、インディースピリットを感じるゲームをインディーゲームと呼び、愛を持ってプッシュしていきます!
※インタビュー中は敬称略 ※記事中にゲーム内容のネタバレはありませんが、物語や人物設定に触れる部分があります。ご了承ください

リリース前から日本の裏側ブラジルでも話題に!


――よろしくお願いします。まずは発売を迎えていかがでしょうか?

Achabox
緊張しました(笑)。皆さんにどう受け取ってもらえるのかとても気になって。

ame
緊張ももちろんありますが、長く開発していたタイトルなのでそれ以上に「お客さんの手元に、やっと届けることができる!」という嬉しさと、楽しみな気持ちがありましたね。

入交
緊張はなかったですね。

Achabox
え~(笑)。

入交
終わった~という気持ちのほうが強かったです。

ame
長かったからね。

入交
作品を完成させるのは、本当に大変なこと。皆も僕も、林さんもよくやった(笑)。

Achabox
言うね~(笑)。

ゲームの開発は、プレイヤーの皆さんが思うよりも完成しないことが多いんですよね。お客さんから良くも悪くもどんな反響があるのか、ワクワクとドキドキという感じでした。

Achabox
普段ならゲームをしないという方も、ビジュアルが気になるからと遊んでくださって……。さらに「すごくよかったです」と言っていただけて、そういう方にも届いたことも嬉しいですね。

体験版がプレイできる「Steam Nextフェス」(2025年10月開催)のタイミングで、1章をまるまる遊べる体験版を出させていただき、すごくいい反響をいただきました。Steamで配信中の体験版も圧倒的な好評をいただき、予想以上にお客様に反応いただいているなと。

 その反面、2章以降に怒涛の展開があるので……どう受け取っていただけるかドキドキしました。
 
ame
私は配信者さんの実況をよく見るんですけど、泣いてくださる方が多いなと思いました。それは、日本にかぎらず。

 僕が見たなかではチェコ系の方や東南アジアの方、英語圏の方、もちろん日本でもたくさんの方が配信してくださって。涙声でゲーム実況されている方もたくさんいて、その反応1つ1つが嬉しかったですね。

社内でも、テストプレイで泣いている人が多かったです。弊社でクオリティーラインのチェックをしている僕と同年代の男性が、ゲームのエンディング間際まできて「俺、これ泣くから家に帰ってやるわ」と言い出したのが印象的でした。

 3人が約4年半、試行錯誤を繰り返しながら作ってきたものが形になり、いい反響をいただけているのは僕としてもほっとしているところです。

ブラジルのゲーム展示会「gamescom latam」で、2部門で本作がノミネートされまして。

Achabox
ベストナラティブ賞とベストアート賞のファイナリストですね。

ライバルが強すぎたこともあり、賞は取れなかったんですが、日本の裏側にあるブラジルまで、大きな宣伝はしていないのに届いたなと。入交さんには、発表会場のブラジルまで行ってもらいました。

入交
3泊7日ほどで、移動、移動でスゴイ移動距離があるんですよ。そこで、10社くらいに取材していただきました。

ブラジルのイベントも、肌で感じてもらって。

 日本で消費されるだけのコンテンツではなく、世界に出していきたいという僕らの目標にも合う形で、今は進んでいるなと感じます。

開発チームの3人は、違うお仕事からインディーゲームの世界へ


――先ほど約4年半というお話も出ましたが、制作はいつごろから、どのような経緯でスタートしたのでしょうか?

もともと集英社ゲームズを立ち上げる少し前から、“ゲームクリエイターズCAMP”というWebサイトでインディーズ支援をしています。このサイトはメンバーを集めたり、自分の企画をアップしたりできる交流プラットフォームです。

 2021年にオリジナルゲームコンテスト「GAME BBQ vol.01」が行われ、そこで大賞を取ったのが『
シュレディンガーズ・コール』でした。

 企画書のみの公募展で、当時はモバイル用の企画だったんですよね。2022年に集英社ゲームズで支援することが決まりますが、コンセプトややりたいことはあったけど、どう作っていくか何も決まっていない状態でした。

 最初は、オフィスもインディーズを支援する人たちから間借りしていましたね。本当に何もない状態、ゼロからスタートしました。

 実はゲーム開発についても、Achaboxさんは少しやったことがあるけど、ほかの2人は今回が初です。本当に自分たちでゲームの作り方、エンジニアリング、シナリオの作り方を学びながら、やって来たチームです。

 2023年8月に、1章の原型が出来上がりました。ここで、どんなゲームなのか見えてきて、当初の予定よりも大きなゲームになっていきます。

 この期間に、3人は地獄のような苦労の数々を経験していて(笑)。喧々諤々しながら、作っては捨て、作っては捨てを繰り返して、3人が手探りで成長しながら進んできた感じですね。

――ゲーム開発はほぼ初めてと聞き、驚きました。この世界に飛び込まれたのは、やはりゲームが好き、作ってみたいという気持ちが強かったのでしょうか?

Achabox
そうですね。私は昔からゲームが好きで、ゲーム系に進むために美術大学に進んだほどです。でも大学在学中に映像や広告方面に興味が出て、最初はそちらの道に進みました。

 日本最大級のインディーゲームイベント「BitSummit」の第3回ぐらいのときに、会場の記録映像を撮る映像スタッフとして参加しました。

 そのときはクリエイターさんにインタビューをする側だったのですが、そこでインディーというジャンルを知り、「カッコいい、おもしろい!」と思いました。インタビューするなかで、「私、ゲームを作りたいんじゃなかったっけ……」と改めて思い出して。

 そこから「BitSummit」に関わられているQ-Gamesさんでデバッカーをしたり、room6さんにアルバイトから入って社員になったり、そして今に至るという感じです。

 2人は、まったく別のところから来てくれたんだよね。

ame
僕は立て続けにパズルアドベンチャー『OneShot』と、アクションRPG『The Elder Scrolls V: Skyrim』を遊んだんです。

 そこで、ちょっとおもしろ過ぎるなと(笑)。

Achabox
衝撃だよね。

ame
本業は制作会社の事業部長をしていたんですが、もともと物語が好きで、自分で小説を書いたり、TRPGを遊んだりしていました。

 そういう経験を経てから、少し離れていたゲームを改めてやった時、ノベルゲームなどから広がり始めた物語体験が、もっと広がっていこうしていると肌で感じたんです。ぜひ、作る側に立ちたいと思って勉強を始めました。

――入交さんはいかがですか?

入交
小学校の時に、家に「PC-9801」というフロッピーディスクをがしゃんと入れるタイプのパソコンがあり、それやPCエンジンで、ハドソン、日本ファルコムのゲームを遊んでいました。そこでゲーム音楽を多数手がける古代祐三さんを知り、ロックと出会って、中学からは「バンドをやるんだ」とゲームから離れたんです。

――入口はゲーム音楽だったんですね。

入交
日本ファルコム、古代さんの世代なので。ロックとかバンドの名前がわかるようになっていき、そちらの方にいきました。

 その後、演劇に携わるようになり、日本と海外を行ったり来たりするように。そんななか8年くらい前に、デンマークで日本のクリエイターと北欧のクリエイターを集めた勉強会があったんです。

 僕自身はアニメーション制作として参加したんですが、そこでインディーというものがあることを知りました。ちょっと尖っているし、強い人たちがいるなと思いましたね。

 その後に仕事で、京都に来たんですが、コロナ禍に遭遇しまして……。京都で1人になってしまって、その時に連絡を取ったのが、デンマークで出会った元・任天堂の友人。友人の繋がりで、インディーの人たちを紹介してもらいました。

 そしたらAchaboxさんが近くに住んでいて、当時は感染対策に気を付けながら、よく餃子を食べていました。そこでAchaboxさんから「コンテストがあるから、テキストを書いて」って言われて。

Achabox
勢いで、お願いしました(笑)。

入交
Excelに書く、スプレッドシートに書くなど、書式を最初に説明されました。そこから、やりましょうということになって。

Achabox
それで、企画書を書いたら大賞をいただいて制作することになりました。

入交
今思うと、すごいです。

チャンスを掴んだってことだよね。

Achabox
絶対大賞を取るんだと意気込んでいましたね。

入交
先ほどモバイルゲームという話もありましたが、最初はサクッとできる育成ゲームのようなイメージがありました。

 Achaboxさんが『ことだま日記』というモバイルゲームを作っていたので、そのメカニックを使う予定でした。

Achabox
最初はね。言葉を食べさせることで、進化していくので、言葉を投げ入れることで会話するみたいな。

入交
対応していくことで、マルチエンディングのようにキャラクターが変わっていくというので企画を応募したんですよね。

そんな偶然出会った3人が、この企画が通ったことで集まって、始まったプロジェクトです。

きっかけはコロナ禍! 他人かもしれないけど、寄り添えるというのが物語の出発点


――本作のストーリーに込めたメッセージ、テーマを教えてください。

Achabox
出会いの話でコロナ禍が出ましたが、その当時、家族や友人など自分のなかで少し辛いことがあったんです。でも誰かに気軽に話を聞いてもらうことが、情勢的に出来なくなって、しんどい思いをした時期がありました。

 コロナ禍では、ZoomやDiscordなど、電話・音声チャットツールが一気に広がりましたよね。例えば実際には会ったことがないゲーム内のコミュニティーでも、いろいろな人に話を聞いてもらったり、意外に同じような悩みを持っている人がいることが知れたり。

 顔を知らない相手だけど、話をしてお互い共感できて救われたという経験が、根本的なテーマになっています。他人かもしれないけど、寄り添えるというのが本作の出発点です。


――“21ナノ秒後に月が落ちて滅びる世界”というのは、かなり斬新な設定ですが、どのように生まれたのでしょうか?

入交
『メランコリア』というデンマーク映画の影響があります。僕はデンマークで映画の勉強をしていて、監督が有名な方で、向こうにいる時に映画を見ました。

 最後に月が落ちてくるんですけど、パニックになるわけでもなく、意外にも皆笑顔で終わるのが印象に残っています。

 本作も月が落ちることの不幸ではなく、月が落ちることで終わる世界で、もしも誰かと話せるんだったら……というきっかけとして描いています。

Achabox
本作は生と死の境目にある魂なので、終わったあとではなく、今まさに終わりかけの瞬間。入交さんが“21ナノ秒後に月が落ちて滅びる世界”という設定を作ってくれて、すごくよかったんです。

入交
ちょっとした裏話をすると、最初の1年くらい「人を救うゲームを作る」と言われていたんです。でも、人を救うというのがよく分からなくて……。模索中は言葉を投げたり、敵を倒したり、いろいろやっていましたね(笑)。

 ゲームのルールとして救うのか、ストーリーで救うのかと悩み、2023年の8月にストーリーで救う方向に舵を切りました。

 世界が終わって途中で電話が途切れてしまうけど、その電話を続けられるなら……というストーリーです。電話が途切れる理由としてどんな設定がいいか考えて、月が落ちたらおもしろいなと。

ame
設定がちゃんとテーマに紐づいているなと、個人的に感じています。話すことがテーマ。コミュニケーションのミスを乗り越えて話せる相手は得難く、人間の関係は壊れやすいものです。その壊れやすさに、皆苦しむんだと思います。その苦しさに寄り添い、大切さを思い出すなかで、この設定になっていった気がします。

Achabox
『シュレディンガーズ・コール』というタイトルや月が出てくることから、すごくロジカルな設定を期待している方もいるかもしれません。どちらかと言えば、“電話しているときに月が落ちてしまった”というすごくファンタジックな世界です。

ゲーム配信者にも大人気! 猫のイキルカ・シヌカ・ハムレット

 

――登場する猫のハムレットという名前も、生と死の狭間という世界観にぴったりですね。

入交
最初は名前がないので、ソウセキ(夏目漱石/「吾輩は猫である」)と呼んでいました。

ame
あった!

愛着をもってもらうために、自分で名前をつけられたバージョンもあったよね。

入交
そのあたりは、没になりましたけど。

 猫にしたのは寄り添ってくれるけど、いきなりどこかに行くこともあり、生きることも死ぬことも気まぐれに見えるのを表現したかったんです。本作でもガイドして助けてくれることもあれば、突然放っておかれたりもしますしね。

 また有名な思考実験“シュレディンガーの猫”も、猫にした理由です。

ハムレットの名前が決まったまではいいけど、正式名称が「イキルカ・シヌカ・ハムレット」になったときは、本当にこのままいくのかなと(笑)。

Achabox
私も最初は大丈夫かな? と思ったんですよ、メモに勝手に名前が書かれますし。でも体験版の実況プレイを配信してくださっている皆さんから、「イキルカ・シヌカ・ハムレット、最高!」とすごく反響があったので、残そうと思いました(笑)。

 ハムレットは怖く見えたり、怪しく見えたりする場面もありますが、ユーモアがあって抜け感があるいいキャラクターです。

メアリは時間をかけて丁寧に作られた人物


――確かに、名前のところでおもしろい猫なんだなと思いました。ハムレットと同じく、重要な登場人物が世界最後の話し相手であるメアリです。彼女を描くうえで、意識されたことはありますか?

入交
メアリの記憶のありなしは、かなり悩みました。あまり個性がありすぎると、プレイヤーが物語を体験するなかで気になってしまうと思うので、今の形になっています。

 ただ物語の終盤になると、彼女の印象もかなり変わってくると思います。そのときにはプレイヤーも作品の世界に慣れているので、むしろ、もっと彼女のことを知りたいと思ってもらえるのではないかなと……。

物語のガイド役として、プレイヤーを導く存在でもあります。プレイヤーが感じていることを、自然とメアリも感じていてほしい。ポーズをつけたり、心の声を入れたり、過剰ではないけどプレイヤーと近い反応をしてくれる存在になるよう気を遣っています。

Achabox
メアリで難しかったのは、記憶がない状態で部屋にいるのに、脱出しようとしないこと。普通は「ここはどこ」や「帰りたい」と反応する場合が多いと思うので、そうじゃない彼女の反応が、プレイヤーにとって違和感のあるものにならないように工夫しました。

 ハムレットや電話に注目が向くようにしたり、メアリの何気ない言葉で「訳アリなのかな……」と感じられるようにしたりしています。

入交
集英社ゲームズのアシスタントプロデューサーの方が、客観的に物語を見て「これじゃ、物語に入り込めません」「これでは、わかりません」と的確に言ってくれます。そのフィードバックが、毎週、ときには週2回で届くんです。

 それによって、ちゃんとメアリとプレイヤーのいい距離感を作れているかなと思います。

――物語の序盤、部屋にある椅子に座ったメアリがしっくりくる的なことを言います。その言葉で、彼女にとって部屋が居心地の悪い場所ではないことが伝わってきて、すごいなと思いました。

入交
そういう部分を、たくさん指摘してもらっています。「一言ほしい」「一言変えたい」というのは、かなりフィードバックで言われましたね。

Achabox
フィードバックをいただいてブラッシュアップされていくなかで、メアリの言葉のトゲやキツイ言い方がどんどんまろやかになっていきました。

 あまり感情を出す子ではありませんが、落ち着いて聞いていますし、ぼそっと話すことは優しいという、絶妙なバランスです。ギャグっぽいシーンではツッコミ役になることもあったり、章が進むことで、いろいろな面が見えてきます。

最初は3人のなかでもブレがあったのが、洗練されていきましたね。だんだん「こんなことは言わないよね」や「ここは強すぎないか」など、僕も含めて皆のメアリ像が統一されていき、時間をかけて作っていたキャラクターです。


――個人的に、メアリがダジャレを言うシーンが好きでした。本人も気に入っていて、おもしろい子なんだなと(笑)

Achabox
おもしろいですよね(笑)。

入交
実は1章を作った時に、いろいろな方に「(話が)重すぎるので、このまま重いのは……」というフィードバックを受けました。そこで、2章以降は息抜きになるキャラを入れています。

Achabox
メアリのダジャレに関わるチェホーは、そんなキャラの1人です。

完成までに、展開の異なる2タイトル分の没案が!?


――物語の端々で、メアリの過去に関する情報が登場します。そのバランスも絶妙だなと感じました。

Achabox
各章でキャラクターたちを救うことで、メアリの過去も見えてくるという想定は同じですが、最初の段階では序盤にメアリが青い部屋に行くパートはなかったんです。

 全部作ったあとで、「1章に、もう少しフックがいるよね」など調整していきました。

最終章まで1度作りきるまで、3人もどんな結末になるのか見えきれていない部分があったんだと思います。想像のなかにあるけど、形にできていないと言いますか。

 最後まで作り上げて、また1章から見直すことで足りないものも分かり、そこからさらに足したり、引いたりしていました。
 
 4年半という時間をかけて、試行錯誤しながらここまでやってきた感じですね。3人がその場で考え、変更ができる小回りの利くチームだからできたことです。

 また入交さんは、シナリオを書き、それをスクリプトで入れ、自分で音楽を作曲して音も入れられるので、演出まで含めて映像を丸っと自分で作ることができます。しかもそれを捨てて、また作ることができる。

 僕自身も若い頃はそうですが、クリエイターって、作ったものを捨てるのがすごく嫌なんですよ。

 それができる入交さんはすごいし、ameさんはそれができる環境をひたすら作ってくれていました。その繰り返し、やり直す作業を、3人とも頑張っていましたね。

入交
捨てたものはたくさんありましたね。僕たちは墓場文庫のメンバーと仲が良く、『都市伝説解体センター』を制作した際に、最初に1回最後まで作ったという話を聞いていたんです。それで僕たちはそれをやりたくないなと思っていたのですが、林さんが「とりあえず、全部やるんだ」と。

ame
そのなかで「これじゃない」、「これじゃない」とやって、たぶん3回は全体を書き直していると思うんですよね。

Achabox
あと2本、『アナザー シュレディンガーズ・コール』が作れてしまうくらいで、キャラクターの方針は同じなんですが、2章からの見せ方とか展開もかなり違いました。

 もちろん、今が1番いいものになってはいるのですが。

ame
本当に大変でしたね。「これなら」というところまで来てからブラッシュアップに入った感じで、それまでが地獄でした。

Achabox
ブラッシュアップも、地獄だったけどね(笑)。

入交
全部作るのは大変でしたが、でもこの方法じゃなければ、たぶん無理だったと思います。

 最終章までテーマが一貫していて、最終章のために1章があるくらいの構成になっています。それができたのもアドリブで作っていったのではなく、地獄のように思えた期間に全部を1回作りきったからこそ。

全部作りきってみることで、自分たちが作ったもののいいところも、悪いところも見えたので、見直すことが重要だなと思いました。

入交
ほかのゲーム制作の場合は、どうなんですか?

人数が多い現場は設計図を作ってから動くので、こんなやり直しが繰り返しであることはないです。

 少人数だからできたことだし、3人ともずっとゲーム業界にいた人間ではなく、「ゲームはこう作る」という経験則がない。自分たちがやりたいことは作っていく過程でしか見つからないと思うので、できるだけ作って失敗して、次のチャレンジをするというのを時間が許す限りできたのかなと。

 時間に限りはあったので、許していなかったんですけどね。そこは、何とかしました(笑)。

Acrobatic Chirimenjako一同 その通りです、ありがとうございます。

本当は、もう1年くらい前に出したかったんだけどね(笑)。

Achabox
私たちも同じ思いです(笑)。

――インディーゲームならではの作り方ですね。

そうですね。そして僕たちは、作家性を大事にしています。『シュレディンガーズ・コール』は作家性がよく出ていて、3人じゃなければ作れなかった。
 
 これは大規模なチームで作るのとは、また別のよさだと思います。

 個にフィーチャーしたものの作り方ですし、これからのクリエイティブのなかで重要なテーマになってくるのではないでしょうか。

――絵本のようなグラフィックや音楽も作品の魅力です。映像や音楽面のこだわりをお聞かせください。

入交
先ほど林さんが言ったように、自分でプログラムから音楽まで、映像演出を作ることができます。3秒の曲が入るなど仕様書がある作り方をしていないので、そのぶんフレキシブルです。

入交さんのようにシナリオが書けて、映像が作れて、音楽もできるというのは稀有な存在です。物語を書きながら、どんな音楽を流そう、どういう映像を出すべきか、同時に考えて作れ、修正ができる。

 今回の映像美は、この同時にやっていることが重要な気がします。これは100人のチーム、10人のチームでも無理じゃないかと思います。

 音楽自体も入交さんの好きなものや、こだわりを強く感じます。きっとシナリオを書いているなかで、音楽がわかることがあったのでしょうか、途中で曲が差し変わったりすることもありました。トータルで演出して作っていくのは、おもしろく尖れた部分でもありますね。

入交
自分のなかで、いっぱい制限も入れましたけどね。例えば普通の曲は楽器をたくさん使うと思うのですが、僕は6つに制限しました。そのぶん「この曲はここで使いまわせる」とか、「ここは楽器を変える」などの工夫はたくさんしています。

 仕様書のないメリットですね。そのぶん、迷走するとどこまでも迷走してしまうんですけど(笑)。

シナリオを書きながら、「シーンを変えたいから、楽器を変えよう」と思えることって、なかなかできることじゃないです。通常のゲーム制作は、音楽を別の方が担当して、大枠の設定だけ伝わっていてみたいなところがあるので。

 曲の振りが似ているから楽器を変えてみようなど、できるのがこだわりですし、おもしろさですよね。

入交
僕が全部決めたわけではなく、Achaboxさんがしっかりと見てくれました。Achaboxさんは全曲をチェックしていて、とても厳しいんです。

ディレクターであるAchaboxさんの企画・コンセプトなので、それが表現できているかというのは重要ですからね。

 Achaboxさんが芯のあるコンセプトを持っているのに対し、皆がまだまだ経験が足りなかったところがあり、たくさん失敗しながら作っていった感じがします。

 でも失敗を取り戻すサイクルが早くできるからこそ、ここまでこられた。そうじゃなかったら、空中分解して、ゲームは出ていませんからね。
 
入交
曲もかなり没にして捨てていますね。100曲作って30曲とか、でもそれが普通だとは思います。

 分業のインディークリエイター同士だったら揉めますが、僕たちはチームですからね。もちろん喧嘩しますが、いい意味であまり気を遣わない。ちゃんと、気は遣っているんですけど(笑)。

Achabox
せっかく一生懸命作ってくれたものです。すごく、気を遣っています。それでも、「ここは集中できないので、この曲にしていいですか」ってお願いします。

そういう試行錯誤は、たくさんしましたね。1回、声優さんのボイスを仮で録って入れたこともありますが、演技にキャラクターが引っ張られてしまうからやめようとか。

Achabox
一度1章がプロトタイプの時に、フルで録っていれたこともありましたね。

――今後、『シュレディンガーズ・コール』でやってみたいことはありますか?

Achabox
そうですね、舞台化したいです。

入交
え、展開的にゲームだからできる体験になっているじゃないですか。

そこは、なんとかなる。

Achabox
舞台映えしそうだなと。

入交
物語の展開を考えて、いいこと言ったのに! あと、もともと舞台の人間だから、あまりワクワクしない(笑)。

Achabox
またルーシーやトーマスたちは、メアリと電話するまでに至る背景など、作中では描かれていない部分も多いので、それが見られるような、今後の展開がいろいろできたらいいなと思います。


作品が人気になれば、プレイヤーのキャラクターに対する愛も増えていきます。そういう皆さんには、次の楽しみをお届けしたいですね。

 そこは集英社ゲームズの得意な分野なので、ファンの皆さんが応援してくだされば、プロデューサーは汗をかきます。

――夢は広がりますね。貴重なお話、ありがとうございました。

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

この記事を共有

公式SNS