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『キングダム』最新刊76巻ネタバレあり感想:信と博王谷、副将同士の戦いで見えた、振るう力の“質の差”。韓の公女・寧の視点で“滅びゆく国の末路”を描く構成の妙にも注目

文:タダツグ

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 漫画『キングダム』の最新76巻が7月17日に発売されました。今回は読み終えてみての感想記事をお届けします。
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※記事内には『キングダム』のネタバレが含まれています。

『キングダム』76巻感想(ネタバレあり):英呈平原で秦軍と韓軍が激突! 信と博王谷、副将同士の一騎打ちの行方は……


 嬴政(えいせい)が唱える中華統一の夢を実現させるため、信と飛信隊が六大将軍・騰(とう)とともに“韓”の攻略戦に挑む大一番。76巻では、韓の王都手前にある英呈(えいてい)平原での激しい戦いが一気にクライマックスを迎えます。

 副将として大きな責任を背負った信ですが、そのプレッシャーを跳ね除け、前巻では韓側の第二将である博王谷(はくおうこく)の目前まで迫りました。とはいえ兵の数や練度が劣るなかでの強行軍だったため、飛信隊も他ならぬ信自身もすでにボロボロ。兵の指揮能力はもちろん武力にも秀でる博王谷の攻撃に、さすがの信も劣勢を強いられます。

 ここでの見どころは2人が背負ったものの大きさと重さ、その質の違いでしょうか。天下の大将軍になり、中華統一を目指す嬴政の懐刀としてその道を切り開くことを誓った信と、祖国である韓に住まうすべての民の未来を背負う博王谷。どちらも振り回す槍には大きな想いが込められており、一撃一撃に強い責任感が感じられました。成長した信の攻撃を食らって傷つきながらも力を失わない博王谷には、尊敬の念を抱くほどです。

 拮抗した一騎打ち……停滞した流れを変えたのは、渕(えん)副長が懐から取り出した、南陽の民からもらった黒曜石のお守りでした。これは予想外の人物による激アツ展開! 韓の民すべての想いを背負っていると自負する博王谷からすれば、これは少なからず動揺する局面です。自らが守ろうとする韓の民が、敵であるはずの信たちに心を開いているというのは、己の信念に揺らぎが出ますからね。

 そんな博王谷に追い打ちをかける信のとある言葉……これが本当に心強くてカッコよく、思わず身震いしてしまいました。自分たちが侵略者であることを認めつつ、それでもなお、血を流す戦いの先で嬴政がもたらす治世が中華の平和に繋がることを信じている……そんな信の背中には、たしかに未来の大将軍の風格が感じ取れます。

 そんな信を“傲慢”として切り捨てようとする博王谷ですが、この舌戦は明らかに信に分が出てきたというか……振るう力の“質の差”が出てしまった気がしますね。祖国を背負う博王谷の武力と、中華全土の未来を信じて槍を振るう信の底力……はたしてどちらが重いのか? 副将同士の負けられぬ一騎打ち、ここでその結末を語るなどという無粋はことはしませんが、本巻屈指の名シーンに心底シビれたことだけは付記しておきたいと思います。

“滅びゆく国の末路”を韓の公女・寧の視点で描く構成の妙にうなる!【キングダム 76巻】


 本巻の見どころは戦闘だけにあらず。徐々に劣勢を強いられる韓の国が、滅亡を前にして内部から崩壊していく描写も生々しく描かれており、あらためて原泰久先生の筆力に感服しました。

 崩れ行く国の内情を韓の公女・寧(ねい)姫の目を通して描く演出の妙には脱帽。国家の滅亡を前にして王族たちが保身に走り、民をないがしろにする様子なんかは、あまりにもリアリティがありすぎます。後方で戦いの責任を押し付け合ったり、爵位がどうだのとゴネ出したり……無頼な男たちが最前線で見せる武力による戦争とはまったく異なるもう一つの戦いはガチで必見。マジでドロドロですからね、寧の心労を思うとやるせない……。

 正直なところ、秦の国が他国に仕掛けている戦争は、その国の人間からすれば侵略でしかないというのは紛れもない事実ですよね。その行動が“侵略を受ける側の人間”の目にどのように映るのかを真正面から描いていることに戦慄しました。

 途中、寧が悪夢にうなされるシーンもあるのですが、ここはある意味でトラウマ級。おそらく描写する原先生もかなり疲弊したのではないかと想像しています。それほどに重く苦しい描写で、作者の鬼気迫る思いが1コマ1コマから確かに伝わってくるんですよね。

 主人公たちの英雄としての側面ばかりでなく、侵略者としての側面もしっかり描写するというのは、やっぱり勇気が必要なのでしょう。そこから逃げないという決断をくだした原先生、そして編集部の判断には並々ならぬ決意を感じました。やはり『キングダム』はすごい作品だ……。あまりにも重たいこともあり、ここまで掘り下げて描写するのは今回の韓攻めだけかもしれませんが(汗)。

 さておき、最後まで韓の民のために奮闘しようとする寧には深く感情移入してしまっています。どんどん疲弊していく寧を支える人間もおらず、このままでは彼女の心が折れてしまいそうで心配。ここは、そんな彼女と前巻で一瞬でも心を通わせた騰がなんとかしてくれるんじゃないかという期待感もあるのですが……互いに敵同士である2人だけに、どうなるか本当に見ものです。

 この寧というお姫様、個人的にかなりお気に入りのキャラなので、なんとか生き残ってほしいですけどね……。どうなることやら!

王賁や蒙恬も奮戦中。信以外の武将にもしっかりスポットが!【キングダム 76巻】


 今回の韓攻めで戦場に立つのはあくまで騰や信ですが。その背中を守る王賁(おうほん)や蒙恬(もうてん)の活躍もしっかり描かれているのもうれしかった部分!

 王賁率いる玉鳳軍は魏が誇る猛将・凱孟(がいもう)の攻勢を受け止めており、蒙恬の楽華軍は趙の智将であり李牧(りぼく)の懐刀でもある舜水樹(しゅんすいじゅ)の軍と互角の戦いを繰り広げています。

 いかに信が成長したとはいえ、そう簡単に天下の大将軍になれるわけでもなさそう。ライバルたちの実力も間違いなく拮抗しているというか、この3人の切磋琢磨がそのまま秦の国の行く末を左右するでしょうからね。今後も目を離せない!

 76巻では羌瘣(きょうかい)も大活躍を見せましたし、彼女の将としての器も目を見張る部分がありますよね。今後ますます彼女にスポットが当たってくれると、推している自分としては嬉しいばかりです。

 さておき、77巻ではいよいよ韓の国の行く末が決まることになりそう。引き続く見逃せない局面になりそうで今から楽しみです。それでは今回はこのへんで!

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